ITをコストとして捉えるのではなく、便利な道具や武器として使いこなす「攻めのIT」に変化させることが大事です。
企業理念を形にする開発思想
■CRMの限界を見て発想転換
清水俊明(しみず・としあき)/株式会社ZOZO 執行役員。過去20年間以上に渡り、複数の事業会社でマーケティング全般に幅広く従事後、2010年に株式会社スタートトゥデイ入社(現株式会社ZOZO)。実務、学術双方から新しい顧客との関係性、サービスデザインのあり方に取り組んでいる。早稲田大学大学院商学研究科修了。早稲田大学データサイエンス研究所招聘研究員。
───カスタマーサービスにおける高いホスピタリティを目指すZOZOTOWNですが、どこが他社のサービスと最も異なるのでしょうか。会社の経緯も踏まえ、教えてください。
1998年に代表取締役社長の前澤が、千葉・鎌ヶ谷で自宅の六畳一間の押入れを倉庫代わりに使った地点からZOZOはスタートしています。2004年にZOZOTOWNのサイトをオープンした段階では、いわゆる「裏原系」のストリートファッションブランドを扱う、エッジの効いたECファッションサイトでした。
その後も目の前のお客様と向き合いながら成長してきました。サービスが急拡大しても、一人一人のお客様に向き合いたいという想いがあります。そのため、ZOZOでは私が2010年に入社する前からCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)に取り組んでいました。
90年代前半に日本へ入ってきたCRMは、インターネットやITが進展して顧客が受け取る情報量が爆発的に増えていく中、それまでのマス広告を活用して新規顧客を獲得するような施策が効かなくなってきたことで注目されました。
しかし、優良顧客を特定し、上位顧客だけを囲い込む従来型のCRMは、2000年代にほとんどが失速します。本来ならお客様との関係性を顧客起点、顧客中心で構築するためのCRMが、日本では企業側の売上を効率よく上げてくれる優良顧客に集中して取り組むためのツールと捉えられてしまったからです。
私たちは一定の優良顧客だけでなく「ZOZOTOWNに訪問していただく全てのお客様の心のあり様を想像して、ZOZOならではの“おもてなし”を創造しよう」と考えました。こうした話を前澤にした時に「それってお客様と友だちになるということだよね」というキーワードが出てきたのです。そこから、ZOZOではCRMではなく「CFM(Customer Friendship Management:お客様と友達のような関係になること)」という独自のコンセプトを掲げるようになりました。
ITの力を使い、CFMというミッションに基づいたお客様へのアプローチをどういう形でできるか。そんなことを2011年以降はひたすら考えました。
■気の利いた情報発信を目指す
───CFMというコンセプトは、現在では具体的にどのようなサービスへ落とし込まれていますか。
お客様にご迷惑をおかけしてしまうことでもありますが、ZOZOTOWNは商品があっという間に売り切れるサイトです。そのため顧客視点にひたすら立って、よりスピード感のあるサービスを目指しました。
毎日いらっしゃるお客様ごとに合ったおもてなしをOne to Oneでしたいと考えても、とりわけ困難の連続でした。売上規模が今より全然小さかったにせよ、当時でも数百万人というお客様にご利用いただき、かたや私たちの社員は数百人。そのうちマーケティング担当は数人でした。
今でこそDMP(デジタルマーケティングプラットフォーム)だとか、マーケティングオートメーションというワードは一般化されていますが、その頃はそういった言葉もありません。ビッグデータという言葉さえ一般的でない時代、まず自前でマーケティング用のデータベースを新たに作りました。
人間が行動する裏側には、なんらかの動機付けや潜在意識があります。私たちはEC企業なので、お客様のライフスタイル全般のうち、特定のタッチポイントでしかデータを取れていません。そのため1日かけて渋谷でお客様の行動をエスノグラフィー(※1)的に観察させてもらい、お洋服を買う際のモチベーションや買い方を調査したり、グループインタビューをさせてもらったりしました。
それらのデータを元に、キャンペーンマネジメントの海外製のパッケージを採用して200種類ぐらいのパーソナライズメールを運用していたのですが、当時の運用負荷はかなり高かったです。何かあれば夜中に担当者が眠い目をこすって対応しましたし、データウェアハウスの保守も大変でした。
このようなメール配信サービスを使っていた2015年くらいまでが、ZOZOの第1世代です。ただ、企業が発信したい情報を、企業の都合がいいタイミングで発信するだけではお客様に響きません。ややもするとお客様からすればノイズだし、一種の広告に思われてしまいますから、メール開封率やコンバージョンが低くなってしまう。
そうではなく、顧客のアクションに紐づいて未来を予測して、最適な提案ができれば「気が利いているな」と思っていただけます。以前にちょっとチェックしたけれど買わなかった商品の在庫が「あと1個しかないですよ」とか「値下げになりました」とか。そうしたお知らせの機能を、顧客視点に立って実装してきました。
フィールドワークで行動を観察して記録を残す、民族学や文化人類学などで使われる研究手法。マーケティング分野では、消費者の生活様式や行動を理解し、ニーズを知るために取り入れられることが多い。
■顧客の体験価値を高めるために
───2016年以降の第2世代はどういうタームになるのですか。
SNSなどメール以外のマルチチャネルにも対応して、リアルタイム性の高い仕組みを実装したのがZOZOの第2世代です。
それ以前はバッチで処理していた分、どうしてもお客様とのコンタクトまでに数時間かかってしまうこともありました。第2世代ではリアルタイム性を追求し、顧客ごとに最適な時間に最適なコンテンツを最適なチャネルで送ることを考えました。一例としてプッシュ配信を好まないお客様には、サイトに訪問した時に情報を伝えるといったシーンです。
私たちは第1世代を作った時点から、すでに第2世代を見据えていました。国内外の情報を収集する中で、私たちのやりたいことや考え方にマッチした既存のツールがあれば、それを使いたいと思っていたのです。RFP(提案依頼書)を作成し、場合によってはPoC(概念実証)をしてもらって、その上で最終的なジャッジを自分たちでしたいと考えていました。
こうした流れを実現できるSI 力のあるSIerさんと組みたくて、NTTデータを選びました。決め手は、「自分たちのやりたいことをどれぐらい本質的に理解されようとしているか」でした。「そういうことであれば今、こういう要素技術があります」といったやり取りでしたね。手段が目的ではなく、その目的に対して最適な手段を提案・構築していただいたと思います。
アウトバウンド側でのマーケティングオートメーションやデジタルマーケティングプラットフォームは作ったので、ここ1〜2年ほどはインバウンドで入ってくる顧客の体験価値をいかに向上させられるかに注力しています。こちらから発信する場合だけではなく、コンタクトセンターのようなインバウンドのセクションも顧客との重要なタッチポイントです。
事業の成長に比例してお客様からの問い合わせも増えました。それは顧客対応の際にオペレーターが十数画面くらい同時に開かないと対応できない状況にも繋がり、いよいよインバウンド側の顧客対応もCFMに則って取り組むことになったのです。道半ばですが、オペレーターがシステムを使っているということに全く気を取られず、メールやチャット、お電話を介した目の前のお客様へ完全に集中できるシステムを作るのがゴールだと思っています。
───2019年以降の見通しについて聞かせてください。
私たちが目指すのは、やはり顧客の体験価値をいかに最大限に高められるかに尽きます。機能的・情緒的・自己表現的・社会的な提供価値が、金銭的・物理的・心理的なコストに対して大きく上回れば、顧客にとってのベネフィットが大きくなります。そのような価値を提供するためには、従来のロジカルシンキングやフレームワークからの発想だけでは、早晩レッドオーシャンになるので、顧客自身も気付いていないインサイトに着眼し、我々にしかできない価値を提供していきたいと考えています。
そのためには、サービスデザインという文脈からカスタマージャーニーを描きますし、その際にはアーティスティックな感覚や直感、大局観といったものを大切にしています。もちろん、IoTやAI、ウェアラブルなどのテクノロジーの進展にも注目しています。この辺りを試行錯誤しながら未来に向けて取り組んでいるところです。
───今後、ITやIoTといったものを考えた場合、ZOZOではどのような生かし方、付き合い方を考えていますか。
私たちの開発部門(株式会社ZOZOテクノロジーズ)もそうですが、やはりシンプルイズベストの思想があります。わかりやすくシンプルなもの、よりナチュラルで人間に近いものをベースに持ちながら、その時々の技術としてのガジェットであるとか、最新のITをどんどん使っていきます。ITによって、よりクリエイティビティを発揮できるところに人間はシフトした方がいいと思います。
働き方もそうです。自分が本来持っているクリエイティビティが最高に発揮できる場所、もしくは時間の使い方を実現するためにITはもはや不可欠です。どんな職種であっても自分自身のポテンシャル、クリエイティビティを最高に発揮できる環境にまず身を置くこと。そのためにITをフル活用する。私たちもその状態を実現することで、最高のサービス、おもてなしがお客様に提供できると思っています。
ZOZOは、CRM分野で数々の賞を受賞している
───ITが人間の持っている能力を引き上げる。それによって、顧客にもいい影響を与えられるということでしょうか。
ええ、還元できると思います。日本のITの活用ではミスを減らすとか、リスクヘッジの「守り」に使うことが多いです。でも欧米のITの使い方は、もっと「攻め」に対して使われています。開発の仕方もウォーターフォールからどんどんアジャイルに変わってきていますし、私たちもITをコストとして捉えるのではなく、便利な道具や武器として使いこなす「攻めのIT」に変化することが大事ではないでしょうか。
現場メンバーたちが語る舞台裏
■常に改善するマーケティング基盤
───顧客が欲しい情報を、欲しいタイミングで、欲しい媒体から提供できるように配慮したZOZOTOWNのマーケティングプラットフォームは、どのように開発されたのですか。
川名
プロジェクト発足の2015年時点では、One to Oneメールマーケティングを中心に実施していました。しかし、SNSの登場やスマートフォンの普及、オムニチャネル化により、お客様のライフスタイルが変化してきたため、マルチチャネル、マルチデバイスに対し、リアルタイムに情報を発信していくことが必要とされるようになりました。そこで、プラットフォームの刷新に取り掛かりました。
株式会社ZOZOテクノロジーズ MA部 部長 川名智久氏。ZOZOTOWNにおけるマーケティングオートメーション(以下MA)のプロダクトオーナーを務める。「ZOZOテクノロジーズは、トライ・アンド・エラーを実施しやすい環境です。システム開発や設計をする技術者で、マーケターとしてのセンスも併せ持つ方は大いに活躍できると思います。また、すべてのシステムが内製化されていて採用技術も縛りがないので、モチベーションの高い技術者が多いです」
福田
最初に「こういうシステムが作りたい」とお聞きした内容は、今までにない要素が沢山ありました。その分、すごく未来感があって面白いと思ったのですが、「たくさんの人から1秒間にいっぱいデータが飛んでくるのをどう処理するか」という点でもハードルが高かったですし、数年間にわたって使ってもらえるようにするにはどうすべきかという課題も感じました。その後、「実は2ヶ月半後に一部のサービスを開始したい」と伺い、とにかく開発のスピード感が今までにない感じでしたね。
株式会社NTTデータ ビジネスソリューション事業本部 AI&IoT事業部 ソリューション統括部 課長 福田和也。クロスチャネルマーケティングのシステムを開発したプロジェクトマネージャーで、現在もデータ分析、データ活用の基盤を作るシステムを担当する。「要件定義の時にはホワイトボードで一緒にノウハウを共有しながら検討させていただきました。システム要件以外の検討箇所に差し掛かった時、川名さんがその場でアナリストを呼んできて議論を続けるなど、開発のスピード感を感じました」
川名
短期間であれだけの要件を満たして、大量のストリームデータを瞬時にさばけるシステムに仕上げていただいたのは、さすがデータさんだと驚きました。
福田
大量のデータを処理して、なおかつスピードを早めるためには、一般的なリレーショナルデータベースを使うと到底間に合いませんから、メモリ上で分散処理をさせるのも一つの技術的な回答でした。
川名
当初からリアルタイムで処理できる技術として採用を考えていたのは、複合イベント処理(CEP)でした。実際に導入すると課題はたくさん見えたのですが、メリットの方がより顕在化してきました。例えば、お気に入りに登録している商品が値下げされた時、わずか数秒でお客様のもとへ通知が届くようになり、開封率、CTR、CVRといった効果指標がすべて向上しました。SNSでは「思わず買っちゃうから知らせないでほしい(笑)」というような書き込みも見られました。
福田
今までになかったシステムの作り方や運用のやり方に出会ったのもこのプロジェクトでした。いったん組み終わった後、運用ベースに入ったシステムをZOZOさんは自由に使いこなして、ビジネスにご利用いただいていますよね。
川名
そうですね。これまで200種類くらいのキャンペーンをリリースしていますが、新しいキャンペーンを企画する場合、念入りに分析した後に開発を行っていたのでなかなか時間がかかりました。そこで、今回のシステムではキャンペーン×チャネルの最適化モデルを作りました。お客様の反応により自動でスコアリングされていき、反応に応じて通知頻度が上下していく仕組みです。これによりキャンペーンのリリースを早め、PDCAのサイクルを早めるようにしました。
福田
比較的、普段は重厚なシステムを作らせてもらうことの多い私たちですが、「もっと先、もっと先」へと進んでいくZOZOさんの要望に応えられるよう、常に新しい知見を集めてご提供し続けたいと思います。
川名
お客様一人ひとりに合わせたコミュニケーションはまだまだ発展途上なので、今後も改善し続けていこうと思います。私たちはこれまでB to C向けにコミュニケーションを取ってきましたが、リアルタイムでトリガー検知可能なこのシステムはB to B向けにも利用可能だと考えています。事業領域を広げていく意味でも、今回のシステムが活かせると考えています。
■顧客とのコンタクトをスムーズに
───この1〜2年でカスタマーサービスのリプレイスを進めているという話が清水執行役員からありました(前編参照)。コンタクトセンターのオペレーターが使いやすい画面や性能、画面遷移にすることで「よりユーザーと向き合うことに注力できるシステム」を構築するにあたり、どんな背景や条件があったのですか。
桑原
それまで使っていたCRMシステムの保守が2018年5月に切れるので、ちょうどリプレイスをかける時期だったという背景がまずあります。以前のシステムはクラウドではなくオンプレ(構内)で処理していて、ビジネス規模が大きくなるにつれてカスタマイズも重ねていました。そのため終盤の頃はシステムが重くなって、作業効率が非常に低い状態になっていたのです。NTTデータさんには「カスタマイズを極力しなくても効率がいいパフォーマンスが出せるシステムをつくりたい」という依頼を差し上げました。
株式会社ZOZO ホスピタリティ本部 CS推進部ディレクター 桑原 優氏。コールセンターの事務処理をおこなうバックオフィス部門の担当。オペレーターが顧客対応に集中できる環境づくりを目指す。「ZOZOのカスタマーサービス部門は、他のコールセンターとは異なる視点で人材を採用しています。元ショップ店員であったり、接客経験がある『人と接することが好きな方を歓迎します」
森
今回のコールセンターのプロジェクトでは、桑原さんから「できるだけ標準機能で実装したい」というお話がありましたので、必要な機能が標準的に装備されているソリューションを検討しました。条件は、電話とメールに加え、チャットとSNS連携という新機能にも対応できること。また、CFMの考え方にしたがって、お客様軸でいろいろな情報を管理できること。これらに最もフィットしているのがSalesforce®だと考え、ご提案させていただきました。
株式会社NTTデータビジネスソリューション事業本部 デジタルビジネスソリューション事業部 課長代理 森 由梨香。CRMシステムのリプレイスプロジェクトでSalesforce®を活用したビジネスソリューションを提案した。「ZOZOさんのコールセンターにお邪魔させていただいた時、とても明るい雰囲気だったのが印象的です。そこに掲げられていた標語の数々からも、CFMというコンセプトが身近に感じられました」
横田
以前のシステムを導入したのは2013年くらいでした。自前でインフラを管理していたので、例えばお客様から「動作が重たい」という声があれば、データベースを見て原因を探すのに時間を費すことになります。ハードウェアの更新費用や故障修理だけでなく、人的なコストが年間ではかなりのボリュームだったのですね。5年前はZOZOのビジネスがそこまで巨大になっていなかったため、顧客対応で想定する人数が1日100人程度でした。それが数年で完全にスペックを超える段階に達したので、今回Salesforce®というクラウドのサービスに乗せられたことで、カスタマイズをあまり意識しなくてよくなったメリットを感じています。
普段はECサイトの基盤部分やオンプレ部分の設計構築などを担当している、株式会社ZOZOテクノロジーズ SRE部 横田 工氏。今回のプロジェクトではZOZOが持つオンプレの環境とNTTデータが担当するCRMシステムのつなぎ込みなどの調整を行った。「NTTデータさんとは要件の定義をかなり細かくできたのが良かったです。馴れ合いにもならず、和気あいあいと良いチームワークが築けたと思います」
中川
カスタマイズしすぎてしまったという前例を伺っていたので、今回はシステムの導入にあたって業務の見直し面でもZOZOさんにご協力いただきました。今のお問い合わせ件数を新しいシステムでちゃんとさばけるよう、画面遷移などでも業務に合わせた最適な環境をご提案させていただいています。スムーズに開発を進められたのは、ZOZOさんとフェイス・トゥー・フェイスで打ち合わせる際に、画面を見てお互いにイメージを合わせながら開発要件を整理していけたからでした。
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 流通サービス事業部 第一統括部 オムニチャネル担当 主任 中川裕太。ZOZOの営業として従事する。「一般的なコールセンターではいかにコミュニケーションを効率良くして、顧客応対時間を短く抑えるかに主眼が置かれがちです。ZOZOさんの場合は一人一人のお客様との関係構築を非常に重視されていると感じました」
横田
私たちZOZOテクノロジーズは、ZOZOグループのシステム業務に関する全てを担っている会社です。取り組む案件も基本的には内製サービスがかなり多いので、アウトソースして案件を進めていく機会はそこまで多くありません。今回は私たちが持っている自前のシステムと、NTTデータさんに開発を委託した部分を連携しましたが、そこで齟齬(そご)が生まれないように意識して、定例会を週1回開催するなどコミュニケーションを密に取りました。
桑原
対面に加えて、電話やメールでも頻繁にやり取りできたのが助かりましたね。
森
ZOZOさんは打ち合わせにも丁寧に応じてくださったほか、試験工程で性能テストする時には、50人位のオペレーターさんにお時間を割いていただきました。そうしたご協力があったからこそ、スケジュール通りに開発ができたのだと思います。
桑原
現在、ZOZOTOWNのカスタマーサービスは電話とチャットとメールだけですが、今後はLINEやメッセンジャーなどのチャネルも増やして、時代の変化に応じてお客様のご希望にあった問い合わせができるようにしたいと考えています。
■機械学習を使った分析を高速化
───ZOZOTOWNでは「機械学習を使った分析の高速化のため、自動で機械学習モデルを構築することができるDataRobotを導入していると伺いました。導入まで、NTTデータとZOZOで、どのようなやり取りがなされたのでしょうか。
牧野
ZOZOの分析部門は、2017年7月に私が入社したタイミングでつくった部署です。今は15人程度まで拡大しましたが、立ち上げ当初はメンバーも数名で、機械学習のスキルセットを持ったメンバーはいませんでした。採用を進めつつも機械学習を使った分析のケイパビリティをクイックに身につけようと、外注などの手段を模索していました。そんな時にNTTデータさんから「DataRobotというツールでそれに類似した状況が素早くつくれる」というお話を聞き、ちょうど部門の課題にフィットすると判断して採用を決めました。
株式会社ZOZO 分析本部 本部長 牧野洋平氏。経営コンサルティング会社を経て、2017年からZOZOにおける分析部門の責任者を務める。「分析人材は積極採用中で、技術力にプラスして『世の中に対していいものをつくって、皆を驚かせよう、喜ばせよう』という気概を持っている方に加わっていただきたいです」
天野
DataRobotをご紹介したのは、ZOZOさんと一緒にAIの勉強会を実施した時が最初です。そこから、PoC(概念実証)期間中を通して導入検討支援を行い、2018年4月頃に導入しました。DataRobotが優れている点は、機械学習のモデルが簡単に作れるところにあります。
株式会社NTTデータ ビジネスソリューション事業本部AI&IoT事業部 コンサルティング統括部 課長 天野正己。DataRobot導入プロジェクトでデータサイエンティストチームをリーダーとして率いた。「ZOZOの皆さんはファッションにもこだわっていて、スーツをまとうNTTデータのメンバーと異なる雰囲気です。でも、一緒にプロジェクトに取り組ませていただいたときには、非常に真面目で堅実な同僚という感覚で接していました」
牧野
DataRobotにはデータサイエンティストが何週間もかけて作るような機械学習のモデルを短期間で構築して成果を出せるというスピード感を感じました。
天野
仰る通りで、いわばビジネスとAIの間にある敷居を下げられます。例えば、ある会社に100個の課題があったとして、以前は専門家が2〜3個しか機械学習で取り組めなかったのが、ビジネス部門の方や、IT部門の方などでも扱えるようになるので、100個の課題すべてに適用できる可能性があります。「そこまで重要な課題ではないから後回しになっていた」という課題にも使えるでしょう。
羽田
ビッグデータやAIはバズワード(消費される流行り言葉)のようになっていますが、上手に使わないとビジネスで成果を上げるのは難しいです。DataRobotはとても簡単なツールなので、ボタンを押していけば高度なモデルができ上がりますが、課題をうまく設定しないと十分なビジネスインパクトが出せません。DataRobotでできる課題解決の方法をご提案する中で、「こういう風にオプションを変更して実行すると、より課題に適したモデルを構築することができます」といった具合に導入支援をさせていただきました。
株式会社NTTデータ ビジネスソリューション事業本部AI&IoT事業部 コンサルティング統括部 主任 羽田真也は、ZOZOに定期訪問してDataRobot導入後のフォローを行うデータサイエンティスト。「DataRobotを現場の課題解決に向けて使いこなそうと、ZOZOさんは機械学習を活用したビジネスを進めていただいています。導入した私たちとしてもすごく嬉しいですし、ビジネスインパクトへの可能性を実感しているところです」
牧野
DataRobotはモデルをつくるだけでなく、筋の良い予測モデルは何か、予測精度はどの程度か、どの特徴量が結果を左右しているかなどをクイックに識別する手段として、大いに活躍しています。機械学習に長けたアナリスト・エンジニアが何人か入社してくれた今でもほぼ毎日使われています。
能勢
取りあえず機械学習でやってみよう、という敷居の低さは強いと思うんです。DataRobotを現場で触っていて感じるメリットは、試行錯誤がとてもやりやすくなったことです。Pythonの場合はいろいろな事前の作業や準備だとか、扱いたいモデルをとっかえひっかえ比べるなど、手を動かす作業が非常に多いですね。それらをDataRobotがおおよそやってくれるのはありがたいです。さらに分析結果を見た後で「こういったデータが実は予測に効くんじゃないか」とすぐに追加して回すことができるので、改善がしやすくなりました。
株式会社ZOZO 分析本部 ビジネスアナリティクス部 データサイエンスブロック ブロック長 能勢 翔氏。前職では電子書籍を販売する電子書店でデータ分析や施策の企画をしていた。「今の部署では担当する案件に合わせて学習データを作成し、DataRobotに機械学習をさせて予測させて知見を得るというサイクルを回しています」
天野
やはりデータがたくさんある会社の方が、データを活用して効果を出しやすい面があると思いますし、あまり「人間系」すぎないECのようなビジネスの方がデータも取りやすいので、機械学習が活きる領域だと思います。ZOZOさんはスピード感もあるので、この業界でAIを活用するリーダーのようになっていくのではないかと感じています。
牧野
ZOZOは、どんどん世の中に新しいことを発信していく会社です。AIを活用するにしても、単に売上や、業務の効率化のためだけでなく、世の中に新しい価値を提供していくことが、私たちのやるべきことだと考えています。
株式会社ZOZOのグループ会社であるZOZOテクノロジーズの円会議室。社員がのびのびと働けるような工夫が、オフィス内の随所にある