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2024.6.21技術トレンド/展望

数理最適化で近づくカーボンニュートラル!~省エネ実現の仕組みを解説~

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて徹底した省エネルギー・エネルギー効率の向上と、温室効果ガスをなるべく排出しない電熱源や燃料(水素やバイオマス)の導入が必要だ。特に、エネルギー消費量については野心的な深堀によって2030年までに原油換算キロリットルで305百万klから280百万klへの削減が求められている。本記事では運送業務・生産計画におけるエネルギー消費量の削減を、数理最適化によって実現する方法を解説する。
目次

1.カーボンニュートラルの実現に向けた省エネの役割

日本では2020年に、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする2050年カーボンニュートラル宣言が行われました。温室効果ガスの排出量から吸収・除去量を差し引きゼロにするためにはエネルギーの消費量を削減する省エネルギー・エネルギー効率の向上と、温室効果ガスをなるべく排出しない電熱源(太陽光発電やヒートポンプ)や燃料(水素やバイオマス)の導入を推進していくことが重要です。
令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)(※1)によると、2022年度の最終エネルギー消費は11,842PJであり、原油換算キロリットルで305百万klです。一方で、資源エネルギー庁の第6次エネルギー基本計画の関連資料(※2)によると、省エネの野心的な深堀によって原油換算キロリットル単位で2030年には280百万klにまでエネルギー需要を削減できる見込みです。見込み達成まであとわずかですが、経済成長に伴いエネルギー需要も増加していくことから引き続き徹底した省エネ対策が必要です。

では、具体的にどのような対策を行なえば省エネになるのでしょうか。一つはエネルギー効率の良いものを使うことです。例えばZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と呼ばれる高断熱な住宅では外気温の影響により室温が変動しにくいため、冷暖房によるエネルギー消費量を削減できます。もう一つは効率的な計画に基づいて無駄なエネルギー消費を減らした行動をすることです。極端な例ですが、東京から静岡にたった一つの荷物を運ぶために東北地方を経由するようなルートを通ってしまうのは非効率です。東北地方に寄る必要があるのであればそのような荷物も一緒に積むか、そうでないのであれば東北地方を経由しないルートを計画して配送すべきです。

このような効率的な計画を立てるために数理最適化という技術がさまざまな分野で使われています。例えば、カーボンニュートラルの実現に必要不可欠な再生可能エネルギーを含む分散型電源の効率的な運転計画の立案に用いられています。(※3)(※4)
本記事ではこの数理最適化を用いた省エネ対策をご紹介します。

(※1) 経済産業省 資源エネルギー庁 長官官房 総務課
“令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)”

https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/honbun2022fykaku.pdf

(※2) 経済産業省 資源エネルギー庁,
“2030 年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)”

https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_03.pdf

(※3) 盛野幸一,細野英之,
“最適化手法を用いたエネルギーシステム設計 -事務所ビルにおける一次エネルギーおよびCO2の最小化-”
数理システムユーザーコンファレンス2007

https://www.msi.co.jp/event/file/07seino.pdf

(※4) 星 靖之,
“分散電源系統の電熱最適設備計画システム(改定版)のご紹介”
数理システムユーザーコンファレンス2007

https://www.msi.co.jp/event/file/07hoshi.pdf

2.数理最適化とは

数理最適化とは守るべき条件(制約条件)を考慮した上で指標値(目的関数)を最小化あるいは最大化する計画を求める技術です。この技術が対象とする問題は数理最適化問題と呼ばれ、具体例としてナップサック問題や巡回セールスマン問題などが良く挙げられますが、本記事では「どのような計画であればコストを上げず、現場も無理せずに省エネ(エネルギー消費量の最小化やエネルギー効率の最大化)になるか?」という問題を扱います。
ビジネスにおいては、「コストと環境負荷と現場負荷」などのトレードオフの関係がいくつも存在して、複雑に絡み合っています。数理最適化はさまざまな指標値に対して、現実的で最適な一手を追求するための強力なソリューションです。また、計算機とアルゴリズムの力を使って人力では作成できない規模の複雑な問題に対して良い計画を得ることができます。数理最適化によって得られた結果は、人から見るとある種の知的さを感じられます。

図1:数理最適化を用いた課題解決の流れ

図1:数理最適化を用いた課題解決の流れ

3.数理最適化を用いた省エネ対策の例

3.1運輸に関する省エネ

第6次エネルギー基本計画の関連資料(※2)に、運輸部門における省エネの深掘りに向けた取り組みとして航路等の最適化が挙げられています。航路等の最適化というと、出発する港から到着する港への航路と船速を燃料消費量が最小となるように求める問題(航路計画)と、貨物と船の割当および寄港順序を求める問題(配船計画)があり、どちらも数理最適化問題と見なして最適に近い計画を求めることができます。(※5)

実際に環境省が、早期の脱炭素社会の実現に貢献することを目的として推進している「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」(環境省R&D事業)において、数理最適化とその周辺の技術を用いてセメント船や油タンカーの配船計画立案を支援するシステムを作成しています。さらに実証実験の結果、10%程度のCO2排出削減効果が期待されるそうです。(※6)(※7)

他にも、船を車と見なせば、荷物と車の割当および訪問ルートを決定する問題(配車計画)にも応用できることが分かります。さらには数理最適化を用いて、省エネとなるような列車の運行計画を求めるような問題への応用も研究されており(※8)、数理最適化の強みを活かした徹底した省エネが運輸においても広く使われると筆者は考えています。

図2:配船計画・航路計画における最適化

図2:配船計画・航路計画における最適化

3.2製造に関する省エネ

運輸と同様に、製造においてもエネルギー消費量を最小にするような生産計画を立案することで省エネを図ることができます。例えば文献(※9)では印刷業界における生産計画において、エネルギー消費量に伴うコストが最小となるような生産計画の立案を考えています。ここで考える印刷工程は2つあり、印刷機(printing machine)を用いる工程と仕上げ用の機械(finishing machine)を用いる工程です。製品によっては仕上げが必要無いものもあります。また、それぞれの工程に用いる機械が複数あり、生産能力とエネルギー消費量が異なります。こうした設定の上で需要を満たすように生産計画、つまり、どの機械でどの製品をどれくらい生産させるかを立案します。

実務においては生産計画(中期計画)だけでなく、生産スケジューリング(日程計画)を計画する必要が出てきます。ある機械が製品を生産させている間は他の製品を生産することができない、いわゆる資源制約(resource constraint)と呼ばれるものを考え、さらには次の生産を行うための機械の準備や段取り替えを考える必要も出てきます。ここまで考えると複雑にはなりますが、数理最適化とその考え方を計画立案に活かすことで製造においても徹底した省エネの余地がまだ残されていると考えています。

図3:素材と各工程における機械との割当

図3:素材と各工程における機械との割当

(※5) 小林和博,
“輸送システムに関する最適化技術”,
海上技術安全研究所報告 第14巻 第4号 特集号,

https://www.nmri.go.jp/service/repository_data/PNM23140407-00.pdf

(※6) “航海・配船計画支援システム導入による船舶からのCO2排出削減実証事業”,
環境省,

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cpttv_funds/pdf/db/138.pdf

(※7) 加納敏幸,
“航海・配船計画支援システム導入による船舶からのCO2排出削減実証事業”,
日本船舶海洋工学会講演会論文集 第21号,

https://www.jstage.jst.go.jp/article/conf/21/0/21_39/_pdf

(※8) “省エネ運転に関する研究”,
公益財団法人 鉃動総合技術研究所,

https://www.rtri.or.jp/rd/division/rd47/rd4740/rd47400135.html

(※9) Menezes, L. F., Balbo, A. R., Cherri, A. C., Poltroniere, S. C., Ghidini, C. T. L. S., & Soler, E. M. (2024). Energy consumption optimization in a printing company. Gestão & Produção, 31, e1723.

https://doi.org/10.1590/1806-9649-2024v31e1723

4.最後に

本記事では、脱炭素で企業・製品価値を高めていくために必要なアプローチであるCO2排出量の「可視化」、「削減」、削減努力の「価値訴求」の中から「削減」に貢献する「数理最適化」を用いた省エネ対策の例をご紹介しました。

魅力的な技術である一方で、複雑な問題に対して「最適な計画」あるいは「最適に近い計画」を得ようとすると計算に時間がかかることも良くあるので注意が必要です。問題の難しさと要求される計算時間に応じて方法を取捨選択し、他の方法を援用するなどの検討も必要です。また、対象となる課題を、数理最適化問題として数式に記述する必要もあります。こうした作業に数理最適化の専門的なノウハウが必要になりますので、是非ともお声掛けください。NTTデータ数理システムでは、ウェビナーや相談会(https://www.msiism.jp/event/)も実施しています。

その他、NTT DATAの考えるネットゼロが達成された未来社会や、必要なアプローチを以下のWebページでホワイトペーパーとして紹介しています。ぜひご覧ください。
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