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2023.4.25事例

自らのDXで得たノウハウを地域へ還元
~NTT東日本がめざすDXのかたちとは~

DXといってもなにをしたらよいのかわからない。地域の中小企業の多くが直面する課題だ。NTT東日本は、自らの課題であるDXによる業務効率化に取り組み、その成果・ノウハウをそういった地域の顧客に還元しようとしている。同社は地域課題を解決し価値創造をするソーシャルイノベーション企業への転換をめざしており、その軸の一つとなるのがDXによる地域課題の解決である。地域課題の解決に向けたDX推進を担う、NTT東日本 ネットワーク事業推進本部の田場川氏と、それを二人三脚でサポートするNTTデータの大林に、NTT東日本がめざすDXと、その実現に向けての課題や取り組みの内容について話を聞いた。
目次

自社で培ったDXノウハウを地域課題の解決に活かす

NTT東日本といえば電話や光ブロードバンドサービスといった通信事業のイメージが強いだろう。しかしいまや同社は、東日本エリア17都道府県に拠点を展開する地域密着型企業であり、その事業の柱の一つとなるのが地域活性化だ。地方自治体や企業、住民の課題解決をミッションとしている同社。時代とともに移り変わる多様なニーズに対応すべく、自らの技術力を高めることで企画力と実践力のともなったDXを推進することとなった。その中心的な役割を担っているのが、NTT東日本 ネットワーク事業推進本部 設備企画部のビジネスデザイン部門である。

ネットワーク事業推進本部 設備企画部の田場川 義裕氏は、取り組みに至る経緯について次のように振り返る。

東日本電信電話株式会社 ネットワーク事業推進本部 設備企画部 田場川 義裕 氏

東日本電信電話株式会社 ネットワーク事業推進本部 設備企画部
田場川 義裕 氏

「通信設備を支える我々設備部門においても、人員不足といった課題に対し、かねてよりDXの必要性を感じていました。一方、当社では地方創生などのビジョンのもと、地域課題の解決にも取り組んでいます。そこで、我々自身がDXを進めることで、ノウハウや技術を地方の企業や団体へと還元し、地域活性化に貢献することもめざし、まずは自分たちのDXに取り組むことになりました」(田場川氏)

ネットワーク事業推進本部が管轄する業務は、電柱ケーブルをはじめ各地域の電話局に設置されている通信装置の構築から保守、コールセンターの運営など多岐にわたっている。重点的に取り組んだテーマは、以下の業務であった。

  • 開通
  • 故障修理
  • フロント(コールセンター)
  • 渉外業務
  • 所内(ネットワーク)
  • 構築(アクセス)

これらの自社業務におけるDXの推進は、部門間にある働き方や風土の違いを超えてネットワーク事業推進本部全体でDXを進められるよう、推進役を“ビジネスデザイン部門”が担うこととなった。

そして、この取り組みを二人三脚でサポートしているのがNTTデータである。同社テクノロジーコンサルティング事業本部の課長、大林 源は、両社のDXにおけるパートナーシップのきっかけについて次のように説明する。

テクノロジーコンサルティング事業本部 デジタルテクノロジー&データマネジメントユニット デジタルテクノロジーディレクターグループ 課長 大林 源

テクノロジーコンサルティング事業本部
デジタルテクノロジー&データマネジメントユニット
デジタルテクノロジーディレクターグループ 課長
大林 源

「NTT東日本がDXを進める際に、どのように実践していくべきかという相談を受けたのが最初のきっかけになります。どんなDX推進組織をつくるかを一緒に考えるなどビジネスデザイン部門の立ち上げから支援し、部門設立後も日々の実践に参画しています」(大林氏)

内製化に注力し、NTTデータの豊富な経験やノウハウに着目

NTT東日本がめざすDXの実践については、NTTデータが戦略、実行、技術の三つの観点から課題を示し、それぞれの解決策を示していった。

まず一つ目の「戦略」については、DXの目的やあるべき姿を明確化したうえで、どのような体制で推進しどういった人財を育成・配置していくかを突き詰めた。次の「実行」においては、DX推進のマインドの醸成や、技術に基づいた具体的な施策を検討。そして3つ目の「技術」の観点からは、DXを推進するための技術力向上のため、内製化に注力することとなった。この点について、田場川氏はこう説明する。

「これまでソフトウェア開発は基本的にベンダーに外注しており、その手法はウォーターフォール開発がほとんどでした。お客さまの声を受け、アジリティ高くサービス開発することには不向きです。また、DXには業務と技術双方が重要になります。そこで、業務に関する課題解決などのコンサルティング的な要素と、それを実現していく技術力の双方を持つNTTデータの協力を仰ぐこととなったのです。NTTデータは大規模システム開発の豊富な実績があり、ソフトウェア開発全般はもちろんのこと、アジャイル開発にも多くの経験、ノウハウ、知見を有する点もポイントでした」(田場川氏)

現場での対応力を重視し段階的にDXを推進

2019年にDX推進組織としてビジネスデザイン部門を立ち上げるのに合わせて、戦略を策定し、組織や人財に関する定義の仕組みを整えたのがファーストステップだった。そのなかで最初に取り組んだのが人財の育成である。具体的には、DX人財育成カリキュラムとして「DXスタジアム」を立ち上げた。DXスタジアムでは、地域支店の若手も含めた立候補で受講者を決め、各自が自分の業務の課題を持ち寄る。そして座学でDXについて体系的に学んだあと、実際の自分の業務課題をDXで解決するのだ。立ち上げ当初はNTTデータも講師として参加し、ソースコードレビューなども実施。3か月かけてPoCを実施する育成プログラムだ。

人財育成の仕組みができた後、実際の業務のDXに向け既存の業務を見直し“as is”と“to be”を設定。要件技術を検討しながらDXを進めていった。また、これと併行してアジャイル開発の仕組みについても整えた。

NTTデータのサポートについて田場川氏は「いずれの取り組みも、NTTデータが寄り添ってくれて、その都度に適切なアドバイスをはじめとした各種サポートを提供してくれました。たとえば施策実行では、施策の目線上げやブラッシュアップ、実現性のある計画立案を、人財育成に関しては、DXマインドの醸成から技術トレンドの勉強会、コードレビューを通じた内製化人財の育成まで支援してもらいました。何を使えば何ができるのかテンプレート化してもらったことも大きかったですね。お陰さまで3年経ったいまでは、ソフトウェア開発の内製力もかなり身につき、社内外に提供にできるシステムを社内の人財だけでつくれるようになっています。Webアプリでしたら、3ヶ月ほどあれば開発できるレベルになっています」とここまでの手応えとともに評価する。

NTT東日本のDX推進をサポートするに当たり、心がけた点について大林は次のように語る。

「マインドの醸成に注力しました。DXに取り組むメリットがつかみづらい方々には、“to be”の世界観を示したり、他部署の成功事例を示したりして共感してもらい、仲間を増やしてきました」(大林)

倍近い生産性向上とDX人財育成を実現

NTT東日本のネットワーク事業推進本部では、2018年4月から2023年3月までをターゲット期間と定めてDXによる生産性向上をめざしてきた。その結果、実に倍近い生産性向上を実現。また、すでに開発実績のあるDX人財を多数抱えている。DX人財レベルはレベル1~3の3階層あり、入門レベルであるレベル1でも1人でソフトウェアがつくれるレベルだ。

田場川氏は「いまは、現場から立候補でDXに関心ある人を募ってできたバーチャルチームで進めているプロジェクトもあります。研修だけでは人は育ちませんが、DXスタジアムやバーチャルチームで実践の場を踏んでもらうことで、いまでは現場でもDX対応できる人財が増えてきています」とここまでの経過に確かな手応えを示す。

人財育成の取り組みの1つであるDXスタジアムには、これまで約250人が参加している。NTT東日本ではこのプログラムを、設備系だけでなく全社的なDX人財育成メニューとして展開していく構えだ。

そして、ソフトウェア開発については内製化を含めてかなりのレベルに達しているとしつつも、新たな課題を次のように述べた。

「いま課題として感じているのがソフトウェアの品質向上です。具体的にはUI/UXや非機能面を更に充実させていきたいと感じています。NTTデータからのフィードバックを生かしつつ、さらに技術力をつけていきます」(田場川氏)

対して、大林も「確かに、動くソフトウェアをつくれるところまでは達しているものの、性能などの非機能に関しては、まだまだ成長できる領域があると感じています。実践しなければ身につかないものですから、引きつづき関係を密にして一緒に伴走しながら支援していきたいですね」と今後の課題について同意する。

実際に地域への還元も開始

社内のDXで得たノウハウを地域へと還元する取り組みとしては、たとえばローコード開発ツールを活用した自治体における紙の業務のデジタル化がある。また、降雪地帯では除雪車のオペレーションを管理するシステム開発を請け負って内製するなど、これまでの業務で培った技術やノウハウで課題を解決する事例も現れ始めている。

「NTT東日本がサービスを提供する各エリアに技術的に対応できるメンバーがいるので各地域支店での対応が実現できています。各支店にも技術のある人財が必要ですから、実践の場を提供できるのは当社にとって大きな意味があります。だからこそ、ビジネスデザイン部門では引き続き現場でのDXをリードする人財育成に努めていきます」(田場川氏)

また、DXスタジアムの他社への展開も始まっている。2023年4月からNTT西日本もDXスタジアムの仕組みを導入し、両社でDX施策についての意見交換も活発に行われているのだ。両社が連携してDXを進める目的は、東西オペレーションの同一化だ。オペレーション同一化によって災害時における東西相互支援を実現することで、災害の早期復旧や地域住民の安心安全確保に取り組んでいる。

地域の課題をDXで解決し、日本を元気にしていきたい

これまでのDXの取り組みから、NTT東日本では当初からのテーマである戦略、実行、技術の三つに関して、それぞれ「DXのコンサル力」「DX推進のノウハウ」「ソフトウェア内製化」として身につけることに成功した。
今後は、地域のDX推進へNTT東日本が貢献することで、これを地域の活性化へとつなげていくという。

「ここをスタート地点として、新たな価値創造で各地域へと貢献していき、より良い社会づくりをめざしていきたいですね」と田場川氏は力強く語った。

そして最後に大林も次のように今後の抱負を語った。

「地域活性化という課題解決のため、NTT東日本のような地域を支える企業がDXを通じて日本を活性化させるというのはとても意義のあることだと思います。NTTデータとしても、自社だけでは手の届かない領域に入らせてもらうことで、一緒に地域活性化に取り組みながら、日本を元気にしていければと願っています」(大林)

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