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2023.6.5業界トレンド/展望

中小企業・税理士のデジタル化への大きな一歩とは
~デジタル化を牽引する業界リーダーたちに迫る~

2022年の税理士法改正や2023年のインボイス制度の開始だけでなく、2024年には電子帳簿保存法により、電子取引における電子データ保存の義務化を迎える等、中小企業や税理士を取り巻く業務環境やニーズも大きく変化する中、デジタル化の要求はより強く会計・税務領域にも迫っている。しかし、これまで紙による業務が大きく残る本領域においては、課題も多く存在しているのが現実だ。そうした中、税務申告書作成ソフト「達人シリーズ」および「データ収集・配信」を活用することで会計・税務業務のデジタル化を促進し、納税義務者の利便性向上だけでなく、中小企業・税理士業界全体のデジタル化へとつなげることを目指している取り組みを紹介する。
目次

税理士業務を取りまく環境の変化

税理士法人名南経営を母体とする名南コンサルティングネットワークグループは、中堅中小企業を中心に全国11,000社にも及ぶ企業を支援している。業務内容は税理士業務や資金利益計画、事業再編コンサルほか多岐に渡り、中堅中小企業の経営者にとって欠かせない存在となっている。

従来、税理士業務は紙での実施が一般的だったが、2023年度からインボイス制度や電子取引の保存義務化が開始されること等に伴い、デジタル化へのシフトの必要性が急速に高まっている。

また、コロナ禍により中小企業の中には、深刻な経営ダメージを受けている企業もあり、これを受けて税理士法人名南経営では事業承継、経営コンサル等付加業務への需要も高まっている。

税理士法人名南経営に対してIT面でサポートする同グループの株式会社名南ネットワークでは、デジタル化への流れに適応するべく、さまざまな対応を行っている。同社 取締役 情報管理室 マネージャー 酒井 信幸 氏と、名南ネットワークのデジタル化支援、ひいては業界全体のデジタル改革に取り組むNTTデータ 公共統括本部 第三公共事業本部 デジタルプラットフォーム事業部 第三システム統括部 第三営業担当高平 賢と、同小倉 亜紀子に話を聞いた。

酒井氏は、昨今の士業におけるIT活用の動向について次のように語る。

株式会社名南ネットワーク 取締役 情報管理室 マネージャー 酒井 信幸 氏

株式会社名南ネットワーク
取締役 情報管理室 マネージャー
酒井 信幸 氏

「通常、士業というのは事務所で仕事することが基本となるのですが、コロナ禍を受けて事務所に出社できない、もしくは顧客に訪問できないといった状況となったことから、在宅をはじめ事務所以外でも働けるリモートワーク環境の整備がここ数年で急速に進みました。とりわけ税理士事務所においては、税理士法の改正によりシンクライアントの利用をはじめとしたIT活用の波が起きており、当社としてもその取り組みを支援してきています。ただ、まだまだ紙を扱う仕事が多いのも特徴であり、現在はリモートワーク対応の次の課題としてペーパーレス化に注力する流れが加速しています」(酒井氏)

現在、名南経営をはじめとした税理士業界では、他の業界と同様に人材不足が深刻化しつつある。このため人手が足りなくとも業務をまわせるよう、RPAを用いた各種入力作業をはじめ、データの印刷作業、データ送信作業等の自動化に取り組むケースが増えているという。

自動化の価値ついて酒井氏はこう話す。「確定申告のデータ入力や変換作業のようなある程度決まった手続きはRPAによって自動化することで税理士の稼働を軽減し、一方で、削減できた稼働を、顧客の各種課題を解決へと導くコンサルティングのような、税理士としてより高い付加価値を提供できる業務に充てられるようにシフトすることが、業界全体として求められています」

こうした流れを受け、名南経営でも紙の業務のデジタル化に取り組んでおり、高速スキャナーとAI OCR等を連携したシステムでデジタル化を行い、RPAによる業務の自動化を図る等、ITを用いたオフィス内での各種業務の効率化を推進しているところだ。

そして、もう一つ注力しているのが、申告業務における顧客からのデータ収集である。これまで紙の書類で受け取っていたものを、PDFあるいは写真データとして受け取れるよう、顧客の利便性も考慮して普段使用しているLINEやSlack等のツールで送付できる仕組みを整えているのである。

「名南経営コンサルティングネットワークの創業者は税理士でして、好奇心を大事にすることをモットーとして掲げています。そのマインドはグループ全社横断的なデジタル化のプロジェクトにも活かされており、月に一回活発な情報交換を行いながら、それぞれの課題やアイデア等について共有しており、我々もシステム部門としてその実現をサポートしております」(酒井氏)

税理士と中小企業の業務のデジタル化に立ちはだかる課題とは

名南経営のみならず税理士業界全般で加速するデジタル化であるが、先述したように歴史的に紙による業務が深く浸透していた業界だけに、思うように取り組みが進まないケースも多々あるという。

そうした税理士業界のデジタル化において、いま直面している課題について、NTTデータの高平は次のようにコメントする。

公共統括本部 第三公共事業本部 デジタルプラットフォーム事業部 第三システム統括部第一開発担当/第三営業担当 部長 高平 賢

公共統括本部 第三公共事業本部 デジタルプラットフォーム事業部
第三システム統括部第一開発担当/第三営業担当 部長
高平 賢

「すべての紙資料をデータに置き換えるにはまだ難しいところも多いのが実状で、紙とデータが混在することによる資料や情報の複合管理が新たな問題となってきています。そこで税理士事務所にとっては、顧問先となる法人や個人、さらにはそこから書類を提出する税理士等も含めて、デジタルでやりとりできるような基盤がまず必要だと言えるでしょう。ただ一方で、LINEのように広く普及しているITツールでさえ使いこなせる人ばかりではないのも現実です。そのため我々としては、そうした人々も含めてどうやってデジタル化へ一緒に向かっていくかという視点に基づいて、よりハードルが低く使いやすいサービスを提供して、税理士事務所ならびにその顧問先のデジタル化を支援しようとしているところです。そして、まさに今年は、インボイス制度や電子帳簿保存法における電子取引の保存義務化が開始される年であり、税理士事務所の先にいらっしゃる顧問先のみなさまにとって、デジタル化は待ったなしの状況となっています。なかには『何をしたらよいかわからない』といった方もいらっしゃいます。すべての関係者にとって使い勝手が良く、ご負担も少ないかたちでデジタル化を支援する取り組みを進めているところです」(高平)

税理士事務所やその顧問先事業者においては、既存業務にかかる負担が高く、デジタル化に着手することは容易ではない。そこで、デジタルに強みを持つNTTデータが率先して業界全体のデジタル化を推し進めていきたいという。

15年前より税務申告書作成ソフト「達人」を活用

かねてより自らの業務におけるIT化を積極的に進めてきた名南ネットワーク。NTTデータの税務申告書作成ソフト「達人」は2008年から導入している。

その理由について酒井氏はこう振り返る。「当時は、税務ソフトと会計ソフトは同一メーカーでないとソフト間での情報連携ができないため、同一メーカーで揃えることが一般的でした。また、専用端末が必要だったため、全社員分を用意するには非常にコストがかかっていました。
ところが、達人シリーズは市販されているさまざまな会計ソフトと連動できるソフトであり、そこが大きな選定理由となりました。我々はクライアントの数が多いので、規模や業種に合わせて会計ソフトも異なってくることから、主な市販会計ソフトと連動して決算処理ができるというのは大きな魅力でした。加えて、専用端末も不要のため、安価でスピーディーに導入することができました」

達人シリーズは毎年新サービスをリリースしているが、2010年頃にリリースされたサービスによって社内システムとの連動も可能になり、今まで再入力していた手間が省けたことで、申告業務の大幅な効率化を実現できたという。

デジタル化への大きな一歩となった新サービス「データ収集・配信」

達人シリーズとも連動可能な新サービスとして2022年9月に、クラウド型の電子ファイル等授受管理サービス「データ収集・配信」が提供開始された。新サービスでは、顧問先事業者からの資料収集、収集状況の管理をセキュアな環境において効率的に行うことができる。

図1:データ収集・配信

図1:データ収集・配信

高平は、「データ収集・配信」サービスのポイントについて次のように話す。

「名南ネットワーク様をはじめ、多くの税理士事務所にヒアリングさせていただき、実際に税理士事務所の方々やその顧問先事業者の方々が業務で使うことを強く意識して開発を行いました。たとえば、年末調整や確定申告といった要となる申告業務については、短期間で過不足なく情報を集め、正しく申告しなければいけません。そこでデータ収集・配信機能では、それらの必要書類や情報をテンプレート化して、漏れなく収集管理ができるように工夫しました。これを既存の達人シリーズに流し込むことで、一気通貫でスムーズな税務申告も可能とします」(高平)

図2:データ収集・配信から申告までの全体イメージ

図2:データ収集・配信から申告までの全体イメージ

また、「データ収集・配信」の企画・販売促進に携わるNTTデータの小倉も、こう続ける。「中小企業単体ではデジタル化を進めることが難しいため、税理士法人と一緒に中小企業をサポートしていきたいと考えています」

公共統括本部 第三公共事業本部 デジタルプラットフォーム事業部 第三システム統括部第三営業担当 課長代理 小倉 亜紀子

公共統括本部 第三公共事業本部 デジタルプラットフォーム事業部
第三システム統括部第三営業担当
課長代理
小倉 亜紀子

長年にわたり達人を活用してきた名南ネットワークでは、先述した顧問先事業者からの資料収集業務のデジタル化にまつわる課題を解決すべく、「データ収集・配信」の導入をいち早く決定した。

その理由について酒井氏は次のように話す。

「顧問先からのデータ収集に関しては以前から課題に感じていたものの、一元管理できる仕組みを中々整えられませんでした。そういった課題感を以前からNTTデータに相談しており、今回の新機能リリースに向けてNTTデータと一緒に検討しました。そして、昨年9月のサービス開始とほぼ同時に導入することとなったのです」(酒井氏)

まず2022年9月からは試験導入として、一部の担当者がその顧問先を対象に利用を進めていった。

「いきなり全社員に、新しい機能ができたので使ってくださいと呼びかけたのでは、さすがに不都合もあるでしょう。まずは協力者を募って、その担当者と一部の顧問先からテスト的に導入するようにしました。現在はそうした先行ユーザーからの声に耳を傾けながら、どのような使い方にしていくか検討を行っているところです」(酒井氏)

NTTデータ 小倉は次のように続けた。

「今まで紙のみで業務を行ってきた方々にとって「データ収集・配信」を利用することは、紙から電子へ業務フローをまったく新しくするものでもあるので、サービス提供をして終わりではなく、しっかりと利用定着できるまでサポートするように心がけています。また、「データ収集・配信」に限った話ではありませんが、操作を理解するだけで一苦労するということが無いよう、サービスや機能はなるべくユーザビリティが高いものとし、導入のハードルを上げないよう工夫をしています」(小倉)

日本を支える中小企業を支援し続けていきたい

達人シリーズに加え、「データ収集・配信」サービス等により申告業務を改善したことで得られたメリットとして酒井氏は、業務効率化、法制度改正への対応、そして顧客企業への提供価値向上の3点をあげる。

データが一か所に集約されたことで、担当者だけではなく、誰もがいつでもアクセス可能になり、スムーズにデータの共有と連携が行えるようになった。以前は毎月各顧問先を訪問し、紙の資料を集めなくてはならなかったのが、オンラインで簡単に資料のやり取りができるようになったのは、大幅な業務効率化に繋がっている。

また、これから始まるインボイス制度とその先にある改正電子帳簿保存法への本格対応に関しても、十分な体制を整えることができたのである。

さらに、業務効率化によって新たな時間を創出できるようになり、より付加の高いサービスを顧客に提供する時間を増やすことができた。それぞれの顧客に寄り添った支援を、より丁寧に実施していきたいという。

このような成果を踏まえて名南ネットワークでは、今後もデジタル活用による業務改革を強化していく構えだ。そうした新たな展開を視野に入れるなかで、酒井氏は次のようにNTTデータに期待する。

「これからの時代はお客さまとのコミュニケーションのあり方も大きく変わってくることでしょう。しかしどのようなかたちになろうとも、お客さまとの関係性をデジタルで支援してくれるのがNTTデータだと思っています。だからこそ、お客さまとのコミュニケーションを通じた新たな価値の提供までを、一気通貫で支援していただけることを大いに期待しています」(酒井氏)

この言葉を受けて高平は、その期待と信頼に応えるべくメッセージを返した。

「名南コンサルティングネットワーク様は、業界のリーダーとしてその方向性を牽引していく立場にあります。その声は業界全体の声でもあると重く受け止めており、今後もさまざまなご意見をいただきながら、順次新たな機能やサービスの追加を行っていきたいと考えています。達人シリーズは提供開始から20年以上が経ち、長くご利用いただいているお客さまがかなり増えてきました。NTTデータグループが大切にしている、「ロングタームリレーションシップ」をまさに体現していると思っています。これからもお客さま目線に立って、税理士事務所の方々と共に顧問先事業者の皆さまに対して新たな付加価値を提供できるような支援をしていくことで、日本を支える中小企業の皆さまのデジタル化だけではなく、事業全体も支えることにもつながっていくと考え、日々取り組んでおります」(高平)

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