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2023.5.17業界トレンド/展望

SDGs達成に向けて重要なIT×ストーリーテリング

企業経営において、サステナビリティは重要な前提条件となっている。多くの企業が道標としているのが、17の達成目標を共有するSDGsだ。IT企業はこの世界的な動きの中でどんな貢献ができるのか。SDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院の蟹江憲史氏とNTTデータ グリーンイノベーション推進室 室長の下垣徹がディスカッションした。
目次

SDGs達成に向けた変革を加速するためには

国際政治をはじめとする地球全体のガバナンスを専門とする蟹江氏は、サステナビリティの観点から2011年頃にSDGsに注目し始めた。その理由について、今まで国連が取り組んできたこととのギャップがあったと言う。

「それまでの国連の取り組みは、議定書や条約といったルールをつくることでした。一方で、SDGsが共有しようとしたのは、ルールではなく目標やビジョンという未来の話です。15年後や20年後の世界をどうしたいかを考えて示すアプローチに面白さを感じ、2015年以降はSDGsに関する研究を中心に進めています。」(蟹江氏)

慶應義塾大学大学院 蟹江 憲史 氏

慶應義塾大学大学院
蟹江 憲史 氏

国連のアジェンダとして“Transforming our world”というタイトルが掲げられるなど、社会変革が世界の重要なテーマとなる中、2023年9月には4年に1度のSDGサミットが国連で開催される。そこで示されるSDGsの状況報告書『Global Sustainable Development Report』を執筆する世界で15人の科学者のうち1人に選ばれた蟹江氏は、レポートにおける主張のポイントについて次のように語る。

図1:SDGs達成へのポイント

図1:SDGs達成へのポイント

「世の中で起きる変革の芽は、萌芽期・加速期・安定期で緑色のカーブ(図1)のような動きをします。社会変革の芽が出てくる一方で、その動きを抑える逆の動きもあり、変革の芽がなかなか育ちにくいという課題があります。その中でも、急激に芽が育っていく変換点“ティッピングポイント”があり、そこで大きな役割を果たすのがIT企業だと考えています。ティッピングポイントにおいては、デジタル技術によって変革の目を普及させていくことはもちろん、SNSをはじめとするコミュニケーションの力によって安定していくからです。例えば、石炭火力を削減する動きも現状では完全にフェイドアウトさせるまでには至っていませんが、コミュニケーションによって世論が形成されることがティッピングポイントとなって、政策がつくられるなど社会変革が実現していくことが考えられます。」(蟹江氏)

SDGsには、誰ひとり取り残さないという重要なコンセプトがある。途上国や新興国も含め、変革を世界全体に広めていくために、より多くの人が関わる機運を高める“Acceleration”を生み出すためのフレームワークを構築していくべきだと蟹江氏は強調する。

「“Acceleration”を生み出すためのフレームワークは日本国内でも必要とされていて、政府の円卓会議でも基本的な法律をつくるべきだと提言しました。SDGsの活性化に向けて今年は重要な年になるので、NTTデータでもぜひIT業界をリードしてほしいと思っています。」(蟹江氏)

社員一丸となって取り組む「サステナビリティ経営」

NTTデータでは、環境への取り組みとして長い間ESG経営に取り組んできたが、2022年度から2025年度にかけての中期経営計画では「サステナビリティ経営」と呼び方を変えている。その目的について、下垣は次のように語る。

コーポレート統括本部 グリーンイノベーション推進室 室長 下垣 徹

コーポレート統括本部 グリーンイノベーション推進室 室長
下垣 徹

「ESG経営という言葉には、経営者や一部のコーポレートスタッフの取り組みという響きがあります。サステナビリティ経営という言葉に変えることで、社員一丸となって取り組んでいくメッセージを発したいと考えました。また、企業活動を通じてNTTデータ自身がサステナブルな存在になっていくことはもちろん、お客さまのサステナビリティを実現するサービスを提供し、社会課題解決や地球環境保全に貢献することを目指して“Realizing a Sustainable Future“というスローガンを掲げています。」(下垣)

図2:3つの軸で取り組むNTTデータのサステナビリティ経営

図2:3つの軸で取り組むNTTデータのサステナビリティ経営

NTTデータのサステナビリティ経営には「Clients’ Growth」「Regenerating Ecosystems」「Inclusive Society」という3つの軸があり、「経済」「環境」「社会」をテーマにそれぞれ3つずつ、合計9個のマテリアリティが展開されている。中でも、「Clients’ Growth」を中心に据えていることに、“クライアント・ファースト”というNTTデータのマインドが表れていると下垣は言う。

10年単位の目標設定によって2050年のネットゼロを目指す

このような指針のもと、NTTデータのサステナブル経営では個別のテーマにおいてどのような取り組みが進められているのだろうか。2年前から“NTT DATA Carbon-neutral Vision 2050”というビジョンを掲げて進めている気候変動、カーボンニュートラルの取り組みについて、下垣は次のように解説する。

図3:10年単位の目標設定でカーボンニュートラルを目指す

図3:10年単位の目標設定でカーボンニュートラルを目指す

「NTTデータでは、サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出削減のみならず、お客さまや社会へのグリーン化へ貢献するグリーンイノベーションによって、2030年、2040年と10年ごとに目標を掲げて2050年のカーボンニュートラル実現にコミットしています。2030年には、科学に基づくグローバルスタンダードである“Science Based Targets(SBT)”に認定を受けた削減目標を掲げています。2040年には、NTTグループ全体の目標と合わせた目標を設定し、2050年にはSTBの新基準に則したネットゼロ実現を目指します。」(下垣)

こうしたNTTデータ自身のカーボンニュートラル推進に取り組む一方、お客さまのカーボンニュートラルを実現する具体策として、下垣はNTTデータのCO2排出量の可視化ソリューション「C-Turtle®」を挙げる。

「NTTデータでは、気候変動問題の解決に向けた脱炭素化を進めるにあたり、まずはCO2排出量を可視化し、課題のポイントを見極めた上で削減の取り組みを進め、成果を情報開示していくストーリーを描いています。この最初の一歩である可視化に寄与する手段として提供しているのが『C-Turtle』というサービスです。CO2排出量の可視化ソリューションは他にも多くのITベンダーが展開していますが、サプライチェーン上の他社に関するScope3排出量では“算定はできるが減らせない”という課題を抱えています。そのため、『C-Turtle』では国際NGOのCDPが保有している排出量のデータセットを活用することで他社の情報も含めて排出量計算ができるようにし、Scope3を含むサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを促進します。さらに、排出量自動計算の算定ロジックを組み入れることによってクイックかつ簡単に計算できるため、より多くの企業が排出削減に取り組めるようになるサービスです。」(下垣)

図4:NTTデータのCO2排出量可視化ソリューション「C-Turtle」

図4:NTTデータのCO2排出量可視化ソリューション「C-Turtle」

またカーボンニュートラルの取り組みのもうひとつの事例として、EVに搭載されるバッテリーの業界横断のエコシステムについて下垣は解説する。

「サプライチェーンにおいて、NTTデータでは他社との連携を実現するためにトレーサビリティデータを管理する基盤を開発しています。ベースとなるデータ連携基盤においては、見せたい相手に必要なデータだけを簡単に見せられる接続性とともに、守りたいデータを守れる秘匿性も備え、かつ海外ふくむ他基盤との連携が容易であることを特徴とします。機能としては、ライフサイクル全体におけるバッテリーのCO2排出量を開示する「カーボンフットプリント」、サプライチェーンにおけるサステナビリティ配慮を問う「人権・環境デューデリジェンス」、バッテリー単位で必要な情報を簡単に確認できる「バッテリーパスポート」に遵守した管理、QRコードを使用した「トレーサビリティ」の管理を実現します。カーボンニュートラルにとどまらず、サステナビリティを複合的に後押ししていきます。」(下垣)

図5:NTTデータが開発を進めるEVバッテリーの業界横断エコシステム

図5:NTTデータが開発を進めるEVバッテリーの業界横断エコシステム

SDGsの幅広い領域に取り組むNTTデータの事例

NTTデータでは、カーボンニュートラル以外の領域においてもSDGsの取り組みを幅広く進めている。“Nature Conservation(自然資本・生物多様性)”では、JAとともに展開するデジタルを活用した営農支援プラットフォーム「あい作」というサービスを展開していると下垣は解説する。

「『あい作』は、圃場ごとの土壌特性を精緻に把握して管理することで、業務効率化を図ります。さらに、精緻な情報提供によって肥料の使用量を削減することもできるため、各地域のJAグループ様とともに環境にやさしいグリーンな農業の実現を目指しています。」(下垣)

図6:各地域のJAとともにグリーンな農業を目指す

図6:各地域のJAとともにグリーンな農業を目指す

さらに、社会への貢献“Inclusive Society”では、柏の葉スマートシティで進めている健康データの利活用の取り組みについて、下垣は次のように解説する。

「多くの企業が『公・民・学』にわたる異業種連携を目指して取り組む柏の葉スマートシティにおいて、NTTデータもヘルスケアの領域で貢献しています。取り組みの内容としては、まずは体温やパルスオキシメーターといったバイタルデータを本人同意のもとに取得し、これをNTTデータが提供する『Health Data Bank』というデータベースで管理します。『Health Data Bank』が柏の葉スマートシティにおける様々なプラットフォームと連携することで、健康促進や医療への連携、商品開発といった様々な形で、データをもとに付加価値を生み出します。これまでは退院前・退院後でバイタルデータが分断されていたのですが、この取り組みによって、退院前・退院後を問わずバイタルデータを様々な形で活用できます。」(下垣)

図7:健康データの利活用に貢献するデータ連携基盤

図7:健康データの利活用に貢献するデータ連携基盤

ITによるストーリーテリングで、人々を具体的な行動へと導く

ここまで、SDGsの最新トレンドとNTTデータの具体的な取り組みについて詳しく見てきたが、サステナビリティへの貢献という視点からITには今後どのような可能性があるのだろうか。期待を込めて、蟹江氏は次のように語る。

「ITが一番得意なことは、“測る”ことだと思っています。SDGsはビジョンであってルールではありませんが、測ることによって何が取り残されているのかが見えてきます。そこを補完することで次のステップへと進むことができ、イノベーションやビジネスのチャンスが生まれ、行動が活性化されていくと考えています。」(蟹江氏)

ITによる“計測”や“可視化”に大きな可能性がある一方で、まだ足りない点もあると蟹江氏は指摘する。

「先日のダボス会議でも話題になりましたが、データを見せるだけでは、多くの人は具体的にどうすればいいのかわからないという課題があります。データから具体的な行動を導くために必要なのは、“ストーリーテリング”です。私たち研究者の報告書では、SDGsを達成するシナリオと、今のままでは困難なシナリオの差分を出しています。このシナリオの差分を埋めるストーリーを、メタバースなどITによって見せることで、世の中のモチベーションを上げることができる。ITには、ストーリーテリングによってティッピングポイントをつくる力に期待したいと思っています。」(蟹江氏)

パートナーシップで目標を達成しよう

NTTデータでは、SDGsに対してデジタルを中心に取り組むと同時に、多くの企業とのつながりの創出にも力を入れている。1社だけでできることが少ないことがSDGsの特徴だという下垣に、蟹江氏も次のように賛同する。

「1社だけで達成できるのであれば、企業の取り組みも今までの延長で十分なのですが、SDGsでは多くの企業が連携しなければいけません。だからSDGsの17番にある“パートナーシップで目標を達成する”という方策が大切で、そのためには広く伝えることが不可欠なのですが、今は伝え方が“広く浅く”にとどまっています。これからは、ストーリーとともに“楽しく”“深みを含みながら”伝えていく方法を追求していくべきです。例えば、CO2を減らす目標に対して数値だけを見せても多くの人は自主的に動けません。CO2削減がコスト削減につながるなど、企業や個人や社会にとってのメリットを具体的に伝えていくことが次のステップになると考えています。」(蟹江氏)

最後に、SDGs達成に向けたNTTデータへの期待について、蟹江氏は「守りから攻めへ発展してほしい。」と語る。

「例えば先ほどの農業の肥料の話では、コンポストを利用して家庭の生ごみを農家に還元するシステムをできないかなど、圃場の特性を精緻にマッピングした先に、さらなるアイデアのヒントが出てきます。これまでお話いただいた通り、NTTデータにはデータをとって見せていく企業のイメージがあると思います。そこはベースにあった上で、マッピングによって出てきた課題を解決するためのアクションを、いろんな人とのパートナーシップによって考えていってほしいと思います。」(蟹江氏)

“Realizing a Sustainable Future“というスローガンのもと、NTTデータはSDGsへの貢献に向けてさらに具体的で効果的なアクションを追求していく。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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