日本の営業現場が抱える構造的課題
量的な営業活動の限界
日本の営業現場では、商談件数や顧客接点数などの活動量、つまり「量的な営業活動」が重視されてきました。この考え方は高度経済成長期には効果的でしたが、現代では受注に結びつかないことが増えています。例えば、多くの企業では営業担当者が日報作成に多大な時間を費やしていますが、そのデータが効果的な戦略立案や実行に活用されていないケースも多いです。このような課題に対応するため、多くの企業が営業DXに取り組んでおり、業務効率化だけでなく、営業力の強化や営業生産性の向上といった質的向上を目指しています。
図1:平均的な週における営業担当者の時間配分
SFA導入と現場のギャップ
SalesforceをはじめとするSFAと呼ばれる営業支援システムは、本来商談管理や営業プロセスの標準化・業務効率化を目的として導入されます。しかし、日本では、商談項目の更新よりも日報の詳細な記入が重視される傾向にあります。この結果、商談の各項目だけでは全体像が分からず、日報を細かく確認しないと状況が分からないという問題が生じています。これではシステムの本来の価値を十分に引き出せているとは言えません。この背景には、営業プロセスを可視化、標準化を重視する欧米型の営業文化と、顧客との長期的な信頼関係の構築に基づき、個別事情に合わせて柔軟に対応してきた日本型の営業文化との大きなギャップがあります。このような状況を改善するため営業プロセスを再整備し営業DXに取り組む企業も多く存在しますが、文化の違いから中々現場に定着せずに成果につながらないことも多いのが現状です。
生成AIを活用した営業DXの新しいアプローチ
従来の課題を解決するために、私たちは生成AIを活用した新しいアプローチを導入しています。このアプローチの特徴は、営業担当者の既存の働き方を大きく変えることなく、自然な形で営業活動の質的向上を実現できる点にあります。つまり、生成AIを活用し量から質への転換を実現しています。
具体的には、営業担当者が従来通り作成している日報や議事録から、生成AIを用いて質的なインサイトを自動的に抽出します。例えば、商談における重要なキーポイントや、顧客のニーズ、競合状況といった情報を、AIが自動的に特定し、構造化された形でSalesforce上の商談情報として反映させます。
図2:SFA商談・活動記録機能処理イメージ
マネジメント効率の向上
この仕組みにより、営業マネージャーは、各商談の状況を一目で把握できるようになりました。従来は大量の報告書を確認する必要がありましたが、AIが整理した情報で状況を把握できます。これにより、マネージャーは個々の商談に対するより適切なアドバイスや、チーム全体の戦略立案に多くの時間を割くことができます。
営業担当者に対するパーソナライズされたアドバイスの提供
本システムは情報整理に留まらず、営業担当者に対して次のアクションを提案する機能も備えています。生成AIが、蓄積された商談情報や議事録を分析し、各営業担当者の状況に応じたパーソナライズされたアドバイスを提供します。例えば、「この商談では競合情報の確認が不足しています」といった具体的な示唆や、「顧客のニーズには、〇〇のようなソリューションが考えられ、以下のようなアプローチを検討してみましょう」といった実践的なアドバイスを提供します。
効率化と質の向上の両立
このアプローチの最大の利点は、営業担当者の既存の業務フローを大きく変えることなく、自然な形で営業活動の効率化と質の向上を実現できる点です。従来の日報作成という活動を継続しながら、生成AIによって自動的に有益なインサイトが提供されることで、営業担当者は徐々に「データに基づく営業活動」の価値を実感できるようになります。実際に社内利用者からは好評で、その有効性の検証も完了しています。これにより、業務効率化で停滞してしまっていた営業DXの推進に一石を投じることができると考えています。
図3:情報登録と情報活用サイクルによる営業成果の向上
現場からの評価
以下は実際の現場からの反応であり、効果の実感やモチベーション向上につながっていることが明らかになりました。
AIによる情報抽出に対する声
“AIが勝手に整理・要約してくれるので、脳のリソースの節約になる。効率的。”
“今まで面倒だなと思っていたところが解消されたため、やってみようかなという気持ちになった。”
“文体・書いてある項目が統一されているため読む側がすぐにポイントを押さえられ、理解しやすい。”
“自分が把握していない商談について相談を受けた時も、Salesforce上の商談だけを見ればいいため情報を追いやすい。”
“コミュニケーションが良くなる。視覚的に見てどこが足りていないかすぐわかるから上司との議論が集中できる。”
営業担当者へのアドバイスに対する声
“なんとなく考えていたことが明文化されるのは良い。”
“AIからのレコメンドが出てくるとこれをやらなきゃという意識になる。”
今後の展望と発展の方向性
さらなる高度化への取り組み
今後は、この仕組みをさらに発展させ、より高度な営業支援機能の実装を目指しています。例えば、商談の成功確率予測の精度向上や、最適なアプローチ方法の自動推薦など、AIの活用範囲を広げていく予定です。また、音声認識技術との連携により、商談の録音データから直接インサイトを抽出するなど、データ入力の自動化もさらに進めていきます。
組織全体での活用促進
個々の営業担当者の支援だけでなく、組織全体での知見の共有や、ベストプラクティスの展開にも注力していきます。成功事例のパターン分析や、効果的なアプローチ方法の体系化など、組織全体の営業力向上につながる取り組みを積極的に推進していく予定です。NTT DATAは、お客様の成功に向けて、コンサルティングからシステムの導入、運用、成果創出までを一貫してサポートしています。豊富な実績に基づく知見を活かし、今後も継続的な改善に取り組んでいきます。
営業活動全体への生成AIの適用(LITRON® Sales)
本取り組みは、オフィスワーカーの生産性向上と付加価値業務へのシフトを目的とした生成AI活用コンセプト「SmartAgent™」の第一段として提供している営業領域向けの新サービス「LITRON® Sales」におけるSFA商談・活動記録自動化に関する取り組みのご紹介でした。LITRON Salesは、営業業務の自律的な支援と代行を実施するもので、データ入力から提案書作成まで、幅広い業務を効率化します。2025年3月までに、アポイントメント準備や提案準備の効率化に関してサービス提供開始する予定です。今後も技術開発および社内検証を進めながら、蓄積された知見をもとにユースケースを順次拡充していきます。営業プロセス全体の抜本的な変革を目指す企業との協働を通じて、営業DXを加速させる取り組みにも注力しています。
図4:LITRON® Salesの全体像と本取り組みの関係
まとめ:次のステップに向けて
日本の営業現場が直面する課題に対して、Salesforceと生成AIを組み合わせた新しいアプローチは、大きな可能性を秘めています。特に、既存の業務フローを活かしながら、自然な形で営業活動の質的向上を実現できる点は、日本企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
今後、このような取り組みを成功させるためには、以下の点に注意して進めていくことが重要です。
- 1.現場の声を重視した段階的な導入
- 2.具体的な成果の可視化と共有
- 3.継続的な改善とフィードバックの収集
まずは小規模なパイロット導入から始め、効果検証を行いながら段階的に展開していくことをお勧めします。
現在、私たちは技術開発や社内適用の成果を踏まえ、様々なユースケースをさらに発展させる計画を進めています。生成AI等のテクノロジーを活かし積極的に営業DXを推進したいとお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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