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2023.6.14事例

日産自動車がNTTデータと歩むモビリティの未来づくり
―Nissan Biz Connect APIの可能性

自動車の価値が“単に走ること”から大きく変化している。新たな価値創出を目指し、自動車業界では、各社がここに多くのリソースをつぎ込むなか、日産自動車(以下、日産)も法人向けコネクテッドサービス「Nissan Biz Connect」を中心に取り組みを加速させている。同社はこのほど、車両データを日産車の法人ユーザーがAPIを通じて活用できる新サービスを構築。その先にモビリティの新しいかたちを追求し、長期ビジョンに掲げるカーボンニュートラルとゼロ・エミッションの実現を目指している。NTTデータは同社の取り組みをサポートし、モビリティの未来づくりと社会課題の解決に貢献する。
目次

車両データの自在な活用を推進するAPI公開の取り組み

日産自動車は2021年11月、新長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表した。2050年までにカーボンニュートラルとゼロ・エミッションを達成するため、電気自動車(EV)を誰もがどこでも利用できるようにするとともに、モビリティに関わる多様なサービスを世の中に提供していくことを宣言している。

このビジョンの柱は三つあると、日産自動車 マーケティング&セールス・モビリティサービスシステム部の蔭山 翔輝 氏が語る。

日産自動車株式会社 グローバルISデリバリー本部 マーケティング&セールス・モビリティサービスシステム部 シニアマネージャー 蔭山 翔輝 氏

日産自動車株式会社
グローバルISデリバリー本部
マーケティング&セールス・モビリティサービスシステム部
シニアマネージャー
蔭山 翔輝 氏

「一つ目は電動化の推進で、EVのラインナップ拡充が中心になります。二つ目はモビリティの革新。人々の自由な移動を実現するため、自動運転等の運転支援技術の進化やEVの安全性・効率性向上を支える全固体電池の進化に加えて、新しい価値をもたらすモビリティサービスの提供も進めています。そして三つ目は、モビリティとその先に向けたエコシステムの構築で、EVを活用した社会の持続可能な仕組みづくりを目指しています」(蔭山氏)

とりわけモビリティサービスの推進においては、BtoB/BtoCはもちろん政府・地方自治体といったBtoGの顧客も含めて日産のサービスを利用してもらうため、サービスへ手軽にアクセスできるフロントエンドの整備がテーマになっていたと蔭山氏。その窓口となるものが、同社が整備したAPIゲートウェイだ。

日産車を購入した個人の顧客は、付帯するコネクテッドサービスをオーナーとして利用できる。今回、APIゲートウェイを導入することで、企業や公的セクターの顧客が日産車を購入した場合にも、例えば車両の走行履歴やGPSによる位置情報、EVの場合は電池残量といった情報をAPI経由で活用できるようになる。この法人向けデータ活用コネクテッドサービスは、「Nissan Biz Connect API」(以下、NBC-API)と名付けられた。現在は実証実験の段階だが、今後商用化移行を目指しているサービスである。

図:Nissan Biz Connect API

図:Nissan Biz Connect API

なぜ、サービスをBtoCからBtoB/Gにも拡充しようと考えたのか。同部の大泉 真悠子 氏が解説する。

日産自動車株式会社 グローバルISデリバリー本部 マーケティング&セールス・モビリティサービスシステム部 大泉 真悠子 氏

日産自動車株式会社
グローバルISデリバリー本部
マーケティング&セールス・モビリティサービスシステム部
大泉 真悠子 氏

「もはや、車に移動だけの価値を求めて購入する方はほぼいらっしゃらないと考えています。みなさんスマートフォンを持ち、Webやアプリを活用しているため、個人に合わせてカスタマイズされたサービスを期待されています。当社は、お客様の車両データをもとにカスタマイズした体験やサービスをいかに提供できるか、常に念頭においてビジネスを検討しています」(大泉氏)

社内に多様なサービスのアイデアがあるなかで、それぞれのサービスを個々に作り提供していくと、サービスの乱立によって使いづらくなってしまうことは容易に想像できる。そこでタッチポイントを一つに統合し、システムの裏側でAPIにより管理することで、今後のサービス拡大をスムーズに実現していくことが同社の狙いだ。

Nissan Biz Connect APIの開発プロセスを振り返る

タッチポイント統合のアイデアは、BtoC領域ではすでに2021年頃から検討が始まっていたという。

「もともとBtoC向けに、日産がリリースするさまざまなアプリのシングルタッチポイントを実現しようという話は出ていました。平行して、BtoBビジネスを考えるチームからコネクテッドサービスを提供したいとの話を受けました。そこで各サービスの実態を調査した結果、APIの設計や管理ルールの統一化がサービスのスムーズな拡大には必要だということで、オープンなAPI基盤の整備に着手したのです。そのうえで車両の走行データを提供し、法人が活用できるAPIサービス・NBC-APIの実証実験をスタートさせました」(大泉氏)

システムインテグレーション事業本部 課長代理 服部 良亮

システムインテグレーション事業本部 課長代理
服部 良亮

このオープン化と実証実験のパートナーに選ばれたのが、NTTデータだ。NTTデータはもともと日産の欧州リージョンで実施していたAPIのプラットフォーム構想で協業の実績があり、かつ、すでに金融部門でオープンAPIの構築実績もあったことから、今回のプロジェクトにも選定された。NTTデータの服部 良亮は、NBC-APIを開発する前段階の検討から参画し、NTTデータ側からの提案とプロジェクト化、そして実際の開発までを主導した。服部は、開発時のポイントを「オープン化を意識し、柔軟性・拡張性を考慮しました」と語る。

これについて、サービスの窓口となるAPI Gatewayの開発リーダーとして携わるNTTデータの杉浦 拓也は、次のように話す。

システムインテグレーション事業本部 課長代理 杉浦 拓也

システムインテグレーション事業本部 課長代理
杉浦 拓也

「日産ではAPIをパッケージ化して提供しています。パッケージを契約すると、そこに含まれるAPIと車両の組み合わせを自由に選べる仕組みになっています。つまり、法人によってこの車両にはこのAPIを使わせたい、この車両では使わせないといった柔軟な対応ができるので、今回の開発でもそういった部分を強く意識しました」(杉浦)

また、蔭山氏は今回の開発の位置づけについて「法人向けコネクテッドサービスをビジネスにつなげていく最初の一歩となるもの。スモールスタートであっても早く実現したいと考え、短期間ではありましたが、開発に遅れはなく順調に進みました」と話す。

ただ、今回構築したAPI Gatewayはスモールスタートだったとはいえ、実際に外部からアクセスして車両データを取得するには、既存システムを含めて何段階かのレイヤーを通る必要がある。とくに車そのものの開発はR&D部門の領域であるため、「R&Dとサービス提供部門、そしてその間にあるレイヤーをきっちりつなぎ、サービスを成り立たせるための各種調整は苦労する部分もあった」と蔭山氏は振り返る。

APIを通じたデータ活用で期待される新しいサービスとは

実証実験が進められているNBC-APIは、実際にどういったシーンで活用することで、何を実現できるのか。そして、どのようなステークホルダーに新しい価値が提供できるのか。大泉氏は「このサービスが提供できる走行履歴や位置情報、電池残量などの情報を、ユーザーとなる法人側がいろいろ組み合わせることで、多様なサービスを実現できると考えています」と語る。

例えば、給電タイミングの最適化や運行の効率化を行うタクシー配車システム。災害で電力が使えないとき、企業等が所有するEVを車両位置や電池残量を確認したうえで避難所など必要な場所に振り分けるサービス。あるいは、アプリで予約するだけで無人の店舗に赴き手軽に利用できるレンタカー・シェアカー……、などといったアイデアを日産が提供する多彩なデータを活用することで、実現可能になる。

このように、法人ユーザーのさらにその先にいるエンドユーザーに向けた画期的サービスを創出できるのはもちろん、より広い地球規模の価値、例えば環境負荷の低減など社会課題の解決に日産のデータを自在に活用できるのもポイントだ。

杉浦は、EVの充電インフラの課題に対しても日産のAPIを活用できるのではないかとアイデアを示す。「今後のEV普及のための効率的な充電スポットの配置や新たな電力供給の方法の模索において、日産の走行データなどを使えるのではないでしょうか。まだ実証実験ではありますが、本サービスについて、既に複数の企業様から「待ってました」という反応を得られており、成長性があると考えています」

日産が描く“APIzation”による未来展望

日産では、NBC-APIを通じた「APIzation」構想を打ち出している。今回整備した法人かつ日本市場向けの標準プラットフォームであるNBC-APIのさらにその先で、オープンAPIの未来を目指している。その構想がAPIzationだ。

「日産として標準化したAPIのプラットフォームを外部に(有償)公開することで、車両から取得できるデータをオープン化。APIを通じてさまざまな事業者が多彩なサービスを展開できるようになれば、日産車の、ひいては日産自体の価値を高めていくことが可能になります」(蔭山氏)

例えばディーラーがオープンAPIを活用して独自のサービスを作り顧客に提供する、保険会社が走行履歴に応じた保険商品を開発する、災害時に走行可能な道をデータで吸い上げマップ化するなど、日産単独では実現が難しいサービスをオープンAPIの活用で自在に作れる“APIコミュニティ”を目指す、というのが、日産が描く未来像だ。

未来像といってもそれほど遠い未来ではなく、今回、API公開の基盤が整ったことで「1、2年で公開を目指します」と蔭山氏。また大泉氏も「法人が会員登録できるポータルサイトも、今後の拡大を前提としてNTTデータに作ってもらったので、いつでも拡充できる体制ができています」と力強く語る。

そこを見据えて蔭山氏は、日産が自動車業界で取れるデータだけでなく、金融、流通・小売など、ほかの業界におけるデータサービスをはじめとした知識やノウハウも必要になるため「NTTデータにはぜひともクロスインダストリーの知見を提供してほしいですね」とリクエストする。

NTTデータとしても、業界を超えた顧客をつなぐことで新たなビジネスを創出できる可能性については以前から着目している。「いままで世の中になかったサービスを生み出すため、NBC-APIをより強化していくのはもちろん、APIコミュニティの育成もサポートし、企業や業界の垣根を越えた社会課題の解決と、モビリティの未来づくりに貢献していきたい」と、服部は今後に向けた意気込みを語った。

関連リンク

NTTデータが考える自動車業界の変革と新市場に関するレポートはこちら
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/mobility/

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