デザインとデータが進めるビジネス変革
GAFAに象徴されるテック企業が台頭する昨今のデジタル化の流れに対し、既存の大企業は厳しい戦いを迫られています。デジタル化などによって規模の経済などの従来の競争優位を保つことが難しくなり、業界の垣根が崩れたからです。こうした状況で生き残っていくためには、解くべき顧客課題を改めて定義し直し、その解決のための仕組みをデジタル活用で作り込み、顧客に提供することが必要になります。
これをわれわれは「顧客価値リ・インベンション戦略」と呼んでいます。詳細は先日NTTデータ副社長の山口が出版した書籍『信頼とデジタル』(ダイヤモンド社)に記載していますが、一言でいえば、既存の事業やサービスからではなく、あくまでも顧客を起点に深堀をしていくアプローチです。
たとえば、消費者は、スーパーに物を買いに来ること自体が目的ではなく、買った物を通じて何かをしたいと考えています。それは家族のだんらんや、ひとときの楽しみだったりするわけです。また、各消費者の考えはさまざまで目的が同じでも選ぶ商品などはそれぞれでしょう。
顧客価値リ・インベンション戦略では、こうした消費者の動機や目的までさかのぼって考えることで、顧客の本質的な課題を捉えなおしていくこと、すなわちデザインアプローチと、個々の顧客にパーソナライズして課題解決のためのサービスを提供していくためのデータ活用が重要と考えています。
今、各企業が取り組んでいる事業のなかで顧客接点をデジタル化することで進化する部分もたくさんあります。それも大切ですが、成熟していく業界も多いなかで、一歩も二歩も踏み出した新しい事業を作っていかないといけません。
たとえば、自動車会社がモビリティカンパニーになることや、製薬会社がQOL全体に価値提供していくことなど、企業そのものが変革していく。私たちは、このような既存の業界の枠を超えて新しい事業を実現するために有効なオファリングとして「Design and Data driven Business Transformation」(DDBT)を提供しており、デジタルを活用した変革のお手伝いをしたいと考えています。
デジタルを活用した変革をワンパッケージで推進
DDBTはコンサルティングで培ったケイパビリティでデザイン、データ、ビジネス、テクノロジーの4つをワンパッケージとして提供していくオファリングです。
すでに実績のあるさまざまなオファリングにより、お客様企業の既存事業の課題解決に貢献することはもちろんですが、DDBTオファリングでは、事業そのもののあり方、顧客提供価値に立ち返った時に生み出される新たな課題の設定、それを解くために必要な解決策の創出、素早い試行を繰り返しながら最短距離で実現していくことを、事業パートナーとして推進します。
NTTデータの強みであるITの実現力に磨きをかけ、さらにデザイン、データ・AI、ビジネス・戦略、テクノロジーの各領域の高い専門性を組み合わせることで、戦略・構想からオペレーションまで、ビジネス・ITから人財育成・組織改革までを一気通貫で提供することを目的としています。
私は、2000年から、一貫してコンサルタントとして活動してきました。
お客様から課題を提示される従来型のコンサルティングサービスは今後もニーズはあると思っています。ただ、デジタルでの課題解決、特にデジタルで事業変革をめざすような場合は、お客様のなかでも課題やめざすべき方向性が曖昧であったり先行きが不透明であったりすることが多くあります。そのため明確な依頼ができない難しい領域が出てきています。
こうした領域では、もっともらしい絵姿を提示するだけでなく、未来に向けた仮説を持って自らソリューションを作ってみることも必要です。それを、お客様にも見ていただいて、お客様事業の未来像でどう活用できるか、そして実際にサービス化に繋げるためにどうすべきか、試行錯誤を繰り返していくしかありません。その過程はまさにデザイン、データ、テクノロジー、ビジネスの要素を押さえ、それをすべて活用していくことにほかなりません。
MaaSにおけるDDBTの適用
いま私たちはDDBTの事例としてMaaSの領域に着目をしています。
これはMaaSを、自動車という乗り物だけでなく、「人が移動する・消費する」という観点からモビリティ全体として捉え、一貫した体験を提供します。
具体的に、消費者目線では、どこに行き、なにをしたい、などプランを立てて移動しているなかで、途中で食事したり、立ち寄って遊んだりと、その時の気分や自分に合った選択をして行動します。
こうした活動は個々の会社との取引によるものですが、たとえば、食事の内容にもとづいて次の行動を提案するなど、一貫した体験として提供できればよりよいものになるでしょう。
このためには、移動手段だけでなく、移動先の目的や消費/購買体験、それを支える決済手段をデザインし、データを相互に活用するなど、業界を超えた取り組みが必要です。
私たちはこれをモビリティ・コマースと呼んでいて、複数のプレイヤーを巻き込み、取り組みを進めています。
NTTデータの具体的な取り組みとしては、unerryという人流データ(オフライン行動データ)を持つ会社と協業し、移動中の人へのレコメンドを出すことによって行動を変容することができるかなどの検討・検証を進めています。
unerryとは、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため「おでかけ混雑マップ」をリリースしています。これはurerryの人流データと、NTTデータが所有していたTwitterデータを掛け合わせることで、人が集まる場所の混雑時間帯を可視化し、より安全に楽しく行動できるためのアプリケーションです。新型コロナウイルスの感染リスクは人の行動を決定づける一つの重要なファクターになっていると考えられるからです。
他にも旅行会社や自動車会社、不動産会社などとの取り組みも進んでいます。
ただ、プロジェクトは一気に大きなものとして進めるのではなく、PoCを実施しながら少しずつ拡大していく、関連するプレイヤーを広げていく形をとっています。
ワンショット・ワンフェーズで終わるのではなく、実施していく過程で新しいデータを取得できたり、仮説が変わったりします。そして、ビジネスデザインも変わっていきます。お付き合いしながら中長期的に関わっていくことになりますが、これこそがあるべき姿ではないかと思っています。
DDBTの進め方とNTTデータのPM力
プロジェクトによって検証の進め方は一概には言えません。その都度、何を明確にしないといけないかを定めながら進めていく必要があります。MaaSのような世界観で人流データがどう生かせるのかを考えるといったような段階だと、どこまで行けばOKなのかがわかりづらいため、「今回は技術検証」など目的と範囲を定めていくことが求められます。
とくに複数のプレイヤーとプロジェクトを実施する場合は、計画通り段階が進んでいくことが難しいので、できるだけ自分たちがいまどういう状況・段階にいるのかを意識して進めるようにしています。NTTデータはプロジェクトマネジメント力が高いと言われていますが、DDBTの領域に関しては、通常のプロジェクトとは異なる部分があり、自分たちの状況・段階を意識したうえで、あるべきゴールの設定や期待値などもその都度相談させてもらわないといけません。
また、以前はお客様に対して「新規ビジネス立ち上げなどをお手伝いできますよ」と伝えてもなかなか成就しませんでした。「自分たちの方が詳しい事業やその周辺のビジネスについて、なぜNTTデータに任せないといけないのか」という声もありました。しかし、デジタル技術の活用が前提となり、また既存の事業の枠を超えた構想が必要になってきているため、その状況は変わってきています。
必ずしも最初から正解があるわけではない中で、いまでは自分たちでも手を動かして検証し続けています。「これを一緒にやりませんか?」と声をかけると、前向きに検討していただける企業さんもいらっしゃいます。こうした成功体験の積み重ねが実現に向けて必要と感じています。
これまでDDBTはMaaSやモビリティ体験(移動と消費行動の融合)など領域を絞って展開してきましたが、現在はスマートシティやFood & Wellnessなど、新しい業際領域まで拡大しつつあります。