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カーボンニュートラル対応の加速
近年、脱炭素への国際的な機運の高まりを受けて、国内の企業も大手・中堅を中心にカーボンニュートラルへ向けた取り組みを進めつつあります。
とくにプライム市場上場企業に対する要請として、気候変動問題への対応として、「TCFD開示」や「CDP回答」が推奨され始めています。(※1)
カーボンニュートラル実現は一朝一夕には実現することは難しく、「可視化」→「削減計画」→「実行」という3つのステップを繰り返していくことになります。最初のステップで最も重要といわれるのが「温室効果ガス(以下:GHG)排出量の算出、すなわち「可視化」です。削減計画を立てたり、実施したりするためには、GHG排出量を正確に把握する必要があります。今回はGHG排出量の可視化の現状と課題、あるべき姿について解説をしていきます。
国内企業におけるGHG排出量可視化状況
我が国においてカーボンニュートラルの第一歩となるGHG排出量の可視化」に取り組む企業も増えています。2022年3月に内閣府が公表した報告書(※2)によれば、上場企業の68.2%が自社のGHG排出量を算出しており、非上場企業も約16%がGHG排出量の可視化に取り組んでいる状況です。
株式会社日本取引所グループが、上場企業における気候変動関連の情報開示の実態を把握するために実施した調査(※3)では、国内の上場企業の状況を下図のようにまとめています。これを見ると、建設・資材や自動車、電機・精密など、排出規模が大きく、産業のすそ野が広い業種の開示率が高くなっていることが分かります。
図1:上場/非上場企業の可視化状況
図2:業種別の可視化状況
また業種ごとにScope1、2、3排出量の構成は異なりますが、業種に関わらずScope3カテゴリ1、2排出量(原材料・製品の調達に由来する排出量、図3グラフのオレンジ色の部分)が、大きな比率を占めています。したがって、カーボンニュートラルの実現に向けては、Scope3カテゴリ1、2排出量の削減がカギとなると考えています。
図3:各業種におけるScope3カテゴリ1、2排出量の比率(※4)
https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0090/nlsgeu00000610sr-att/TCFDsurveyJP.pdf
出典:SBT認定取得企業、RE100加盟企業、カーボンニュートラル宣言企業など、122社のサステナビリティレポートなどに基づき、産業/業種別に1社あたりの平均排出量をNTTデータが独自に算出
GHGプロトコルによる排出量可視化とは
GHG排出量を可視化するには、国際的なデファクトスタンダードであるGHGプロトコルを用いるのが一般的です。このプロトコルでは、企業の事業活動に起因する排出量をScope1、2、3からなる3つのScope(図4)として定義し、Scope3をさらに15のカテゴリに区別しています。
図4:GHGプロトコルのScope1、2、3
一般的な排出量可視化における課題
GHGプロトコルによるScope 1、2の排出量の算定は、GHGの種類やその燃料によって多岐にわたります。そのため、自社のさまざまな事業活動でどのような燃料を使用しているかを把握した上で、使用量を正確に取得しなければならず、その作業は容易ではありません。さらに、サプライチェーン排出量を算定するScope3は、15のカテゴリごとに全取引先の排出量を確認した上で、それらを合算する手間がかかります。かつ、すべての取引先が排出量を算出しているとは限らないため、正確に合算するのは困難です。
そこで、GHG排出量を既に可視化している企業の多くは、「活動量」×「データベース上の排出原単位」
という方式を用い算定をしています。
図5:GHG排出量算定例
「データベース上の原単位」とは、一般に「排出原単位データベース」と呼ばれており、Scope3カテゴリ1、2排出量などのサプライチェーン排出量の算定を容易にするために、国内の各業界の平均値を取りまとめています。
算定を容易にできる一方で、以下のようなデメリットもあると考えます。
- この計算式では、活動量を減らさない限り排出量を削減することができない
- データベースに登録されている排出原単位はあくまでも平均値。各社の排出実態との整合しない
- グリーン購買等でGHG排出量削減の努力を行っても、実績を自社の算出結果に反映できない
つまり、データベースの平均値を用いる簡易的な計算では、各企業が実施した削減努力を結果に反映できないため、結果的に削減のモチベーションにつながらないとい問題を抱えています。また、なんらかの理由でデータベースを変更した場合、排出量の経年比較が行えなくなるため、切り替えの際に過去分をすべて洗い替える手間が生じてしまいます。
新たなアプローチ、総排出量配分方式
こうした問題を踏まえ、NTTデータは別の視点からのアプローチとして総排出量配分方式(企業別排出原単位方式)を提案しています。これは、企業全体の排出量からScope1,2及びScope3上流の排出量を抽出し、取引先企業との取引額シェアに応じて当該排出量を配分・連携する方法です。企業がより正確にScope3排出量を算出でき、かつ取引先各社の削減努力を自社の排出量に反映できる手法です。
図6:総排出量配分方式による算出イメージ
総排出量配分方式では、
「活動量(企業別取引額)」×「企業別排出原単位(売上高あたりの排出量)」
という算定方式を用います。
総排出量配分方式の最大のメリットは、産業平均値ではなく、実取引に基づいた取引先のGHG排出量を用いるため、削減努力・効果も含めた算出が可能になることです。この方式では、取引先の売上高に占める自社との取引額に応じて、取引先の排出量実績を自社の排出量に配分する形で、取引先各社の削減努力を自社排出量に取り込めるようになります。
図7:Scope3カテゴリ1排出量における他社削減努力の取り込みイメージ
個々の企業の削減努力が、サプライチェーンを通して後続の顧客等の取引先の排出量削減にダイレクトにつながっていくため、結果的に社会全体の排出量の削減に貢献することが期待されます。これが総排出量配分方式の採用によって期待される効果です。
またNTTデータでは総排出量配分方式を用いて算出した企業全体のGHG排出量を、事業別→製品別へと細分化していくことで、可視化の解像度を高めていくことも検討をしています。
この手法により、全社的な排出量の算出がより正確になるだけでなく、各事業部門の製品/サービスの排出量を個別に算出できるようになります。自社製品の環境性能を取引先へのアピールだけでなく、ICP(Internal Carbon Pricing:社内炭素価格)を導入・実行する際の社内排出量の正確な把握にも貢献できると考えています。
総排出量配分方式を備えた可視化プラットフォーム「C-Turtle™」
総排出量配分方式の採用には実務的な課題を伴います。この方式では取引先各社の排出原単位を取得する必要があるため、すべての取引先の統合報告書やサステナビリティ報告書などを調べ、GHG排出量や売上高などを抽出する必要があります。
NTTデータではこうした負荷の軽減を目指し、企業別排出原単位データベースを備えたプラットフォーム「C-Turtle™」(※5)を、各社に合った可視化ロジックの構築コンサルティングと共に提供しています。「C-Turtle™」では国際NGO CDPと連携し、CDPの保有するグローバル各企業グローバル各企業の排出量情報を保持しており、サプライヤー別排出原単位の信頼性を担保しています。(※6)
多くの企業が参加し、最新の情報をインプット・利用することになれば、排出量の自動算定や、算定精度の向上が可能になり、導入した企業の負担が大きく軽減されるでしょう。
NTTデータではGHG排出量可視化ソリューションも含め、今後も広がりが想定される気候変動・サステナビリティ対応に向けた支援サービスを拡大していきます。個々のお客さまに合わせたコンサルティングを提供し、社会全体のカーボンニュートラルやサステナビリティな社会の実現に貢献していきます。