1.DXの成否は人材育成に懸かっている
昨今、お客様のニーズが多様化・高度化する中で企業が競争優位性を高めるには、予測不可能な変化に対応するための柔軟性や瞬発力が必要とされます。さらに、あらゆる産業において、新たなデジタル技術を活用した従来に無いビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起こりつつあります。
こうした外部環境の変化に対応するためには、デジタル技術の活用を前提とした変革、すなわちDXを迅速に推進することが求められます。DX推進においては新たな価値創出を目指すと同時に、既存ビジネスのあり方を継続的に見直すことが求められるため、社内における人材育成を避けては通れません。またDX推進における人材育成では、従来の基幹システムおよびツールの画一的な習熟ではなく、デジタル技術をビジネスに活用し変革を推進するためのスキル習得に焦点を当てる必要があります。
また内閣府の報告書(※1)によれば、積極的な人材育成投資は労働生産性の向上に寄与すると示唆されています。特にAI等の新技術への取り組みを行っている企業においては人材育成投資が積極的に実施されており、人材育成投資の多寡が労働生産性に影響すると考えられます。そのため、DX推進においてはシステムやツールへの投資だけではなく、人材への投資が重要となります。
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)『企業による人的資本投資の特徴と効果』
2.企業の取り組み事例から見える課題と対応案
しかしながら、単に人材育成投資を増やせば良いということではありません。社内DX人材の育成に関して大きな課題感を抱える企業が非常に多いのが実情です。今回は成果創出に導く人材育成に係る7つの課題とその対応案をそれぞれ紹介します。
図1:企業の取り組み事例から見える7つの課題
(1)育成指針の未整備
まずは「受講者の目指すべき人材像やキャリアパスを定義していない」という課題が挙げられます。例えば企業が求める人材像を受講者に明示しておらず、受講者は自身のキャリアパスを描けないまま研修を受講している場合があります。企業はビジネスの変革や新たな価値創出を引き起こすためのデジタル技術を取り入れる必要があります。同時に企業はそういったDX推進の背景や課題、目的とともに、従業員への期待値を明示しなくてはなりません。従業員が自身の将来像を意識しつつ、モチベーションを高く維持した状態で研修に臨める環境が不可欠です。
(2)研修自体の目的化
人材像を定義する一方で、「受講そのものが目的となっており、学びを実業務に応用する意思が受講者側に無い」と、研修の意味がありません。例えば研修が昇進・昇給の要件となっている等、従業員にとって研修の受講が目的化してしまい、研修を実業務に活用するというマインドが醸成されていないことがあります。この場合、研修を受講する前に上長が目的や目標を擦り合わせ、研修後に目標の達成度合を確認する必要があります。研修に対する受講者の意識を高め、研修の効果を最大化することが重要です。
(3)学習効果の逓減
さらに、「時間の経過とともに研修での学びが欠落する」受講者が散見されます。例えば研修受講者に対するフォローアップが全く用意されておらず、集合研修を受講した数週間後には研修での学びを忘れてしまうことがあります。この場合、研修前の目標設定や研修後のフィードバック等を用意し、受講者の行動変容を後押しする必要があります。単に集合研修を開催して終わりにするのではなく、研修での学びを実業務に適用できるよう、フォローアップすることが大切です。
(4)実践機会の欠如
研修で適切な知識を得られたとしても、「研修で得た学びを活用できる業務機会が無い」ことは珍しくありません。例えば所属部署の業務改革を目的として研修に臨んだものの、所属部署では学んだ新技術を活用する機会が用意されておらず、研修後も従来の業務に携わっていることがあります。研修での学びを実践可能な変革テーマに受講者をアサインする等、業務機会を提供することが必要です。
(5)相談相手の不在
加えて、「研修での学びを実業務に適用する際、相談相手が社内にいない」と、適切かつ素早く課題に対処できない可能性があります。特に外部講師を招聘して研修を受講する場合、研修後の実業務に課題が生じる頃には相談相手は社内にいません。この場合、研修後のフォローアップを目的として、外部人材を始めとする有識者にいつでもコンタクト可能な環境を整備する必要があります。有識者への相談を通じて研修での学びをスムーズに実業務へと応用し、定着させることが重要です。
(6)新規取り組みの阻害
研修および研修前後のフォローアップのみに尽力しても、「業務プロセスに係る既存ルールが新技術活用などの取り組みを阻害している」と、成果創出には繋がりません。例えばデータ活用による製品開発では、求める特性を有する製品を生むためAIにより設計パターンを網羅的にシミュレーションすることが考えられます。しかし、試作段階へ進むには実験による検証を重ねる必要があるという業務上のルールがある場合、研修でAIについて学んだとしても現場の上長から許可が下りず、実業務で活用することは出来ません。この場合、経営層や現場の意思決定層に対して業務変革に対する理解を得ることを前提として、既存ルールを見直すことも必要になります。
(7)マインドの同質化
成果創出の観点から、「研修により学びを得ることができたが、所属部署に戻ると周囲と似たような意見や考えしか出てこない」という課題も挙げられます。例えばDX推進に必要なマインドや最先端のデジタル技術に関してキャッチアップしたとしても、所属部署に持ち帰り意見交換するうちに、発想が縮小してしまうことがあります。この場合、異なる視点や変革の意志を持つ者同士による意見交換の場を用意する必要があります。社外人材等、普段とは異なるグループとの交流により、大胆な変革の発想を生むためのマインドを醸成することも重要です。
3.DX推進を担う人材育成のポイント
以上7つの課題を踏まえ、DX推進を担う人材育成のポイントは2つ考えられます。
- DX推進戦略に即した人材/組織戦略を策定し、育成施策と連動させる
DX推進のためには、「デジタル技術の活用を前提とした戦略」「データ活用を支えるシステム基盤」「可視化・分析のためのデータ整備」「デジタル技術を活用する人材」をバランス良く成熟させる必要があります。全体のDX推進戦略に即した人材/組織戦略を定義、それに紐づく形で人材育成計画を策定し、戦略と連動した施策を実行することが重要です。 - 一過性ではなく継続的に学ぶ場を提供し、実践する中で定着させる
適切な人材・組織を定義・構築したとしても、効果の薄い育成手法を採用していてはDX推進に繋がりません。従業員に対して一過性の学びではなく、研修と実践を計画的に繰り返すプログラムを提供し、実務レベルで企業のDX推進を主導できる人材を育成することが重要です。
4.デジタルサクセスを実現する人材育成の取り組み
NTTデータでは「人材・組織の定義・構築」に関して、企業のデータ活用の成熟度とニーズに応じて適切なコンサルテーションや研修を実施する「DX・AI人財育成/組織化サービス」(※2)を提供しています。本サービスではデータ活用を推進する人材・組織の整備に関するサービスを体系化し、お客様の成熟度やデジタル化ニーズに対応したコンサルティングメニューやセミナー、ワークショップを提供します。加えてDXセミナーも用意しており、「これからデジタル化を進める」「思うようにデジタル化を進められていない」企業においても、DX推進役のマネージャー層の育成からスタートすることができます。
また「継続的に学ぶ場の提供」に関しては、デジタル活用と事業変革を学び考える共育・共創の場「デジタルサクセス®・アカデミー」を提供します。(※3)本サービスでは実践形式のDX人財育成プログラムを用意しており、実際のDXテーマに取り組みながら「研修受講・職場実践・実践課題の検討」を繰り返すことで、確実なスキルアップを図りつつDXを推進することが可能です。さらに複数企業からDX推進を担う多様な人材が集まるため、企業間の交流促進や業際ビジネスの拡大も期待できます。これらのサービスを適用することにより、前述した課題を包括的に解消することが可能となります。
図2:「デジタルサクセス®・アカデミー」の全体像
NTTデータでは、お客様の人材育成を中長期的にご支援することにより、お客様とNTTデータの継続的な発展・成長を実現します。
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2020/043000/