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2025.3.4業界トレンド/展望

データ活用で道に迷わないための案内人:データスチュワードの標準的な役割定義と立ち上げのポイント

データ活用が進むに従いデータスチュワードの重要性が高まり、言葉としても認知が進んでいる。しかし、いざ具体的にデータスチュワードの育成・組織立ち上げを実施しようとすると、難航することが多いのが実情だ。
本稿では、NTTデータが考えるデータスチュワードの標準的な役割の定義とはなにか、どのようなアプローチを実施すれば組織内で円滑にデータスチュワードを育成できるかについて、大手小売業 で立ち上げを実施した事例を含めて紹介する。
目次

1.データスチュワードとはなにか

データスチュワードとは、一言でいうとデータを活用できるような状態に保つ執事のような役割の人のことです。
データを設計・実装する人と利用する人との仲介を行い、どこにどんなデータがあるかを示し、かつそのデータ品質をチェックします。また、データの所在や説明、品質の問題に対処を働きかける立場になります。

図1:システム開発/利用の中でのデータスチュワードの立ち位置

2.データスチュワードの主要な役割

データを活用できる状態に保つための活動は多岐にわたりますが、データスチュワードの主要な役割は以下の内容となります。

図2:データスチュワードの主要な役割

2-1.データ品質管理

データ品質は定義・測定されて初めて確認することができます。データスチュワードはデータの品質指標を設定し、どのデータを品質管理対象とするか、逸脱したデータをどう処理するかを決定します。以下に一般的なデータ品質の評価軸を示します。

表1:一般的なデータ品質の評価軸

すべてのデータを品質管理対象とし、かつ品質を100%に保つことは理想的ですが現実的ではありません。法的な規制や経営方針へのインパクトといったシステム外の要因を加味した上で、データスチュワードは対象選定と品質指標の決定、逸脱したデータの扱いの判断をする必要があります。以下に例を示します。

表2:データ品質の目標値等設定例

2-2.メタデータ品質管理

メタデータとはデータを説明するデータです。代表的なのはデータの名前、型や桁、意味定義、所在等になります。データスチュワードはどのメタデータを収集するかを決定し、収集後の管理も行います。このメタデータが正確でないとデータ利用が阻害されるだけでなく、データ自体の品質測定も行えなくなります。

図3:データ品質とメタデータ品質の関係

データスチュワードはメタデータ品質についても品質指標を設定し、管理を行います。データ品質と違いシステム的に自動化するのが難しいものが多い(例:データ名称の類似性、データ説明の過不足等)ため判断には訓練が必要となります。以下にメタデータ品質の一般的な評価軸を示します。

表3:メタデータ品質の一般的な評価軸

2-3.マスタデータマネジメント

マスタデータマネジメント(MDM)の内容は多岐にわたりますが、 データスチュワードがMDMで担う役割で特に重要なのが名寄せです。名寄せの条件と名寄せ後のマスタ品質の向上施策、名寄せ後にどの属性を使うかといった判断を実施する必要があります。以下にイメージを示します。

図4:名寄せのイメージ

前出のデータ品質管理でも述べましたが、マスタに関しても定めたルールに則って品質が低下していないかチェックすることが重要です。これもMDMの一環として対処するのがデータスチュワードの役割です。以下にマスタデータの品質低下と対処について例を示します。

表4:マスタデータの品質低下と対処例

2-4.リファレンスデータマネジメント

テーブルとして存在するものに加え、性別コード等の設計資料中のみ記載があるようなリファレンスデータもデータスチュワードが管理する必要があります。特に同一名称でもシステム間での意味相違や複数の要素を複合する必要があるものを、データスチュワードが全体で使えるよう調整/調停役を担います。

表5:リファレンスデータの維持管理項目例

2-5.データの情報セキュリティ配慮

データについて、どんなセキュリティ的な配慮が必要か(公開範囲、保存方法、アクセス履歴管理の要否等)を判断し、メタデータとして管理することもデータスチュワードの重要な役割です。特に法的な規制にも抵触しないか確認する必要があります。以下に事例を示します。

表6:データの情報セキュリティ配慮が必要な事例

以上が一般的なデータスチュワードの役割となりますが、実態上は各企業や組織等のデータマネジメント/ガバナンスを通して達成したい目標/課題や実情に応じてテーラリングしていくことが求められます。
次項ではデータスチュワードの立ち上げの際に考慮すべき点/テーラリングした点などをNTTデータが取り扱った事例をもとに説明します。

3.データスチュワード人材/組織立ち上げのポイント

近年データドリブンなビジネス環境が進展する中、データスチュワードの必要性が一層叫ばれています。データスチュワードを立ち上げる際には、「Why(なぜ必要か)」「What(何をするのか)」「How(どのように進めるか)」の3つの観点を押さえることが重要です。ここでは実際にデータスチュワードの立ち上げを支援した小売業A社の事例と合わせて解説します。ここでは実際にデータスチュワードの立ち上げを支援した小売業A社の事例と合わせて解説します。

1.Why(なぜ必要か)
データマネジメント全般に共通することですが、データマネジメントは手段であり、その目的は効果的なデータ活用を通じたビジネス価値の創出にあります。データスチュワードの設置も同様で、「どのようなデータ活用を通じてビジネス価値を創出するのか」「現在の課題は何か」「それをどのように解決すべきか」を明確にすることが重要です。場合によっては、データスチュワードの設置以外の手段が適切な場合もあるため、まず目的の整理を行う必要があります。
A社においても、全社的なデータ活用を促進するためにデータスチュワードの立ち上げが求められていましたが、まずはその背景と目的を整理しました。世の中の行動様式や価値観が変化し、食品に対するニーズが多様化している中、事業のさらなる成長には顧客基盤の強化が不可欠であり、そのために顧客IDを軸としたCRMによるデータ活用の促進が目的であることを明確化しました。

2.What(何をするのか)
データスチュワードの役割は前章に記載のように多岐にわたり、データマネジメントの知識体系であるDMBOK(Data Management Body of Knowledge)にもその役割が定義されています。しかし、これらすべてをデータスチュワードが担うのは現実的ではないため、「Why」の目的を踏まえ、どの役割を持たせるのかを整理することがポイントになります。
また、既に別の組織や担当者が一部の役割を担っているケースも多いため、すぐに役割を移譲するのではなく、不足している部分を補いながら段階的に理想的な役割分担へ移行することが望ましいでしょう。役割の定義後は、それを担うために必要なスキルを整理します。ここでいうスキルには、技術的な知識だけでなく、業務経験や社内ネットワークなども含まれます。データスチュワードの役割範囲は広いため、すべてのスキルを兼ね備えた人を配置する必要はなく、役割ごとに必要なスキルを分割し、それぞれに適した人材を配置することが重要です。
A社では、顧客情報のデータ活用を推進するにあたり、情報漏洩対策などのガバナンスの徹底を最優先事項としました。そのため、ガバナンス強化に向けたルール・手順書の作成や管理をデータスチュワードの役割と定義。一方で、法的規制への適合確認は、すでに設置されているセキュリティ部門の役割とし、データスチュワードには含めない形で整理しました。

3.How(どのように進めるか)
データスチュワードの立ち上げは、すでに何らかのデータ分析・活用が行われている状況で、現状の課題を解決し、業務の効率化・高度化を目指すケースが多いです。そのため、たとえデータスチュワードが不在であっても「一応」業務は回るという前提の元、慎重に進める必要があります。
立ち上げのポイントは、まず小規模な体制を構築し、早期に成果を創出・訴求できる施策を見極め、リソースを集中させて成果を生み出すことです。
A社では、立ち上げ時の要員が限られていたため、優先的に取り組む業務を選定する必要がありました。目指すゴールは、ユーザーがデータを活用できる環境を整備することだったため、以下の3つをスコープと定めました。

  • 1.分析用ルール・手順書の策定(ユーザーがスムーズにデータを活用できるようにする)
  • 2.分析用データマートの整備(データを整理・統合し、活用しやすい形にする)
  • 3.メタデータの整備(データの内容や利用方法を明確化し、理解を促進する)
  • これらの施策を進めることで、ユーザーのデータ分析環境を整備し、データ活用によるビジネス価値の創出を実現しました。

4.まとめ

データ活用においての重要な役割を担うデータスチュワードの立ち上げにおいては、「Why(なぜ必要か)」を明確にし、「What(何をするのか)」を適切に整理し、「How(どのように進めるか)」を慎重に設計することが重要です。A社のケースでは、目的(Why)を明確にした上で、最優先の業務(What)を絞り込み、限られたリソースの中で早期に成果を生み出す(How)ことで、スムーズな立ち上げを実現しました。
データスチュワードの導入を検討する際は、これらのポイントを意識し、自社の状況に応じた最適な役割・体制を設計することが重要です。
NTTデータはデータスチュワードの立ち上げを含め、お客さまのデータ活用推進に向けたサービスを幅広く提供していきます。

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