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2022.3.7事例

SUBARUの挑戦 デジタル社会における顧客理解

顧客行動データの分析、統合マーケティング基盤の刷新など、多くの先進的な取り組みを推し進めることで顧客理解を深め、社員の意識さえ変化させたSUBARU。そのプロセスを紐解きながら、デジタル社会における顧客理解の方法論について考える。
目次

小さな一歩から始めた顧客理解の可視化

お客様が欲しくなるものを売ることは商いの基本である。そこで重要なのが「顧客理解」であり、デジタル化は、より高解像度で緻密な顧客理解を可能としてくれる。
SUBARU ビジネスイノベーション部 将来ビジネス企画開発グループでアシスタントマネージャーを務める安室敦史氏は、顧客接点領域統合マーケティング基盤のリーダーであり、数多くの講演にも招かれるデジタルマーケティングの第一人者だ。しかし意外にも、キャリアの半分は営業職だったという。
転機は2016年。マーケティング推進部宣伝課に配属になった。SUBARUが掲げる価値は『安心と愉しさ』。この提供価値をどうお客様に届ければ、笑顔にできるかを考え取り組もうとしたが「実際仕事を始めると目にするのはWebログばかり。周りからは『ITだからなんでもわかるでしょ?』と言われるのですが、営業と違って目の前にお客様がいないので逆に分からなくなりました」と当時を振り返る。

図1:SUBARUブランドがめざすお客様の「笑顔」

図1:SUBARUブランドがめざすお客様の「笑顔」

目の前にいないお客様を理解するためにはどうすればいいのか。安室氏はとにかく顧客行動データを集めて分析しようと考えた。自動車の顧客データは通常DMS(ディーラーマネジメントシステム)というカーディーラー向けの業務支援システムにあり、データ分析という観点からは扱いにくい。「取り急ぎDMSからデータをコピーして簡単なDWH(データウェアハウス)を構築しました。それらを、TreasureData社のサービスやBIツールの『Tableau』(※)で分析し、可視化を続けました」(安室氏)
加えてSUBARU車のオーナーに向けて『マイスバル』というアプリをリリースすることで、取得できる行動データ範囲を広げた。

(※)Tableau

データを分析し、グラフやチャートを用いて可視化する分析プラットフォーム

超高解像度な顧客情報で購買予測の精度を高める

こうした草の根レベルの活動により、徐々にお客様のニーズが見えてきた。例えば、一人の顧客を徹底的に分析し理解する『N1分析』という手法の効果は絶大だったという。「超高解像度な顧客情報を得ることができ、1人のお客様が購買にいたるまでの詳細な行動がつぶさに見えるようになりました。これら行動ログを積み重ねてマシンラーニングを続けた結果、今では約9割にも上る購買予測が可能となっています」(安室氏)

可視化できたことで、組織風土やメンバのモチベーションにも大きな効果があった。
顧客行動の可視化は「仕事の効果の可視化」でもある。それまでもさまざまな施策を打ってきたが、顧客一人ひとりがどう感じたのかまでは追えていなかった。しかし行動データ分析により自分の仕事の結果が如実に分かるようになった為、メンバーのモチベーションが上がり、アウトプットの質をより高めようと尽力するようになったという。「顧客の行動ログが見えたことで、『どうすればお客様を笑顔にできるか』を皆が一緒に検討する風土が生まれました。今ではマーケティング部門と販促部門、アフターパーツを扱う部門など、一気通貫で考えています。この風土改革の効果が実は一番大きかったように感じています」と安室氏は胸を張る。

デジタルマーケティングは、すぐに結果が出るものではない。小さく始め、周りを少しずつ巻き込み育てながら、継続的に活動を続けるということが重要である。安室氏の序盤の活動はまさしく、それを実践している。そして活動の輪が広がってきた2019年、次のステージへと進むことになる。SUBARU全体の統合マーケティング基盤の構築である。

SUBARU 統合マーケティング基盤の刷新とNTTデータ参画

顧客行動分析はできるようになっていたが、それを活用してお客様により良いサービスを提供したり、ディーラーに効果的な活動をしたりする為には、システム面の課題が多く存在していた。「いわばガレージで始めたようなもの。顧客データを無理矢理切り貼りしてつなげているような状況でした」と安室氏は振り返る。
例えばインフラ面ではサーバースペックや耐障害性の課題でダウンが発生していた。サービス面では、複数のログインIDの存在や顧客情報管理の散らばりにより一貫性が不足していたし、運用面では、デジタルに作成した購買予測にも関わらずアナログな手法でディーラーに送っていたなど、様々な課題が山積していた。

これらの課題を解決するために、統合マーケティング基盤刷新の計画が動き出す。ポイントは「インフラ移管とCMS導入」「認証・顧客情報の統合と分化」「ワンストップ運用」の3つだ。

図2:SUBARUのマーケティング基盤刷新プロジェクト

図2:SUBARUのマーケティング基盤刷新プロジェクト

このプロジェクトをリードしたのがNTTデータである。NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第一製造事業部部長の布井 真実子は「統合マーケティング基盤の構築は、デジタルマーケティングを本格始動する際に必ず必要になる流れ」と指摘する。
「黎明期は小さく始め、色々試しながら少しずつ周りを巻き込んで育てていくことが大切です。しかし、より大きな効果を安定して発揮するには、それを支えるインフラ基盤を強化し、データを一元管理してサービスを次々と生み出せる基盤が必要になります。ただし、基盤領域はボリュームもありますし既存の仕組みもあるので、スピード感とのバランスをとることが重要となります」(布井)

NTTデータは自動車顧客接点領域のプロジェクトを手掛ける際、「デザイン」「アーキテクチャー」「アプローチ」という3つのコンセプトを掲げている。

図3:プロジェクトの軸となった3つのコンセプト

図3:プロジェクトの軸となった3つのコンセプト

「“デザイン”では、めざすカスタマージャーニーを描いた上で、ジャーニーが“つながる”ことを意識してUI/UXを検討します。続いてそれを実現できる“アーキテクチャー”設計。ここでは、グローバルスタンダードで継続性の高いソリューションとカッティングエッジなソリューションを組み合わせた、柔軟かつ安定的なアーキテクトを目指しています。最後にそれを実現する“アプローチ”選び。顧客接点領域はスピードが重要ですが、基盤の刷新は相関関係も複雑でボリュームもあります。今回は大規模アジャイル開発フレームワーク『SAFe』を導入することで、ボリュームとスピードを両立させました」(布井)

安室氏はその中でも特に「デザイン」の重要性に言及する。顧客が求めているのは単なる機能ではなく、その先の「体験」である。そのために必要なのが洗練されたUI/UXだ。

製造ITイノベーション事業本部 第一製造事業部 布井 真実子

製造ITイノベーション事業本部 第一製造事業部
布井 真実子

NTTデータは2017年頃から、UI/UXデザインに力を入れてきた。それまではお客様の要件に応じてシステムを作っていた為、作っている機能内容は知っていても、ユーザーがどう活用しているか意識できているメンバーは少なかった。布井いわく、「当社が近年最も省りみるべき点のひとつ」だ。その反省があったからこそ今回の成功があったと言えるだろう。

布井にはこのプロジェクトで忘れられない言葉がある。最初にデザイナーと一緒に作り上げたコンセプトコピーだ。

「ブランドイメージが湧き、かつやりたいことが具体的にイメージできるコピーだと感じています。安心と愉しさというコンセプトだけでは具体的に何をしたいかはイメージしにくい。このようにブレイクダウンすることで、検討段階で使い方が想像できるためには?といったアイデアが出やすくなります。また、アジャイルの重要要素であるビジネス優先度を付ける時の立ち返る場所にもなります」と布井は振り返る。

オンライン商談やサブスクリプションもSUBARUならではの「体験」に

刷新された統合マーケティング基盤により、よりスピーディーなサービス提供が可能となった。例えば『オンライン商談』や『サブスクリプションサービス』だ。最近流行しているサービスではあるが、そこにもお客様目線にたったSUBARUらしさが存分に含まれている。

株式会社SUBARU 国内営業本部 ビジネスイノベーション部 将来ビジネス企画開発グループ アシスタントマネージャー 安室 敦史 氏

株式会社SUBARU 国内営業本部 ビジネスイノベーション部 将来ビジネス企画開発グループ アシスタントマネージャー
安室 敦史 氏

「オンライン商談、といえば、担当者がパソコン上の資料を見ながら説明するだけといった印象があるかもしれません。しかしSUBARUでは、カメラで展示車の細部を映したりオプションやボディカラーをコンフィギュレーターでシミュレートしたりしながら、体験をイメージできる接客をしています。SUBARU車でドライブに行きたい、と思ってもらいたいですね」(安室氏)

サブスクリプションサービスでは、SUBARU車の特徴から意外なターゲット層を導き出した。「SUBARUはドライブ好きな方の車というイメージがあるかもしれませんが、そこには非常に安全で事故が少ないという事実が隠れています。そして、安全で壊れにくいから保険料も安い。そこから考えると運転に慣れていない、かつ保険の等級が低い若い方にぴったりなのです」(安室氏)
数あるサブスクリプションサービスから、若者をターゲットとした中古車サブスクリプションというサービスを導き出す。そこにSUBARUのコンセプトが強く見えると布井も感銘を受けたという。

チームで小さな成功体験を重ね、経営層を巻き込む

黎明期から本格始動期へ歳月をかけて発展してきたSUBARUの統合マーケティング基盤。発展を続ける為に安室氏が考えるポイントは「いかに経営層を巻き込めるか」だ。「現場レベルで始まった活動ですが、小さな成功体験を積み重ねながら経営層へとアピールできたことは重要だったと思います」
布井は「実現するのに大切なのはプロアクティブなチームづくり」だと語る。「Valueは時間が経てば変わっていきます。変わっていく裏にある意図を意識し、先読みしていくことで成長することができる。その為には、1人1人が考えて動くプロアクティブさがあるチームづくりが重要だと考えます」(布井)

SUBARUのサービスは、統合マーケティング基盤の上で、今後更なる進化を続けていく。その進化の根底にあるのは、変わらない「お客様第一」という基軸と「安心と愉しさ」というValueである。これからもSUBARUは、お客様自身の悦びに寄り添い、笑顔を生み出し続けていくだろう。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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