とはいえ、これまでシステム開発で培った多大なる実績と信頼があるなかで、さらに上流まで手を伸ばすのは大きなチャレンジでもあると思います。何に突き動かされた結果なんでしょうか?
野崎:ビジネスが複雑化した現代では、ただ実装するだけでなく、「お客様の事業をどう成長させたいのか」を考えるコアの部分から議論したい、しなければいけないという機運は年々高まっていました。
お客様からも「事業戦略を相談できるパートナーとしてのレベルまで上がってきてほしい、そのレベルから相談させてほしい」とお声をいただくことは多かったんですね。我々の“家業”であり、第一に求められていることは難しいシステムをしっかり構築・提供し、お客様の事業を支えることですが、新たな武器としてコンサルティング力の強化を進めています。
すでに大手製薬企業のDTx(デジタル治療)流通プラットフォームや、JR東海様とのデジタル施策など、コンサルティングによる理想的な協業事例も生まれてきています。さらに顧客の期待に応えるためにも、社としてさらに成長していくためにも、全社を上げてこの動きを加速させようという流れです。
加藤:社内ではどんな議論があったのでしょう?
野崎:昔からずっと「(実装面にとどまらず、事業構想の段階から)やらないといけない」という議論は出ていましたし、現場レベル、担当者レベルで取り組んでいたケースも多数ありました。一段高いレベルで、企業として目指す「北極星」を定め、中計にて戦略の1つとして発表したのは今回が初めてです。
加藤:みなさんの中で、マグマのようにふつふつと熱が高まっていたんですね。
野崎:コンサルティングと言うと、突然新しい事業に乗り出したように見えるかもしれません。ですが、私たちとしては、事業の方向性を変えたわけではなく、従来から顧客に提供してきた取り組みを、より多くのお客様に当たり前に、そして新たな弊社の強みにしていければと考えています。
私自身、忘れられない経験があります。15年ほど前、今や日本有数のグローバル企業に成長した、ある大手企業の営業責任者としてシステム開発を担っていた頃のことです。お客様の現場担当者や役員の方々との関係は円滑で、システム以外にも、より広い施策の打ち手について相談され、ともに未来を構想する対話もしていたのですが、それはあくまで個人レベルの話。
顧客から見るとNTTデータという会社はあくまで「システム開発の会社」であり、経営に一歩踏み込み、事業の成長を一緒に考えるパートナーとは認識されていませんでした。野崎という一個人がどれだけ真剣にこの事業の未来を考えても、会社としてパートナーと認識されない限り具体的な提案や協業には至らない――その時に感じた悔しさが、今の私の原体験になっています。
加藤:システム開発とコンサルティングでは顧客との関わり方も変わってきますよね。
野崎:システム開発はまずお客様が要件を決め、よりよい実現方法をディスカッションしていくケースがほとんどです。一方、コンサルティングとなると、決められたものを作るだけでは意味がない。私たちだから知っている情報や、他業種や他分野、世界のIT分野の知見などをこちらから積極的に提供することで発想の幅を広げる、ともに新しいビジネスを考えていくプロセスになると思っています。
加藤:顧客からパスを受け取る形から、こちらから最初のパスを出すスタイルへ。試合の組み立て方もかなり変わってきますよね。
野崎:あらゆる業種でデジタル化が大前提になるなかで、ITが提供できる価値や可能性も広がっています。私たちも「難しい要件をどう実現するか」だけではなく、「ITが企業を、業界を、社会をどう変えていくか」という視点で、より広く深く学んでいく必要がある。そのための考え方のプロセスを、メソッドとして社内に展開することなどを進めています。
加藤:ITへの専門性を軸に伴走することで「こういうチャンス、ありますよ」と顧客のオポチュニティー発見につなげるイメージが近いのでしょうか?
野崎:自社や事業の可能性になんとなく気づいていても、なかなか言語化できていないことはさまざまな局面であると思うんです。まったくゼロから新規に生み出すより、今あるものにITという“フレーバー”をかけることで新しい価値を生み出すアプローチですね。「そんな進化がありえるんだ!」と未来にワクワクしてもらえるアイデアの種を提供していきたいです。
加藤:顧客のシステムを一気通貫で理解していることはNTTデータの強みの1つですし、だからこそ見えるオポチュニティーの粒度や解像度が高いはず。そこにユニークさがありそうですよね。野崎さんの考える、NTTデータ流のコンサルティングの特徴、もっと言えば強みになりそうなことはなんですか?
野崎:IT自体はコモディティ化している一方で、コモディティ化しているものを組み合わせる技術は高度化しているのが現代です。「提言・実装・成果」の言葉に沿ってお話すると、深い業界や業務への知識とテクノロジーへの知見をもとに「提言」したうえで、高いレベルで「実装」までやり切り、しっかり「成果」の創出まで伴走する姿勢は強みになりえると思います。
大きな変化を生み出すにはできる限り大きな絵を描いて引っ張る必要がありますが、そこに至る過程は地道なものです。実現するまでのプロセスが疎かになってしまうことも少なくありません。思い描いた形に近づけないのは、お客様にも社会にも悪影響を及ぼすので、構想と実現のバランスが取れた提言をしていく存在でありたいですね。
加藤:ベタな言い方をすると、現場感覚がある人たちですもんね。「どう実現するか」のプロセスを考えておくことは本当に大事なことだと思います。
野崎:とはいえ、現場に寄りすぎるとただの改善提案になってしまいます。企業体としての成長を目指す上では風呂敷を広げたり、これまでの常識を飛び越えたりする必要がありますが、同時に「これは実現できるか?」と冷静に判断することも欠かせません。
加藤:なるほど、ビジョンを描くのももちろん大事ですが、斬新性も含めて最後にどのような実装に落とし込むか。今の話を聞いて、ピントが合った感じがしました。
(後編へ続く https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2024/032802/)
NTT DATAのコンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/consulting/