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2023.11.6業界トレンド/展望

DXの壁を越え、ビジネスを断続的に変化させる時代へ

企業は、DXによりいかに自己変革を実現し、ビジネスを創出していくべきか。NTTデータ取締役副社長執行役員の有馬勲と、re-Designare合同会社代表の日置圭介氏がDX推進の課題を4つに整理し、その乗り越え方について語り合った。
目次

DXを進める上で壁となる4つの課題

企業の中でDX推進の波をいかに拡大していくか。日置氏との対談に先立ち、まずは多くの企業が取り組むDXの現状と課題について、有馬は次のように話す。

「日本企業におけるDXの取り組み状況に関する調査の結果、2021年度時点で全体の81%の企業がDXに着手していると回答しました。中でも複数の領域でDXを進めている企業は39%にのぼります。つまり、組織の一部ではなく、全社的なDXに取り組んでいる企業も多いのです。一方、取り組みの成果について多くの企業から話を伺ったり、経済産業省のレポートを参照したりした結果、DX化が思うように進んでいない企業も少なくありません」(有馬)

出典:電通デジタル 日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度) 対象:従業員500人以上の国内企業所属者(経営層~IT部門・現業部門の管理職・一般社員) 調査期間:2021/9-10月

出典:電通デジタル 日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)
対象:従業員500人以上の国内企業所属者(経営層~IT部門・現業部門の管理職・一般社員)
調査期間:2021/9-10月

DXに取り組みながらも、スムーズに推進できていない企業が多いという事態を、どのように説明できるのだろうか。有馬はその要因について、「組織・風土」、「取り組みと効果創出の難しさ」、「ITのあり方」、「マネジメント」という4つの課題にあるという。

さらに、このようなDX推進における4つの課題は常に同じように存在しているわけではなく、取り組みの成熟度レベルによって現れる課題が変わってくる。経済産業省の定義する5つのDX成熟度レベルをベースに見てみると、レベル3の『全社戦略に基づく部門横断的推進』とレベル4の『全社戦略に基づく持続的実施』に、現在企業が抱える4つの課題の多くが集中していることがわかる。これら4つの課題をさらに細分化して再整理することで、より本質的な課題が見えてくるという。

参考:経済産業省 DX推進指標(サマリー) ※上記参考をもとに、弊社お客様事例の課題を追記

参考:経済産業省 DX推進指標(サマリー)
※上記参考をもとに、弊社お客様事例の課題を追記

「『既存事業部門からの反発が大きい』、『IT投資に対して、全体最適のガバナンスが効かない』といった課題からは【(1)組織の壁】、『既存の強み・事業を活かした大きな効果につながらない』といった課題からは【(2)効果創出・拡大の難しさ】、『変化に迅速に対応できるITシステムになっていない』といった課題からは【(3)既存業務・システムの再編成】、『環境や技術の変化に合わせてビジョンがアップデートされず単発の取り組みになる』といった課題からは【(4)DXゴールの変化】という4つの本質的な課題が見えてきます。このような課題に対し、これから企業はどう立ち向かっていくべきか。日置氏を迎えて、ディスカッションしていきたいと思います」(有馬)

参考:経済産業省 DX推進指標(サマリー) ※上記参考をもとに、弊社お客様事例の課題を追記

参考:経済産業省 DX推進指標(サマリー)
※上記参考をもとに、弊社お客様事例の課題を追記

組織の壁を越えるためのコミュニケーション

冒頭の有馬によるDXに取り組む企業が抱える課題について、これまで20年以上企業のコンサルティングに携わってきた経験から「異論はありません」と頷く日置氏。中でも気になったという「(1)組織の壁」について、次のように語った。

re-Designare合同会社代表 日置 圭介氏

re-Designare合同会社代表
日置 圭介氏

「組織の壁というのは根の深い問題で、特に企業の規模が大きくなるほど壁も多重構造になっていると感じます。もちろん企業間に壁があることはわかりやすいですが、企業内のコーポレート部門と事業部門の間にも壁がある。さらに言うとコーポレート部門の中にも経理や人事、ITなど、それぞれ部門間の壁があり、このような構造的な壁を取り払っていくことは今後の大きなチャレンジになるのではないでしょうか」(日置氏)

このような組織間、組織内の壁を乗り越えていく上で、CIOの果たすべき役割は大きいと、有馬は指摘する。

「全社的な改革が進んでいる企業のCIOからは、全社の経営課題解決に資するプロジェクトについては自らがプロジェクトオーナーとなり、自身の組織外からもメンバーを引き連れて体制を組んで進めているという話を伺います。また、複数の事業体を抱える企業では、CIOが自身の関わるべき事業を取捨選択し、注力すべき領域にフォーカスできている企業ほど、変革が進んでいる印象があります」(有馬)

企業の中でどの事業へフォーカスすべきか、取捨選択にあたってはマネジメント同士の関係性も重要である、と日置氏は続ける。

「企業における事業やプロジェクトの位置付けに関しては、マネジメントも人間なので、自身の担当している分野のプライオリティを上げてほしいという気持ちにはなります。そこでマネジメント同士の合意形成をつくるためには共通言語の多さが大事です。共通言語が機能することで、企業全体のことを考える際の事業の優先順位が自明のものとなり、誰もが納得できる状況になっていくのだと思います。組織の壁というのは結局のところ心の壁です。社内で丹念にコミュニケーションをとり、共通言語を築いていくことが重要なのではないでしょうか」(日置氏)

競争優位性は、「継続的」から「断続的」へ

続いて、冒頭に有馬が挙げた4つの課題のうち、「(2)効果創出・拡大の難しさ」、「(4)DXゴールの変化」の2つについて、乗り越える上でのポイントを日置氏は次のように指摘する。

「これらは本質的に近い課題です。私がかつて担当することの多かったイノベーション業務では、経営学の『持続的競争優位性』という言葉が重視されていました。しかし、デジタル技術をはじめ、あらゆるものが変化のスピードを上げていく今の世の中では、ひとつの競争優位性を持続すること自体が難しくなっているのです。まずは事業やDXのゴールが変わっていくことを当然のこととして受け入れ、断続的にゴール設定を変えながら、競争優位性も断続的に構築していくことができるかどうか。これからは、持続的競争優位性ではなく、『断続的競争優位性』の勝負になります。そのプロセスで発生する失敗への許容が大事という話も聞きますが、許容するだけでなく失敗から学びながら、組織としていかに動き続けていけるか。私たちは終わりなき戦いの場に立っているのです」(日置氏)

ゴールを変化させていく上では、前提条件となる環境の変化に気づくことも重要だと、有馬は続ける。

「日置さんから日頃よくいただく指摘のひとつに、『NTT DATAは、インテリジェンス機能を強化すべき』ということがあります。これは、競合他社の状況を分析するだけでなく、世の中の潮流を調べ、分析することでどういう事業でインパクトを生み出せるかを考えるということだと思っています。こういった力が、他国に比べて日本企業はすこし弱いのかもしれません」(有馬)

その指摘の真意について、日置氏は次のように補足する。

「日本企業の中でも、経営企画の方などは力を入れていらっしゃると思いますし、商社ではリスク研究所を設けて世界中のリスク情報を集約するなど、まったく手をつけられていないわけではありません。ただ、海外企業と比べた時に継続性やオリジナリティがすこし足りていないと感じることがあります。長くコンサルティングの仕事をしてきた経験上、中期経営計画の時期になると世の中の情報を求められることも多かったのですが、それだけではキュレーションにしかなりません。しっかり足を使って一次情報にあたったり、情報に企業独自の味付けを加えたりすることで、情報を継続的な資産にしていくことが事業と世の中の潮流をリンクさせる上では重要だと考えています」(日置氏)

事業を変え、加速するIT構築のため、NTT DATAも進化する

事業やDXゴール設定の断続的な変化が求められている今、企業のDXをサポートするNTT DATAでも、お客さまとのコミュニケーションを通じてニーズそのものが大きく変化している実感があると有馬は語る。

取締役副社長執行役員 法人分野担当 有馬 勲

取締役副社長執行役員 法人分野担当
有馬 勲

「これまでは、お客さまが設定した要件に応えるITをしっかりと実装していくことが求められました。しかし、ITの存在意義が『事業を支えるIT』から『事業を変え、加速するIT』へと変わってきたことでお客さまが要件を決めるのではなく、要件そのものから一緒に考えてほしいという期待へと変わってきています。そして、このニーズの変化はお客さまからNTT DATAに対してだけでなく、企業の中で事業部門がIT部門に対して抱く期待の変化でもあるのではないかと思っています」(有馬)

ここ数年のニーズの変化に対し、NTT DATAでは業界環境やお客さま個々の経営課題を改めて考え、当社の価値とソリューションを創出して提案していく取り組みを進めているという。

「NTT DATAではこれまで、現状をよく理解し、要求されたシステムを築き、トラブルが起きても何とか修復させる能力についてご評価いただいてきました。ベースにあったのは、現状理解能力です。これからは、歴史的な背景、何をキーワードに事業を変えてきた企業なのかというコンテクストへの理解を深めた上で、業界の未来にある課題についても能動的に議論を進め、事業課題解決の方向性についても提言していきたいと考えています。事業やゴール設定の断続的な変化が求められるお客さまとともに、次の一手を模索し続けられるパートナーへと進化していかなくてはいけません」(有馬)

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