NTT DATA

DATA INSIGHT

NTT DATAの「知見」と「先見」を社会へ届けるメディア

キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
2024.3.22業界トレンド/展望

ビジネスに変革をもたらす最新技術トレンド
~NTT DATA Technology Foresight 2024~

NTT DATAが毎年最新のテクノロジーのトレンド情報をまとめ、策定する「NTT DATA Technology Foresight」は、グローバルな調査・分析をベースに、ITとビジネスの向かう先を提言するものだ。
2023年は複数のビッグテックから生成AIをはじめとした新しいAIが次々と登場した。新しいテクノロジーをいち早く取り込み、最大限に活用してビジネス戦略を描くことはもはや当たり前だ。しかし、あまりに多くのサービスが生まれる中で、ビジネスへの取り入れ方がわからないという人も多いのではないか。今後、AIなどの先進テクノロジーはどのように進化し、ビジネスはどう変わっていくのか、NTTデータグループの田中秀彦が解説する。
目次

NTT DATAは、技術とビジネスをテーマに、激しく変化を続ける現在と未来のトレンドを提言したレポート「NTT DATA Technology Foresight」を毎年発行している。これは、特定の製品やサービスに拠らず、お客さまと未来の戦略をフラットに議論するための羅針盤となるものだ。
グローバルな調査力と分析力を結集した最新の「NTT DATA Technology Foresight 2024」から、近年著しい進化を続けるAIトレンドなど、主要なポイントを抜粋して紹介する。

NTT DATA Technology Foresightについてはこちら:
NTT DATA Technology Foresight | NTTデータ - NTT DATA

顕在化するAIのトレンドと課題

まず田中は、既にトレンドが顕在化し競争が激化している”Mainstream”技術領域から、主にAIに関する動きを紹介した。2022年末にChatGPTが登場して以来、2023年はビッグテックのAIや関連サービスの発表が相次いだ。2024年もAIが起こす地殻変動は継続するとみられる。「コアの進化」「領域の拡大」「活用の探究」の3つの観点で2023年のAIの進化を振り返っていく。

まず1つ目が、AIの頭脳である「コアの進化」だ。各社が大量かつ多様なデータを用いた学習により、さまざまな用途に適応できる大規模AIモデルを開発している。ChatGPTの最初のFoundation Model GPT-3.5から2023年末に話題となったGoogleのGeminiまで進化が続いた。
コアの進化の一つの指標となるのが、パラメータ数だ。AIのコアを構成するニューラルネットワークの接続強度や活性レベルをコントロールするポイントの数を示すパラメータ数は、AIがどれだけ複雑な処理が可能かを示す値と言い換えられる。例えば、2022年に登場したGoogleのPaLMのパラメータ数は5400億、2023年に登場したOpenAIのGPT-4のパラメータ数は推定1兆以上とも言われる。
コアの巨大化が進むにつれ、AIの性能も急速に向上。また、リリースペースも加速している。例えば、GPTシリーズの変遷を見ると、3から3.5への進化は2年かかったが、3.5から4への進化はわずか4カ月で実現された。ビッグテックの開発競争が激化した結果と言えるだろう。

2つ目のトレンドが「領域の拡大」だ。コアの巨大化、高性能化によってAIのマルチモーダル化が進んでいる。これによってAIが言葉だけでなく画像、音声、動画を扱うようになり、複数の領域を自由に行き来して動けるようになった。

その1つが、言葉から絵をつくるAIだ。絵で表現したいものや明るさ、タッチなどを言葉で指示を出すだけで高精細の絵や動画を生み出すAIは、Stable Diffusionをはじめとし、すでに現実のものとなっている。これとは逆に、絵を読み取って説明文やグラフなどを生成することも可能だ。
多言語対応も当たり前のものとなっている。ChatGPTなどでも、AIに「英語で調べて日本語で回答して」と伝えれば英語の検索結果を日本語に翻訳し回答させることが可能だ。

3つ目のトレンドが「活用の探究」だ。ここまで紹介したようにAIのコアが急速に巨大化し、領域を拡大してきたことで、単なる一過性のブームではなく、ビジネスへの本格的な活用の探究が始まっている。

すでに大きな変化が起きているのがクリエイティブ業界だ。ある調査ではクリエイターの87%がAIを活用しているという。背景の絵をつくる、縦長の写真を横長にしたいときに足りない部分を補足するなどの作業をAIが支援し、業務の効率化にもつながっている。

こうした活用の進展には、従来のようにコマンド入力する方法ではなく、自然言語、つまり話し言葉で会話するだけでAIに作業を依頼できるようになったことが大きく寄与している。
マニュアルを読む必要はなく、やりたいことをAIに話しかけるだけで方法を教えてくれるサービスもすでに登場している。
また、プログラム開発への活用も進んでいる。やりたいことを話し言葉で伝えるだけでAIが高精度のソースコードを書くことも可能となっており、生産性の向上が見込まれる。

わずか1年のうちに急速に進化したAI。日常やビジネスシーンでの活躍の場が広がる一方で、課題も明らかになってきた。AIのダークサイドとして、「高度な偽情報のまん延」「不正確な回答」「持続可能性」「新たな独占」の4つの課題が挙げられる。さらなるAIの活用を進めるためには、これらの課題を乗り越えなければならない。

まず、AIが生み出す画像や動画が高精度になったことで、うそか本物かわからないフェイクニュースや著名人を装った広告などがまん延するようになった。2024年に大統領選挙を迎えるアメリカをはじめ、各国でフェイクニュース対策に着手している。

偽情報の対策として有効なのは、AIにすべて任せるのではなく、最後は人の目で判断すること、つまり「Human in the Loop」が基本だ。また、フェイクニュース等の対策として、来歴記録を残す対策も進んでいる。この写真は誰が最初に撮影し、誰がいつどのように加工して、今この状態になっているのかなどの来歴記録があれば、偽物か本物かを判断できる可能性が高まる。法整備を進めることも重要だ。日本国内でも文化庁から「AIと著作権」という素案が示され議論が進んでいるが、AIと著作権の問題については今後もグローバルで議論が行われていくだろう。

AIによる「不正確な回答(ハルシネーション)」にはどのような対策が進められているのか。AIが何かを生成するときに意味や文脈を考えず、言葉を記号として扱っている以上、こうした課題は避けられない。
対策としては、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる、既存のナレッジベースなどすでに確立した外部知識をAIと連携させる方法が注目されている。また、特定分野の法規・規約などの情報に特化して強化した「特定用途向け小型AI」を用いることで、回答の質を向上させる方法もある。

複雑な処理を行うAIサービスは、膨大な電力を消費する点で「持続可能性」に課題がある。ビッグテックやプロセッサベンダーは、より省電力で効率的なAI専用プロセッサの開発を進めている。また、用途を限定し機能を特化することでスマートフォンに搭載できるレベルの小型AIを独自に開発している企業もあり、今後より注目を集めていくだろう。

巨大化したAIの開発と維持には膨大なコストがかかる。それだけのリソースを持つ企業はビッグテックに限られており、作られた巨大AIはプロプライエタリ(非公開)であることも多く、「新たな独占」も懸念されている。これに対して、オープンソースのAIや企業独自の小型AIの開発に対し、各国の政府が資金提供する動きもある。

何度か述べてきたように、「大きいAI」に対して新たな潮流となるのが、「小さいAI」である。
特定の目的に特化することで規模を小さくし、扱いやすくするというアプローチだ。
では「小さいAI」は本当に実用に耐えうるのか。「特定の領域では、小さいAIは十分活用に値する」と田中は言う。

実際にNTTの研究所が開発している「小さいAI」、「tsuzumi」とOpenAIのChatGPTを比較するデモでは、金融分野に特化した「tsuzumi」はChatGPTと比べて回答が速く、「東京証券取引所の市場区分を説明してください」という質問に対して最新の情報で正確に回答することができた。
「大きいAI」は汎用性に強みがあるが、学習に時間がかかるため、生成された時期によっては情報が古いことがある。一方「小さいAI」は専門領域に特化して最新の情報を短いサイクルで学習させることが容易だ。

では、AIを活用して企業競争力を高めるためには、どのようなアプローチが必要なのか。
今日、企業競争力を高めるには、スマートフォン等の顧客接点から得たデータの分析・活用が欠かせない。通常、顧客の発注情報やクレーム、趣味嗜好(しこう)などのデータをバックオフィスで集計、分析し、サービスに活用する。また、蓄積したデータをもとにさまざまな経営判断を行い、次の市場を狙うための研究開発に取り組むことも必要だ。このように顧客接点から一気通貫でデータとそれを活用するソフトによる意思決定と改善ができるかどうかが、企業の競争力を左右する。

従来はこうした分析プロセスにさまざまなツールを活用し、時にデータサイエンティストなどの専門家の力を借りる必要があった。これからは、AIの進化により、特別なツールや専門家の力を借りずともAIアシスタントがデータの分析を支援し、顧客接点でコミュニケーションすることも可能になっていく。田中は、「AIが人とITの接点をつかさどる時代がやってきたのです」と語った。

今後成長が見込まれるビジネス×ITのトレンド

ここまで紹介してきたAIを取り巻く動きは、いずれも既にトレンドが顕在化し競争の中心にある”Mainstream”技術だった。次に、近い未来、技術進化に合わせてビジネスモデルが確立すると予見される”Growth”領域として3つのテーマを紹介する。

まず挙げられるのが「グリーンテックの活用」だ。2040年の炭素排出ネットゼロに向け、企業は新ルールへの対応、排出量の可視化、削減などに取り組まなければならない。エネルギー政策の転換が求められる中、今後グリーンテックが企業活動の基盤になっていくことは間違いない。

また、リアルな世界をITで複製し、仮想のデジタル空間でさまざまな課題の解決策をシミュレーションする「デジタルツイン」の活用も今後さらに広がっていくだろう。例えば、遺伝子からタンパク質が生成される過程の解明など、創薬分野での活用が進んでいる。

もう1つは、「コンピューティングパワーの競争拡大」だ。AIをはじめとしたコンピュータの計算力を向上するためにはより高性能の半導体が必要であり、安全保障の観点からも半導体製造競争が世界中で繰り広げられている。2nmに到達した微細加工技術をはじめ、量子コンピュータやGPUに代表される特化型プロセッサも注目されている。半導体のさらなる高性能化を目指して新たなプレーヤーが参入し、競争はますます拡大していくだろう。

着実に広がりつつある未来のビジネスの種

最後に、将来的に技術が進化しビジネスモデル成立につながる可能性がある”Emerging”領域として、3つのテーマを紹介する。

未来のビジネスとして大きな可能性がある領域の1つが「宇宙」だ。民間での宇宙開発が進められており、ISSへの交代人員の輸送や補給にはすでにSpaceX社の宇宙船が使われている。また、低軌道に複数の人工衛星を配置するLEOコンステレーションによって、世界のどこでもインターネットに繋がるようになったのも民間企業主導のビジネスによるものだ。今後もこの方向性は続くだろう。
「ロボティクス・オートメーション」も、生成AIの登場を受けて更に活用の範囲が広がりそうだ。Amazonは家事を支援するロボットを構想しており、より高度な人間の作業をロボットが支援する未来が近づいている。

3つ目は「体感・体験のUX追求」だ。ITサービスはコピーが容易であり、コモディティ化しやすい。ビジネス価値を向上するためには簡単にまねできない価値を生み出さなければならない。その差別化戦略となるのが、手触りなど五感へ与える影響や使い勝手などの体感・体験まで考慮したITサービスを創り出すことだ。

Growth、Emerging領域全体を通して、IT成長の維持拡大・物理世界でのIT活用・新たな競争優位の開拓がTechnologyの進む方向として見えている。この未来の方向を具体化する取り組みとして、若手の量子エンジニアである森 理恵が紹介するのは、NTT DATAと株式会社香味醗酵が取り組んでいるプロジェクトだ。

技術革新統括本部 技術開発本部 イノベーションセンタ 森 理恵

技術革新統括本部 技術開発本部 イノベーションセンタ 森 理恵

香味醗酵は、人間の鼻の嗅覚受容体を模した素子を使い、匂いをデジタルデータ化する技術を開発した。匂いをデータ化して再現できれば、エンターテインメントや外食産業など、多様なビジネスに活用できる。さらに、匂いの再現を低価格で実現できれば、ビジネスの可能性はより広がる。そのためには匂いのもととなる8000種類の香料を6種類程度に絞り込み、少ない香料で様々な匂いを再現する必要があるが、膨大な数の組み合わせ計算が必要となることが課題だった。

「香料の組み合わせは10の19乗という膨大な数となり、現在のコンピュータでは現実的な時間では解きにくい。NTT DATAは、光イジングマシンとNTT DATAの量子コンピュータラボの最適化技術を使い、この問題に取り組んでいる。」と森は言う。

人ごとにパーソナライズした香りでリラックス、各場面にあった匂いで没入感を生むゲームなど、顧客接点の差別化戦略として、「匂い」を使った新たなビジネスの可能性が広がっている。

新たな技術とビジネスを融合させ、未来をつくる

テクノロジーが急速に進化する中で、企業はそれらをいち早くビジネスと融合させ、新しい価値の創出につなげていかなければならない。
田中は、「それには、技術とビジネスに関する広範な情報収集と分析、さらに技術の実践を通じて未来を予見する“Foresight”が必要だ。NTT DATAはこれからも”Foresight”のパートナーとしてお客さまのお役に立っていきたい」とし、講演を締めくくった。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

NTT DATAのNTT DATA Technology Foresight 2024についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/technology/trend-listing/

NTT DATAのデータ&インテリジェンスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/data-and-intelligence/

NTT DATAの生成AI(Generative AI)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/

NTT DATAの量子コンピュータ・イジングマシンについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/quantum/

あわせて読みたい:

お問い合わせ