いまや、サステナビリティは「大義」
環境や経済、社会などの課題が山積する中で、ビジネスには課題解決の役割が期待されている。同時に、ビジネスとサステナビリティの関係はますます密接なものになっている。それはビジネスにおける世界的な潮流である。NTTデータグループの池田佳子はこう説明する。
「2023年のガートナーの調査によると、94%のCEOは2022年度から2023年度にかけて、サステナビリティ・ESGへの投資を維持または増やす予定と答えています。また、先進的なCEOは、デジタルとサステナビリティを次なるブームの推進要因ととらえています。デジタルとサステナビリティは相互に補強し合いつつ、企業の変革を駆動しているのです」
消費者の意識もこうした潮流と同期している。例えば、バッグなど身近な分野でも皮革から代替素材へのシフトが起きている。
「世界のCEOや投資家はサステナビリティへの投資とデジタル活用によって、企業活動と社会をサステナブルに変革しようとしています。サステナビリティはいまや、企業が取り組むべき大義となったのです」(池田)
企業が取り組む以上、サステナビリティをビジネスと結びつける必要がある。キーワードは「需要創造」だ。世界を見渡せば、少なからぬ先進事例が存在する。池田氏がまず紹介するのは、多様なIT機器を提供するデル・テクノロジーズである。
「IT業界にとって、PCを含むハードウェアの排出する温室効果ガスは大きな課題です。デル・テクノロジーズが打ち出したのは、『Concept Luna』という循環型ビジネスによる需要創造。コンポーネントごとにQRコードをつけて故障部分を特定し、廃棄部分をできるだけ少なくしようとしています。製品全体を廃棄しない<環境よし>、修理・交換費用などを節約する<お客様よし>、このような製品への需要が増える<会社も儲かる>という『三方よし』をめざすビジネスです」と池田は話す。
2つ目は、AI活用による需要創造への取り組みである。世界には、学校に通えない子どもが多くいる。また、子どもの成長スピードはさまざまだ。そこで、NTT DATAの海外グループ会社は、個々人の成長に応じた学習を支援するラーニングシステムを提供している。子どもの注意がそれたときには、「おーい」と呼びかけるといった工夫も随所に盛り込まれている。
「つくる力」と「つなぐ力」の強みを生かす
3つ目の事例はインテルである。小学校から大学までを対象に、高性能PCによるデジタル体験を提供。結果として高性能PCのユーザーが増え、将来的にインテル搭載PCへの需要を増やそうとの狙いだ。
「インテルはプログラムの様子を教育員会や学校、行政の関係者などに見てもらい、行政の予算確保につなげてもらおうとしています。この活動はインテルのサステナビリティ担当者ではなく、営業メンバーが担います。社会課題解決とビジネスを連携させた事例といえるでしょう」と池田はいう。
4つ目。ライドシェアで知られるウーバーは、2040年までに世界全体でゼロエミッションを達成するとの目標を掲げている。その実現に向け、行政に対してEV充電スタンドの設置を呼び掛けている。そこで、同社が開発したのがEV充電予測シナリオツールだ。
「充電施設をつくるには、どこに何台置くべきかを見極める必要があります。自治体はウーバーのツールによる予測を用いて、政府への予算申請ができる。自治体の補助金獲得に対する支援を、自社ビジネス拡大につなげる狙いです」(池田)
5つ目は地域の通学を変革して需要創造するZUMという企業の例だ。米国各地を走る黄色のスクールバスの多くはディーゼル車である。ZUMはスクールバスのEV化を進めつつ、ドライバーや親、子どもに向けた共通アプリを開発。バスの位置情報などの見える化は安心をもたらすとともに、効率的なルート選択にも役立っている。
以上のような先進事例を参考にしながら、NTT DATAはサステナビリティビジネスに注力している。
「NTT DATAはコンサルティングやシステム開発などのケイパビリティを強みに、特定の業界、企業に向けたシステムやサービスの提供で実績があります。こうした『つくる力』だけでなく、業際連携やエッジ・ツー・クラウドの『つなぐ力』も生かしつつ、企業や業界の枠を超えた社会システム全体の設計と実装で新しい価値を提供しています」と池田。代表的な事例の1つが、デジタル防災プラットフォーム「D-Resilio」(※1)である。
災害時には、官民の持つさまざまなデータや知見をもとにした迅速な対応が求められる。D-Resilioは気象情報や衛星画像、SNS情報などをリアルタイムで収集し、自治体やインフラ企業、住民が有効な対策をとれるようサポートする。D-Resilioをはじめとするソリューションで培ったデジタル防災ノウハウは、インドネシアなど海外への展開も始まっている。
「私たちはD-Resilioのようなサステナビリティに資するサービス開発に取り組むとともに、お客さまのビジネスに環境価値や社会価値を付与するサステナビリティサービスを提案しています。当社の強みはコンサルティングやアセットサービスを起点に、戦略立案から実装をサポートし、さらにお客さまとともにビジネスをつくる共創力にあります。皆さんと一緒に、サステナビリティ文脈で新しい需要を創造していきたいと考えています」と池田は語る。
デジタル化の遅れをいかに巻き返すか
NTTデータでも、サステナビリティへの取り組みを強化している。NTTデータは2020年、全社横断型の組織としてソーシャルデザイン推進室(SD室)を設置した。このチームをリードする濱口雅史は、その経緯を次のように説明する。
「2020年当時、社会はコロナ禍に覆われていました。ワクチン接種やPCR検査、給付金の支援などの遅れから、行政デジタル化の遅れが指摘されました。行政や関連機関のシステムに必要な情報はあるのですが、これらが横につながっていないことが対応を遅らせた大きな要因です。この苦い経験を将来に生かすために、SD室はつくられました」
以前から、デジタル化の遅れは日本の社会課題としてたびたび指摘されてきた。スイスのビジネススクール、IMDの「世界デジタル競争力ランキング」(※2)の2023年版で、日本は過去最低の32位。2年連続で1位となったのはデンマークである。
「デンマークの強みの重要な要素が、俊敏性です。社会課題に対して、官民が連携しながら一緒に取り組むという体制づくりも素晴らしい。また、数十年後の『あるべき姿』を描いた上で、そこに向かって『いま何をすべきか』を考えるというアプローチにも学ぶべきものがあります」と濱口はいう。
SD室が特に注力するテーマはモビリティと高齢者ウェルビーイング、女性ウェルビーイング、サプライチェーン変革、住まい、地域創生の6つ(図2)。いずれも日本の切実な社会課題だが、その多くは海外諸国でも共通している。
「課題先進国といわれる日本での取り組みで培ったノウハウは、D-Resilioのように海外への展開も可能でしょう」と池田。なお、池田の統括するサステナビリティ経営推進部と濱口が室長を務めるSD室は、密に連携しながらサステナブルな社会の実現に向けた社会変容を実現する事業化を推進している。
「グローバルで取り組むべき社会課題もあれば、地域ごとの対応が求められる社会課題もあります。ただ、そこには何らかの関係性がある場合が多い。海外事例が私たちの参考になることもあれば、私たちの経験が海外で生かせるケースも少なくないはずです」(濱口)
人財育成と「社会貢献KPI」
「社会課題の解決をいかにビジネスにつなげるかは大きな課題です。私たちはまず、官民を含むデジタルエコシステムという共創の形をつくり、その上で新たなバリューチェーンを構築し、市場を創出するという方向性を描いています」と濱口は語る。
例えば、日本の「食」である。日本からの農産物・水産物・林産物の輸出は増えているものの、海外での日本食人気などを考えれば成長の余地は大きい。そんな課題意識をベースに、NTTデータは「発酵バレーNAGANO」(※3)に参画している。長野県の発酵食を世界に発信するプロジェクトだ。味噌や醤油、日本酒、ワインなどの発酵食品に関わる県内の団体が主体だが、共創パートナーとしてNTTデータや富士通、JR東日本などが名を連ねている。
「当社と富士通はデジタルアセットを活用することができますし、JR東日本の場合は駅の商業施設での販売などが考えられるでしょう。長野県だけはありませんが、日本の各地域には魅力ある産品が多数あります。ただ、世界にはあまり伝わっていません。こうした現状を変えていきたい」と濱口は考えている。
もう1つの事例は、介護の課題解決に向けた取り組みだ。現状、介護は公的なサービスが中心だが、近年は民間のサービス事業者が増えている。NTTデータが提唱するのは、家族中心、官民連携の介護サービスである。
「公的サービスではケアマネジャーが中心になりますが、その役割を高齢者の子どもなど家族が担います。それを民間サービスと公的サービスがサポートする形。当社はこれらのプレーヤーの持つデータを束ね、異業種連携のエコシステムを運営します。サービス事業者はエコシステムに参加することで、相互送客も期待できるでしょう」と濱口はいう。
社会課題に向き合い、新たな価値を創造するためには、一連のプロセスを担う人財がカギを握る。そこで、NTTデータは人財育成にも注力している。
「NTTデータは社員一人ひとりが社会課題を理解し、その解決を価値創造につなげることができる強い組織づくりをめざしています。グローバルでも同じ方向ですが、海外は社員エンゲージメント向上という観点で、より積極的な活動を推進中です」と池田は話す。
NTTデータはそのマネジメントにおいても、サステナビリティに重要な位置づけを与えている。各部門の評価基準として、売上や利益などとともに「社会貢献KPI」を設定。プロボノや社会貢献活動、NPOや教育機関の協力を得た学習活動などが一定水準に達すると、社会貢献KPIをクリアしたことになる。部門ごとの取り組みを後押しする施策といえるだろう。
サステナビリティの観点では、近年ERG(Employee Resource Group:従業員リソースグループ)が注目されている。ERGは同じ関心を持つ従業員が集まり、サステナビリティなどの活動を行うグループ。その中から生まれた共創事例がある。
「環境課題に取り組むNESTというグループが、探検家の北極調査を支援したことがきっかけでした。実は、NTTデータもこの調査を支援したのです。探検家のご子息がclimate force社を運営しており、NTTデータは同社と一緒にオーストラリアの森林の保護や植林に取り組むとともに、熱帯林の再生や生物多様性と地域経済をサポートするモデルづくりを進めています」(池田)
先進事例の1つとしてAIに触れたが、これからの時代、AIは社会課題解決の手段としても重要な要素になるだろう。ただ、AIには課題も多く残されている。そこで、NTTデータは2023年に設立されたAIガバナンス協会に積極的に関与している。
また、ITに関わる企業として、電力消費量の増大という課題にも向き合っている。
「グリーンソフトウェアファンデーションという、電力消費の少ないソフトウェア開発をめざすグローバルな団体があります。当社はアジア初の運営メンバーとなりました。すでにイタリアの大手銀行に対して、同ファンデーションの方法論に基づく可視化サービスを提供しています」と池田。NTT DATAのサステナビリティビジネスは、今後、世界を舞台にしてさらに加速することだろう。手を携えて共創をめざすパートナーとの関係も、さらに強化していく考えだ。
本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。
NTTDATAのサステナビリティに関する取り組みはこちら:
サステナビリティ
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