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2023.7.12業界トレンド/展望

企業が知っておくべきデジタルツイン導入時の課題とは~全英オープンゴルフの事例からひも解く~

NTTデータがスポンサーを務める全英オープンゴルフ。NTTデータは昨年からデジタルツインを導入しており、今年もShotViewを提供する。デジタルツインは様々な業界で導入に向けた動きが活発化してきている一方で、その有効活用にはいくつかの課題がある。そこで今回、NTTデータの技術開発本部イノベーションセンタ課長の大井にインタビューを実施。デジタルツイン開発のポイントや企業が直面している課題について、全英オープンの事例を交えながら解説する。
目次

今年も全英オープンが開幕! 日本人選手の活躍にも注目

2023年7月、第151回全英オープンゴルフが開幕する。今回の舞台はイングランド中西部にある名門中の名門コース「ロイヤルリバプールGC」、通称ホイレーク。今大会への出場資格を有している日本人選手は、NTTデータがサポートする松山英樹をはじめ、蟬川泰果、岩田寛、平田憲聖、安森一貴、中島啓太、金谷拓実、比嘉一貴、星野陸也の9名。若手選手からベテランまでが揃い、その活躍が期待される。

名門コース「ロイヤルリバプールGC」、通称ホイレーク

名門コース「ロイヤルリバプールGC」、通称ホイレーク

各選手のプレーはもちろん、NTTデータが2022年からデジタルツインを導入していることも見どころの1つだ。大会期間中4日間の全選手のボールポジショニングデータをリアルタイムでマップ上にプロット。そのデータをShotViewとLeaderboardに組み込んでいる。会場にいるゴルフファンだけでなく、会場外からでも全英オープンをインタラクティブに楽しむことができるという、新しいゴルフ観戦の体験を生み出している。

NTTデータが設置する「NTT DATA Wall」。ShotViewを見ることができる。

NTTデータが設置する「NTT DATA Wall」。ShotViewを見ることができる。

NTTデータが提供するShotView(英語サイト)。7月20日の第151回全英オープン開幕後、選手のショットデータが閲覧できます。
https://www.theopen.com/shotview

デジタルツイン開発で失敗しないために抑えておきたい3つのステップ

デジタルツインはこうしたスポーツ産業だけではなく、さまざまな業界の企業で活用が進んでいる。そもそもデジタルツインにはどんな価値があるのか、その点について、NTTデータの技術開発本部イノベーションセンタ課長の大井はこう説明する。

「デジタルツインのそもそものコンセプトは、現実世界における実体やシステムをデジタルな環境に移し、完全なレプリカを生成、その上でシミュレーションをしたり、最適解を導き出したりするところに、価値を見出すというものです。」

製造業の例としては、生産ラインの自動化機器導入効果の推定や作業動線などの確認、導入後のスケジューリング最適化などが生み出す価値として考えられる。不動産業では、データを用いたエリアごとのマーケット特性を踏まえた上での都市設計やテナント呼込計画の策定などになるだろう。

NTTデータは、デジタルツインの開発に3つのステップ「(1)Modeling(モデル分析)」「(2)Visualization(デジタルツインシステム構築)」「(3)Simulate/Optimize(シミュレーション/最適化)」が必要であると考えている。

デジタルツイン開発における3ステップ

デジタルツイン開発における3ステップ

「デジタルツインに興味関心を持って、弊社にお問い合わせをいただく企業は増えています。しかし、お客様の中で、デジタルツインでどんな価値を生み出すのかという重要な点が明確になっていないケースもあります。そこで私たちは開発工程を3つのステップに分けてご説明することで、まずそれらをお客様と共有し、一つひとつステップをクリアしながら導入を進めています」

ここからは、この3つのステップについて、全英オープンの事例を交えながら説明する。

NTTデータのデジタルツイン技術についてはこちら
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/digital-twin/

第1ステップ:Modeling(モデル分析)

Modelingは、現実世界の環境をデジタル上で再現するための作業をする工程だ。フォトグラメトリやセンサ、AIといったツールを用いることで、実体そのままを3Dで表現する。

「完全なレプリカをつくるためには目に見える3Dモデルだけではなく、現実世界の気温や、設備の状況など、さまざまなデータもデジタルの世界に取り込む必要があり、かなり複合的なモデリングが必要です。そのためIoTシステムなどデータ取得の環境が整っているとベターです」(大井)

対象を再現するために必要なデータをいかに集め、整理するかがポイントとなるだろう。

全英オープンの事例では、ゴルフコースのモデル化がこのステップに該当する。昨年の舞台だったセントアンドリュースのオールドコースでは、ドローンで測量した約6cm精度のデータにオルソ画像を重ね合わせることで、リアルな3Dマッピングモデルが作成された。より精度が求められるグリーンに関しては、より高精度(2cm)のLiDARマッピングも使われている。

第2ステップ:Visualization(デジタルツインシステム構築)

Visualizationは、直訳すれば可視化だが、第1ステップで生成した3Dモデルをデジタルツインシステムとして運用できる状態にする工程だ。

3Dモデルを扱う専門ツールはAutodesk やBlender、Unreal Engineなど様々ある。一方で企業の現場担当者がこれらすべてに習熟することは難しい。そこで重要な役割を果たすのが3Dモデルを一元的に扱えるデジタルツインプラットフォームだ。

「デジタルツインプラットフォームがあれば、モデリングしたものを一元的に扱うことができます。次のステップのシミュレーションにも関わってくるのですが、さまざまな専門ツールをつないで、プラットフォーム上でそれらを可視化し、より多くの人に共有できるところに価値があると考えています」(大井)

現在デジタルツインの有力なプラットフォームの1つとされているのが、NVIDIA Omniverseだ。デジタル上で3Dデザインモデルをリアルタイムに共有・閲覧・編集することができ、シームレスな共同作業とパフォーマンス強化を実現できる。NTTデータもグローバルにおいてNVIDIA Omniverseの提供実績がある。

全英オープンでは選手のデータをスマホからも確認できる

全英オープンでは選手のデータをスマホからも確認できる

全英オープンの事例では、ニアリアルタイムですべてのボールのポジショニングデータがデジタルツインプラットフォーム上にプロットされている。これにより、ShotViewとLeaderboardを通じて、現実世界を忠実に再現した映像を届けることができている。ShotViewにより、例えばゴルフ記者が現地で全コースに足を運ぶ必要がなくなるなど人々の行動を変容につながっている。こうした価値を生み出すためにも、デジタルツインプラットフォームが重要になるわけだ。

第3ステップ:Simulate/Optimize(シミュレーション/最適化)

Simulate/Optimizeは、生成した3Dモデルを使って、製品設計や生産プロセスのシミュレーションを行うことで、設計や業務プロセスの改善などを行う工程だ。このステップに至ることで、デジタルツインは現実世界に大きな価値を生み出せるようになる。

特にデジタルツインが現実世界に価値を生むケースとして、2つのパターンがあると大井は語る。

「1つ目は、3Dでしかシミュレーションができないものを扱うケースです。例えば、工場設備の配置。人間が通ったり、機械のまわりで人間が操作をしたりする空間を確保できるのか、縦・横・高さを見ながら、配置をデジタルツイン上でシミュレーションする。実際に大きな設備をつくってシミュレーションすることは現実的に難しいので、デジタルツインが有用です」

上記に加えて、ロバスト性が求められるものに関しても、デジタルツインの価値が大きいと言う。例えば、光が入る方向と角度によって見え方に差が出ないようにしなければならない製品の設計。一つひとつの状況を点や面で捉えるだけでなく、360度全方位からの影響をあらゆるシーンで検証しなければならず、現実での検証よりもデジタルツインでのシミュレーションが有効になる。

鮮やかな夕日とホイレーク。ゴルフコースでは様々なシチュエーションが考えられる。

鮮やかな夕日とホイレーク。ゴルフコースでは様々なシチュエーションが考えられる。

ゴルフに当てはめれば、実際のプレーから得られたデータや天候データなどから膨大なシチュエーションをデジタルツイン上で検証し、ゴルフコースの再設計を行うことでより競争的なコースに変えるといったことが考えられるだろう。

デジタルツイン導入における3つの課題

デジタルツインを活用したいと考える企業が増えている一方、導入に際して企業が現実的に直面している課題が3つあるとNTTデータは見ている。

  • 1.3Dモデルを生成するためのコストが高い
  • 2.専門性の高いシミュレーションツールは存在するが個別独立しており、結果を統合的にみることができない
  • 3.ROI(投資利益率)が求められる一方で、まだ数値としての成果が実証・公開されていない

これらの課題について、大井は次のように説明する。

「フォトグラメトリやAIといった技術を使って、3Dモデルを生成することはできるのですが、まずそこにコストがかかります。そして、生成したものがそのまま使えるわけではなく、デジタルツインとして使うためには加工が必要になります。さらに言えば、導入時は費用が捻出できたとしても、リアル環境が変わる度にそれに合わせて3Dモデルを変更していくための手間と費用がかかるため、リアルとデジタルを常に合わせておくことがなかなか難しいという課題があります」

また、デジタルツインシステムは処理性能が高いGPUが必要であったり、SaaSがトランザクション課金であったりするため、決して安い投資ではない。そのためデジタルツインプラットフォームを構築したからには、別の事業やプロジェクトにその効果を波及させていきたいところだが、部署やプロジェクトを跨ぐ連携は容易ではない。それが3つ目の課題であるROIの不透明さにつながっている。

優勝トロフィー。第151回全英オープンゴルフの優勝者は誰になるだろうか

優勝トロフィー。第151回全英オープンゴルフの優勝者は誰になるだろうか

NTTデータが提供できる価値

企業が抱える課題に対して、現在NTTデータとして取り組んでいることがある。それは、デジタルツインの構築の際に共通して使うようなものをモジュール化し、アセットとして持つことだ。

「3Dモデルの生成に関しては、リアルな環境が個々で異なるため、なかなか共通化するのは難しいですが、どのシステムでも必要になるものをモジュール化したり、業界や業種ごとに特定の共有課題を発見・把握したりして、アセットとして持つことで、全体としてのコストを抑えられるのではないかと考えています」(大井)

また、ROIに関しては、まずはスモールスタートで活用をして、デジタルツインのどこに価値があるのかを1つのプラットフォーム上に積み上げていくのが良いだろう。段階的に投資をしながら、機能を一つひとつ拡大していく中で、どれだけの利益が生み出せるのかを判断することができる。

「私たちとしては、ただデジタルツインの導入を支援するだけでなく、ROIを見極めて、それぞれのお客様のビジネスの中でどの価値を生み出すところまでスコープを広げる必要があるとか、そこに至るまでのロードマップや、他の方法も含めて課題解決の方法を模索する選択肢も含めてご提案をしたいと考えています」(大井)

企業のデジタル活用において、構築したシステムを運用することで継続的に得らえる効果を見極め、ビジネス全体としての価値強化につながるかどうかを考える。これは、ITのコンサルティングサービスに他ならない。さまざまなお客様と共創する中でノウハウを蓄積しているからこそ提供できる価値が、そこにある。

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