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サービスの投資・提供サイクル、素早く回せていますか?
神奈川県の小さな商店街のお米屋さんがQRコード決済サービスを導入しました。
そう、私(中田)の実家です。
駅から徒歩30分、クレジットカード決済端末さえなかった家族経営で成り立つ商店にまで時代の波が到来しました。
なぜでしょうか。もちろんQRコード決済ローンチ当初の大々的利用者還元や加盟店手数料無料という理由は明白です。しかしその後もQRコード決済が日常生活の決済手段の1つとしてあり続けている理由はなんでしょうか。
サービス提供者が、顧客に向けたサービスへの投資、提供サイクルを短期間に回し、ユーザビリティを継続的に向上させ、顧客を離れさせなかったことが大きな要因の1つでしょう。
あなたのスマホに入っているアプリでも、頻繁にアップデートがあり、便利なUI・機能が提供されていると感じたことはありませんか?
QRコード決済サービスなどのモバイルペイメントや、チャレンジャーバンク(※1)、広く言えばGAFAなど現代のテック企業では、サービス提供のサイクルをスピーディーに回しています。事業環境の変化にスピード感を持って対応でき、顧客への価値提供をタイムリーに行うことができるのです。
一方で、こういったサービスの投資判断、提供サイクルが遅いことを課題に感じている方も多いのではないでしょうか。
「社内の情報連携が遅く、経営判断のための情報をスピーディーに集められない」「スマホアプリを導入したが、アップデートは年に1回程度しかできていない」といった声もよく聞きます。
銀行免許を取得して銀行サービスを提供する事業者だが、既存の銀行のように店舗は持たず、スマホアプリなどのデジタルなタッチポイントを通して、顧客に細やかな金融サービスを提供していることが特徴。
意思決定や仮説検証のためにはデータが必要不可欠
サービスの投資判断、提供サイクルが遅い主な原因は、以下の3つだと考えられます。
1.社内の意思決定プロセスが煩雑
顧客には関係のない社内意思決定プロセスに多くの時間をかけていませんか。
意思決定者からの承認をもらえるように、「手堅く無難なアイデア」をまとめ、意思決定者配下の上長にもお伺いを立て、手の込んだ会議資料を作成する。そして何層もの承認を経て、ようやく意思決定者にたどり着く。本来サービス開発に専念するための多くの時間が奪われてしまいますし、また意思決定者の承認を得る頃には競合他社がすでに類似サービスをローンチしているリスクもあります。
2.プロトタイピング・仮説検証のサイクルを回していない
顧客、市場に出すまでに完璧さを求めてしまうあまりに顧客からのフィードバックを得ることなく、社内だけでの検討を続けてしまうことが多いのではないでしょうか。
全ての画面、機能に一切の妥協を許さず、多くの時間をかけて作りこんでからではないと市場に出すことができないとなると、スモールスタートで検証、改善のサイクルを回すことができません。
3.サービス・アプリケーション間のデータ流通ができていない
意思決定に必要なデータを蓄積、集約、分析できる環境が整っていますか?
顧客接点がアナログでデータ化されておらず、指標(経営判断に使える顧客データ)をリアルタイムで見ることができない。または、顧客のデータや自社の他サービスのデータを使いたいのに所在が分からない、活用するハードルが高い、という問題もよく見られます。
これら3つの原因は相互に関係しています。特に3のデータ流通基盤は、1.2.の根本原因です。データが伴っていない状況で、意思決定や仮説検証のサイクルを回すことはできません。
今回は、NTTデータが考えるデータ流通ついてご説明します。
データの“商品化”と“市場への出品”、“宣伝活動”で社内のデータ流通を加速
データ流通基盤に求められるのは、「データの利用者が使いたい形で、使える場所にわかりやすくデータがあり、利用者がリーチできる」ことです。データを商品、流通基盤を市場として例えて、データ流通の仕組みを考えてみましょう。
そもそもデータはサービスへのフィードバック改善のためにあるといっても過言ではありません。それにも関わらずデータを収集し、消化するまでを個々のシステムのみで完結してしまっているような状態では宝の持ち腐れです。個々のシステムに蓄積されたデータをフィードバック改善分析のために他システムにも流通させる必要があります。そのために従来構築されてきたのがDWH(Data Ware House)、つまり企業内の複数システムから大量のデータを時系列で蓄積するシステムです。しかし、DWHを構築してもほとんど使われないという話をよく耳にします。各システムに蓄積されているデータはシステムの目的に特化されたデータとなっており、他の誰かがデータを利用するようには設計されていないのでそのまま使われることはないのです。つまり市場において、需要と供給がマッチされない状況に陥っています。このため、需要者である分析チームにそのまま渡しても、「マスタとトランザクションデータを結合しておいて欲しい」や、「名前解決しておいて欲しい」等という声があがってきてしまいます。そこで、名寄せやMDM等で”データの商品化“をして、分析チーム等の他のチームから見てすぐ使えるもの、つまり売れる”商品”に加工することが必要です。また、“商品”の素材となるデータを生成しているシステム担当者と、そのデータの利用者である分析者の間をつなげる役割を担うDMO(Data Management Office)を立ち上げます。DMOはさまざまな役割を持ちます。
図1:DMO
たとえ”商品化”していても、分析者はそのデータがどこにあるのかわかりません。分析基盤はどこなのか、DBはどこなのか、“商品”の所在を明らかにする必要があります。そこでDMOは“商人”となって、マーケットプレイス、すなわち”市場”を用意します。また、“商品”がきちんと売れるために必要となる品質担保のため、不正な取引や欠陥のある商品を退場させる“取引所”の役割も担います。また、“商品”を知ってもらうために勉強会やわかりやすい案内を作り“宣伝担当“も対応するのです。彼らは”商人“であり、”取引所“であり、”宣伝担当者“となって、”商品”と分析者の間の需給をマッチングさせます。
そうすることで、”商品“に分析者がリーチできるようになり、初めて”商品“が分析者に手に取って活用してもらえるようになるのです。
このように各システムで蓄積されたデータが分析者に使ってもらえるようになることで、現場で蓄積された価値あるデータが投資判断を容易にし、サービスのアップデートがされやすくなる好循環を作ります。結果、事業環境の不確実性に対してより柔軟に対処可能になります。
データ流通基盤を支援するABLER
新しい価値の創出に欠かせないサービスの投資判断、提供サイクルの高速化には、データ流通基盤を構築するだけでなく活発に活用できる環境作りが重要です。
筆者が携わるABLER®(※2)では、名寄せやMDM(※3)を含めたDWH構築、DMO立ち上げ・運用を含めて社員皆が社内にあるデータを使えるデータ流通基盤の実現を支援しています。単なるソリューション導入にとどまらず、お客さまが価値あるデータを活用し意思決定ができる環境を実現するDXパートナーとして、NTTデータは今後もお客さまのデータドリブン経営に貢献していきます。
図2:ABLER
マスタデータ管理。マスタデータのクレンジングや標準化を行なう継続的な取り組み。