挑戦の鍵は「データの目利き力」
データの連携や流通は金融機関にとって大きなインパクトになる
-スーパーシティ構想に金融機関はどのように関わっていくのでしょうか?
大河原:
現状、金融庁の金融審議会銀行制度WGにおいて、地域金融機関の追い風ともなる事業拡大等の検討に加え、店舗網の在り方や、ITシステムの費用構造についてのデジタル化を前提とした検討など、非常に多岐にわたった議論がされているものと認識しています。
そういった背景の中で、地域金融機関にとってスーパーシティ構想は「デジタル化の大きな嵐」といえるものでしょう。変化せざるを得ない大きな向かい風の側面と、既存の強みを生かす追い風の側面を持っています。個々の会社や産業の枠を超えて多種多様なデータが共有され、流通するという社会単位(地域・都市・コミュニティ等)でのDXを推進していくものです。地域社会で多種多様なデータが行き交うことになるため、データを評価する目利き力を持つことが重要です。
具体的には、地域の多様なステークホルダーを意識しつつ、それぞれの社会課題解決や経済勃興のために必要な取り組みを定義した上で、その取り組みに必要なデータを特定・評価する力を付けていく必要があると考えられます。
図1:Society5.0の実現された社会
山本:
地域金融機関は、ツールなどを使って自己の効率化を進め、外部である取引先の個人、法人に対してデジタル化を後押しする立場にあります。デジタル化の進展に関わる地域の事業者、個人、そして行政機関、すべてが主要な取引先であり、相互にデジタル化が進むことで、大きな恩恵が受けられるようになることも注目されます。例えば、少子高齢化、働き手の不足は地域において大きな課題です。デジタルを活用した自動化や省人化で原資をつくり出し、課題解決に振り向けることができます。
図2:スマートシティとスーパーシティ(※1)
大河原:
公共、社会インフラの領域からもデータが生まれ、利活用できることがスーパーシティ構想の肝であり、NTTデータ経営研究所ではこの動きを「貨幣価値経済からデータ評価経済への変遷」と捉えています。
個人、法人、公共に関わりなく活動が多種多様なデータとして扱えるようになると、それぞれのビヘイビア(ふるまい)がわかり、より精緻にモニタリングできるようになります。データを評価する力、モニタリングする力が相まって高まることで、新しい価値が創造できるようになると考えています。
山本:
従来、金融機関は貨幣価値経済、すなわち金銭で評価できるものを取り扱ってきている業種ですが、データを基準として評価軸が多様になっていくということですね。
NTTデータ 金融事業推進部 デジタル戦略推進部
山本 英生(やまもと ひでお)
「スーパーシティ」構想について(内閣府地方創生推進事務局):
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitycontents.html
地域金融機関のポジションはどのように変わっていくのか
-地域金融機関のデジタル化はどのような状況なのでしょうか。
山本:
地域金融機関は現在、デジタル化を加速させざるを得ない状況にあります。特にコロナ禍では、対面を避けながらも地域の顧客との接点を持ち続けるため、オンラインツールの活用を積極化するなど顧客側の意識も変化を見せており、両方から歩み寄るようにデジタル化が進んでいますね。
一方で、新型コロナ禍では給付金が素早く行えないという行政の課題が浮き彫りになりました。税公金の納付や収納は紙ベースでのやりとりで行われていることから、デジタルによる効率化は早い段階で検討されることになるでしょう。
大河原:
税公金をはじめとするお金の情報もデータ化され、蓄積されること自体が非常に重要で、地域におけるデータの利活用を促していく基盤的側面があります。また、金融機関が自ら進んでデジタル化に取り組み、データマネジメントを行うことで新たな社会課題の発見につなげていける可能性があります。
NTTデータ経営研究所 金融経済事業本部 グローバル金融ビジネスユニット
大河原 久和
-地域金融機関ならではの強みはどのようなところで生かせるのでしょうか?
山本:
地域金融機関の強みは密接な地縁を生かしたリレーションです。顧客を深く理解しているからこそ、デジタルに置き換えたほうがより良くなる部分を見極めた対応ができるのです。
参考になるのが、中国の泰隆(タイロン)銀行です。顧客のほとんどが中小事業者で非常に緊密な形で営業しています。デジタルもうまく活用していて、営業担当者はタブレットを持ち、与信判断の際には水や電気の過去の使用量を参照し、事業の安定性や成長具合を判断しながら、最短30分で融資を実行しています。データをうまく使えば効率的で精度があがるところにはデジタルを使いながら、強みであるハイタッチの部分はそのまま維持しています。
このように、金融機関が持っていないデータ、または、持っているが活用できていないデータをビジネスにどう役立てていくのか。NTTデータではこの考え方を「センシングファイナンス」と呼び、金融商品・サービスの高度化やまったく新しい商品・サービスを生み出すことにつながっていくと考えています。スーパーシティ構想のなかでも、融資判断に使えるデータが増えていくことが期待されるので、与信の高度化を進められるでしょう。
大河原:
最近では金融機関が地域の企業や社会のデジタル化を助ける金融業高度化等会社や地域商社を手がける、またPPP/PFI(※2)のように地域社会の関係者を調整し、連携するような事業の推進に取り組んでいます。地元を巻き込みながら自他共にデジタル化を進めつつ、金融機関自体の業務の高度化につなげていく取り組みです。
これに加えて、今後社会にあるデータはGDPRのような個人情報保護体系に基づく自己申告制度との紐付けや管理が必要となります。そのために、データの取扱いに関する同意や拒否といった意思を(データの)利用可否に反映させる「情報銀行」というデータの利活用の要にあたる新しい業務も徐々に広まっていくものと考えられます。デジタル化により発生する多種多様なデータは、適切な利用目的の設定と同意取得を行うことで他のデータを自らの事業等に活用するケースに加え、例えば、地域経済をより深く理解するために決済データを活用することもできるようになります。一例として決済の話を挙げましたが、他のデータの連係・流通に直結する役割も金融機関には求められてくると思います。
このデジタル化の潮流は決済だけでなく、融資を含む、ファイナンス全般の高度化を進めて行くなかでデータを利活用できることは、金融機関として事業を新たなデジタル方面に振り向けるチャンスだと思います。
-地域金融機関ならではのデータ利活用とは、具体的にはどんなものでしょうか?
大河原:
従来、金融機関では地域の特定産業に関わるデータは、その産業に関わる企業、個人とのお取引でしか得られませんでした。しかし、今後は金融機関がデジタル化を支援する仕組みを地域に提供することで、非金融サービスを含めたデータの取得・流通のきっかけが生まれ、そこに主体的に参入していくことができるのではないかと考えています。
山本:
その通りだと思います。一方で、多くの金融機関で取り組まれている、AIによる融資審査の自動化などがまだ劇的な成果には結びついていない等、すべてが順調に進んでいるわけではありません。どのようにデータを利活用すれば地域の企業や個人も含めて「うれしい」と思える姿やストーリーを描けるのか、「なんのためのデータ利活用なのか」をまず考えなければなりません。
将来に向け、取り扱うデータの範囲・分量が増加する中、データガバナンス・データマネジメントが非常に大切になってきます。データガバナンスについては、DMBOK(※3)の知識体系にまとめられていますが、金融機関のなかでこうした知識が消化され、テーラリングできている段階ではありません。
DMBOKの最も大切な要点は「何のためにデータガバナンス、データマネジメントをしなければいけないのか」ということで、「目的を設定しなければならない」と述べています。
現状、金融機関のなかでデータ利活用が進まないなかで焦点となっているのは、このポイントだと思います。
大河原:
新型コロナウイルスの感染拡大以降、地域のレジリエンス、ESG、SDGsといった社会課題にテーマを設定し、社会課題に対し本業で課題解決を行っていくという動きがあります。NTTデータであれば、「サステナベーション sustainability × innovation」。テクノロジーとイノベーションを掛け合わせて取り組んでいくという指針が打ち出されています。
地域全体で社会課題ベースのユースケースを作り、様々な関係者に向けて問い、地域金融機関もその一部として主体的に取り組むことで、単体ではなしえない社会課題を解決できるようになるでしょう。
PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ):公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方。
(日本PFI・PPP協会 http://www.pfikyokai.or.jp/about/)
NTTデータグループだからこそできる、支援とは
-データの利活用を行う上でのポイントは何でしょうか?
山本:
金融機関では利益の向上やリスク低減などの抽象的な目的を設定しがちですが、もっとブレイクダウンして「具体的で明確な実利を得られることは何か」を目的として設定する必要があります。
そのためにはどんなデータが必要で、どうすればそのデータを得られるか、仮説を立てながら、データマネジメント体制を構築していくという手順が必要です。
大河原:
地域のデータを蓄積、管理、評価する役割を担っていくと考えると、データガバナンスやセキュリティ、内部統制の強化に留まることなく、様々な関係者にデータ利活用の規範やビジネスルール、データの権利を守る意識を地域に周知し理解してもらうことも大切ですね。
したがって、情報銀行のような「データの金庫・貯蓄」を地域社会で担っていくことはビジネスの起点として重要でしょう。
山本:
データを使いこなすには、データを扱うためのテクノロジーの目利きや管理を自ら行う、データのハンドリングができる意識を持った組織に変化していく必要があります。
地域金融機関には多くの優秀な人財を抱えたIT部門があり、組織としてもともと高いケイパビリティを持っています。地域のデジタル化推進にそのケイパビリティを発揮することも、地域金融機関だからこそ担える大きな役割のひとつとなるでしょう。
-スーパーシティ構想のなかで、NTTデータ、NTTデータ経営研究所が果たす役割とは
大河原:
政府の取り組みとして2021年3月までにスーパーシティ構想の区域指定が行われ、都市が選定されます。対象となる地域の金融機関からは、既にスーパーシティ構想に関連する取り組みを検討したいというご相談を複数受けています。
これは地域金融機関として、その地域にある社会課題を、デジタルを通じて解決していきたいという意向であり、NTTデータ経営研究所ではコンサルティングという形でそのお手伝いができると思っています。
スーパーシティ構想という大きな枠組みでは、金融、非金融といった業態のラベルがはがれ、地域の産業やコミュニティの課題解決をどのように行うかが大切です。
私たちはこれからも、NTTデータグループの持つケイパビリティを結集し、デジタルを通じてお客様の課題解決を加速させていきます。
山本:
NTTデータでは以前から地方銀行の活性化のために、地方銀行のデジタルトランスフォーメーションを支援してきていますが、まだこれからできることは多くあると感じています。
地方銀行のデジタル化の悩みは地方銀行の視点だけではなく、地域全体のデジタル化と一緒に考えないと解決しません。
スーパーシティ構想を推進する地域に住んでいる方々にとって、より良い社会になるようにお手伝いしていくのが私たちの使命です。
また、金融分野のお客様と一緒に培ったケイパビリティは、他の事業分野も含むさまざまな企業でも活用できます。業界の垣根を超えた取り組みがより広まっていくことを期待しています。
講演情報
NTT DATA Innovation Conference 2021
デジタルで創る新しい社会
2021年1月28日(木)、29日(金)講演ライブ配信
2021年1月28日(木)~2月26日(金)オンライン展示期間
2021年1月28日(木)11:40~12:10
「デジタル時代における金融機関の中小企業ビジネス革新」
NTTデータ 金融事業推進部
山本 英生
お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/
NTTデータ経営研究所レポート:
https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/reports/2020/1218/