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異業種共創の強力なコラボレータへと変化した『B to Cプラットフォーマー』
近年では連日、世界中の経済ニュースに登場するテックジャイアント。これら企業の経済力や社会への影響力は、国家に匹敵するとも言われるほどとてつもなく大きい。こうした勢力と区別する意味で、国内のモバイルキャリアやインターネット企業を本項では『B to Cプラットフォーマー』と呼ぶ。通信サービスやSNS、コマースなどいまや日常生活に必須のインフラを提供するこうしたサービスプロバイダー、すなわちB to Cプラットフォーマーとの共創にはいかなる可能性があるのか。NTTデータ モバイルビジネス事業部の林に話を聞いていく。
まずはモバイル業界の歴史を背景に、B to Cプラットフォーマーがどのような業態変化を遂げるようになったか、について林はこう述懐する。
「3G時代はNTTドコモ、iモードの時代でした。通信ネットワークから国産フィーチャーフォン、独自OS、多様なプロバイダが提供するコンテンツ。ネットワークからデバイスまで統合した革新的ビジネスモデルによって時価総額でも世界一となっていきました。その後、4G時代ではiPhoneが進化し、iOS上でコンテンツプラットフォームを開放したほか、Android OSローンチも含めてスマートフォンが世界を席巻していきます。そのような状況のなか、国内のモバイルキャリアは通信インフラ以外の事業も含めた収益向上を目指し、非通信領域にシフトしていくのです。
そして2020年、5Gローンチと併せて、楽天が通信事業に参入。NTTドコモは新ドコモグループへ。ソフトバンクグループのYahoo!とSNSの雄であるLINEがZホールディングスとなり、モバイルとインターネット業界の垣根を超え、さらに他業種も巻き込んだ大競争時代へ突入しているという状況です」
ではこうした歴史の中でモバイルキャリアにとってターゲットはどのように変化し、どのような強みを獲得するようになっていったのか。
「当初は自社回線を起点に周辺事業へとビジネスを多角化し、経済圏を形成していました。そして共通ポイントサービスやキャッシュレス決済の提供などを通じて徐々にオープン化。自社のIDやアカウントを回線未利用ユーザーに対しても開放することでキャリアフリー化を推進していきました。
こうしたことにより顧客のライフスタイルを幅広くサポートできるように変化。回線利用の有無に囚われない顧客基盤を形成していきます。近年ではahamoやpovo、LINEMOに代表される若年層向け料金プランや、特定セグメント向けのサービス、デジタルシフトがトレンドに。併せて、もともとはコマースやクレジットサービスを軸に強みを発揮していたインターネット企業と徐々に事業領域が重なっていきました。
ここまでモバイル業界の環境変化をお話ししてきました。従来の安心安全につながる電話というインフラからSNS、金融決済、共通ポイントといったコンシューマーのライフスタイル全般に関与するようになり、人と企業、人とサービスをつなげるプラットフォーマーに業態を変化させてきたと言えるでしょう」
図1:モバイル業界の変遷
詰まるところ、モバイル、インターネットという事業の出自に関わらず、多様なサービスによるネットワーク効果とそこから得られる広範な顧客基盤、および生み出される膨大なデータがB to Cプラットフォーマーの強みとなってきたと、林は続ける。
「B to Cプラットフォーマーの一般的なアーキテクチャは総じて、IDを起点にサードパーティとのコラボレーションも含めた多様なコンテンツ、サービス、タッチポイントを増やし、バックエンドではデータを起点にお客様を理解するというスタイルです。そしてデータを用いた顧客理解やエクスペリエンス向上、さらにはメタバースのような未成熟な市場、事業についても貪欲に取り組んでいる、といった状況でしょう」
結果としてこれまで通信、インターネット業界と直接的な関わりの薄かった業界にとっても、B to Cプラットフォーマーは異業種共創の強力なコラボレータになってきていると、林は結論付けた。
図2:非通信ビジネスへと重心を移行させつつある、モバイルキャリア
新たな価値を顧客へ。金融業とB to Cプラットフォーマーの共創事例
B to Cプラットフォーマーが辿った道のりをあらためて理解した後は、共創ユースケースの事例として金融業におけるタッチポイント変革を紹介していく。
林がまず指摘するのは「フィジカルからデジタルへのチャネルシフト」という大きなトレンドだ。
「これまで金融業界では当局や金融機関による制度コンプライアンスの観点、生活者のネット利用に対するハードル、セキュリティの観点などから、フィジカルを中心とした接客が主流でした。ところがスマートフォンの普及、従来のクレジットカード利用に加え、バーコード決済を中心とするキャッシュレス決済の浸透、コロナ禍による非対面非接触の伸長もあってチャネルのデジタルシフトが加速しています」
そして、B to Cプラットフォーマーの共創としては、タッチポイントやデータを用いた2つのユースケースが考えられるという。一つは生活者の日常に溶け込んだデジタルチャネルから、自分に適した商品を適したタイミングで選べる『なめらかなエクスペリエンス』。もう一つは、顧客に合わせた商品のレコメンドやオーダーメイド商品の提供を行う『サービスのパーソナライズ』だ。
図3:金融業界の中期トレンドとは
「『なめらかなエクスペリエンス』とは、たとえば普段使いのスマートフォンやアプリ、アカウントIDで様々な金融商品を探索でき、アカウントにひもづく情報連携によって簡単な購買が可能になるといった事例です。さらに異なる金融機関から異なる商品を、あたかも一つのサービス群であるかのように分断なく購買できるようになれば、顧客体験は快適さを増していくでしょう。B to Cプラットフォーマーの持つ豊富な決済手段と金融機関の強みである金融サービスの相乗効果も期待できます」
図4:顧客にもたらされる、なめらかなエクスペリエンス
各社数千万の顧客を抱えるプラットフォーマーは、顧客体験の快適さを追求してUXの磨き込みを行う。そして豊富な金融サービスを強みとする金融機関とコラボレーションすることで、たとえばわずかな決済の時でも融資で借り入れができたり、決済の一部を投資に回したりといったユースケースも想定されると、林は指摘する。
「続いて『サービスのパーソナライズ』についてお話ししましょう。金融サービスの利用者を始め、金融機関や店舗などから得られる情報をもとに、利用者に合わせた売り方に変更します。もちろん、金融サービスを開発することでより顧客のニーズやペインに即したサービスを提供することが可能。
具体的にはライフイベントに合わせたレコメンドや、利用実績に基づいたベネフィットなどが挙げられます。顧客の属性情報から類推されるパーソナリティや生活圏に加え、複数の金融機関から得られる資産の状況、店舗からの決済情報などを大いに活動できる可能性があるのです。つまり、パーソナリティや指向に応じて顧客一人一人にテーラーメイドされたサービスやベネフィットが提供できるようになる、ということです」
続けて林はアメリカの自動車メーカー、テスラを例に挙げた。テスラは運転スコアに基づき保険料を決定する保険商品を独自に提供している。
「テスラの車両にはアクティブセーフティ機能や先進運転支援機能による評価で、ドライバーの運転を数値化、セーフティスコアを算出しています。この運転実績をベースに毎月の保険料を変動させているのがテスラ保険です。従来の保険会社にはないプライシングや、自動車メーカーが保険会社となるエンベデッドな(組込み型)ビジネスモデルを創出しているわけです。金融サービスがテクノロジーの進化によって、顧客のライフスタイルに溶け込み、文字通りエンベデッドになっていく事例と言えるでしょう」
顧客にとって最適、快適なサービスを事業者間のコラボレーションによって生み出す意義。こうしたコラボレーションの重要性がこれからより増していくのである。
B to Cプラットフォーマーとともに目指すメタバース市場の未来
ここからは少し未来に話を移し、さまざまな業種業態の企業と、B to Cプラットフォーマーがともに新たな市場を創造できるか?という観点で、メタバース市場拡大のロードマップを考察していく。林は、メタバース市場の拡大に向けては、ユースケースを増やすことが最優先事項だと指摘する。
図5:市場のパーパスとペイン
「まず、メタバース市場のパーパスを定義すると“なりたい自分になれる”、“いくつもの異なる自分でいられる”ことで誰もが輝けるC to Cの世界。これを目指すべき姿と仮定します。次に市場のペイン(課題)を考えると、デバイスの重さや映像酔い、プロとして生活ができない経済合理性などがあげられます。経済的にも技術的にも高いハードルがあり、市場に参入するクリエイターも少ないのが現状です。
技術面でのデバイスの軽量化に加え、低価格化まで実現するためには、大量生産によるコストメリットを出す必要があります。そのためには多くのユースケースが求められるのです。B to B、B to Cいずれにおいても、ユースケースを如何に多く出せるかが、デバイスの低価格化と市場の魅力度向上に繋がると考えています」
図6:ユースケースの創出
デバイスとネットワーク双方の進化と活用ユースケースの創出は、モバイルキャリアが果たす役割になるだろう。事例としては、デジタルツインのようなVRシミュレーターを活用した、高所・危険個所での作業シミュレーターがあげられる。国内の原子力関連機関では、廃炉作業の計画検討や作業者の訓練に活用されている。またNTTデータでは、スポーツ(野球)トレーニングにVRを活用。選手のトレーニングだけでなく、B to C向けに投球体験などのファンマネジメントにも応用している。
林は「モバイルキャリア、B to Cプラットフォーマーが自社アセットを活用しながら、他業界との共創事例を積み上げ、“目に見える効果”と“経済合理性”を発信することで、参入するプレイヤーが増えていく」と話す。そして次のステップは、“なりたい自分になれる”世界の創造だ。
図7:なりたい自分になれる世界を創る
「“なりたい自分になれる”世界を創るには、メタバースの持つ経済・技術・心理的な障壁を解消する必要があります。コンシューマー拡大の観点では、心理的障壁を下げるための仕組み作りとして、匿名性の高い空間上で個人の信用を極限まで見える化。NFTの代表的な活用事例にあるような真贋保証はもちろん、メタバース空間の自治を行う警察機能など、安心安全に寄与する機能が求められます。
クリエイター拡大の観点では、YouTubeやTikTokなどのようにいかに個人が創造性を発揮できるか、あるいはそこから収入や技術習得につながるかといった経済合理性が必要です。そして、そのプロデュースやサポートもB to Cプラットフォーマーの役割になります」
最後に、目指すべきメタバース市場のパーパスから作成したアーキテクチャについて解説する。大きく「再現性」の領域(図8の左側)と、「コミュニティ」の領域(図8の右側)の2つの領域で構成されている。
図8:メタバース市場のアーキテクチャ
再現性の領域では、自然や気象などの事象をデジタル化によって再現し、これらを素材としてバーチャル世界が創られる。さらに味覚や嗅覚など五感がデジタル化され、手触り感など多様な表現が可能になるという。そして、コミュニティの領域では、再現された素材をもとにクリエイターが表現し、安心・安全に“なりたい自分になれる”つながりが生まれていくのだ。
「当然、こうしたメタバース市場のブレイクスルーには技術進化が欠かせません。技術進化はNTTグループとしても研究開発を進めており、産・学・官一体となって市場拡大を目指しています」
B to Cプラットフォーマーとの共創で日本を強くする
NTTデータは真のグローバル企業に向けた挑戦として、海外展開力を強化している。製造業や流通・小売業は長らく世界市場で戦っており、モバイル業界も通信ネットワークインフラの領域で、世界進出を戦略に掲げている。
「様々な業界の持つ『競争力』と、B to Cプラットフォーマーの『サービス創出力』、『社会インフラ構築力』、『つなぐ力』、そしてNTTデータの『技術力』や『実行力』を掛け合わせることで、日本の国際競争力を高めていきましょう」
図9:日本の競争力強化
本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。