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2023.10.26業界トレンド/展望

【業界展望】脱炭素を実現するモビリティ

自動車業界はいま、自らの姿を大きく変えようとしている。その方向性は「クルマづくりの変革」と「ビジネスモデルの変革」、「カーボンニュートラル実現に向けた変革」という3つの変革である。本稿では特に「カーボンニュートラル実現に向けた変革」に着目。個々のドライバーの行動変容を促す、あるいは都市全体の交通を最適化することをめざすスマート交通領域でのNTT DATAの具体的な取り組みや展望について、NTTデータ自動車事業部の千葉祐に聞いた。
目次

3つのメガトレンドと自動車業界における3つの変革

自動車業界を取り巻く環境は急速に変わりつつある。特に注目すべきメガトレンドは「製造からサービスへ」、「技術革新」、「脱炭素化」だろう。
人びとの暮らし方や働き方は大きく変化しており、消費者ニーズはモノからコトへ、そして社会課題解決へとシフトしている。技術革新の観点ではデジタルツインの進化、ソフトウェアやネットワークの重要性の高まりなど新しい要素が加わり、研究開発のエリアが大きく広がっている。また、地球温暖化に対する世界的な意識の高まりを受けて、自動車業界も脱炭素化に向けた取り組みを加速している。
「たとえば、米国・サンフランシスコなどの都市では、すでに自動運転によるロボタクシーが商用化されています。同様の例は国内ではまだありませんが将来的な商用サービスの開始を計画している企業もあり、そのような時代が近づいていることは確かでしょう」と、NTTデータの千葉祐は語る。人びとの移動ニーズに対応するサービスとしてのロボタクシーは、自動運転などの技術革新によって実現した。同時に、運転の効率化により人が運転することに比べてCO2排出量を抑えることも期待できる。ロボタクシーは3つのメガトレンドを象徴する存在といえるかもしれない。
こうした潮流に向き合う自動車業界は、自ら変革に取り組むことで一層の成長をめざしている。重要と思われるのが3つの変革だ。「クルマづくりの変革」と「ビジネスモデルの変革」、「カーボンニュートラル実現に向けた変革」を通じて、各社はグローバル競争を勝ち抜こうとしている。千葉はこう説明する。

「クルマづくりにおけるソフトウェアの比重は高まっており、自動車メーカーの多くがソフトウェア・ファーストに舵を切ろうとしています。ビジネスモデル変革の代表的な動きはサブスクリプションモデルでしょう。大手自動車メーカーの間でも、サブスクのサービスを始める動きが広がりつつあります。脱炭素の文脈ではEVシフトが注目されがちですが、ソフトウェアの役割も重要です」

近年、自動車業界では「CASE」(Connected/Autonomous/Shared/Electric)というキーワードが頻繁に聞かれる。C、A、S、Eはそれぞれ、3つの変革とさまざまな形で関係している(図1)。

図1:モビリティの変革による新しい社会価値

図1:モビリティの変革による新しい社会価値

クルマづくりは「需要予測→生産計画→調達→製品製造→物流→販売・アフターサービス」(図中左の横軸)というサプライチェーン、「製品設計→工程設計→設備設計→製品製造→運用保守」(図中左の縦軸)というエンジニアリングチェーンの組み合わせだ。これら2つのチェーンにソフトウェア・ファーストを埋め込みながら、クルマづくりにおける変革が進行している。
「たとえば、販売・アフターサービスです。今後はWebサイトでの販売がますます増えるでしょう。また従来は、クルマの価値が最も高いのは『売った瞬間』でしたが、これからは販売後にもソフトウェアアップデートによりどんどん価値が高まる時代になるでしょう」と千葉は話す。
CASEはビジネスモデル変革にも大きな影響を与えている。すでに、多くのクルマがクラウドとつながることでさまざまなサービスを享受している。将来的には、ドローンなどを含めて移動するさまざまなモノがネットワークにつながり、あるいは相互につながるようになる。自動運転が普及すれば、ドライバーは運転から解放され新たな体験が可能になるだろう。
また、カーボンニュートラルの観点では、電動化=EVのインパクトが大きい。EV走行時のCO2排出はゼロだが、使用される電力が再生可能エネルギーによるものであることが前提になる。加えて、「走行時だけでなく、クルマの製造から廃棄に至るライフサイクル全体でCO2排出の最小化、そして循環型社会の実現をめざす必要があります」と千葉は考えている。

混雑情報などの提供によりドライバーの行動変容を促す

図2:モビリティ×エネルギーが生み出す社会

図2:モビリティ×エネルギーが生み出す社会

図2はCASEの各要素がどのような課題を解決するかを示したものだ。Connectedは事故防止や渋滞解消、交通弱者をなくすことに役立つ。AutonomousやShared、Electricそれぞれも複数の社会的価値とつながっている。図中の「渋滞解消」や「資源の効率利用/循環・利活用」、「電気・水素などエネルギー多様化」、「電源として期待/VPP」などは、カーボンニュートラル実現に直結するテーマである。以下ではカーボンニュートラルを主軸に、モビリティの未来を考えたい。

「EV化がCO2削減に与えるインパクトは大きい。2035年にEVの販売シェア39%、保有台数のシェア16%を前提とすればCO2排出量を約4.9億トン(7.8%)削減することができます。一方、スマート交通は渋滞削減などを通じてそれに近い効果を期待できる。グローバル全体で見て約3.7億トン(6.0%)のCO2削減を見込めるとの試算もあります(※)」と千葉。無駄な移動時間が減れば、CO2削減以外にも、生産性向上をはじめさまざまな効果が生まれるだろう。
スマート交通というテーマで、NTTグループはトヨタ自動車との協業に基づき、2018~20年に東京・台場において大規模な実証実験を行った。
「コネクティッドカーが収集するデータをもとに、道路の混雑状況などを分析。特定地点間の走行に要する推定時間を精度高く推定します。これらの情報をドライバーに提供すると、すいているルートを選択されると思います。ドライバーの行動変容を促し、さらには都市交通の最適化を見据えた取り組みにつながるのです。コネクティッドカーのデータはCO2削減をはじめ、さまざまな価値づくりに活用することができます」(千葉)
NTT DATAはスマート交通というテーマに、3段階で取り組んでいる(図3)。

図3:NTTデータが取り組むスマート交通

図3:NTTデータが取り組むスマート交通

ステップ01は「混雑情報による個人の行動変容」、ステップ02は「都市交通における全体最適化」、ステップ03は「都市交通における都市インフラアプローチ」である。
ステップ01の取り組みの一つであるCase01には、前述の台場での事例も含まれるが、以下は三井不動産の協力によって「ららぽーとTOKYO-BAY」における実証実験(2023年2~3月に実施)だ。混雑情報の提供によってドライバーの行動変容をどの程度促せるか、それを確かめることが主要なテーマだ。
活用するのは過去情報とリアルタイム情報。前者は「何曜日の何時ごろ」といった時間帯ごとの混雑状況を整理した情報など、後者はららぽーと駐車場のクルマ密度や周辺の混雑状況などの情報である。こうした情報を分析して、近い将来の混雑度を予測。現状と予測の情報を来店前、店舗利用時、出庫時という3つの場面でユーザーに提供した(図4)。

図4:スマート交通:個人の案内 ―利用シーン―

図4:スマート交通:個人の案内 ―利用シーン―

「ユーザーがホームページを見ると、ららぽーと周辺の混雑状況が分かり、どのルートで行けばスムーズに駐車場に入れるかを考える材料になります。店舗内のサイネージ、駐車場のサイネージでもこうした情報を提供。帰るタイミングやルートを決める際の参考になるでしょう」と千葉はいう。

実証実験の結果、混雑回避の行動変容が見られ、CO2削減につながったことが確認された。最も混雑しているルートについては、最大で約30%のユーザーが混雑を回避するルートを選択。情報提供だけでこれだけの成果が得られたことの意味は大きい。
「カーボンニュートラルを特に意識した実証実験でしたが、ユーザーにとって重要なのは買い物の体験そのものです。駐車場がすいている時間が分かる、あるいは往復のルートで混雑が少ないといった価値は顧客体験の向上につながるでしょう。それは同時に、店舗にとってのビジネス価値を向上させるはずです」(千葉)

(※)

以下情報をもとにNTT DATAにて算出
走行費用:ガソリン車(約10円/km ガソリン145円/L、燃費15km/L)、EV車(約2円/km 電費6km/kWh、夜間電力料金12.48円/kWh)
https://e-nenpi.com/gs/prefavghttps://www.iid.co.jp/news/press/2020/031801.htmlhttps://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-evcar-mileage-battery/
発電のCO2排出実績:0.463 kg-CO2/kWh(https://www.fepc.or.jp/environment/warming/kyouka/index.html
ガソリンの二酸化炭素排出量:2.322 kg-CO2/L(https://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y164-04/mat04.pdf
排出権取引価格:約50ユーロ/トン≒6,000円/トン(https://jp.investing.com/commodities/carbon-emissions
日本の乗用車保有台数:約60,000,000台(https://www.jama.or.jp/industry/four_wheeled/four_wheeled_3t1.html
PHV,EVの販売台数予測:2020年-316万台、2035年-3,560万台(https://response.jp/article/2021/07/12/347602.html
EV/PHV保有台数:2020年-1,000万台( https://media.ohmae.ac.jp/archive/20210511_watch_ev/
新車世界販売台数:2019年-9,130万台、世界自動車保有台数:2018年-14億3,318台(https://www.jama.or.jp/world/world/index.html

インフラからのアプローチで都市交通の最適化をめざす

ステップ02、都市交通の全体最適化についても、NTT DATAはさまざまな取り組みを進めている。ステップ01は個々のドライバーの行動に焦点を当てたものだが、ステップ02ではクルマや自転車、バスなどの公共交通機関などを含めた施策により都市のCO2排出量削減をめざす。ステップ02におけるNTT DATAの取り組みは大きく2つある。
第1に交通流の最適化。ステップ01の事例で見た個々のドライバーの行動変容を都市レベルに拡張するとともに、複数の移動手段から最適なものを選ぶという意味での行動変容も視野に入れている。

また、NTT DATAは交通流最適化のためのAI開発を進めている(図5)。

図5:スマート交通:都市交通 ―交通流最適化AI―

図5:スマート交通:都市交通 ―交通流最適化AI―

「量子コンピュータを用いて、リアルタイムで理想的な交通流を計算するAIを開発しています。渋滞する道路ではCO2排出量が非常に多くなりますが、理想的な交通流に近づけることで渋滞を減らしCO2排出量を削減することができる。研究開発の成果は量子コンピューティング関連の学会でも発表しています」と千葉は語る。

第2に、移動デマンドの把握である。コネクティッドカーから受け取る情報をもとに、エリアごとの移動傾向を可視化。さらに、人流データなどと組み合わせて移動需要をつかもうという取り組みだ。たとえば、行楽シーズンの日曜日、観光地の移動需要を把握すれば、渋滞ポイント回避に役立つ情報をドライバーに提供できる。こうした情報に接することでクルマでの移動をやめて、電車を選ぶ観光客もいるはずだ。

第1、第2の取り組みを組み合わせることで、都市交通の全体最適化に向けたより効果な施策が可能になるだろう。
ステップ03はスマート交通実現に向けた、都市インフラへのアプローチである。そこには信号機などのITS、マルチモビリティ、新交通、エネルギーミックスなどの要素が含まれ、都市インフラのレベルからスマート交通をめざす。現在はまだ構想段階だが、近い将来には実証実験がスタートするはずだ。1つ1つのステップで検証を重ねつつ、NTT DATAのスマート交通への取り組みは着実に前進している。

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