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アジャイル開発の効果を最大化する‐Value Stream Managementを活用した組織マネジメント‐
2023.8.10技術トレンド/展望

アジャイル開発の効果を最大化する‐Value Stream Managementを活用した組織マネジメント‐

アジャイル開発は、急速に変化する顧客ニーズに対応したアプリケーションの実現に最適な開発手法である。しかし、アジャイルでアプリケーションを開発している現場からは「顧客の変化に対応できている実感がない」「顧客のための追加機能を迅速にリリースできていない」といった声が聞こえてくる。本稿では、アプリケーションを顧客に届けるまでのリードタイム短縮や顧客への提供価値向上に効果を発揮する「Value Stream Management」について解説する。
目次

アジャイル開発で顧客への提供価値を最大化する

変化の激しい時代において、つねに顧客に選ばれ続けるアプリケーションを実現するためには、変化する顧客ニーズを的確にとらえ、ニーズに応えて顧客に価値をもたらす改善を継続的に行い、迅速に市場投入することが重要です。

顧客ニーズの把握から市場投入までの一連のプロセスを高速で回すため、開発現場を中心にアジャイルを導入する企業が増えています。アジャイルとは、顧客ニーズを起点にアプリケーションの仕様や機能を検討し、市場投入後も顧客の反応をみながら改善を繰り返す開発手法です。

アジャイル開発における悩み:顧客への提供価値は真に向上しているのか

顧客ニーズに対応したアプリケーションの実現を目的にアジャイルを導入したにもかかわらず、開発現場からはしばしば以下のように「顧客ニーズに対応できている実感がない」といった声が聞かれます。

  • 開発手法を従来のウォーターフォールからアジャイルに変更したにもかかわらず、「以前よりもよくなった」という実感がもてない
  • アジャイルを導入してもリリース頻度が思うように上がらず、顧客に対して迅速に提供できていない
  • アジャイル導入前よりもこなすべきタスク量が大きくなり、負担が増えたように感じる

何故、このような悩みが生まれるのでしょうか。大きく二つの要因が考えられます。

図1:アジャイル開発における悩みとその要因

図1:アジャイル開発における悩みとその要因

要因1.顧客ニーズに対する共通認識が持てていない

アジャイル開発の効果を発揮するためには、まず、アプリケーション提供に関わるメンバー間で、提供する先の「顧客像」と「顧客が真に求めているもの」についての共通認識を持つことが重要です。

マーケティング部門が顧客ニーズの分析を行い、ビジネス部門が顧客ニーズに基づくアプリケーションの仕様や機能の検討を担い、IT部門が開発を行うなど、通常アプリケーションの提供には社内の複数の部門が関わります。アプリケーションの規模が大きく、関わる部門やメンバーの数が多ければ多いほど、部門間やメンバー間の認識の相違が発生しやすくなります。アプリケーションの仕様検討から市場投入までのプロセスにおいて発生する認識のズレは、顧客が本来求めているものと、実際に市場投入したものとの間のギャップを生み、結果、顧客ニーズに応えられないばかりか、顧客の離反やアプリケーションの早期衰退のリスクへとつながります。

要因2.顧客視点で優先的にやるべきことを取捨選択できていない

アジャイルは、顧客ニーズに対応した機能追加や改修を短いサイクルで繰り返す開発手法であり、その時々において真に顧客が求めているものが何かを見極めたうえで、顧客が求めているものの実現に直結する業務から優先的に対応することが重要です。

顧客ニーズは常に変化し続けます。過去のニーズに基づいて企画された機能は、今の顧客ニーズにはマッチしない可能性があります。今の顧客ニーズと照らし合わせて、何に優先的に取り組むべきか/実施を見送るべきかについて取捨選択を行わない限り、開発現場にはやるべきタスクが積み重なる一方です。顧客ニーズとひもづかないタスクの増加は、開発者の負担増による生産性低下やモチベーション低下へとつながります。

顧客へ価値を届けるまでのフローをマネジメントする「Value Stream Management」

アジャイル開発における悩みを解決し、その効果を最大化するための有力な選択肢として、「Value Stream Management(以下、VSM)」という考え方が米国を中心に注目を集めています。VSMは、アプリケーションを顧客に提供するまでのリードタイム短縮に向けて効率よく業務を遂行できているか、顧客に対して真に価値を提供できているかを管理するマネジメント手法です。

大規模組織においてアジャイルを推進するためのフレームワークである「Scaled Agile Framework(SAFe®(※)」の最新版SAFe 6.0が2023年3月に公開されましたが、SAFe 6.0においても、顧客への継続的な価値提供のためにはVSMが重要であることがうたわれています。VSMを活用することで、顧客へ価値を届けるまでの業務フローを最適化し、組織全体としての生産性向上と顧客への迅速な価値提供を実現します。

図2:Scaled Agile Framework(SAFe)6.0

図2:Scaled Agile Framework(SAFe)6.0

(※)Scaled Agile Framework(SAFe)

Scaled Agile, Inc.社が提供する「大規模アジャイル開発」のためのフレームワーク。
画像出典:https://scaledagileframework.com/portfolio/

顧客へ価値を届けるまでのフローの最適化に向けた3つのステップ

では、VSMを活用することで、どのようにして生産性向上と迅速な価値提供を実現するのでしょうか。実現までのステップの概要をご紹介します。

ステップ1 「価値とは何か」について認識合わせを行う

まず、アプリケーションの提供に関わる部門やメンバー間で、アプリケーションを通じて、どういった顧客に対してどのような価値の提供を目指すのかについて認識合わせを行います。すでにリリース済のアプリケーションについて新たな機能追加を検討する場合は、その機能を追加することで顧客にどのような利点をもたらすことを目指すのかを定義します。

認識合わせをする内容
  • アプリケーションや追加機能の対象顧客は誰か
  • 顧客が求めているもの(=顧客ニーズ)は何か
  • 顧客が求めているものに対してアプリケーションや機能が提供できる価値は何か

ステップ2 価値提供までの現状のフローを明らかにする

次に、価値提供までにどのようなプロセスをたどり、各プロセスにおけるひとつひとつの業務がどのような順番で流れているのかの業務フローを書きだします。

そのうえで、アプリケーションを顧客に提供するまでのリードタイムのうち、各業務に費やされている時間を明らかにします。ある業務から後工程の業務へと流れる過程において、部門間やメンバー間の業務の引き継ぎが発生する場合は、引き継ぎにかかる時間についても書き出します。

ステップ3 全体を俯瞰してボトルネックを特定し改善する

最後に、リードタイムを短縮して顧客に対してより迅速にアプリケーションを届けるため、業務の滞留が発生しフローのスムーズな流れを妨げているボトルネックに着目し、ボトルネックの発生要因を分析しながら改善を図ります。

例えば、ビジネス部門がアプリケーションの新機能の仕様を検討し、その後IT部門のエンジニアが開発を行うといったフローにおいて、エンジニアが別業務の対応に追われて新機能の開発に着手できずにフローがスムーズに流れない事象が発生している場合は、エンジニアの手元に滞留している複数の業務のうち、どの業務を優先すべきかを「顧客が真に求めているものの実現に直結する業務かどうか」を基準に選択します。

顧客ニーズの変化にあわせて業務の優先度を見直し、優先度の高い業務の滞留をなくすことで、生産性向上と迅速な価値提供を実現します。

まとめ

変化の激しい時代において、つねに顧客に選ばれ続けるアプリケーションを実現するためには、アジャイル導入は有効な選択肢のひとつです。しかし、アジャイル開発のプロセスやイベントをなぞっただけでは、その効果を最大限に発揮することはできません。

NTTデータグループでは、VSMの活用によるアジャイルの効果の最大化を支援し、アプリケーション開発の生産性向上と顧客への迅速な価値提供の実現に貢献します。

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