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2022.1.21業界トレンド/展望

ドローンのある社会のつくりかた(後編)― 先進事例にみる社会実装の可能性

ドローンの社会実装が現実味を帯びてきた。NTTデータは利用者の飛行許可・承認に関する申請手続きと審査業務を省力化するシステムの開発と運用をはじめ、安全を担保しながらドローンの利活用を促進するさまざまな取り組みを行っている。その中には日本が抱える課題の解決に向け、すでに社会実装されている先駆的プロジェクトも存在する。本記事・ドローンのある社会のつくりかた(後編)では、NTTデータがサポートする取り組みの実例をクローズアップする。
目次

全国最多規模の自動航行ドローンを配備、愛媛県の防災システム

NTTデータは、半世紀近くにわたり有人機の航空管制分野でシステムを提供してきた。その知見と技術をドローン制御に活用した事例も数々生まれている。まずはドローンの活躍が期待される分野のうち、災害対応の取り組みを見ていこう。
愛媛県では、同県西部・佐田岬半島の伊方町に立地する伊方発電所の原子力防災活動にドローンを活用しており、NTTデータはドローンの飛行ルートの策定や、複数ドローンの運航管理の仕組みを提供している。この取り組みを担当する県の原子力安全対策課の宮尾武一郎氏が、ドローン活用の意義を解説する。
「原子力災害の大きな特徴は住民の広域避難を伴うところであり、地震などの自然災害と原子力災害が同時に発生した場合、より迅速に避難していただくためにも、避難経路などの状況をできるだけ速やかに把握する必要があります。従来から実施している公用車などを走行させたパトロールに加え、ドローンを活用すればよりスピーディーな把握が可能になります」
佐田岬半島は山が連なる急峻な地形が東西に細長く延び、その山々を縫うように道路が整備されている地域だ。こうした地域では複合的に災害が発生した際、狭あいな道路が通行不能となることも想定されるため、ドローンを活用することで状況把握の時間を大幅に短縮できる。また地震などが発生した直後の車の走行は、土砂災害をはじめとする二次災害に遭う危険性も高くなるが、ドローンならそのリスクがない。愛媛県はこうした発想で2017年からドローンに着目。NTTデータは複数ドローンの遠隔制御と運航管理、ドローン飛行空域の交通管理を実現するパッケージソフトである「airpalette® UTM」を活用しながら、愛媛県のドローン運航の基盤を構築した。
伊方町には23機の自動航行用ドローンを配備しており、災害発生時にはこれらを飛行させ、避難経路などの被災状況の確認を行う計画を立案している。愛媛県は毎年原子力防災訓練を実施しており、複数のドローンを住民避難ルート上空に飛行させることで状況把握を行っている。近年の防災訓練では、あらかじめ設定した避難ルートが使えない場合に備え、新ルートを設定したうえでドローンを飛行させ、代替経路を把握できるようシステムを整備するなど、ドローンの防災活用の改良に努めている。

防災訓練中のドローン飛行の様子

防災訓練中のドローン飛行の様子

「ドローンを活用したシステムの導入では、佐田岬半島の特徴の一つである強風に伴う墜落リスクが大きな懸念でした」と宮尾氏。これについてはNTTデータと協力し、入念な調査のうえ耐風性の高い機体を配備した。NTTデータとしてはこの強風問題に加え、山がちな地形でドローンの電波が届かない事態に対応するため、山の上空に電波を中継するためのドローンを飛行させるなどの工夫とリトライも繰り返した。

愛媛県では、ドローン操作に関わる職員のオペレーション強化にも日々取り組んでいる。宮尾氏とともに県の原子力防災対策に取り組む笠原啓治氏は、こう話す。「職員は皆ドローンに精通していない状態からのスタートなので、試行錯誤を繰り返してきました。PDCAを回しながら対応力の強化に努めています」
ドローンや「airpalette® UTM」の操作の研修やドローン運用リーダの養成など、万一原子力災害が発生した際すぐに操作できるよう職員の育成を行っている。

愛媛県 県民環境部 防災局 原子力安全対策課 原子力防災グループ 左から 担当係長 笠原 啓治 氏、主任 宮尾 武一郎 氏

愛媛県 県民環境部 防災局 原子力安全対策課 原子力防災グループ
左から 担当係長 笠原 啓治 氏、主任 宮尾 武一郎 氏

住民避難を迅速化する体制が整ったと宮尾氏。今後については「システムの機能や運用面の強化を通じ、住民避難の実効性の向上を引き続き目指していきます。NTTデータには、日々進歩するドローンとシステムに関する最新情報をもとにしたサポートを期待しています」と話す。また、他の自治体に向けて「県として自律飛行するドローン導入に試行錯誤と苦労を重ねながら取り組みました。先行事例としての知見は、これから防災でのドローン活用を考える他の自治体にもお伝えできると思っています」とも語ってくれた。

ドローンの空の道「航路プラットフォーム」を構築する新たな取り組みへの参画

ドローンはインフラ設備点検での活用も期待される。電力会社の鉄塔や送電線は山間部に設置されていることが多く、従業員の高齢化が進む中、重い工具を背負っての登山は体力面でも時間の面でも相当な負担がかかり危険も伴う。その点、ドローンの目視外飛行による点検は多くの効果を期待できる。
2020年3月、東京電力パワーグリッドと日立製作所、NTTデータの3社は、ドローンが安全に飛行できる環境をつくり出すため「グリッドスカイウェイ有限責任事業組合」(以下、GSW)を設立した。
GSWは、電力設備の上空などを活用した全国共通の「航路プラットフォーム」を構築し、ドローンを利用したインフラ設備点検の高度化と災害対応におけるレジリエンス強化を目的とする。さらには同プラットフォームを空のインフラとして産業界に展開し、新たな事業の創出も目指している。同年6月には中国電力ネットワークも組合員に加わり、現在は4社推進体制となっているほか、全国各地域の電力会社も会員に名を連ねる。
東京電力パワーグリッドで事業開発室の部長を務め、GSWのチーフエグゼクティブオフィサーでもある紙本斉士氏は、現状のドローン運用における課題をこう語る。

東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 兼 技術・業務革新推進室 部長 グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 チーフエグゼクティブオフィサー 紙本 斉士 氏

東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 兼 技術・業務革新推進室 部長
グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 チーフエグゼクティブオフィサー
紙本 斉士 氏

「ドローンをさまざまな社会課題の解決に活用するには、人の目が届かない範囲での自動・自律飛行を安全管理できる仕組みがなければなりません。GSWとしては、社会実装のための具体的なルール策定を、実証の成果を示しながら国に働きかけています」

現行の法制度では、ドローンの4つの飛行区分(レベル1:手動操縦での目視内飛行、レベル2:目視内の自動・自律飛行、レベル3:無人地帯での目視外飛行、レベル4:有人地帯での目視外飛行)のうち、目視内すなわち人の目で見える範囲の飛行は一定基準下で行えるものの、目視外飛行は無人地帯のみに制限されている。2022年に施行される改正航空法により有人地帯上空での目視外飛行に道は開かれたが、具体的なルールづくりは現在進行形だ。
安全な目視外飛行の実現には、電力会社が保有する鉄塔や送電線が有効に活用できるとの発想がGSW設立の根底にある。紙本氏とともにGSWの事業に取り組む齋藤亮平氏はこう説明する。

東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 兼 技術・業務革新推進室 課長 グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 マネージャー 齋藤 亮平 氏

東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 兼 技術・業務革新推進室 課長
グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 マネージャー
齋藤 亮平 氏

「ドローンが数多く飛び始めると、ヘリコプターなど有人機との衝突が懸念されますが、送電線や鉄塔に近づいて飛行する可能性のあるヘリコプターは、警察や消防、ドクターヘリなどに限られています。それらのヘリコプターとしっかりと連携しながら電力設備上空をドローンの“空の道”にすれば、効率的に空を棲み分けできると考えています」

この航路プラットフォーム構築に向け、現在は各地でドローンを安全に飛ばす実証実験を行い、ルールづくりや規制緩和を働きかける取り組みを進めている。NTTデータはシステム開発のノウハウや長年の有人航空機における実績に加え、前述の愛媛県との取り組みや、飛行の許可・承認申請業務を効率化するドローン情報基盤システム(DIPS)の開発と運用などで、ドローンの知見も積み重ねている。加えて法制度に関する理解も併せ持ち、これらをひと括りに航路プラットフォーム構築に貢献している。

実証実験をGSWの拠点である虎ノ門ヒルズから遠隔で確認している様子

実証実験をGSWの拠点である虎ノ門ヒルズから遠隔で確認している様子

紙本氏は、GSW設立からわずか1年半で驚くほど多くの成果を生み出していると強調する。
「NTTデータが築いてきた国の関係部局とのネットワークに加えて、航空行政や航空法への知見に基づき、しっかりリスクアセスメントを行ったわれわれの取り組みを関係する行政機関の皆様に理解されやすいようアドバイスをいただけるなど、NTTデータのサポートは心強く感じています。そのおかげで、法整備やルール策定の場面でわれわれの意見の多くが採用されるポジションを確立できています」
たとえば、これまで地表から150m以上でのレベル3飛行は原則禁止されていたが、GSWは2020年11月に国内で初めて150m以上を含む空域での実証実験が許可された。また、幹線道路上空を横断する飛行での実証実験もリスク管理を前提に承認されている。
GSWでは、全電力会社を巻き込んだ共通プラットフォーム構築を推進するとともに、将来の事業化を見据えて他の産業界にアプローチする施策も検討中だ。「当社の本業である電力の安定供給とそのためのインフラ点検という課題解決に加え、さまざまな産業で抱える課題やニーズもしっかり捉えて一つひとつステップアップしていきます。また、従来の点検で利用してきたヘリコプターをドローンに置き換えることでカーボンニュートラルにも貢献できると考えています」と、紙本氏は今後に向けた展望を語った。

ソーシャルデザインを推進し社会課題解決の価値を提供

レベル4の実現が可能になる予定の2022年度以降に向け、NTTデータとしてはどのような貢献ができるのだろうか。レベル4が実現すれば、ドローンのより高度な飛ばし方への期待が高まると想定される。そこで大切になるのはやはり安全だ。愛媛県の事例に代表される多様なシステム開発のノウハウが、高度化するサービスの要求に応える一つのキーになるとNTTデータは考える。
それだけにとどまらず、NTTデータは法律や業務への理解とともに、数多くのステークホルダーと築いてきた実績を生かして、多様化する“次世代の空”においてソーシャルデザイナーとして価値を提供していくことも目指している。
次世代の空では、ドローンのさらなる普及を起点に、空飛ぶクルマなどさまざまなモノが飛び始めるだろう。ドローンは現時点で地表から150m以下を飛び、有人航空機はそのはるか上、1万~2万mを飛行している。今後登場する新しい空のモビリティは、その中間空域を飛ぶと想定される。となれば各空域の境界の高度では衝突の危険も考えられ、今後はより強化した安全管理の仕組みが求められるだろう。NTTデータは、システム開発はもちろんのこと、数多くのプレイヤーやステークホルダーをつなぎ、次世代の航空モビリティも含めた空全体の安全管理を支えることで、より良い社会の実現に貢献していきたいと考えている。

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