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広域化、激甚化、頻発化する災害に、防災システムが追いついていない
世界が直面する気候変動の原因は諸説ありますが、ここ数十年を振り返ると、風水害が頻発化、広域化していることは事実です。長期的な雨量の増加にともない、土砂災害の発生回数も近年増加傾向にあります。国土交通省によれば、過去最多の3,459件を記録した2018年を始め、ここ5年間連続して、土砂災害発生件数は過去の平均を超えています。(※1)
また、東日本大震災では津波の影響も加わり、現代社会における様々な課題が広域に発生することが明らかになりました。加えて、2022年1月の文部科学省の発表では、地震発生の周期から、今後40年以内に南海トラフを震源地とする巨大地震の発生確率が「90%程度」に引き上げられるなど、近い将来の大規模な災害発生の可能性が指摘されています。
広域化、激甚化、頻発化する災害に対して、どのような対策をしていくべきなのか。NTTデータグループは、これまで各自治体に向けて、災害対応業務を効率化するための災害情報システムを提供してきました。また災害が起こる前の予測に関しても、IoTデバイスなどのセンサー類を活用したソリューションを開発しています。もちろん、私たち以外にも多くの企業がそれぞれ最適と考える対策を提案し、日本中に“個別最適”な災害対策システムが構築されてきました。
結果として、自治体によってデータ収集の管理項目やインターフェイスが異なっているのが現状です。発災後の警報や注意報といったアクションも、隣接する自治体同士で統一されていません。災害自体は規模が大きく、広域化しているのに、それに対応するための情報やシステムは分断されている。このままでは、住民の生命も、財産も守れる範囲が限られてしまう。これが、今の日本の災害対策における大きな問題です。
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1115000.html
限られた人的リソースで、自然災害と社会の混乱に立ち向かう未来の防災へ
さらに、日本の高齢化率は先進諸国の中でも最も高い水準を維持しています。厚生労働省によると、2030年には約3人に1人が高齢者となる時代がやってきます。核家族化の影響で、頼りにできる存在が身近にいない人も増加し、災害発生時、一人ひとりが自分自身や家族の身を守ることが難しくなっているのです。また、地方の財政状況等を起因とする公務員数の減少などが追い打ちをかけ、これまで日本の防災現場を支えてきた、自助・共助・公助の源泉となる人的資源の脆弱化が懸念されています。
これから求められるのは、限られた人的リソースで、自然災害と社会の混乱に立ち向かう防災です。それは、人と人、技術と人が情報でつながり、高度に連携するシステムによって成り立つと考えています。
自治体ごとに個別最適化されてしまった災害対策のシステムを、いかに全体最適化していくか。官民の壁や団体の特性に縛られずに、プレーヤーを横断的に組み合わせ、チームとして対応していく環境づくりこそ、私たちNTTデータのミッションだと考えています。自治体同士、または自治体と関連する企業が、情報をスピーディかつ正確に共有しながら対応すれば、発災時の避難や復旧活動も効率化され、さらに多くの生命と財産を守ることができます。
図1:災害の広域・甚大化等により求められる対応
災害対応力の高いハイレジリエント社会の実現に向けて今、私たちがもっとも重点的に取り組んでいるのが、ドローンや人工衛星、各種センサーによる情報収集の「即時性」と「正確性」の高度化です。人が現地で災害状況を確認するのに比べ、ドローンや人工衛星の活用でより広域なデータを即時に収集できます。ドローンに関しては、搭載するカメラや画像の解析技術をAI専門の企業と組んで開発しています。複数のドローンを同時に自律飛行でコントロールしていく管制技術はNTTデータが持っているため、各社の強みを組み合わせながら技術の進化に挑んでいます。また人工衛星に関しても、光学式の画像やレーダーによるデータの取得、リモートセンシングなど、日進月歩の技術をベンチャー企業とも協力しながら磨いています。さらに、地上のデータ収集においては、河川の水位を計るセンサー、道路や河川に設置したCCTVカメラの活用など、上空から地上まで、あらゆるフェーズにおけるデータ収集の高度化に取り組んでいるところです。
次のステップとなるのは、センサー等で収集した情報を、ひとつのプラットフォーム上で流通させること。それによって、自治体、企業、地域コミュニティ、個人、ボランティアセンターなど、社会全体が災害対応や避難等に必要な情報を即時に入手できるようになります。さらにはAIによる分析を通じて、災害対策業務や救援の計画づくりも省人化、スピード化していくことができます。これにより、市の出先機関や住民などの災害対応力も飛躍的に向上させられると考えています。
その後の復興のステップにおいて鍵を握るのは、パーソナライズ化です。普段は自治体、保険会社、医療機関等でそれぞれ厳重に管理している個人の情報を、災害時には災害対策本部と連携することで、被災された方が避難所に来た際に、必要な常備薬は何なのか、家族構成はどうなっているのか、地震保険の支払いのために必要な証明書は何かがすぐにわかり、スムーズなサポートができる。それによって、核家族化が進む中でも、一人ひとりの生命、財産を守る確度を高めていきます。
最終的には、発災前のプロアクティブな防災も実現させていかなくてはいけません。AIによるシミュレーション、予測技術の進化を通じて、今いる場所や避難経路上の危険性を伝え、避難のタイミングや経路誘導など予防につながるアクションを後押しし、人的被害の最小化に貢献できると考えています。
世の中にある防災のあらゆるデータを統合する情報連携プラットフォーム
このようなハイレジリエンスな防災を実現するにあたり、NTTデータのコアとなるプラットフォームサービスが「D-Resilio」(※2)です。このサービスのポリシーは、すべてのプラットフォームを自前で構築するのではなく、オープンなAPIやデータインターフェースにおいて、既に世の中にあるいろいろな機関とデータを交換し合う環境をつくっていくことにあります。災害情報のデータ、気象に係るデータ、地形に係るデータなど、防災の分野にはあらゆるデータを扱う研究所や機関があり、それぞれに個別最適化されたプラットフォームが無数に存在しています。D-Resilioという情報連携プラットフォームへ、多くの機関にどんどん参加していただけるようになることが、私たちの最重要テーマになっています。
図2:デジタル防災プラットフォーム「D-Resilio」
もちろん、世の中の機関との連携だけでなく、すでにNTTデータでも未来の防災レジリエンスに向けて、独自のサービスを開発しています。そのひとつである「AW3D災害情報提供サービス」は、衛星による全地球の光学式の画像データを持ち、災害が起きた時には画像のビフォーアフターの差分から、災害の範囲の概観をつかむことができるサービスです。被害状況を広い範囲で把握できるため、インフラ企業や自治体のお客様にご利用いただいています。また宇宙利用産業そのものが活性化している今、より詳細な画像取得、迅速なデリバリーを実現させるべく、衛星リソースのさらなる充実化に取り組んでいます。
また「災害時エリアモニタリング自動化ドローン」は、自律飛行ドローンによる被災地域の撮影とAIによる映像分析によって、最低限の人的負担で被災状況が把握できるサービスです。例えば、インフラ管理に携わる方々は災害時、自動車で現地へ駆けつけて、目視で設備を点検することも多いのですが、1人で見られる設備量がオーバーしていることも少なくありません。田園都市構想や防災DXといったキーワードが注目を集める中、私たちもドローンによる災害対応サービスの強化を進めています。
さらに「気象災害リスクモニタリングシステム HalexForesight!」は、気象庁発表の情報を活用し、いつどこで、どのような現象が発生し、今後発達していくのかを的確に把握するサービスです。気象庁から発表される情報を直ちに「気象災害リスク」へ変換し、時系列グラフや地図上に可視化します。気象災害となり得る現象に対して、設定した基準値を超えた際に、関係者へアラートメールを通知。防災担当者の意思決定を支援することで、気象災害による被害の最小化につながります。
NTTデータには、未来の防災レジリエンスを実現する責任がある
個人的なお話になってしまいますが、私はこれまで官公庁に対する政策課題解決に向けたシステム構築に長く携わってきました。例えば、国土交通省が対応する政策課題や所管の分野は、交通や物流といった、日本経済のインフラ基盤になります。また、防衛省に対しては、今どこで何が起きているのか、安全保障に関わるあらゆる情報を集約して、状況を見える化することで意思決定、アクションをサポートしてきました。このように、国単位で危機管理のマネジメントを支えるシステムを担当してきた経験は、今こそ日本が強化しなくてはならない防災においてこそ、効果的に活かすことができると考えています。
また、国民の生命や財産を災害から守るためには、NTTデータグループの強みである、国、自治体、金融機関、民間企業をつなぐ力が活かせると思っています。衛星などの宇宙から道路や河川といった地上のセンサーまで、あらゆるところにITが提供される中、多様なデバイスから集めたデータを連携させる環境を構築することも、私たちNTTデータグループであるからこそ思い描ける未来像です。日本中、広域にインフラを持ち、システムを提供し、それらをつないでいくためのIoTデバイスに対しても広く深い知見を持っている。これまで培ってきた歴史と、蓄積された独自のノウハウがある私たちには、未来の防災レジリエンスを構築する責任があるのです。
このように多様なプレーヤーと技術を組み合わせながら、災害対応を考えることは結局、どうすれば人々の生命と財産を守れるかに尽きます。私たちは、あらゆるシステムとデータが連携することで、すべての人へ今必要としている情報を、より利用しやすい形で届けることができると信じています。デジタル防災プラットフォームD-Resilioも、さらなる進化を続けていきますので、ぜひ多くの防災関連の担当者の方々に参加いただき、未来の防災を一緒に実現したいと思っています。
関連リンク
NTTデータが考える未来の防災・レジリエンスに関するレポートを掲載しています。
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/resilience/