NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
「デジタルマーケティング」って何?
「デジタルマーケティング」の定義
デジタルマーケティングとは、文字どおり「デジタルデータを活用したマーケティング」のことです。ただ、これでは何のことか分からないので、「デジタルデータ」と「マーケティング」に分けて、もう少し深掘りしてみます。
「デジタルデータ」とは、直訳すれば「コンピューターで処理可能な映像・音・数値・テキストなどのデータ」のことです。ただ、マーケティングの分野においては、消費者がスマートフォンやタブレット、IoT機器などの利用で得られる行動履歴や検索履歴、GPSなどによる位置情報、さらにはリアル店舗での購買行動や来店履歴などのデジタルデータの総称として用いられます。
「マーケティング」にもさまざま定義がありますが、ここでは「顧客にとってよりよい購買体験や消費体験を提供することで顧客との信頼関係を深め、その結果として企業が収益を拡大させていくための一連の手法」と定義しておきます。企業収益はあくまで結果であって、「顧客にとってよりよい購買体験・消費体験を提供する」ことに主眼が置かれているのが、マーケティングにおける大事なポイントです。
以上を整理して、本記事におけるデジタルマーケティングの定義は以下のとおりとします。
【デジタルマーケティングの定義】 |
混同しがちな「WEBマーケティング」と「デジタルマーケティング」
デジタルマーケティングと似た用語として「Webマーケティング」があります。両者は混同して用いられがちですが、取り扱う「範囲」が異なることに注意が必要です。
Webマーケティングとは、端的に言うと「Webやデジタルチャネルなどオンライン上で完結するマーケティング」のことです。
一例として分かりやすいのがECです。ECでは、広告を認知してからクリックして商品を閲覧し、カートに入れ、決済をするまでの一連の購買行動がオンライン上で完結しています。たとえば、以下のケースがWebマーケティングに該当します。
【Webマーケティングの例】
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【デジタルマーケティングの特徴】
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念のために補足すると、Webマーケティングはデジタルマーケティングの一手法であり、両者は異なるものではありません。ここでは、デジタルマーケティングがWebマーケティングより広い概念であることを理解しましょう。
デジタルマーケティングが重要になった「3つの背景」
ところで、今日そのデジタルマーケティングの必要性が叫ばれているのはなぜでしょうか?その背景を、大きく三つに分けて説明します。
<背景➀>デジタルデータの種類・量が爆発的に増加した
『令和2年版情報通信白書』(総務省)によると、2019年のスマートフォンの個人保有率は67.6%と、5年前(2014年)の44.7%から大きく上昇しています。20代から50代に限定すると、実に9割前後もの人がスマートフォンを保有しています。
加えて、一台のスマートフォンから取得できるデータの種類や精度も、年々向上しています。さらには、近年ではスマートスピーカーやスマート家電などIoT機器も生活に身近なものになりました。
このように、スマートフォンをはじめとするデジタルツールが生活に欠かせないツールとして広く普及したことで、消費者ひとりひとりの行動や趣味嗜好などのデジタルデータが日々生成され、膨大なビッグデータとなって日々蓄積されています。そのデジタルデータをマーケティングに活用しない手はない、というのが一つめの背景です。
<背景➁>消費者が情報の取捨選択に困るようになった
いま述べたように、インターネット、とりわけスマートフォンの普及によって、消費者はあらゆる情報に簡単にアクセスできるようになりました。そのことは消費者があらゆるお店や商品を選択できるようになったというポジティブな側面もありますが、一方ではネット上に膨大にあふれる情報を消化しきれず、かえって選択に困っているという状況も生まれています。
そのように、日々膨大な情報に囲まれている消費者に対して、消費者の嗜好や行動パターンに合わせて商品やサービスをおススメしたり提供したりすることが非常に大切になっています。そのことも、デジタルマーケティングの重要性を高めている背景として挙げられます。
<背景➂>リアルの購買行動にスマートフォンが入り込んだ
スマートフォンなどデジタルツールの普及は、ECなどWeb上で完結する購買行動の増加をもたらしただけでなく、リアルの購買行動にも大きな変化を与えています。
たとえば、リアル店舗の店内で実際の商品を見ながら、その場でスマートフォンを取り出してその商品に関する口コミをチェックしたり、価格比較サイトで価格を見比べたりする購買体験は、もはや当たり前になりました。また、SNSや動画チャットアプリなどを用いて、店頭にある商品を映しながら「どれを買ったらいい?」などと家族や友人に相談するようなケースもよく見かけます。
このように、消費者自身がリアルな店頭でもスマートフォンを片手に、オンラインとオフラインを行き来しながら商品やサービスを選択するようになったことは、スマートフォンがもたらした大きな購買行動の変化といえます。この変化に合わせて、その消費者にとってより価値のある情報をタイムリーに提供し、満足度を高める施策が必要になってきたこともデジタルマーケティングに注目が集まっている背景の一つです。
デジタルマーケティングの導入事例
このように近年重要性が高まっているデジタルマーケティングですが、実際にはどのような導入事例があるでしょうか。Webマーケティングと混同しないよう、リアル店舗における導入事例を中心に紹介します。
<事例➀>ジオフェンシング(ロケーションプッシュ)
スマートフォンのGPSやビーコンなどを通じて取得した位置情報を活用して、来店した顧客に対してアプリからリアルタイムでクーポンを配布するマーケティング施策です。顧客の属性に合わせてその場で使えるクーポンを配布することで、購買動機を喚起する施策として、導入する企業が増えています。
<事例➁>JR西日本SC開発「WESPO(ウエスポ)」
「ルクア大阪」「天王寺ミオ」などJR西日本グループのショッピングセンター(SC)の運営・管理および開発を行うJR西日本SC開発(以下「JR西日本」)では、共通ポイントサービス「WESPO」を導入しています。
WESPOのアプリ上には、JR西日本が運営する13のSCのスタンプが表示されます。その表示のしかたが、アプリに登録された顧客の属性を、購買情報やポイントの使用履歴、イベント参加履歴などと連携させることによってパーソナライズドされているのが大きな特徴です。
このWESPOによって、JR西日本では各SCを横断した共通のポイント施策と、複数のSCに実際に足を運んでいただく個別のポイント施策を、アプリ内で共存させるマーケティング施策が実現しました。さらに、商圏単位の局地戦からチェーンとしての競争力を活かしたこれまで以上に効果的なアプローチを実現させることができました。
<事例➂>東急ハンズ「デジタル接客サービス」
最後に、よくあるBtoCマーケティングとは少し異なる事例として「デジタル接客サービス」をご紹介します。
東急ハンズ新宿店 特設ブース
写真は、東急ハンズとNTTデータが共同で実証実験した、ヘルス&ビューティフロアでのデジタル接客ブースの様子です。ブースに設置されたモニターには、ビューティーコンシェルジュ役のアバターが映し出されています。売り場を訪れた顧客が画面からアバターを呼び出すと、店舗のバックヤードや本社にいる専門スタッフが遠隔でアバターを操作し、接客を行う仕組みです。
このデジタル接客によって、経験やノウハウを持つスタッフの接客機会や活躍範囲が広がることや、省スペース化などのメリットが期待できるのは言うまでもありませんが、効果はそれだけではありません。ブースの中に登載されたカメラで接客の様子を撮影し、顧客の性別や年代など属性や感情をAIで推定できるほか、音声認識のエンジンによって接客のやりとりもテキスト化されます。それらのデジタルデータを解析し、接客品質の向上やマーケティング施策に活用することができるのです。こういった事例もデジタルマーケティングの一つと言えるでしょう。
顧客視点で必要なデジタルマーケティングを考えよう
デジタルマーケティングについて、言葉の定義から必要とされている背景、具体的な導入事例までをみてきました。思っていた以上に私たちの普段の生活に広く関わっていることがお分かりいただけましたでしょうか?
デジタルマーケティングの手法は多岐にわたるので、「何を導入したらいいのか……」と迷ってしまうかもしれません。ただ、冒頭でご説明したようにマーケティングの本質とは「顧客にとってよりよい購買体験・消費体験を提供する」こと。そのように顧客視点で考えると、自社にとって必要なデジタルマーケティングの手法がみえてくるかもしれません。