ネットワークインフラから見た5Gの特徴
5Gには、超高速、超低遅延、多数同時接続の3つの特徴があり(※1)、これらを活用したサービスが各社で検討されています。ただ、これらの特徴はあくまでサービスの視点から見たもので、モバイルネットワークインフラの視点から見た場合には、全く異なる3つの特徴も存在します。
その3つの特徴とは、仮想化、オープン化、モジュール化です。
まず仮想化ですが、5GモバイルネットワークではNFV(Network Function Virtualization)やvRAN(virtualized Radio Access Network)アーキテクチャが用いられています。
また、オープン化では、各インタフェースの標準化やO-RAN Alliance(※2)による無線アクセスネットワークのオープン化とインテリジェント化が行われています。
さらに、モジュール化では、各ネットワークノードのファンクション化やSBA(Service-Based Architecture)によって各ファンクションが規定されており、各ノードが1対1で接続されるのではなくどのノードとも直接通信できるようになります。
これらモバイルネットワークの3つの特徴によって、ベンダーロックインの排除(※3)、モバイルネットワークの柔軟な拡充、汎用HWやSWを用いることによるコスト削減、等が期待されています。
図1:モバイルネットワークの3つの特徴
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd133420.html
(※3)ベンダーロックインとは、特定ベンダーの独自技術に依存した製品やサービスを採用した際に、他ベンダーが提供する同種の製品やサービスへの乗り換えが困難になる状態のことを指します。
5Gモバイルネットワークの現状と課題
現在、5Gサービスは全世界で開始されていますが、これら3つの特徴を活かしたモバイルネットワーク構築の検討もまた2020年頃から加速しています。特に、無線アクセスネットワークの仮想化とオープン化は、大きく注目されています。既に、一部の新規モバイルキャリア(MNO;Mobile Network Operator)においては、仮想化およびオープン化技術を用いたモバイルネットワークの構築が行われています。
しかし、これら技術はまだまだ発展途上の段階です。例えば性能面や消費電力量に関する技術課題が存在します。
また、無線アクセスネットワークの仮想化とオープン化によって、SWとHWが分離された柔軟なモバイルネットワーク構築や調達装置の低価格化が期待される一方で、モバイルネットワークのマルチベンダー化によって複雑性が増すため、各ファンクションの接続テストの工数増加やオペレーションの複雑化によるコスト増加が懸念されます。
つまり、設備投資(CAPEX)の低減が期待できる反面オペレーションコスト(OPEX)が増加してしまい、結果的には大幅なコスト削減につながらないことが危惧されています。(※4)
NTTドコモ 海外通信キャリアに最適なオープンRANを提供する「5GオープンRANエコシステム」を協創(2021年2月3日)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2021/02/03_00.html
システムインテグレーターから見た5G
先に述べたモバイルネットワークの3つの特徴である仮想化、オープン化、モジュール化は、ITシステム構築の世界では比較的古くから行われています。
そのため、誤解を恐れずに言うならば、5GによってモバイルネットワークのIT化が進んでいると言えます。クラウド基盤を構築し(仮想化)、その上に必要な機能を専用ソフトウェアやオープンソースソフトウェア等を用いて必要な分だけ具備し(モジュール化)、各機能間のインタフェースを標準化された仕様を用いて具備する(オープン化)。まさに、このシステムインテグレーション手法がモバイルネットワークの構築にそのまま適用可能となります。
さらに、モバイルネットワークのIT化が進むことで、その上に構築するOSS(Operation Support System)やBSS(Business Support System)で既に使用されているオープン化技術のさらなる活用が期待できます。これによって、モバイルネットワーク構築の自動化や保守の自動化が比較的容易に実現可能となります。
求められる中立性
システムインテグレーションを本業とするNTTデータが5Gモバイルネットワークのインテグレーションに取り組んでいる理由は、モバイルネットワークのIT化が進んでいるからです。
しかし、それだけが理由ではありません。もう一つ大切なのは、NTTデータが特定ベンダーのプロダクトや自社ソフトウェアだけを取り扱わず、お客さまのご要望に応じてソリューションを組み上げることができる中立的な立場であることです。
仮想化、オープン化、モジュール化されることで、モバイルネットワークのマルチベンダー化が進みます。マルチベンダー化が進むと、各ベンダーの提案や主張が正しいかどうかを判断する役割、つまり、モバイルネットワークを中立的な立場で判断しインテグレーションする役割が重要となってきます。マルチベンダー環境での開発を経験された方であれば容易に想像できるかと思いますが、例えば問題発生時に各ベンダーの責任の押し付け合いがしばしば発生します。その結果、問題が長期化しエンドユーザーに多大な迷惑をかける恐れがあります。
こうした中立的な立場は特にグローバルのお客さまから期待されています。
加えて、お客さまの要望に応じたソリューションを提案するため、さまざまな企業と協業しています。例えば、NTTデータのドイツラボEnsō(※5)において、クラウドネイティブな5G SA(Stand Alone)ネットワークをMavenir様のプロダクトを用いて構築しました(※6)。また、エンタープライズ向けでは、こちらもNTTデータのドイツラボEnsōにおいて、NTTデータによる5Gを活用した企業向けの共創環境の構築と、NEC様とNTTで研究開発を進めているO-RAN仕様に準拠したNEC様の基地局装置を追加設置し、マルチベンダーによる5G環境の整備を行いました(※7)。
https://de.nttdata.com/newsroom/2021/ntt-data-nimmt-erstes-cloud-natives-5g-sa-netz-in-betrieb
NTTデータが開発する5Gモバイルネットワークソリューション
NTTデータでは、仮想化、オープン化、モジュール化の特徴を考慮し、さまざまなソリューションを開発しています(※8)。例えば、5Gで注目されているネットワークスライシングのオーケストレーションや各種アプリケーションの配置を一気通貫で実施する「5G Enabling Fabric(5GEF)」、5Gネットワークをサービスとして提供するフレームワークである「5G Network as a Service(5G NaaS)」、5GプライベートネットワークをO-RANやvRAN技術を用いて構築する「5G Campus Network」などを開発しています。
図2:5G Enabling Fabric(5GEF)ファンクショナルダイアグラム
図3:5G Network as a Service(5G NaaS)ファンクショナルダイアグラム
最後に
NTTデータでは、5Gモバイルネットワークの仮想化、オープン化、モジュール化の3つの特徴に着目しソリューションを開発しています。これら3つの特徴に対して、NTTデータが保有する技術や経験を活用することで5Gの普及に貢献したいと考えています。