1.SCMの究極的な課題
サプライチェーンにおける究極的な課題として、“需給最適化”が挙げられます。
サプライチェーン企業にとって、需要分を必要なだけ作って納めることが理想ですが、需要は読みづらく、また仮に読めてもその情報がサプライチェーンの川上まで伝わることは難しいのが実態です。それにより、企業は限られた情報の中で計画することになり、余裕(バッファ)を持たせ過ぎた過剰在庫や反対に需要に対応できず欠品を発生させてしまいます。この問題を解決するための一つの技術要素として、今ブロックチェーンが注目されています。
SCMの究極的な課題
2.サプライチェーンに起こりつつある流れ
これまで多くの企業では、企業内に閉じた情報を企業ERPで処理し、社外のプレイヤーとの連携はメール/電話/業界EDIなどにより「1対1のデータ交換」で連携するのが一般的でした。それにより、多くの企業では大量の紙やExcel、複雑化するEDIに悩まされることになります。
これまでの企業間連携の形
これに対し、今起こりつつある流れは、「データ交換ではなくデータ共有」、つまり「ERPの外でデータを共有し、プレイヤー皆がそれを基に意思決定」することで、サプライチェーンの究極の課題を解消していこうという流れです。
今起こりつつある流れ
実際に、大手製造業や大手商社を中心に、サプライチェーン企業間での需給最適化のためにブロックチェーンを活用する例も出て来ています。これらの事例では、あくまで正(メイン)は企業のERPのままで、企業間で共有すべき最低限の情報のみをブロックチェーンをバイパス(サブ)として利用しています。
“ERPの外でデータを共有する”、これだけを見れば、既存のクラウド技術だけでも十分実現可能ともいえます。ただし、プレイヤー皆がそれを基に意思決定をするためには、“嘘偽りのない正しい情報であること”、“共有する内容や範囲を適切に制限すること”が求められます。そこに、ブロックチェーンの耐改ざん性や透明性、プライベートブロックチェーンに適用されはじめている各種秘匿化技術が活きてきます。
秘匿化技術について補足すると、例えばゼロ知識証明という暗号学の理論をブロックチェーンに適用する動きがあります(※2)。この理論をブロックチェーンに適用すると、各参加者はインプット情報を一切明かさずにアウトプット情報だけを各参加者で利用することが出来ます。具体的には、サプライヤーが生産能力や納入リードタイムや在庫量など他企業に公開したくない情報を秘匿化したままブロックチェーンネットワークに投入します。それらの情報を基に例えばサプライチェーン全体での最適発注量が計算され、その結果のみを参加企業全員で共有するということも可能となります。
3.商流・物流・金流がブロックチェーンで繋がる
今後は、ブロックチェーンネットワークにどんどんデータが出ていき、そこで色々な意思決定がなされるようになっていくことが考えられます。
需要情報、受発注情報、部品/製品入出庫情報、契約情報などが企業を跨いでブロックチェーンの中に出て行き、その上で自動的・自律的な契約執行がなされ、決済は仮想通貨によるリアルタイムかつマイクロ決済となるでしょう。
そうなると、ブロックチェーンは単なるデータ共有のための器から、企業活動そのものを支えるプラットフォームとなっていくかもしれません。将来的には、各企業はブロックチェーンからデータを受け取り、自社の会計処理や管理会計に流すというように、ブロックチェーンが主、ERPが従となっていくことも考えられます。
商流・物流・金流がブロックチェーンで繋がる
米国ウォルマートでは、葉物野菜の仕入先に対して、2019年9月までにブロックチェーンシステムに参加することを要請しました(※3)。このような動きが今後ますます増えていき、ブロックチェーンネットワークに参加しなければ取引が出来ないという時代が来ないとも限りません。
※1経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」
https://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160428003/20160428003.pdf
※2Skuchain: Zero Knowledge Collaboration
http://www.skuchain.com/zero-knowledge-collaboration/
Zcash: What are zk-SNARKs?
https://z.cash/technology/zksnarks/
※3Walmart: Food Traceability Initiative Fresh Leafy Greens