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2021.10.15事例

#6:GAIA.hr データ活用編

人事領域には多種多様なデータが蓄積されており、その活用は人財マネジメントの要となる。
本稿では、NTTデータが自社の変革と社内システムへのデジタル技術の全面的適用を目指す全社プロジェクト「Project GAIA」の人事関連業務の変革、その中でも人事データの活用を取り上げ、具体例を交えて紹介する。
目次

1.経営管理に科学的アプローチを ~データドリブン経営の実践~

NTTデータでは、これまで社内システム等に蓄積された情報を最大限に活用して、さまざまな経営課題の解決に挑戦してきました。その一つが、データに基づく将来の業績見通しやプロジェクトの問題化予兆の検知など、高度なデータ分析手法を駆使した経営管理の高度化とモニタリング業務の抜本的な効率化です。

データ活用による科学的経営管理の実践=「データドリブン経営」の背景には、NTTデータを取り巻く事業環境の急速な変化があります。収益構造の複雑化や、システム開発プロジェクトの高難易度化に伴い、経験や勘に依存した従来型のプロジェクトマネジメントでは対応が困難になってきているのです。
そして、データドリブン経営の意義は、高度な経営判断支援や業務の属人化抑止のみならず、Try&Errorを通じて常に学習を積み重ねながら柔軟に軌道修正を行い、マネジメント手法を進化・発展させ続ける事にあります。
これまでNTTデータが進めてきた経営へのデータ活用には以下があります。

(1)事業計画値の年間着地精度向上
営業パイプライン情報や実績情報をインプットとして多変量解析や金融工学的アプローチ(Monte Carlo Simulation等)による年間着地予測モデルを構築・運用

(2)不採算化プロジェクトの早期発見
時系列での不採算化兆候パターンを機械学習(Decision TreeとDeep Learningを併用)により抽出&検知ルール化。進行中プロジェクトの全件スクリーニングに活用

(3)ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)高度化による内部統制強化
GRCソフトウェアの導入や機械学習を用いた過去の不正手口の抽出&検知ルール化により業務監査(CAAT)の全件モニタリングに活用

2.人事領域にもデータ活用を ~People Analyticsの導入~

更なる挑戦として、人事領域でデジタルを活用したタレントマネジメントの強化を目指すGAIA.hrプロジェクトでは、経営管理領域で培ってきた高度データ分析ノウハウをもとに、People Analyticsの取り組みに着手しました。

人事領域には、社員一人ひとりの採用、配置、育成、評価、昇進、退職といった一連のプロセスで発生する情報に加え、日常的な労務管理、ヘルスケア&安全衛生管理、モチベーション管理、ひいては社員間コミュニケーション等の多種多様なデータが蓄積されています。人事領域はまさにデータの宝庫です。以下は、Project GAIAシリーズ第五回の記事でお伝えした、タレントマネジメント強化の4つの観点です。

  • 本人の成長に資する業務アサイン、配置
  • 価値最大化のためのチーム組成
  • 事業計画達成に向けた要員計画の実現
  • 自律的なキャリア形成に向けた環境づくり

これらの実現に向け、中期的な事業戦略を踏まえた人事業務の重要課題をPeople Analyticsにおける分析テーマとして選定し、優先度を付けて取り組みを進めています。

主なPeople Analyticsの分析テーマとして、「リテンション」、「経営人財の早期育成」、「女性活躍促進」、「デジタル人財育成」、「グローバル人財育成」等があげられますが、今回は具体的な分析例として、「リテンション」について紹介したいと思います。

人財を最も重要な経営資産と考えるNTTデータにとって、辞職者を減らし、リテンションを図ることは重要課題です。さまざまな辞職理由の中でも、特に重視したのは、当社でいきいきと活躍できる場があったにもかかわらず、ミスマッチにより辞職を選択するに至ったというケースです。社員一人ひとりの力を最大限発揮し、会社としてのパフォーマンスを高めていくには、このようなミスマッチによる辞職は少しでも減らしていくことが望ましいと考えます。人事領域に蓄積されている膨大なデータを活用してこれを実現するために、私たちは以下のプロセスを進めることで、社員のリテンションの取り組みを進めています。

(1)仮説を立てる
まず、実際の辞職者に関する情報を見ながら、有識者の観察力と洞察力を総動員して辞職者に関する仮説を洗い出します。辞職者がなぜ辞めるのか=「要因仮説」と、辞職者がとりがちな行動=「行動仮説」に分類して約50種類の仮説を立てています。

仮説立案は分析プロジェクトにおける最重要フェーズであり、その品質が成否を分けると言っても過言ではありません。仮説がないまま分析に着手してしまうと、仮に辞職者の人事データに一定の相関性を発見したとしても、その因果関係が分からず、対策の立案に繋がらない可能性があります。場合によっては“見せかけの相関性”によって、誤った対策を立ててしまう可能性まであります。

また、現存する人事データに限定して仮説立案すると、本質的な要因を見落とす危険性があることにも留意しなければなりません。例えば職場の人間関係が辞職に大きく影響している場合に、現存データからは「感情」が発見しづらいといったことがあるためです。そのため、私たちは仮説立案を行う際には現存データにとらわれずに仮説を洗い出し、それに対してどのデータで検証するかを紐づけていきました。

(2)辞職率に影響を与える要因を洗い出す
次に仮説に基づいて、辞職に影響を与える要因(例:人事属性、異動希望、職場の人間関係、業務適正度等)を抽出しました。そしてその中から、人事情報から取得可能なデータを選定し、辞職率との関係性を検証しました。

その際、それぞれの数値を“点”で捉えるだけではなく、“業務適正度の悪化”といった、時系列での変化に着目することも重要です。また、人事属性には性別、所属組織、職務階級、職種等の基本的な項目が含まれています。これを分析の際の切り口として組み合わせて活用することで“辞職率の高い社員層”といったカテゴリーを特定することができます。

(3)“重要な要因”を機械学習で特定する
人事情報と辞職率との関連を見ていくと、辞職に影響を与えていると思われる要因は多岐にわたりました。さらにそれら同士の組み合わせを見ていくとなると、その数は膨大なものになります。

そこで、特に辞職率に強い影響を与える要因もしくはその組み合わせを特定するため、GBDT(Gradient Boosting Decision Tree)という機械学習手法を採用しました。
この手法はKaggle(カグル)と呼ばれるデータ分析の腕自慢が集う国際的なコミュニティでも利用されており、非常に高い精度で重要度が高い要因を特定することが可能です。

ここで特定された辞職率に強い影響を与えている要因を元に、辞職抑止に向けた施策を立案していくのですが、ここで大きな課題となるのが分析の精度です。
効果的な施策を実行していくためには、分析精度の向上が不可欠です。そのためには、最初に洗い出した仮説を検証するに足りる十分なデータを新たに収集し、それらを組み合わせた検証を繰り返し行うことが必要となります。これには、これまで取得していなかったデータを新たに取得できるよう、システム・制度・運用等で随時改善を図っていくことが重要です。精度の高い分析ができれば、辞職可能性の高い社員を察知し、面談等を通じた個別ケアや配置換え等の適切な対策を取ることが期待できます。

3.今後に向けて

People Analyticsを発展させていくためには、個人情報を含むプライバシーの十分な保護と、データの利用手続きや管理を厳格に運用することが重要な前提条件となります。
そしてさらに、データ活用によって生み出される価値を、継続的に経営陣や社員に伝え、理解してもらうことも必要不可欠です。

GAIA.hrプロジェクトのメンバーは、科学的な人財マネジメントと社員の自律的なキャリア形成の実現に向けて、常に「新しいこれからの人事情報基盤」の姿を想い描きながらプロジェクトに取り組んでいます。

4.今後の連載について

次回の第7回では、「NTTデータ自身の変革」シリーズの総括と今後の事業展開について、「Enterprise DX」と称してお届けします。

- NTTデータは、「これから」を描き、その実現に向け進み続けます -
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