金融機関のシステムにおける課題と機会
デジタルトランスフォーメーション(DX)の最前線にある金融サービスは、高い性能に対する要求、多数の規制の遵守、信頼性のあるサービス提供など、独自の課題に直面しています。世界中の金融機関が課題克服のために努力する中、新たなインフラ技術を活用したサービスモデルの革新の機会が生まれています。
今日、多くのITベンダーがクラウドソリューションを提供していますが、金融業界の厳格な要件を満たすために、安定した通信帯域と低遅延のネットワークを使って、複数のデータセンタを橋渡しするハイブリッド・クラウドシステムを必要としています。しかし、現在のソリューションは機能しているものの、システムの複雑さと、それに伴う高い実装コストを必要とします。
金融機関の差し迫った課題に対応するために、IOWN技術がいかに高度なソリューションを提供し、機動性、性能や可用性を向上させることができるかを示したホワイトペーパー“Services Infrastructure for Financial Industry Use Case”が7月末にIOWN GFより公開されました。
ホワイトペーパーのポイント
ホワイトペーパーでは、金融機関における5つの機会や課題を説明しています。
1.デジタル銀行サービスへの継続的なシフト
- -金融機関は、上質なユーザーエクスペリエンス(UX)とサービスの信頼性を高めるためにITシステムの計算処理能力を増強する必要があります。
- -IOWN技術は、顧客接点を強化し、より高い性能信頼性を持つデジタルサービスを提供します。
2.業界間のコラボレーションと競争
- -複数の業界間での柔軟なコラボレーションは、例えばBuy Now Pay Later(BNPL)のような新しい金融サービスを促進します。
- -IOWN技術はシームレスなデータ共有とコラボレーションを可能にし、新たなビジネスモデルの開発を推進します。
3.データを活用した個別化された顧客体験
- -多様なデータソースを迅速に分析し利用する能力は、競争力を維持するために不可欠です。
- -IOWN技術は高性能なデータ接続を保証し、金融機関が迅速に個別化されたサービスを提供できるよう支援します。
4.規制遵守と自動化の両立
- -強化される規制に対応するためには、強力なITの処理能力が求められます。
- -IOWN技術は、クラウドとオンプレミスのサービスを安全に統合し、グローバルな規制要件に準拠することを可能にします。
5.レガシーシステムの維持と次世代サービスの提供
- -金融機関はレガシーシステムの維持と先進的なサービスの展開のバランスを取る必要があります。
- -IOWN技術は、レガシーシステムとモダンシステムを効率的に統合するスケーラブルなソリューションを提供します。
- ※BNPL:欧米を中心に広がっている後払い決済でクレジットカードに代わる方法である。
- ※強化される規制:例えばEUの金融業界のICTリスク管理や情報共有に関する規制であるDORAや、米国カリフォルニアの消費者プライバシー法のCCPAがある。
IOWN GFプロジェクト「金融ユースケースのためのサービス基盤」の目標
このプロジェクトの主な目的は、高い性能と信頼性を提供することにより、金融機関が市場の課題を克服し、動的で回復力のあるサービスを提供できるよう支援することです。
このプロジェクトでは、次の5つのステップで取り組みをすすめています。
- 1.マルチデータセンタによるICT基盤の参照モデルを定義する。
- 2.ユースケースと主要な要件を定義する。
- 3.参照ケースとベンチマークを使用して技術評価基準を確立する。
- 4.参照実装モデルを開発する。
- 5.概念実証(PoC)を行うためのガイドラインを提供する。
ホワイトペーパーでは、IOWN GF技術が金融機関にむけて、機動的で強化された災害復旧機能とともに変革的なサービスをどのように実現していけるか、を示しています。ホワイトペーパーでは、上記の目標のステップ1とステップ2を記述しています。
提案しているIOWN技術活用方法の例
広帯域・低消費電力・低遅延が特徴のIOWNのインフラ技術であるAPN(All-Photonics Network)を適切に用いることで、災対システムの実現方法が大きく変わりえることを提案しています。安全な遠隔地につくる災対システムでは、メインシステムのデータをできるだけ遅延なく、確実に転送して保全し、万が一のときに、サービスを継続することが求められます。信頼性が要求される金融システムでは、お客様から受け取ったオーダーを失うことは絶対にあってはならず、トランザクションの保全のために何重にもシステムに対策を施しています。
ここで、広帯域で遅延時間が確定しているAPNをデータベースの遠隔地複製(レプリケーション)に用いると、なにができるようになるのでしょうか。光の速度で確定的にデータが送られたことが保証されるため、マイクロ秒のオーダーで、どこまでのトランザクションのデータが転送されたか、設計することができます。
遅延時間によっては、完全に同期的に遠隔地にデータを保全してから、お客様のオーダーに対して完了を返すことも不可能ではありません。
従来のシステムでは、アンチパターン(やってはいけない設計)とされたような、アプリケーションとデータベース管理システムのデータセンタ間の分散や、遠隔地へのアプリケーションの転送など、これまで想像もしなかったような柔軟性を、信頼性を確保しながら実現できる可能性があるのです。
図:APN接続された分散データセンタのモデル
(引用元:IOWN GF:Services Infrastructure for Financial Industry Use Case)
今後の展望
IOWN技術を活用した「金融ユースケースのためのサービス基盤」ホワイトペーパーには、ユースケースおよび技術評価基準が示されており、金融サービスの変革案を提案しています。NTT DATAは、引き続き、技術検証基準の策定や技術検証を通じて、ホワイトペーパーで提言しているシステム構成が実現可能であることを証明すべく、この取り組みをすすめていきます。
ホワイトペーパーは、IOWN GFのホームページhttps://iowngf.org/use-cases/から公開されています。
Use Cases - IOWN Global Forum - Innovative Optical and Wireless Networkについてはこちら
https://iowngf.org/use-cases/
IOWN|NTT R&D Websiteについてはこちら
https://www.rd.ntt/iown/
イギリス・アメリカ各国にて遠距離データセンタ間を接続する実証実験に成功
~約100km離れたデータセンタ間をIOWN APNで接続し、1ミリ秒以下の低遅延通信の実現と分散型リアルタイムAI分析等への適用可能性を確認~についてはこちら
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/041200/
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