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2022.4.26業界トレンド/展望

IOWNから始まるデジタルツインが変える未来

NTTの新R&D構想IOWN。NTTデータはIOWNで開発されている技術を用い、デジタルツインによる高度なシミュレーションの実現や社会全体のDX、そして新サービスや産業の創出を目指している。都市デジタルツインの先駆的な研究プロジェクトを主導するMIT Media Labの取り組みを交え、デジタルツインが変える未来について探る。
目次

IOWNで実現するソサイエティDXが創る世界

NTTグループが推進する次世代ICT基盤構想「IOWN」(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)をご存じだろうか。
IOWNとは、光電融合技術と光通信技術をベースにした次世代通信・コンピューティング融合インフラのこと。圧倒的な電力効率の下で実現する低電力消費、大容量低遅延が、既存インフラに対し大きな優位性を持つ。目標とする消費電力効率は現在の100倍、伝送容量は125倍、遅延低減は200倍というICTインフラであり、2030年目途に実現を目指し研究開発が進められている。

図1:IOWNとは

図1:IOWNとは

IOWNを構成するさまざまな技術の中で、特に重要なものを3つ紹介する。

1つ目のオールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、ネットワークの装置内部にあるカードやチップのすべてに光技術を導入している。現在、拠点間の通信に光技術が使われているが、計算処理には光信号を電気信号に変えて処理しなければならない。つまり通信と処理で都度光と電気の変換処理を行っており、それがロスになっている。この変換処理をできるだけ無くしていくのが光電融合技術だ。「サーバー間やチップ間だけでなく、チップ内の通信まで光化を進めることで低電力消費、低遅延化を図ることができます」と、NTTデータ技術革新統括本部IOWN推進室長の吉田は説明する。

2つ目の次世代データハブは、APNを活用し「仮想データレイク」を実現させる。仮想データレイクは、広く分散するデータを1カ所にあるかのようにアクセスさせるものだ。さらに、所有者が異なるデータを扱う場合に課題となるセキュリティ担保のため、データやアルゴリズムを秘匿したままデータの探索や共有、分析が可能になる「サンドボックス」という技術を開発している。「これらの技術により高い効率性と安全性を兼ね備えた次世代のデータ流通のハブを実現しています。」(吉田)

3つ目はデジタルツインコンピューティング(DTC)だ。一般的な「デジタルツイン」は、現実空間の人やモノのコピーをデジタル空間に作り、それを使ってさまざまなシミュレーションや分析を行い、現実世界へのフィードバックをすることで最適化を図るものだ。
デジタルツインコンピューティングは従来のデジタルツインの概念を発展させるものだという。吉田は「NTTデータはIOWNの中でデジタルツインコンピューティングを最も重要視しています。APNや次世代データハブをインフラに使うことで単一のデジタルツインだけではなく、多様な複数のデジタルツインを自在に掛け合わせることができる環境を構築したいと考えています」とデジタルツインコンピューティングに取り組む考えを話す。

もう1つ、NTTデータのデジタルツインコンピューティングで特徴的なのが「サイバーファーストである」ということだ。一般的なデジタルツインでは現実空間のデータ収集から始め、次にサイバー空間を作り上げていく。これに対しNTTデータは、理想的な世界観や要求条件をビジョンとして明確化しサイバー空間上に組み上げ、そこでシミュレーションを繰り返し、デザインする。そしてその仕組みを現実空間に反映するという考え方だ。さらに現実世界からフィードバックを受け、サイバー空間で改善を行い再度現実空間に反映する流れを繰り返すことで、行動する前に結果を知ることが可能になる。サイバー空間上ならば何度でも条件を変えられるので、低コストかつ短時間でより適切な結果を導き出すことができる。NTTデータは社会全体のデジタルツインコンピューティング化と、それを通じた社会全体のDX、「ソサエティDX」を目指す。

図2:デジタルツインコンピューティング

図2:デジタルツインコンピューティング

ソサエティDXを実現する社会全体のデジタルツインコンピューティング化

社会全体のデジタルツインコンピューティング化実現のためには課題がある。複数のデジタルツインを融合させるには、超大規模化してしまうこと、オーナーシップが異なるデジタルツインデータを扱わないといけないこと、組み合わせるデータが不整合・不統一でありうること、複数のデジタルツインを最適化しなければいけないことなどだ。「これらの課題を解消するため、『データ連携基盤技術』と『DTCフレームワーク技術』を開発しています」と吉田は話す。
「『データ連携基盤技術』は、データの二次流通や目的外利用を防止するセキュリティ機能を有した安全かつ高速なデータ連携技術で、IOWNで開発しているAPNと次世代データハブを活用し実現します。『DTCフレームワーク技術』は、複数のデジタルツイン間のデータの自動構造化や融合を可能にするものです。これもIOWNのデジタルツインコンピューティング技術を活用していきます。」(吉田)

では、社会全体のデジタルツインコンピューティング化が実現されると、具体的にはどのようなことが可能になるのか。一つの事例としてNTTデータは、建物単位でリアルタイムでの人流分析と予測をするサービスを開始している。フードロスの問題解決に活用する場合、人の流れや天気のデータ、飲食店の来客実績データを基にしたデジタルツインを融合して来店予測をし、仕入れや配膳量に反映することでフードロス削減につなげていく。
吉田は「飲食店だけでなくフードサプライチェーン全体でデジタルツインを融合することで、社会全体でフードロス改善を実現するさまざまなサービスが構想できます。デジタルツインを融合させ新しいサービスや産業を創り出していくことが、NTTデータがソサエティDXにチャレンジする目的の一つです」と強調する。

実現するにはNTTデータ単独の取り組みでは限界があり、さまざまな技術やデータを持つパートナーや顧客とのコラボが欠かせない。そのためにスタートアップ企業とデジタルツイン共創プログラムを推進し、同時に大学や研究機関との連携を進めていく方針だ。
スタートアップ企業との連携は昨年、デジタルツイン構築のための技術、データを持つ企業の発掘・共創を目的にオープンイノベーションサービス「Creww」を活用したアクセラレータプログラムを実施し、2社との協業に合意している。「今後もソサエティDXを実現するために様々な課題を共に解決するスタートアップ企業との連携を推進していきたいと考えています」と語る。

都市設計と合意形成を可能にするCity Scope

NTTデータはMIT Media Labと研究開発のパートナーシップを締結しており、その取り組みの一つとして、同LabのCity Scienceグループを率いているKent Larson教授と都市デジタルツインについての共同研究を進めている。具体的にはMIT Media Labで開発しているCity Scopeというデジタルツイン技術の応用システムをローマの都市開発に適応する実証実験を行っている。「Larson教授が進める研究内容を知れば、デジタルツインが変えていく都市の未来を感じることができます」と吉田室長は話す。

City Scopeは、インタラクティブな都市設計と合意形成を可能にするデータ駆動の意思決定支援プラットフォームだ。Larson教授は「将来、最も成功を収めるのはレジリエントで高パフォーマンスなコミュニティーネットワークに進化する都市だ」と予測している。また「現在の静的でレスポンシブでない都市計画のプロセスを、リアルタイムで包括的な都市型のプログラミングプラットフォームに置き換えなくてはならない」と強調。この考え方に沿った形で未来を探求するのがCity Scopeプロジェクトだという。

図3:City Scopeプロジェクトイメージ

図3:City Scopeプロジェクトイメージ

一方、区割り(ゾーニング)や土地利用に関する旧来の法規が住宅コストの上昇を招き、イノベーション導入の障害になっている。Larson教授は「時代遅れなシステムに代わり、アルゴリズムに基づいたゾーニング戦略を探求しています」と説明する。「人々の居住空間における人間の行動をきめ細かく理解するため、新たな環境センサーとデータ視覚化ツールを構築中です。また、そこで収集したデータのプライバシーを損なわずに、公共の利益のために利用するための新たな戦略も構築しています」(Larson教授)。

気候変動、SDGsへの対応にも活用が可能

地球温暖化は重要な課題だ。Larson教授の所属するCity Scienceグループは、地球温暖化の大きな原因であるCO2の排出削減のための施策の効果を可視化できるプラットフォームのプロトタイプを作成した。ここではセクターごとに現在のエネルギー需要を視覚化できる。また、電力系統の電源に関連したCO2排出状況を見ることもできる。たとえば、電気自動車の利用が増加すると結果的にCO2の排出が減るが、バッテリーや電子機器などの内包エネルギーとその地域に供給される電気がほとんど化石燃料に由来することを考えると改善効果は小規模にとどまる。
しかし、働く人が徒歩や自転車で通勤できるような職住近接を達成できればCO2排出はさらに削減できることがわかる。「このプラットフォームを使えば人々の日常生活に必要な学校や買い物、娯楽、職場や文化的な場所など、あらゆる施設を近隣に配置することで得られる効果も検証できます」(Larson教授)

図4:CO2の排出削減のための施策の効果を可視化できるプラットフォームのプロトタイプ画面

図4:CO2の排出削減のための施策の効果を可視化できるプラットフォームのプロトタイプ画面

Larson教授は、「重要なのはコミュニティがエビデンスに基づいて構築され、常にデータを基盤に次のステップを模索することです」とし、City ScienceグループでもSDGsで掲げられている17の目標の実現にも寄与するさまざまなソリューションのプロトタイプ・モデルのシミュレーションに着手している。

NTTデータはMITを含むさまざまなパートナーとともに、社会全体のデジタルツインコンピューティング化、そして新サービスと新産業の創出を目指す。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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