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2023.10.6業界トレンド/展望

NTT DATAが挑むスマートスポーツ ~メタバースで生み出す新しいスポーツ体験~

田治輝はSMARTビジネス推進部のスポーツ・メディア・エンターテインメント担当として、多くのスポーツファンの心へのアプローチを続けている。メタバースを活用してこれまでにない体験を届けるため、お客さまやパートナーとともに世界中で未知のコンテンツを生み出す挑戦を進めている。ChatGPTを活用し、FIBAバスケットボールワールドカップのフィリピン会場でも注目を集めたデジタルヒューマンをはじめ、数々の種目に取り組むスマートスポーツの事業について、話を聞いた。
目次

スポーツファンの新たな楽しみを生み出す

NTTグループとその一員であるNTT DATAは、世界中で多くのリーグや団体にスポンサーや協賛という形でスポーツに関わっていますが、スマートスポーツの取り組みはもちろん、ロゴを掲出してイメージアップを図るだけではありません。人の心を動かすスポーツにおいて、いかに新たな体験を生み出し、ビジネスを変革していくことができるか。多くのスポーツ団体や関連企業のパートナーとして、スポーツの価値創造に挑んでいます。

例えば、フォーミュラカーのレースとして北米最高峰の「インディカー」においては、“メディアウォール”と呼ばれる大型スクリーンを会場に設置してレースに詳しくない新規ファンでも楽しめる情報を提示したり、若い世代のファン獲得に向けてハイライトをSNSにアップロードしたりするなど、毎年新しい仕掛けでアプローチしています。

メディアウォールの映像を楽しむファン

メディアウォールの映像を楽しむファン

また「ツール・ド・フランス」でも、ファンの新しい楽しみ方にフォーカスして体験を創造しています。山岳地帯など観客席のないコースでのレースを、現実世界のデータを用いて3D映像にしてデジタル世界に投影し、デジタル化されたイベントとして実現しました。

他にも、MLBでは広大なアメリカ大陸の中でスタジアムに足を運びづらいファン向けに、4Kカメラで撮影した5つの映像を合成してリモートでもスタジアムにいるような臨場感を味わえるソリューションを、NTTのR&D技術を活用して実現しました。

ここで挙げた3つの事例には、共通点があります。それは、データ分析技術を活用することで、ファンに興味を持ってもらえるコンテンツをいかに生み出すか、お客さまと協議を積み重ねて取り組んでいることです。データ分析のスポーツへの活用という意味では、例えばレースチームの競技力向上を目的として専門的なデータを取り扱うといった取り組みもありますが、一般のファンに楽しんでもらうためのコンテンツという視点で考えると、専門性の高いデータをそのまま提供しても成立しません。“データ分析”という先端技術に、“ファンの楽しみ方”というお客さまの知見が組み合わさることではじめて、スポーツの新たな楽しみ方へと昇華させることができると考えています。

このような取り組みは、種目や団体の課題にフォーカスして進めていくものですが、結果として生み出したコンテンツは他の種目や団体へと横展開しビジネスとしての拡大を図ることも、常に念頭に置いています。

スポーツとメタバースの相乗効果

昨今のスポーツビジネスには、スポンサーやコンテンツの権利の問題もあり、リアルな世界の中で飛躍的に新しい価値を提供することが難しくなってきている状況があります。そんな中で、NTT DATAが今スマートスポーツに取り組む上で重視しているのは、メタバースで新しいスポーツ体験を生み出すことです。
例えば、先ほど事例にも挙げた「ツール・ド・フランス」では、現実世界のデータを収集し、デジタル上で双子のように世界を再現する「デジタルツイン」を作成し、レースのシミュレーションに活用しています。これをシミュレーションの場とするだけでなく、ファンがこのデジタルツインの世界を訪れることができれば、新しい体験を生み出すことができるはずです。
これはあくまで一例ですが、メタバースでのコンテンツ創出に向けて、NTTグループ内に限らずサードパーティも含め、世界中で生み出される最新技術の活用を検討しながら幅広いアイデアの実現方法を模索しているところです。

メタバースは今、金融や工場といった分野での活用も進んでいますが、これからメタバース自体をさらに世の中へ浸透させていくことを考えた時、スポーツでメタバースを活用する意義は大きなものになっていくはずです。というのも、ある技術が世の中で広がっていく時には、一般のユーザー、多くの消費者が受け入れるかどうかが重要だと考えているからです。人間の根幹にある“心”を動かすことができるスポーツにITの技術を加えることで、メタバースという市場そのものも拡大させることができるかもしれない。スマートスポーツは、ビジネスにおいて新たなマーケットを成立させる可能性もある領域であると考えると、やりがいもますます大きくなります。

2023年7月にロイヤルリバプールで開催された第151回全英オープンでも、デジタルツインが導入され会場が再現された。

2023年7月にロイヤルリバプールで開催された第151回全英オープンでも、デジタルツインが導入され会場が再現された。

企業が知っておくべきデジタルツイン導入時の課題とは~全英オープンゴルフの事例からひも解く~
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/0712/

体験をより楽しく、感動をより大きくするデジタルヒューマン ~FIBAでの活用事例~

スマートスポーツにおいてメタバースの活用を広げていきたいという思いから、今まさに注力しているのがデジタルヒューマンの技術です。

メタバースで新しい経験をするにあたり、ユーザーは何かしらの情報がなくては行動をはじめられませんし、そもそもバーチャル空間に入るためのモチベーションも必要です。そこでガイド役となるデジタルヒューマンは、単純に情報提供する3Dアバターという存在にとどまらず、バーチャル空間での経験をおもしろくしたり、感動をサポートしたりする相棒のような存在に進化しなくてはいけません。そのため、外見や会話のレベル、感情表現などあらゆる面で「人間らしさ」をレベルアップさせることがデジタルヒューマンにおける技術的なテーマになっています。

私たちが開発し、FIBAバスケットボールワールドカップのフィリピン会場で採用された「Pearl」は、メタバースではなく会場に設置されたモニターへの搭載という形ですが、AIと人間のコミュニケーションの可能性を広げるデジタルヒューマンとして現地でも高い評価を受けました。

FIBAバスケットボールワールドカップのフィリピン会場に設置されたPearl

FIBAバスケットボールワールドカップのフィリピン会場に設置されたPearl

ユーザーが話しかけた音声をAIが受け取り、ユーザーを分析し、テキスト化して多言語モデルに組み込み、外部のデータベースに連携するなど、とても複雑なプロセスによって開発されるデジタルヒューマン。AIひとつとっても、万能なものがあるわけではなく、目的や要件に応じて新たな技術を導入しなくてはいけません。

また、そのような開発プロセスの前に、そもそもどのようなパーソナリティを備えたデジタルヒューマンであるべきかというコンセプト設計も重要です。Pearlの開発においてもお客さまと協議を重ね「フィリピンで愛されるキャラクター」をコンセプトに若い女性をモデルとして開発しています。外見も誰かのスキャンではなく、理想の人物をゼロからつくりあげています。会話も流暢で表情も豊かに、人間らしさを高いレベルで表現しましたし、現地語であるタガログ語を話せるようにしたことで親近感を抱いていただくことができました。

Pearlとのコミュニケーションを楽しむ人々

Pearlとのコミュニケーションを楽しむ人々

ユーザーとのコミュニケーションにおいては、ChatGPTの活用が新たな挑戦となり、ChatGPTの弱点である“回答の妥当性”を担保することが大きなハードルとなりました。ChatGPTは会話の文脈、倫理面の理解が苦手で、各国で言ってはいけない言葉や話題にすべきことではないことを話してしまうリスクがあります。言ってはいけない内容はChatGPTから回答させない、前の会話の流れを記憶させた上で次の質問に回答させるなど、“回答の妥当性”を担保するため、試行錯誤をくりかえしてChatGPTをカスタマイズしていきました。

このような“回答の妥当性”を担保するには、ユーザーの感情を理解することも重要になります。定性的な情報が多い感情は分析が難しい分野ですが、NTTグループのR&Dでは、感情を定量化する研究も進んでいます。今後は、ユーザーへの回答において、感情を定量化したデータを活用しながら、“回答の妥当性”をさらに高める取り組みも検討しています。

全英オープンゴルフでも導入!顧客体験を変えるデジタルヒューマンの「おもてなし」とは
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/0711/

FIBAバスケットボールワールドカップのフィリピン会場

FIBAバスケットボールワールドカップのフィリピン会場

想像を超えるエンタメの形を、スポーツから

NTT DATAのスマートスポーツの取り組みにおいて、今フォーカスしているのはメタバースです。またメタバースの体験を向上させる方法として、デジタルヒューマンの技術向上にも力を入れています。しかし、本質的なゴールはあくまで、デジタルの力で新しいスポーツの価値を創造することであって、メタバースがすべてだとは考えていません。NTT DATAだけでも、NTTグループだけでもなく、世界中のお客さまやパートナーと力を合わせ、ファンの声に耳を傾けることで、私たちだけでは想像もできなかったような体験を生み出していきたいと思っています。
20年前、これほど多くの人がスマホでゲームを楽しむようになるとは想像することができませんでした。10年後には、今では誰も考えつかないようなエンタメの形が生まれていることでしょう。それをスポーツの分野で、NTT DATAから実現することが個人的な野望です。

世界中の仲間たちとともに

世界中の仲間たちとともに

FIBA Basketball World Cup 2023のフィリピン会場でデジタルヒューマンを使ったファン体験を提供:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/082500/

NTTグループが、北米最高峰のモーターレース「インディカー・シリーズ」の冠スポンサーを継続:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/032800/

協賛・文化活動はこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/socialactivity/

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