1. AWS re:Invent2020での主な発表
re:Invent 2020では主要な88の発表がありました [1] 。専門用語が多いので、ある程度で技術に明るくなければ読むのも大変ですが、各発表の詳細はこちら [2] にもまとめられています。その中で特に筆者が注目したものを以下の通りピックアップしました。
カテゴリ | 発表 | 詳細 |
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コンピューティング | 日本(東京)で初の AWS Wavelengthゾーンを開始 [3] | Wavelengthは、下記に示した図の通り、 5G環境と統合されたコンピューティング リソース環境を提供します。 通信キャリアが提供する5Gネットワークと ダイレクトに接続されたデータセンターで、 高速なデータ通信が可能なサーバ環境上に アプリケーションを構築することができます。 日本ではKDDIが5Gネットワークを提供する 最初のキャリアとなりました。 |
ブロックチェーン | Amazon Managed Blockchainで Ethereumのサポートを開始 [4] | ビットコインに代表される ブロックチェーン技術を様々な分野へ応用する 分散アプリケーションプラットフォームが マネージドサービスとして プレビューされています。 仮想通貨以外の用途として、 公文書などの履歴管理や貿易取引、 不動産契約の締結と履行を自動化する 「スマートコントラクト [5] 」の 実行基盤 [6] として期待されます。 |
IoT | オンプレミスの産業機器データを収集、処理、 モニタリングするAWS IoT SiteWiseの 新機能である AWS IoT SiteWise Edge (プレビュー版)を発表 [7] | 工場などの産業用サイトに構築された ネットワーク環境で大規模なデータを収集して、 高速化のために、クラウドではなくローカルサイト (エッジ)側で処理し、モニタリングできる ソフトウェアが提供されます。 AWS IoT SiteWiseは後述する Amazon Lookout for Equipmentと統合し、 機械学習を用いて、機器の故障検知を検出したり、 ここ数年「エッジAI」のキーワードに 代表される機能拡充が目立ちます。 よりリアルタイムにデータ処理が必要な 場面が広がってきたと言えます。 |
モバイル | AWSからAmazon Location Service (プレビュー)が 発表に [8] | 下記の図のように地理情報をアプリケーションに 組み込めるサービス。 GPS位置情報を有効にしたモバイルデバイスが 特定のロケーションに入ったことを検知して (ジオフェンス)、 アプリケーションの処理を起動したり、 デバイス追跡、マーケティング、 配送管理などの幅広い ユースケースで利用できます。 |
AI | 新機能 – Amazon Lookout for Equipmentで センサーデータを分析し、 機器の故障検出に役立てる [9] | 既に機器データの収集・モニタリングを 構築している環境向けに、 機器の異常な動作を検出する APIベースの機械学習サービスを提供します。 AWS IoT SiteWise Monitorに統合して、 リアルタイム出力を視覚化する、 または資産が異常状態に なりやすくなっている場合に アラートを受け取ることができます。 他にも、AWSが学習させた コンピュータビジョンモデルを元に、 画像やビデオストリームを使って、 製品もしくはプロセスの異常や欠陥を検出する Amazon Lookout for Visionなどが 新しく発表されています。 |
AWS Panorama Appliance: コンピュータービジョン アプリケーションをエッジへ [10] | 既に設置された産業用カメラのある ネットワークにPanorama Applianceの ハードウェアデバイスを接続し、 カメラのストリーム映像に対して、 機械学習モデルを使用した問題を 予測・検知するアプリケーションを 導入することができます。 例えば、下記のイメージのように、 カメラで監視された製造ライン上にある 異常な部品の検知、 小売店でカメラに撮影された 顧客動向のトレースなどです [11] 。 アプリケーションはPanorama SDKにより 任意に実装が可能です。 |
図1:AWS Wavelength Wavelength KDDIのニュースリリースより [12]
図2:AWS Location Serviceのジオフェンス [13]
図3:AWS Panorama [14]
他にも多数のサービスや新機能が発表されていますが、上記の表で取り上げた発表は、AWSを特徴付けてきた、サーバリソースを提供する「クラウド」の機能とは少し違ったイメージを持たれたのではないでしょうか。これまで困難だったデータの収集や加工処理を容易にするサービスが目立ち始めています。
2. 発表からみるデジタル技術進化の方向性
AWSでは新サービスや機能拡充の際は、ユーザの意見をよくヒアリングした上で、提供するサービスの方向性などを決定していることで知られています。つまり、発表される内容は各分野の最新ニーズや動向にある程度沿ったものと言えます。
クラウドはこれまでコンピューティングリソースを、必要に応じて、最適なコストで提供することを大きな役割としてきました。事業運営に大規模なシステム運用が必要な企業は、より安い運用コストを求めてクラウドへの移行を進めてきた一方で、デジタル化の取り組みを加速させています。
デジタルというキーワードが社会の様々な領域に広がりつつある中、従来人手や紙で行ってきた作業を効率化して生産性を向上させてきたこれまでのIT技術は、データを活用するデジタル技術としての側面をさらに拡大しています。AWS re:Invent 2020でのクラウドの進化の方向性を鑑みて、筆者が考える、中核となる主要なデジタル技術の方向性は以下の通りです。
AI
情報技術を使った処理の対象が、学習モデルにより、単純な機械的作業から、より人間の知覚や判断が必要だった部分へ広がりを見せています。ドラえもんのように、人間と同じく感情や意思をもった人工知能の登場はまだ遠い未来の話になると思いますが、逆に人間が行う一部の知覚・判断活動を圧倒的な処理スピードで実現する領域が、今後も増え続けていくでしょう。
ブロックチェーン
分散台帳データベースやスマートコントラクトプラットフォームの拡大により、いくつもの既存の社会制度を根本から変えてしまう可能性を秘めています。近年問題となったハンコ決裁・公文書管理の課題を解決する一助となるものもあれば、電気自動車の普及で今後ますます需要が増えるであろう電力を取引するためのインフラ基盤 [15] のようなものも多く生まれていくでしょう。貿易・不動産取引等、現状の商慣習で行っている業務に対して創造的破壊が行われる可能性も捨てきれませんが、様々なインダストリーに、こうしたプラットフォームが広がっていくことが予想されます。
IoT
センサーやモバイル端末といった様々なデバイスから収集されるデータが拡大します。デバイスエッジ側での処理や、位置情報、AI等様々なデジタル技術との組み合わせにより、例えば、ドローンの自律駆動・自動運転といった、より高度なロボティクス分野との組み合わせによる応用も期待されます。
クラウド
様々なデジタル技術のテストベッドとして活用される機会が多くなると同時に、5Gなどのネットワーク高速化により、巨大なデータの入れ物としても位置付けられます。
3. NTTDの取り組み
NTTデータでは、デジタル社会に対応した新しい社会の仕組みづくりを、これからもお客様とともに進めてまいります。様々なデジタル技術を使った案件事例の提供や、新たなビジネスを創出するためのサービスデザイン、スピード感をもったアジャイル開発手法など、デジタル人材育成もサポートしながら推進していきます。また、経営層や管理職もこれまでとは違った視点で開発を支える必要があります。NTTデータにはデジタル技術を扱った開発に携わるマネージャー向けの研修もオンラインで開催しており、多様な知識を有した専門家集団がこれからも様々な知見、技術、情報を提供してまいります。