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2024.1.24業界トレンド/展望

脱炭素に向けて金融機関に求められる役割とは
~環境イニシアティブPCAFと「ファイナンスド・エミッション」算定方法を解説~

世界的なGHG排出量の削減への動きに合わせるように、日本でも国や地方公共団体の脱炭素化へ動きが加速している。一般企業も同様で、排出量の可視化や削減目標の設定・実行などが要請されており、中でも金融機関は自らの排出削減に加え、「投融資先への支援」が強く求められるようになった。
こうした状況を踏まえ、国内外の多くの金融機関が加盟するPCAFでは、GHG排出量削減に向けて、加盟機関による経験・知見・課題の共有・連携を積極的に進められている。
目次

PCAFとは何か

まずは、PCAFとは何か、です。

PCAFは、Partnership for Carbon Accounting Financialsの略であり、金融機関に特化した業界主導型の環境イニシアティブです。2015年にオランダの金融機関が集まって発足し、2019年からグローバル化した。国内でも2021年にPCAF Japan coalitionが発足し、3つのメガバンクグループをはじめ、主要な金融機関が加盟しています。
PCAFが掲げる目標は以下の2つです。

  • (1)金融セクターにおけるGHG会計を一般的な慣行とするため、グローバルなGHG会計基準を策定すること
  • (2)2025年までに世界で1,000以上の金融機関を誘致し、融資や投資に伴う排出量を評価・開示すこと

PCAFに賛同している金融機関は2023年5月時点で世界402機関。米国が最も多く48機関、以下、英国43機関、オランダ29機関、日本26機関と続き、日本でも注目されています。

図1:国別PCAF賛同機関数(上位10カ国)出典:PCAF「Financial institutions taking action」のデータよりNTTデータが作成

図1:国別PCAF賛同機関数(上位10カ国)
出典:PCAF「Financial institutions taking action」のデータよりNTTデータが作成

金融機関に求められるファイナンスド・エミッションの可視化

金融機関における投融資先のGHG排出量のことを「ファイナンスド・エミッション」と呼びます。PCAFスタンダードはこのファイナンスド・エミッションを効果的に可視化・報告するための方法論を金融機関に提供するために策定されたものです。
金融機関はPCAFスタンダードを活用することで、次のような取り組みが可能となります。

  • TCFD(※1)に沿った気候関連リスクの評価
  • セクター別脱炭素化アプローチを用いたSBT(※2)の設定
  • CDPなどのステークホルダーへの報告
  • ネットゼロ経済への移行を支援する革新的な金融商品の開発
(※1)TCFD

Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略。主要国の金融当局によって構成される金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)によって2015年12月に設立された。2017年6月に企業が気候変動のリスク・機会を認識し経営戦略に織り込むことを重視し、年次財務報告において財務に影響のある気候関連情報の開示を推奨する最終報告書「TCFD提言」を公表した。

(※2)SBT

Science Based Targetsの(科学に基づく目標)略。パリ協定が求める水準に沿った企業のGHG排出削減目標のこと。

ファイナンスド・エミッションの算定方法

ファイナンスド・エミッションの算定方法は以下の通りです。

一見すると複雑な計算を行っているようですが、金融機関の投融資額を全体の投資額と按分し、その企業の排出量で乗じることで算出するということであり、Scope3カテゴリ15と本質的な違いはありません。
また各アセットクラスの投融資額・資金調達額・排出量は、以下のように定義されています。

表1:PCAFスタンダードにおける排出量の算定方法

資産クラス 投融資額 資金調達総額 排出量
上場株式
社債
[上場株式]株式投資残高(時価)
[社債]社債投資残高(簿価)
[上場株式・社債]EVIC(※3)、株式時価総額+社債(簿価)+借入金(簿価)+非支配持分(簿価) 企業の排出量
事業ローン
非上場株式
[事業ローン]融資残高
[非上場株式]金融機関の持分シェア÷総持分シェア×総資産
[事業ローン(上場企業)]EVIC
[事業ローン・非上場株式(非上場企業)]社債(簿価)+借入金(簿価)+株主資本(簿価)
企業の排出量
プロジェクト
ファイナンス
投融資額 株主資本+有利子負債(債券+借入金) プロジェクトの排出量
商業用不動産 投融資額 契約時の不動産価格 ビルの排出量
住宅ローン 投融資額 契約時の不動産価格 住宅の排出量
自動車ローン 投融資額 契約時の価格 自動車の排出量
走行距離×燃費×排出係数

出典:環境省「(概要版) ポートフォリオ・カーボン分析の活用と高度化に向けた検討報告書」
https://www.env.go.jp/content/900518892.pdf

ファイナンスド・エミッションの算定方法にはもうひとつ特徴があり、データの品質を5段階に格付けしています。以下の表に示したように、一次データである投融資先排出量データを直接参照すれば、スコア1として高い評価を受けますが、二次データ(セクターの平均値など)を用いた場合は最も低いスコア5となります。

表2:PCAFスタンダードにおけるデータの品質基準

データクオリティ 排出量の推計手法 条件
スコア1 企業による報告 1a 企業の認証済排出量データが利用可能
スコア2 1b 企業の未認証の排出量データが利用可能
事業活動による排出量 2a 企業のエネルギー利用に係る一次的事業活動データと利用エネルギーに係る排出係数より推計
関連プロセス排出も加算
スコア3 2b 企業の生産活動に係る一次的事業活動データと対応する排出係数より推計
スコア4 経済活動による排出量 3a 企業の売上高とセクターの売上高あたりの排出係数より推計
スコア5 3b 企業の投融資残高とセクターの資産単位当たりの排出係数より推計
3c 企業への投融資残高、セクターの売上高あたりの排出係数、セクターの資産回転率より推計

報告の際には、どのスコアに該当するデータを使ったのかを開示することが求められているため、金融機関が外部ステークホルダーから評価を受けるためには、より品質の高いデータを使用することが求められます。

(※3)EVIC

普通株式と優先株式の時価総額、 有利子負債(社債+借入金)と非支配株主持分の簿価の合計

ファイナンスド・エミッション可視化の高度化のためにNTTデータがご支援できること

二次データである業界平均値による推計値を使って算定をすることは許容されているものの、スコア・精度が低く、また各投融資先の削減努力も反映できない状態となります。一方で投融資先の排出量実績の一次データを網羅的に取得することも手間や時間がかかります。
言い換えると、投融資先に対して一次データを取得するための支援を行うことが、金融機関・投融資先の双方にメリットをもたらすと考えられます。
特に非上場企業や中小企業など、排出量可視化への取り組みが進んでいない投融資先に対し、そうした仕組みを提供すれば大きな効果が期待できると考えられます。

NTTデータでは、これらの課題を解決し、非上場企業・中小企業などを含めた社会全体の可視化を支援するためには、企業別に排出量の一次データを取得して管理するデータベースが必要と考え、その算出を行うための具体的なプラットフォームとして「C-Turtle®」を提供しています。

C-Turtleは、データベース内に国内外1万社以上の排出量データを保有しているため、国内における企業活動に由来した排出量の約8割をカバーできます。つまり、事業規模(すなわち排出規模)が一定以上の企業であれば、一次データを用いた正確な算定が行えることがメリットです。
またC-Turtleには次のようなPCAF対応機能が組み込まれているため、PCAFスタンダードへの対応も容易にします。

  • 3つのアセットクラス(上場株式・社債、ビジネスローン・非上場株式、プロジェクトファイナンス)に対し、投融資先企業の一次データもしくは二次データを使ってファイナンスド・エミッションを可視化
  • NTTデータが金融機関向けに提供している各種情報系システムとの連携により、効率的なデータ収集の仕組みを構築し、算定が可能
  • 投融資先の排出量を容易に算定するツール・機能の実装や、C-Turtleの排出量データベース以外からも効率的に一次データを収集する仕組みを企画・検討中

NTTデータでは、地方銀行など全国各地の金融機関と連携し、C-Turtleの提供を通じて地元企業の脱炭素化への取り組みを促進。排出量の可視化や、削減支援の検討・実行、モニタリングを支援していくことで、金融機関におけるファイナンスド・エミッションのデータ品質向上にも寄与したいと考えています。

本記事のさらに詳細な内容やさらなる課題、事例については、ホワイトペーパーとして確認できます。
ぜひ合わせてご覧ください。

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    法人コンサルティング&マーケティング事業本部 サステナビリティサービス&ストラテジー推進室:mis-mfg3-green@kits.nttdata.co.jp
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