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2024.9.24業界トレンド/展望

新たなビジネスモデルの実現・構築で陥りがちな7つの落とし穴
【第2回】「パートナー・組織・人材」「全体」に関わる落とし穴と対処法

株式会社クニエの調査によると、新規事業の成功確率は約2割。たとえ優れたアイディアがあっても、ビジネスモデルを支え、実現させる業務や組織、ITシステム、パートナーといったビジネス・ストラクチャーの構築に失敗するケースが多いことがわかった。本シリーズでは公知の事例やクニエの支援事例から、ビジネス・ストラクチャー構築で陥りやすい7つの落とし穴とその対策を2回に分けて紹介している。第1回は「業務・制度」に関する3つの落とし穴を解説した。第2回となる本稿では、「パートナー・組織・人材」および「全体」に係る4つの落とし穴と、対処法などについて紹介する。

第1回の記事はこちら:
新たなビジネスモデルの実現・構築で陥りがちな7つの落とし穴
【第1回】新たなビジネスモデルによる新規事業の必要性と難しさ

目次

ビジネス・ストラクチャー構築で陥りがちな7つの落とし穴(後編)

第1回では、新規事業開発時に気を付けたいポイントとして、主に「業務・制度」周りに潜む落とし穴を3つ紹介しました。今回は、新規事業開発の際に盲点となりがちな営業活動の動機付けや評価制度、そして最後に全体に関する落とし穴を紹介します。

図1:7つの落とし穴

図1:7つの落とし穴

パートナー・組織・人材に関する落とし穴

落とし穴4:営業チャネルに新商材を売ってもらえない

既存商材より優れた新商材を立ち上げたものの、営業部門や営業パートナーに売ってもらえないという問題も生じがちです。例えば製造業がサブスクリプション(以下、サブスク)事業を始めても、営業側としては分割払いに近く、短期的な売上が小さいサブスクより、短期で大きく売上が立つ従来の売切り商材ばかりを顧客に提案したり、SIerがSaaS事業を始めてもショット売上が大きいSI事業が優先されたりしてしまうとことがしばしば起き得ます。

要因

落とし穴に陥る要因として、「営業チャネルに売ってもらうための動機付けが弱い」「営業チャネルが売りやすい環境が整備されていない」ことが挙げられます。

営業部門や営業パートナーはすでに売るべき商材を多数抱えているため、そこに新たな商材を組み入れて売ってもらうためには、他商材と比べても評価や利益を多く得られる、あるいは他商材と営業上の相乗効果を出せるといった事実がなければ、積極的な提案・販売を期待することは難しいでしょう。

また、マージンや相乗効果の点では魅力的でも、十分な商品説明が必要なプロダクトの場合、学習コストが高いため積極的には提案・販売しない傾向があります。

対処法

この落とし穴への対処法は、営業チャネルへの「適切な動機付け」や「サポートの充実」です。

「適切な動機付け」は、自社の営業部門であれば営業評価につながるインセンティブ設計、サブスクであれば販売時点で期待契約年数分の営業成績を計上することなどが例として挙げられます。パートナーであれば、彼らが儲かる仕組み、売りやすい仕組みを作ることが望ましいでしょう。

例えば、電子契約サービスの『クラウドサイン』は、SMBCクラウドサインなど、積極的にホワイトレーベル展開を進めています(※1)

ホワイトレーベルとは、他社に対し、自社の製品・サービスを他社ブランドで販売することを認めて提供(卸売)することです。一般的にホワイトレーベルによる提供は、パートナーにとってはファーストパーティ商材(自社商材)扱いとなり、価格決定権もパートナーにあります。また初期構築までをセットにして販売したり、カスタマーサポートや運用保守を請け負ったりなど、パートナー独自の付加価値をつけてサービスラインナップを広げられるなどといった自由度の高さも特徴です。

また一般の代理販売の場合、営業の売り上げは販売手数料のみのネット計上になりますが、ホワイトレーベルプロダクトは自社商材ゆえ商材価格を含めたグロス計上になることが多く、インセンティブに大きく響くため、営業間で販売の優先順位が上がりやすい傾向にあります。

「サポートの充実」は、具体的には案件紹介・商談同席、提案ツール(営業資料や実績事例等)の提供、問い合わせ窓口整備等が挙げられます。新業界の商材やサブスクへの売り方変更等、未経験のビジネスモデルは営業チャネルにとっては面倒が多いため、特に配慮が必要です。

例えばクラウド会計ソフトの『freee』では、販売パートナー向けに以下のような学習コンテンツの提供や商談同席等、充実したサポートを行っています。

  • 学習コンテンツ:freeeサービスやバックオフィス業務、各種業務を学べるコンテンツや、新機能/機能改善を学べるコンテンツ共有、各種勉強会の実施
  • 実地トレーニング:商談や導入アドバイザリーにfreee社員が同行するOJT
  • その他サポート:製品詳細や不明点についてのエスカレーション対応や定例会でのサポート

新商材の販売を検討する際には、このように優れたパートナープログラムを提供しているサービスを参考に、自社サービスに適したサポートを併せて検討しておくのが良いでしょう。

落とし穴5:既存事業優先で新規事業にリソース(人材・予算)が割り振られない

ローンチまで何とかこぎつけても、既存事業に対する小粒感が否めず、結果的に既存事業優先で新規事業へのリソース(人材・予算)が割り振られない、縮小させられるといったことも起き得ます。

要因

この落とし穴に陥る要因として、新規事業の評価基準が本業のままであることが挙げられます。

新規事業を既存事業と同様、「売上の絶対額」や「投資効率」といった指標で評価した結果、既存事業に対して大幅に見劣りしてしまい、やる意味がないと予算を縮小させられる、あるいは増員や追加投資が認められない——これらは新規事業開始後に頻発する弊害であるため、思い当たる節がある方も多いのではないでしょうか。

対処法

これら弊害への対処法としては、新規と既存で「事業の評価基準を分けること」が挙げられます。具体例として東京ガスの事例をご紹介しましょう。同社は新規事業として省エネサービスを開始するにあたって、営業成績の評価指標を「ガスの供給量」から「営業利益」に変更しました(※2)

“省エネ”が売りである以上、もし従来通りの評価指標であれば、売れてもガスの供給量は従前ほど伸びないため、評価は下がってしまいます。これではせっかくの新規事業の売れ行きがふるわず、経営層からその価値を認めてもらうことができないまま、最悪の場合立ち消えになってしまう可能性が高いでしょう。

新規事業を始める際は従来の評価指標をそのまま適用するのではなく、新サービスと評価指標などに矛盾が生じていないか、必ず検討する必要があります。適切な指標を持つことで新規事業が企業にもたらすインパクトやポテンシャルを評価でき、その重要度が経営層に理解されれば、十分な人材や予算を獲得することができるでしょう。

落とし穴6:新規事業メンバーの士気低下や離脱が生じる

落とし穴5では事業に対する適切な指標設定の必要性について説明しましたが、それに加えて忘れてはならないのが“人”の評価基準の検討です。新規事業立ち上げ初期は、少ないコアメンバーで軌道に乗せていくことを求められがちですが、適切な評価基準無くしてはそのメンバーの士気低下・離脱が生じるといったことも十分起き得ます。

ある新規事業担当者は、当時兼務(既存事業に50%、新規事業に50%の稼働)での新規事業開発を所属組織から求められ、チャレンジングな環境ながらも事業を立ち上げ、売り上げを立てることができました。しかし、当該担当者の人事評価は下がってしまいました。なぜなら人事評価は「既存事業の稼働率」のみで評価されたからです。既存事業の稼働率は標準で70%を求められていましたが、兼務により稼働を50%しか充てられずに「目標未達」として評価されてしまいました。

要因

落とし穴に陥る要因として、「新規事業従事者に対する評価基準がないか、不十分」「基準があっても、評価者側に認識がない、軽視されるなどで適切に運用されない」が挙げられます。
先述の事例では、50%ずつの兼務を命じた上長に評価の最終権限がなく、権限を持つ組織長が新規事業を軽視して評価しなかったためにこのような事象が生じました。なお当該社員はその後、その企業を退職してしまいました。

対処法

対処法としては、「新規事業と既存事業の評価基準を分ける、あるいは基準は同じでも評価の比重を変えること」が挙げられます。

例えば花王は2021年1月、目標の達成度合を最大の評価対象とする形から、目標の達成度合に加えて達成に向けたプロセスも評価対象とする形に人事制度を刷新しました。特に事業の新規性が問われる研究や企画部門では、結果よりプロセスの評価を重くすることで、新規事業に取り組みやすい環境を設けています(※3)

いくら新規事業に注力したとて、人事評価制度の矛盾などによりそれを支えるメンバーの士気が下がれば結果的に競争力低下を招く事態となるでしょう。新規事業に取り組む際は売り上げや販路など外側の施策ばかり目がいきがちですが、内側の点検も忘れず行いたいポイントです。

(※1) 株式会社 才流(2024),“パートナーの営業が「売りたい」と思う理由をつくる、クラウドサインのパートナービジネス”,

https://sairu.co.jp/method/20928/(参照2024年6月25日)

(※2) 株式会社ダイヤモンド社(2023),“カニバリゼーションのかしこいマネジメントとは?”,

https://diamond.jp/articles/-/326129(参照2024年6月25日)

(※3) 株式会社 日経HR(2021),“花王、成果主義を修正 人事評価で過程重視”,

https://career.nikkei.com/nikkei-pickup/001208/(参照2024年6月25日)

全体に関する落とし穴

落とし穴7:業界構造の理解が不十分なまま事業開発を進めてしまい、地に足の付いたストラクチャーを構築できない

最後に、ビジネス・ストラクチャー構築全体に影響する落とし穴を紹介します。
それは参入先業界構造の理解が不十分なまま事業開発を進めてしまうことです。業界の意思決定構造や業法・規制等をとらまえた地に足の付いたストラクチャーを構築できず、思うように事業が伸びない。これは飛び地の新規事業を展開する場合などにしばしば起き得ます。

地に足の付いたストラクチャーを構築できないケースとして、サイネージメディア事業(施設にサイネージを設置し、メディアとして販売)の例を紹介します。

  • 集客力のある施設に金銭的インセンティブで導入促進を図るも、集客力のある施設はすでに金銭的に余裕があるため乗ってきにくく、業績改善の必要性に迫られる集客力のない施設にしか設置が進まない
  • サイネージ設置場所の調達をその施設の出入り業者との提携で行うも、その出入り業者が施設オーナーに強く言える立場ではなく、想定している集客力のある施設への設置が進まない
  • 広告事業では広告主となるターゲット部署に訴求する必要があるが(例:採用広告は人事部)、それが広告宣伝部以外である場合、広告宣伝部に主に相対する広告代理店に販売を任せてしまうことで、ターゲットとする部署にリーチできない
要因

この落とし穴に陥る要因としては、業界の意思決定構造や業法・規制等、その業界に詳しいメンバー抜きで企画・立ち上げを進めてしまうことが挙げられます。

クニエが新規事業経験者600名に行った調査でも、新規事業を成功に導くために必要な人材の要件と、そのうち不足していたと思われる要件として「対象事業領域の専門性」が多く挙がっていました。

対処法

この落とし穴への対処法は、「対象事業領域の専門人材の活用・採用」です。いきなり専門人材の採用に踏み切ることが難しければ、規制やしがらみも含め顧客のペインや儲けのキーポイントを押さえており、業界内の人脈も豊富で、地に足のついたストラクチャーを構築できる人材を外部から調達するべきでしょう。あるいはスポットコンサルサービスを使って1時間数万円で知見をシェアしてもらう形で、対象事業領域の専門人材を確保する手もあります。

新規事業開発と対象事業領域、両方の専門性を新規事業開発チームとして有することは、ビジネス・ストラクチャー構築において最も重要なポイントの一つといえるでしょう。

おわりに

ビジネス・ストラクチャー構築における7つの落とし穴について、内容とその落とし穴に陥る要因・対処法を解説してきました。

図2:落とし穴と要因・対処法

図2:落とし穴と要因・対処法

企業にとって未経験のビジネスモデルによる新規事業においては、その構想・企画段階からリスクを予測し、対処しておくことが有効です。そのためには、新たなビジネスモデルに必要なビジネス・ストラクチャーをできるだけ早い段階で見極めておくことが望ましいでしょう。

新規事業は成功が約束されているものではなく、その実現や成長には困難が伴うことは論をまたないでしょう。しかし企業の成長や生き残りのためには必要な営みのため、痛みを恐れずにぜひ挑戦していただきたいと思います。

その成功確率を少しでも高めるために、本稿が少しでも参考になれば幸いです。

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