マイナンバーを“当たり前”に使える世界へ
NTTデータは、これまで社会性の高いITシステムを数多く構築し、お客様に提供してきました。それらは行政の業務効率性を高め、国民の利便性を向上させることに寄与し、ひいては社会に貢献するものであったと考えています。しかしながら、社会全体が機能的に連動し、システムの利用者である住民や企業の方々がもっと便利で、豊かで、安心な社会の受益者になれたかどうかと問われれば、未だ道半ばかもしれません。
そうした中で、マイナンバーカードの発行数が大きく伸び国民の多くが保有するに至っています。これは、活用のステージに大きくシフトすることを意味します。即ち、マイナンバーカードを活用したサービスが生み出される機会が増大するだけでなく、マイナンバーカードのIDにあらゆる情報・機能をつなぎ込むことで、あらゆる領域を横断してこれまでの仕組自体を変革できるキーアセットになるとも考えています。
利用者目線の行政改革をはじめとして、グリーン社会やスマートシティでの活用などマイナンバーは未来分野を仕組みで変革する可能性を秘めているのです。
ここでマイナンバーの現状を振り返ってみましょう。
マイナンバー制度創設時に、マイナンバーの活用領域は「税」「社会保障」「災害対策」に限定されました。他方で普及が進んでいるマイナンバーカードは、領域の限定がなく写真付き身分証明書として「本人確認」やオンライン上の「本人認証」に活用がされています。
マイナンバー/マイナンバーカードの今後の用途拡大・利便性追求の方向は「行政事務へのさらなる拡大」「マイナウォレットあるいはスマホアプリとの連動」「属性認証」「ポータビリティ性」等々が挙げられます。現状のマイナンバー/マイナンバーカード活用は進化の途中にありますが、マイナンバーカードの保有者増をきっかけに、特にマイナンバーカードは「保有から活用へ」のシフトチェンジがますます進んでいくはずです。
我々が用途拡大・利便性の追求の先で具体的にイメージしているのは、法・制度改革と技術が両輪で革新を重ねることで、マイナンバー/マイナンバーカードの社会のあたりまえのインフラとなり、そこから「エンドユーザー視点で“リ・デザイン”されていく」——そんな世界観です。生活・暮らし・社会課題のあらゆるシーン・テーマのなかで、国民・企業の皆様が“当たり前に使えている”という、サステナブルなサービス群を構築していきたいと考えています。
図1:NTTデータが考える「マイナンバー」の未来想像図
マイナンバー活用の世界に見る「未来シーン」
さて、ここからは将来的にマイナンバーが生活に溶け込んでいくであろう、いくつかの「未来シーン」を紹介させていただきます。1つ目のストーリーは「父の訃報」です。
ある日、父親の突然の訃報が届いた。コロナを理由に数年帰省していなかった実家に向かうも語りかけない父、そして現実に向き合えない自分。手入れされた庭のツツジだけが色味を帯びて見える。葬儀を追えた途端、猛烈な悲しみと申し訳なさが、私の胸を締め付けた。
そんなある日、ふとスマホを見ると、父の銀行からの戸籍情報連携の依頼メールが届いた。返信もほどほどに整理されたアルバムに写る父の姿に涙が止まらない。
それからしばらく経ち、悲しみが日常の忙しさで覆い隠される梅雨頃、銀行から父の名義で私の口座に入金されるという。そうだ、このお金で父のお墓をアジサイで満たそう。今となってはこれくらいの親孝行しかできないけれど——父さんありがとう。
現状の相続手続においては、被相続人=亡くなられた方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、相続人全員の現在の戸籍謄本が必要です。自治体・法務局・金融機関・保険事業者など、いろいろな関係者から情報入手して手続きしなければなりません。
しかしマイナンバーには情報を紐付ける力があります。このケースでは、自治体でお父様の死亡届が受理された後、自治体のバックヤードで情報連携がなされました。金融機関から情報連携の承認申請が届き、それも承認されれば、後の手続きもほとんど自動的に進んでいきます。
図2:未来シーン「父の訃報」(現状とマイナンバーによる未来)
次の未来シーンは「避難のかたち」です。
両親不在の昼間、集中豪雨のニュース。村役場から避難指示があった。避難ルートの案内がスマートフォンに届く。大きなリュックに荷物を詰め込む祖母。「マイナンバーカードだけ持っていけば大丈夫。早く避難しよう」——祖母の手を引いて避難所に指定された公民館へ行った。
マイナンバーカードをタッチして入場。密にならないように配慮されている。自治体の方々が配膳してくれた夕食は、私のアレルギーに配慮され、祖母には消化のよい食事といつもの薬も届けられた。大きな不安と少しの寒さの中で、祖父と自治体の方々の、例えるなら毛布のような温かさに包まれて目が覚めたとき、両親が迎えにきた。1枚のカードだけど、みんなをつなぐ力がある。
災害時、避難者が自治体などから適切な対応を受けるためには、避難所で自らの情報を提供しなければいけません。しかしマイナンバーカードで医療機関と住民票の情報をつなげられます。避難所生活が始まっても、日頃から使っていたお薬やアレルギー食材に関する情報が結びつけられます。家族が別々の避難所にいたとしてもマイナンバーカードから家族・世帯単位の情報にアクセスでき、誰が今どこに避難しているのか瞬時にわかるようになることが考えられます。
また、予めマイナンバーカードをスマホに搭載していただければ、災害時にはスマホのみ持参することで対処することができるようにもなります。
図3:未来シーン「避難のかたち」(現状とマイナンバーによる未来)
こちら最後の未来シーン「夫の健康」です。
夫は本当に不摂生。朝早くに出社、夜は飲み会。たまの休みは家でゴロゴロ。私の注意もうわの空である。
長男が彼女を連れてくる日。今日は夫の様子がいつもとどこか違う。緊張しているのだろうか。いや、長年連れ添っている自分だから違和感がわかる、そんなとき突然スマホにメールが届いた。長男からじゃない、「家族のヘルス」アプリからだ。
アプリ「旦那さん、今日は飲酒・運転は絶対駄目。少しでも呂律が回らないなら、病院に行きましょう。非常の場合は救急車を呼んで」……。
長男の予定をキャンセルして、嫌がる夫をなだめ病院へ。「手遅れになるところでしたよ」とお医者さん。「アプリのおかげ」と言う夫。でも無事でよかった。あなたの一番の健康センサーは私なのよ。感謝しなさい!
これはアプリが夫の健康状態を即座に判断し、緊急事態を知らせてくれた事例です。アプリは通常の健康状態であっても「もっと運動しよう!」などとレコメンドしてくれます。現状も多くの方が定期健康診断を受けていると思いますが、忍び寄るリスクを検知しきれてはいません。マイナンバーで「医療機関のヘルスケア情報・健康診断情報」「企業での勤怠情報」「日常的に測るバイタル情報」等を過去から現在までつなぎ合わせれば、日常における病気・事故のリスクが軽減できるでしょう。複合的かつ臨床的で、きめ細やかなアドバイスが提供できるようになると考えています。
図4:未来シーン「夫の健康」(現状とマイナンバーによる未来)
マイナンバー活用の取り組みを加速させる——NTTデータは“未来志向”
いかがでしたでしょうか。これらの未来への転換、それがNTTデータの実現したいマイナンバー/マイナンバーカードのエンドユーザー視点でのリ・デザインです。もちろんこれ以外にも当社は、未来の成り行きから考えられる多くの活用シーンを想像し、その実現に向けて歩んでいきたいと考えています。
例えば「スマートシティ」では、普通自動車と自動運転車が並存する安全な交通網の構築に向け、ドライバーの運転資格・事故歴・信用歴・健康状態等が必要です。また、「グリーン社会の実現」に向け、これから農業に従事する方がマイナウォレット上で農作物を売るだけではなく、トウモロコシのバイオ燃料、無農薬、トレーサビリティが付与された農産品なども取引できるようになるかもしれません。
ここまでは未来の話をさせていただきましたが、具体的な取り組みも進んでいます。
引越時の「行政への転出・転入手続き」「水道光熱費などのライフライン移行手続き」「金融機関などへの住所変更手続き」などが面倒だと感じたご経験はみなさんもあるのではないでしょうか。当社が提供する「引越しワンストップサービス」では、マイナンバーカードを用いた認証を行うことで、住所変更手続きをポータルサイト上でワンストップ化しました。
マイナンバーは社会を変えられるのか——。その答えは「変えられる」です。NTTデータはマイナンバーを活用した取り組みを“未来志向”でこれまで以上に加速させていきたい、と考えております。
図5:未来におけるマイナンバーの活用領域
本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。