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2021.3.18INSIGHT

ニューノーマル時代の新しい「金融ITオープン戦略」

テクノロジーの進化や法改正等、銀行を取り巻く環境が激変する中、ニューノーマルの世界ではさらなる変化が予想される。そうした未来に対応するため、NTTデータは「金融ITオープン戦略」を発表。ここでは同戦略の内容と、新たに開始した取り組みを紹介する。

新生活スタイルに対応するためデジタル化の急加速が必須

私自身、コロナ禍の発生以降、生活スタイルが大きく変化した。仕事上の会議はオンラインが基本で、ペーパーレスが当たり前の状態となった。プライベートでもさまざまな支払いをキャッシュレスで済ませるようになり、現金を全く使用しなくなった上に、銀行取引もオンラインで完結させ、店舗やATMを訪れる機会はほぼなくなった。
銀行業界に目を移してみると、各種銀行取引のオンラインへのシフトが急拡大しており、現金を取り扱わない現金レス店舗の導入、通帳発行に手数料を要求する通帳レスの動きなど、銀行自体がデジタル化に向かって急速に進んでいると感じている。
融資業務の観点で見てみると、2020年は資金繰り支援を目的とし貸し出すことが重視されたが、2021年は企業業績をふまえた融資先選別にシフトするといわれ、AIを活用したデータ分析などが進んでいくだろう。法制度の面でも金融審議会では銀行の業務範囲の規制緩和などの議論が進んでおり、法制化に進むとみられている。
このようなコロナ禍での生活スタイルは今後、自然と定着していくだろう。その中で銀行に求められる役割やニーズも変化していき、銀行のデジタル変革の急加速を促していくと考えられる。
このデジタル変革のキーワードとして、ここでは2つ挙げたい。1つは「Digitization(デジタイゼーション)」。これはデジタルを活用して銀行業務の効率化、コスト削減を加速させることである。もう1つは「Digitalization(デジタリゼーション)」。こちらは、デジタルを活用して新たな利益や価値を生み出すビジネスの創出につなげるものだ。
こうした取り組みを進めていくには、さまざまなプレイヤーとの共創が必要になると予測している。そこで当社は2020年10月、ニューノーマル時代に対応した新しい「金融ITオープン戦略」を発表した。
同戦略のキーワードとしては3つの「Open」がある。
1つめは「Open API」。すでに当社は200種類以上の稼働済みのAPIを保有しているので、これらを整備し、あらゆるステークホルダが安心・安全に、かつ相互運用性を保った状態で利用可能な環境を作っていく。
2つめは「Open Platform」。当社の勘定系システムに関してオープン化の検討を進めており、新たにオープン基盤の選択肢を準備して、最適なプラットフォーム適用を可能とする。AWS/Azure/GCPをハイブリッドで最適配置し、ニーズに合わせた基盤提供を可能とするほか、他社の勘定系システムからも容易に利用できるようにする。
そして、この「Open API」「Open Platform」といのコンセプトで構成される「Open Service Architecture(OSA)」を活用し、3つめの「Open Innovation」の世界を実現していきたいと考えている。

Open Service Architecture(OSA)とは

「OSA」は6つのエリアで構成されており、それぞれのエリア上で提供されるさまざまなサービスを組み合わせ、スピーディーにサービスを提供していくことが可能だ。
左側に、顧客が直接アクセスする「ユーザーフロントエリア」がある。ここはさまざまなサービス事業提供者がユーザーにとって使いやすいフロントサービスを提供するエリアで、多様化する顧客ニーズに対応するため、フロントシステムとの接点機会を提供していく。右側には、金融機関の勘定系システムを預かる「ブッキングエリア」を配置している。
そして中央には、
1.さまざまな新しいサービスを構築でき、他社サービスも含めオープンに展開することでエコシステムの形成をめざす「サービスラインアップエリア」
2.ユーザーフロントエリアとブッキングエリアを結び、バンキング共通APIの整備、認証機能など、多様なコネクティビティと安心・安全なプラットフォームを提供する「コネクションエリア」
3.「OSA」の基盤レイヤーにあたり、金融サービスを提供するために必要とされる高SLA・セキュリティにも耐えうる「コンピューティングエリア」
4.アフターコロナで求められる、さまざまなプレイヤーとの連携による新しい社会の実現に向けて重要性が増す「データアナリティクスエリア」
の4つの領域を用意した構成となっている。

OSA活用サービスで非対面手続きの大幅拡充を実現

ここからは、「金融ITオープン戦略」をふまえた当社の新しい取り組みを2つ紹介する。
コロナ禍での生活様式の変化に伴い、今後は非対面サービスの拡充が重視されてくる。また、銀行は業務プロセス改善が一層強く求められる状況にある。この2つを両輪で進めることが重要であると考え、新たなサービスを検討してきた。
これまでも銀行取引のオンライン化が進んできたが、口座の状態や取引条件によって来店が必要になるケースが存在した。新サービスでは、さまざまな銀行サービスが来店することなく非対面で完結できるようになる。
サービスはOSAの仕組みを前提としている。当社が地方銀行向けに提供している地銀共同センターの新たなSoE基盤「Service Engagement Hub」として、2021年度上期よりサービスを開始する予定だ。特徴は「マイクロサービス」と「BPM」の2つ。
まずはマイクロサービス。たとえばキャッシュカードの再発行取引について、勘定系システムでオペレーションすると、再発行取引と手数料を徴収する取引を別々に行う必要があった。今回のサービスではこの2つの取引を組み合わせて実行するマイクロサービスの形で提供するので、1つのAPIでの同時実現が可能になる。
もう1つはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)。これは、一連の業務プロセスを可視化し実行していくための業務プロセス管理手法である。今回提供するBPM基盤を導入すると、たとえば申込内容確認から顧客とのコミュニケーション、行内での承認フローまで、一連の業務プロセスをシステム化することが可能だ。これにより、業務プロセスへの理解が低い行員でもオペレーションを間違いなく順番に実行できるようになったり、書類を基に取引していた業務をペーパーレスで完結したり、一部オペレーションを自動化したりといったことが可能になる。
この「Service Engagement Hub」を導入することで、非対面で完結する手続きを大幅拡大できる。取引によっては年間で1万から4万時間の事務量を削減できるのではないかと想定し、いま検証を進めている。開発面では、従来型開発手法と比べて30~60%の費用削減効果があり、開発期間も30%程度短縮可能と見立てており、こちらも今後検証を進めていく予定だ。
今回のサービス提供にあたり、マイクロサービスおよびAPIを50本程度追加することが可能になる見込みで、トータルではOSA全体で250本程度のラインアップを揃えられると考えている。また、他社サービスとの連携にも今後積極的に取り組んでいきたい。

無償利用できるAPIマーケットプレイスを創設

続いて、2つ目の取り組み「APIマーケットプレイス」を紹介する。
冒頭で銀行をめぐる環境の激変に関連し、法制度面での大きな変化について触れた。具体的には、代理業の制度見直し、銀行グループの業務範囲規制の緩和が想定される。これらのテーマに対応していくためのキーテクノロジーがAPIである。
今後、APIを活用して外部プレイヤーとの連携を活性化し、エコシステムを形成していくことが重要になると考え、金融API利用を促進するためのマーケットプレイス創設に取り組んでいる。
まずは金融サービスを中心とした多彩なAPIラインアップを揃え、アカウント登録すれば無償で利用できるサイトを立ち上げることを考えている。
どのようなAPIがあるのかを参照できるカタログ機能や、API利用者/提供者の双方向コミュニケーション機能、新しいAPI開発やサービス開発を相互にリクエストできるアイディエーション機能なども準備していく。
将来的には、対象とするAPI(行政/民間APIなど)や機能(レポーティング/エスクロー機能など)を拡げていきたいと考えている。

当社としては、「金融ITオープン戦略」に沿った取り組みを今後積極的に実施していく。ぜひ多くの企業に参加していただき、新しいサービスの実現を一緒にめざしていければと考えている。

本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。

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