NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
山本 充洋
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部
ビジネスコンサルティング統括部 コンサルティング担当
2012年にNTTデータに入社して以来、小売・流通業界向けのシステム開発に従事。インフラエンジニアとしてのキャリアを歩んでいたが、キャリア幅出しのため、2019年より現所属に異動しコンサルタントに転向。外出自粛期間で自炊にはまり、最近はキッチン家電を調べることが何よりの楽しみ。
高橋 直道
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部
ソリューションコンサルティング統括部 コンサルティング担当
2015年にNTTデータに入社して以来、同部で“データ活用の高度化”をキーワードに、データ活用企画構想からBI/DWHシステム開発、定着化まで一気通貫で支援。昨年よりモバイルアプリケーション開発にも携わるようになり、本アプリではアプリ領域の開発をリード。個人ではYouTubeチャンネル(Naomichi Takahashi)を持っており、日々発信している。(チャンネル登録ぜひお願いします)
中西 亜依
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部
ビジネスコンサルティング統括部 コンサルティング担当
(HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト)
2016年にNTTデータに入社して以来、幅広い分野の民間企業をお客さまとし、デザインアプローチを用いた新規サービス創出のコンサルティングに従事している。本プロジェクトでもその経験を活かし、サービスデザイン・UX/UIデザインを担当。最近はスケートボードにはまり、近所でコソ練をしている。
コロナ禍で始まった異例のBtoCサービス企画
— おでかけ混雑マップはどのようなサービスですか。
中西さん:おでかけ混雑マップは、全国約4万8000店(※2020年7月末時点)のスーパーマーケットやドラッグストアなどの店舗近辺について、曜日や時間帯ごとの混雑傾向をマップで表示できるモバイルアプリです。この度資本業務提携した株式会社unerryが、今年5月にリリースしたWEBサービス「お買物混雑マップ powered by Beacon Bank」をベースに、モバイルアプリとしてアップデートする形でリリースしました。アプリ版の開発にあたり、Twitterデータと連携させることで、店舗別の混雑傾向だけでなく、営業時間が急に変わったりテイクアウトに切り替えたりといった、店舗に関する最新の一次情報が見られるようになっています。
■App Store(iOS)
■Google Play(Android)
高橋さん:以前からこのようなサービスはいくつかありましたが、エリアレベルでしか確認できないものがほとんどでした。このサービスはエリアだけでなく、店舗単位で混雑状況を確認できるという違いがあります。新型コロナウイルスの長期化が見込まれる中で外出が避けられない状況も増えると思いますが、このサービスを利用いただくことにより、ピンポイントで混雑を避けた行動ができるようになります。さらに、混雑情報はAI解析により、自動で最新の情報を表示してくれるので、店舗側が手動で入力不要というメリットもあります。その解析アルゴリズムも、GPSだけではなくビーコンも活用し、常に精度が高いものを目指しています。
— どのような経緯でサービスを企画するに至ったのでしょうか。
中西さん:新型コロナウイルスの流行が社会問題となる中で、自分たちにも何かできることがないかと思ったことがきっかけです。これまで当社は公共性の高いプロジェクトに数多く取り組んできましたし、かつ所属組織も常に新しいことにチャレンジしていくことをミッションとしていたからこそ、新型コロナウイルスという先の見えない社会課題にも挑んでいくべきだと考えました。
高橋さん:私や山本さんがもともと参画していた人流データを利用した実証実験プロジェクトのチーム内で、人流データとアプリケーション開発のノウハウを活かして社会貢献が出来ないかというアイディアが膨らみ、新たなプロジェクトとして立ち上がりました。最初は数人のメンバーから始まったのですが、有志でこのサービス開発に取り組みたいというメンバーを募ったところ人数が徐々に増えていき、今年の4月頃にプロジェクトが本格化しました。
山本さん:今回のようなBtoCサービスをNTTデータが独自に開発することはめずらしいのですが、プロジェクト立ち上げを進める中で社内外の関係者からは全体的に肯定的な意見を頂き、心強く感じました。またBtoCサービスの提供にあたり、法律や知的財産権に関するさまざまな調整が必要でしたが、前例がほとんど無い中手探りで進める部分が多く非常に苦労しました。
しかし、法務・知財関連の社内部署を始め、たくさんの方がとても前向きにご協力下さって、何とか形にすることができました。もともとunerry社のWEBサービスがあったため、ある程度ベースとなるコンセプトや機能はあったのですが、モバイルアプリならではの機能やUIを新たに作り改善することで、より多くの人が気軽・便利に使えるアプリの提供をめざしました。
手探りで進めたリモート&アジャイル開発
— 開発はどのように進めていったのですか。
山本さん:昨今の状況でこのようなサービスを使ってもらうには、とにかくスピードが重要だと考えました。また、別のプロジェクトでアジャイル開発の経験があるメンバーが多く、ある程度チームビルディングができていたことも追い風となり、クイックに動くものが提供できるアジャイル開発方式を選択しました。開発のメンバーは8、9人程度ですが、各自兼務する形だったので、工数に換算するとさらに少ないと思います。社内にアジャイル開発を専門にしている部署(APC:アジャイルプロフェッショナルセンター)があり、共同で開発を進めました。
高橋さん:今回の開発は、コロナ禍でプロジェクトの開始からリリースまで一貫してリモートでの開発をせざるを得ませんでした。特に苦労したのは、やはりコミュニケーションです。週1回のスプリントレビューを行いながら短期の開発を繰り返していくので、少しでもコミュニケーションに齟齬があったり課題が放置されてしまったりすると、スケジュールに如実に影響します。さらにリリースの日程は早い段階で決まっていたので、絶対に遅らせられないという状況でした。
対策としてデイリーの朝会を開き、各自の進捗確認に加え、メンバーが困っていることや共有事項を適宜伝えられる場を作りました。一方リモートでのメリットは、実は必要ではなかった会議が減ることや、直接会話できるタイミングが減るので各自がきちんと話したい事や伝え方を考えて打ち合わせの場に参加することですね。打ち合わせが効率的になることで各自の作業時間が増え、不必要なドキュメントの作成もなくなったと思います。また、メールではなくチャットツールをメインにコミュニケーションをしていたので、反応もよくスムーズに進みました。
山本さん:開発が佳境を迎え、リリース直前、アプリの審査を通すところも苦労しました。当初先行リリースを予定していたiOSアプリの審査が、リリース2週間前にリジェクトされてしまったのです。そこで急遽、Androidアプリのリリースを先行する方針に切り替えることとなりました。その際Flutterというクロスプラットフォーム言語で開発をしていたことが幸いし、個別に必要となる開発は全体のプログラムの2割程度で済むことがわかり、早急に舵を切ることができました。現在はiOS審査にも通過し、Android版とiOS版の両方を使っていただけるようになっています。
— unerry社と協業する中で感じたことは何ですか。
中西さん:ユーザー体験を第一にして考える姿勢が一致していたので、チームとしてはとてもやりやすかったです。また、unerry社は何でもスピードが速いと感じました。デザイン修正案のフィードバックも速いですし、決定権を持っている人が現場にいるため意思決定もスピーディです。NTTデータでは、例えばアプリの問い合わせ先を決めるだけでも、多方面に確認しさまざまなリスクを想定して前例をきちんと調べて、となるため、なかなかそこまでのスピードは出せません。今回のような取り組みにおいては、スピードが速いというのはそれだけで一つの価値になると思います。
おでかけ混雑マップの知見を次のビジネスへ
― 今後、おでかけ混雑マップをどのように発展させていきたいですか。
中西さん:長期的にみると、新型コロナウイルスが収束したとしても、混雑に対する恐怖はなかなか消えないのではと感じるので、この恐怖を少しでも減らすサービスになればと思います。ユーザーはもちろん、各企業にとっても混雑を避けて安心を保ちながら集客したいというニーズは引き続き残ると思います。今はスーパーマーケットやドラッグストアがメインですが、今後はさまざまなジャンルの施設の混雑情報が見られるようにしていきたいです。
また、NTTデータのTwitterデータ活用サービス「なずき®」を組み合わせ、利用者の好みに応じた「穴場スポット」「トレンド急上昇スポット」のリコメンドなど、当社のビックデータ解析技術を活かした機能追加も検討中です。
高橋さん:BtoCサービスの良さは、自社でデータを持ち分析できる点にあります。実際のデータが示す事実をみて分析することで、新しいサービスの着想を得るなど、ビジネスの幅が広がります。引き続き我々の強みである人流データを活用して、新しい価値や示唆を世に打ち出す新しいビジネスを生み出すことにもつなげていきたいです。
山本さん:実はこのサービスは、社会課題の解決に貢献したいという思いを発端にしているため、収益に関して現時点では第一に考えていません。しかし、今後サービスを利用してくれる人が増えてきたときに改めて、このサービスで得たノウハウを活用して収益化も検討していきます。
中西さん:私はこれまでお客さま企業のコンサルティングをメインとしてきましたが、やはり自分たちに経験がないと今一つ言葉に力が出ないと感じることもありました。自分たちもBtoCサービスをリリースし、サービス作りの苦労を知ることによって、お客さま企業を支援する際により深いレベルまでコンサルティングが出来るようになると思います。また、直接エンドユーザーのリアクションを見ることができるのは素直にうれしいです。今はまだNTTデータでは数少ないBtoCサービスですが、今後もっと積極的に取り組んでいくべきだと思いますし、私自身もそういった機会を増やしていきたいと思います。