NTT DATA

DATA INSIGHT

NTT DATAの「知見」と「先見」を社会へ届けるメディア

キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
2024.7.5技術トレンド/展望

ブロックチェーン事業化の心得―自己主権実現への道筋

本記事では、ブロックチェーンの技術開発にあたる人は何をめざすべきか、ビジネスを作るには何をしなければならないか、を考察する。ブロックチェーン技術は社会実装の意味では黎明期である。まずは、最も重要な基礎として自己主権のあり方から理解し、共通認識を作ることが必要である。

参考記事:「自己主権とブロックチェーン 社会実装に向けて」
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2024/0507/

目次

権利の闘争とブロックチェーン

技術開発は何をめざすべきか?

参考記事(https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2024/0507/)でも説明しましたが、ブロックチェーンの背景思想である自己主権、つまり自身が自分のデータや情報を完全に管理し、他者の介入なしに制御できる状態について考えるとき、現実存在による実体保護(国の法律や規制などによる個人の保護)と、自己主権への要求のバランスの調整が課題となります。ブロックチェーンビジネスにおいては、どの程度のバランスをめざして(想定して)活動するべきでしょうか?

全体にとっての正解はなく、社会のバランスによって作られていくものです。しかし、技術開発を扱う主体としては、自己主権への要求を可能な限り達成するために活動するべきだと考えます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みでも言われるように、変革には必ず痛みが伴います。これまで利権をもっていた組織も、情報化社会の流れについていけなければ利権を失う、そういった流れが必然的に起こります。インターネットの普及においても電子化についていけない企業や団体は優位性を失っていきました。従来型の考え方、ビジネスのあり方を捨てて、新たな考え方を採用しなくては、筋の通ったビジネスを作ることができず、需要に応えられなくなり、徐々に優位性を失っていくのです。

インターネットが情報化社会をもたらした技術であったのと同様に、ブロックチェーンは社会に変革をもたらす技術です。自己主権というものは、明確に、これまで主権を握っていたプラットフォーマ(※1)から主権を取り戻す思想です。もちろん、現実問題、純粋な自己主権は実現できず、一定の存在に対して一定の信頼を置くことで実現されるものですが、自己主権を最大化し、必要最低限の保護を実現するという方向の思想が根底に存在します。

ここで、これまで主権を握れていたプラットフォーマから主権を取り戻し、主権を各人・各存在に与える、ということは一種“権利の闘争”と言えると考えています。
例えば、従来のプラットフォームビジネスを行ってきたエンティティ(企業・団体)は、各サービス利用者の持つ権利を一定程度供託してもらうことで、多くの情報を独占的に得ることができていました。こういった情報は情報化社会においては価値のあるものであり、この情報を原資にプラットフォームを形成してきました。実際のところここまで単純な問題ではありませんが、構造的に確実なことは、自己主権への要求がプラットフォーマの利権とは相反するものであり、いかにして権利の供託を獲得するかを闘争しなくてはならないということです。国家についても同様であり、完全な自己主権を実現することは到底認められません。消費者保護や課税システムなどの維持のため、いかなる部分まで権利を供託させるかを規制によって整備していかなければなりません。

こういった状況において、技術開発を扱う主体は、自己主権への要求を最優先の主張として持つべきではないでしょうか。理由は2つあります。

  • 1.ビジネス形態の変革によって旧態のビジネス領域とは異なるビジネス領域における優位性をもつことができるため。
    率先して自己主権を推進し、自己主権の要求される世界をつくること、その中で自己主権に関わるビジネスを展開することで、先行者利益が得られるでしょう。
  • 2.自己主権への要求を主張する代弁者の中で、技術の本質を見極める中で気づくことのできる有利な立場にあるため。
    自己主権への潜在的な要求は先述の通り広く存在しているものの、社会的な要求として顕在化していません。主権の問題は環境問題と同列の社会問題であって、個人にとっては便益優先のインセンティブが働いているために、すぐにニーズが発生するわけではないからです。Ethereum Foundation(ブロックチェーン団体のひとつ)のようにコンセプトレベルで提示する団体はありますが、社会一般に普及しているわけではありません。実際に社会実装するにあたり、どのようなモデルが考えられるかを提示する部分は、各技術開発にあたる主体の社会的使命です。

コラム:日本の特異性

結論から言えば、日本の思想の傾向として、政府や企業の性善に対して信頼が高いことが言われています。
マイナンバーカードは日本政府によって発行されるIDカードであり、他国においてはこのようなIDカード発行は実現できないとしばしば言われています。また、日本では政府による強力な規制で社会問題を解決する傾向があります。たとえば、日本型ライドシェアにおいては、一般ドライバへの信頼が担保できないこと、乗車する顧客の保護の観点などから、既存タクシー会社を介しての運営が施行されました。
個人よりも組織、組織よりも政府というような、権威が伴うエンティティに権利を依拠したサービスが選択されたという価値観の表れであると言えるのではないでしょうか。

海外のケースは、各国によってさまざまであり、通貨として暗号通貨を採用する国やライドシェアがタクシーよりも普及している国もあります。そのため、グローバルでの標準というものは存在しないと考えたほうが良いでしょう。各国のユースケースが異なるということは、各国の規制の状況や、優位な思想の傾向も異なるため、最終的には各国向けのビジネスになることは避けられません。
重要なのは、グローバルでビジネスをするにあたり、杓子定規的な方法では成功する事例を作れないということです。各国の価値観は異なり、それぞれに実現したい社会の形態やビジネスの形態も異なるものになります。

社会実装に向けたスタンス

自己主権への要求という命題は完全にピュア(純粋であることだけでなく、世間知らずという意味も含むことがあります)なもので、行動やアクションのマイルストーンに落とし込む際には、現在の状況を知る必要があります。先述のように、国やプラットフォーマは継続的に強力な主権、利権を持っており、各主体の主張が存在する中で自らの主張を通すようにしていくことが求められます。この命題は内に秘めた前提としたうえで、社会実装のためのマイルストーンを各技術開発の主体で議論していくのが今行うべきステップでしょう。

一歩踏み込んでビジネス開発において重要なこと

ビジネスの立場から、社会実装において自己主権のエッセンスを組み入れる、ということはどのようなモデルになるでしょうか?筆者の答えとしては、利権の変更を含め、何らかのパワーバランスを変える、もしくはその手段を提供することだと考えています。

私見ですが、下記のような観点を重要と考えます。

  • 対象市場は何か?
    • 金融/非金融?対個人/対企業?
  • 対象市場における最重要な存在は誰か?
    • 誰が動けば、その市場が活性化されるか?プラットフォームがあるだけで使われなければ将来がありません。
  • パワーバランスの変動で何が良くなるか?
    • 競合に勝つことのみならず。各ステークホルダにインセンティブがあるか?
  • インセンティブが既存ユーザビリティを超えられるか?
    • 金銭的インセンティブのみならず。広義のユーザビリティがあるか?
    • もしくは社会的需要を形成し、超えさせられるか

上3つはしばしば言われる観点と思われるため、最後の観点である「インセンティブが既存ユーザビリティを超えられるか?」について深く述べたいと思います。

先述のように、そもそも自己主権は個々人にとってさほど価値のあるものだという認識は広まっていません。ある程度の主権を供託することで得られるユーザビリティ(使い心地や効率性)に価値を感じており、主権を進んで供託してもよい、という考え方もあるでしょう。
個人のユースケースにおいても、プラットフォームによって提供される総合的サービス(例:コンテンツ配信、認証基盤、ハードウェア)の利便性が非常に高いため、プラットフォーマに強い信頼を置き、トラッキングやサービス停止、寡占経済の危険性などについてはさほど気にしない、ということもあるのではないでしょうか。

自己主権に取り組むとき、真っ向からプラットフォーマと対抗するのではなく、新たな手段、選択肢として提供するべきでしょう。筆者は、正面から闘争してもユーザビリティを超えられない分野は間違いなく存在すると考えています。それは主権の程度や、プラットフォーマの既に獲得してきたパワーにもよるでしょう。明確に言えることは、情報は分散しているよりも集約しているほうが効率よく計算可能である、ということです。プラットフォーマ自体が悪なのではなく、集約することで効率的に分析できる情報もあり、間違いなく必要不可欠な方式です。したがって、そもそもの対象市場の適切な選択は必須でしょう。

ユーザビリティを超えさせる一つの方法は、社会的需要を自ら作り出すことです。自己主権のあり方を社会に広め、広告していくことで、各主体に自覚させることが、徐々に広めていくための第一歩になります。現実離れしているように思われるかもしれませんが、現在よく重要性が取り上げられる環境問題についても、当初は多くの人が認識していませんでした。しかし、産業や政府、学術を含むさまざまな主体が社会に働きかけることで徐々に認識され、環境表示のある商品に付加価値がつくというような動きが見られるようになりました。

こういった市場形成は時間のかかり成果も見えにくいことです。しかし、思想や技術の基礎に基づいて、投機的なものではなく、将来像とともに誤解を避けて伝えていくことは、この技術分野に関わる人間としてぜひぜひ取り組んでいくべきことだと考えます。特に日本においては公共的存在による規制は強力な手段であり、社会レベルで適切なステークホルダを巻き込むことが重要なやり方です。公共的な動きを起こすためにも、各ビジネス主体は強く協力的に動かなくてはならない段階だと考えます。

さらに言えば、体力のある大企業は、目先のビジネスにとらわれず、長期的に市場を形成し、その先の大きな市場をめざすべきです。こういった公共的な動きをできる企業は非常に限られており、ビジネスにおける真の先行者になれる市場は、このような市場形成の先にあると考えるべきでしょう。

図:技術開発における事業モデルの違い(既存/新規)

図:技術開発における事業モデルの違い(既存/新規)

(※1)

インターネット上で多くの情報やサービスを提供し、その情報の流れを支配する企業・団体

お問い合わせ