Personalization3.0(前回の振返り)
前回の記事では、2000年代から2030年代にかけてのPersonalizationの変遷を、Personalization1.0~3.0という3つの枠組みで整理しました。
図1:パーソナライゼーションの変遷
2030年には、企業が消費者を深く理解するために、より詳細なデータを業界横断的に取得・活用し、消費者にサービスを組み合わせて提供する、「Personalization3.0」モデルに突入していくものと考えています。
図2:Personalization3.0のコンセプト
Personalization3.0においては、「Human Digital Twin」の概念が重要となります。
これは、消費者のデータを連続的、網羅的に収集・統合し、バーチャル上に消費者のコピーを作成し、行動変容をシミュレーションした結果を踏まえて、リアルの顧客体験を向上させることを意味します。
一方で、Personalization3.0を実現するには、社会・消費者・技術・企業が四位一体となって、それぞれが抱える課題を解決していく必要があると述べました。
図3:Personalization3.0の実現に向けた課題
本稿では、そうした課題のうち、特にデータ活用の起点となる「消費者課題」と「技術課題」に着目し、課題解決の方向性について考えていきたいと思います。
Personalization3.0の食体験
上述の消費者課題や技術課題が解決された後の、食の未来を想像してみましょう。
その前提として、コロナ禍で大きく変化した消費者の意識を考慮する必要があります。
世界の消費者の73%は、コロナの影響で健康的な食生活を求めるようになったと言われています(※1)。また米国では、ECサイトでの食料品の購入額がコロナ前の2019年からコロナ禍の2020年にかけて約3倍($16.1M→$45.6M)に増加し、デリバリー・テイクアウトの利用が約6倍($1.2B→$7.2B)にまで拡大しているとの調査結果があります(※2)。
こうした変化は、Withコロナ/Afterコロナの時代でも続いていくことが予想されます。
次の動画で、その先に続く未来の世界を覗いてみましょう。
https://www.newfoodmagazine.com/article/109890/evolving-eating-habits-as-a-result-of-covid-19/
https://www.newhope.com/market-data-and-analysis/us-online-grocery-sales-growth-tails-june
「Frictionless Technology」の重要性
動画の中では、食と健康に関わるデータを取得し、消費者の体験を向上させる例をいくつかご紹介しました。
このような世界観を実現するための起点として、消費者が簡単に、負担なくデータを提供できる仕組みである、「Frictionless Technology」の活用が重要になると考えています。
図4:Frictionless Technologyの例(「動画:The Future of Food」を一部抜粋)
「Frictionless Technology」を活用することで、消費者にとっては、簡単かつ便利で健康的なサービスを受けられるメリットがもたらされます。
一方、企業側には、サービスの利用率や継続率の向上、顧客の拡大(健康意識が高くない層や、高齢者層などの潜在需要の掘り起こし)といったメリットがもたらされると考えられます。
また、これまで消費者自身では気づけなかった体調不良等に対して、自覚を促すきっかけとなるとも考えています。
実際にコロナ禍においては、体温や心拍数などのバイタルデータをバンド型活動量計で自動的に取得し、体調を継続的にモニタリングすることで、潜在的な感染者を特定し、感染拡大の予防に繋げている事例(※3)もあります。
「Frictionless Technology」は、センサーの測定精度の向上や、コスト低下、また処理能力の向上といった要因により、今後ますます発展し、普及していくと予想されます。 その進化の方向性としては、「据え置き型」と「普段着型」の大きく2つの方向性があると考えています。
図5:Frictionless Technologyの進化
「据え置き型」は、日常生活の場に設置された家具・家電などで、より自然にデータを取得できるテクノロジーを意味します。例えば、トイレにセンサーを取り付けてIoT化した、「スマートトイレ」が挙げられます。
健康状態の把握のためには、尿や便のサンプル採取が有効ですが、そのためには検査キットを用いてサンプルを採取し、医療機関に郵送するなどの手続きを行う必要があります。
しかし、トイレの利用によって健康状態を可視化できるようになれば、サンプル採取、郵送、結果の受領待ちといった様々なフリクション(負荷や負担)を解消することができます。
他方、日常的に着用する服や靴などからデータを取得するアプローチである、「普段着型」の例としては、「スマートウェア」が挙げられます。
例えば現在においては、バイタルデータの取得は、バンド型活動量計を通じて行うことが一般的です。
一方で、身体の一部に専用のデバイスを装着しなければならないということに、抵抗感があるという声も少なくありません。
普段着に限りなく近い衣類を着用するだけで、常にバイタルデータが測定できるようになれば、そういったフリクションを解消することが期待できるでしょう。
図6:「Frictionless Technology」の普及に取り組む企業事例
NTTデータのFood&Wellnessプラットフォーム実現に向けた取り組み
ここまで「Frictionless Technology」について紹介してきましたが、その本格的な普及に向けては、技術面、コスト面でいまだ課題があり、時間を要すると思われます。
一方で、課題解決の機会も少なからずあると考えており、将来的なFrictionless Technologyの実現と普及に向けて、NTTデータではいくつかの取り組みを進めています。
その取り組みの一つとして、従業員の健康診断データを統合管理するサービスであるHealth Data Bank®に、スマートフォンカメラで顔撮影することでバイタルデータを測定できる、「binah.ai」(※4)を連携する実証実験(※5)を進めています。
図7:Health Data Bank®とbinah.aiの連携イメージ
現在、健康診断は原則として年一回実施され、データが蓄積されていきます。binah.aiを連携することで、高頻度で取得するバイタルデータから、健康リスクの兆候を把握できれば、よりタイムリーに適切なアドバイスや処置ができると考えています。
将来的には、binah.aiのようなスマートフォンアプリの利用が難しい方や、より手軽に利用したい層にも広く使って頂けるよう、様々なシーンで活用が可能な鏡型のIoTデバイスである「スマートミラー」など、Frictionless Technologyの企画・開発を始めています。
図8:NTTデータSBC社で開発中のスマートミラー(プロトタイプ)
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2020/080300/
NTTデータが考えるFood&Wellnessプラットフォーム
Frictionless Technologyを活用したバイタルデータの取得は、前回の記事でご紹介した、「Food&Wellnessプラットフォーム」の重要な起点となります。
図9:NTTデータが考えるFood&Wellnessプラットフォーム
今後、消費者の食や健康に関わる様々なデータを取得し、掛け合わせていくことで、より健康で楽しい食生活の実現や、消費者データを活用したバリューチェーン改革によるフードロス等の社会課題の解決を実現していきたいと考えています。
次回は、今回ご紹介したbinah.aiやスマートミラーを活用した実証実験の具体的な取り組み状況や、 取得したバイタルデータの食領域への活用可能性について発信していきます。