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2021.3.11INSIGHT

トヨタとNTTグループが描く、コネクティッドカーが実現する社会

2017年3月、トヨタとNTTグループはコネクティッドカー基盤に関する協業を開始した。そこでは大規模な実証実験が行われ、2020年度にはより難易度の高い技術開発とその検証、評価を進めている。この協業がもたらす未来の社会とは、どのようなものだろうか。

トヨタとNTTグループがめざすスマートモビリティ社会

「私がマネジメントを行うコネクティッド先行開発部 InfoTech は、約100名の研究者・技術者からなり、コネクティッドカーやMaaS(Mobility as a Service:マース)、自動運転を支えるICT基盤やデータ解析に関する研究開発、先行開発を行っている。トヨタがめざす世界は、便利で安心・安全な社会の実現であり、それを具体的に示しているのが、Woven Cityをはじめとしたスマートシティであり、e-paletteをはじめとした自動運転やEV車などによるMaaSサービスだ。」

トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長 前田篤彦氏はこう語る。

その実現のためには、リアルとバーチャルの世界をつなぎ、人を通じて情報を入出力することで、モノとコトを動かしていく仕掛けが必要になるという。この仕掛け全体をトヨタは「Connected」と捉えており、ハードウェアに強みを持つトヨタだからこそ、リアルを含めて社会全体を改革できる力があると考えているのである。では、その「Connected」とはどのようなものなのなのだろうか。

トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長 前田 篤彦

トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー
コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長
前田 篤彦

前田車のみならず、通信ネットワーク、クラウドまでさまざまな構成要素からできている。そしてその仕掛けを実現するためには、データ分析やソフトウェアアップデートなど広範囲の技術の確立が必要になってくる。まさにそうした技術確立のために進めているのが、NTTグループとの協業による研究開発である。

前田氏はNTTグループと組んだ背景について、コネクティッドカーの実現のためにクリアすべき大きな課題が、車から上がってくる膨大かつ多様なデータの活用であったことを挙げた。「現在、日本国内のトヨタ車においてコネクティッドカーの台数は約100万台にも及んでいる。この先も飛躍的に伸びていくことが予想されており、グローバルでは2025年頃に2,000万台を超えることになる。車から上がってくるデータ量も同様に増え続けており、トヨタだけでもEB(※1)におよぶデータの利活用が求められるようになってくる。ちなみにEBというのは、一般的なハードディスク100万台のデータ量に相当する。これだけの膨大なデータを、いかに適切に処理し続けるかが、大きな課題となってくる。」と説明した。

前田今から約6年前、そのような基盤づくりをどうやって行えばいいのか困っていたところに出会ったのが、NTTデータをはじめとするNTTグループだった。2017年3月に共同での研究開発の開始を発表して以来、協業に基づくさまざまな取り組みが進められている。

両者にはコネクティッドカー基盤の実現に向けた共同開発への熱い思いがあり、共有できる価値観・理念がある、と前田氏は語る。「これをもとにスマートモビリティ社会実現に向け、数多くの技術課題の解決に貢献できるものと、ともに手を携えながら取り組んでいる。」

協業に基づく研究開発は、ワーキンググループによる技術検討と、実車両を接続しての実機検証の、2つのサイクルを短期間で回すことで効果的に進めているという。ここでの大きな特徴といえるのが、トヨタとNTTグループが発注者と受託者という関係に留まらず、お互いの技術・リソースを持ち寄りながら技術開発を進めていることだ。

(※1)EB

エクサバイト(EB)=10*18乗バイト。

協業のもとコネクティッドカーの3つの課題解決に注力

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 部長 千葉祐はここまでの話を受けて、コネクティッドカーにおけるデータ活用には3つの課題があると語った。

千葉コネクティッドカーから各種データを収集して、活用することの難しさについてお話ししたい。まず、コネクティッドカー自体がここ数年で急速に増えており、扱うデータ量がとんでもないボリュームになっているというデータ量の問題がある。また、GPSデータの誤差をはじめとしたデータの精度に関する問題もある。さらにもう1つ、コネクティッドカーの大きな課題となるのが、リアルタイム性だ。

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 部長 千葉 祐

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部
第五製造事業部 部長
千葉 祐

1つ目のデータ量。コネクティッドカーの台数を単純に500万台と設定する。このすべてのコネクティッドカーから、車両の制御データだけ収集しても1台当たり毎秒8KBのデータがクラウド上に蓄積されることになる。その結果、1カ月では104PB(※2)という膨大なデータ量に達する。

2つ目の精度。コネクティッドカーからは、センサーのテキストデータや車載カメラの動画データが無線ネットワーク経由でクラウドへと送られる。センター側ではそれらのデータを基に、コネクティッドカーの現在状況をクラウド上に再現するのだが、たとえばGPSの位置情報にメートル単位の誤差が生じてしまうだけで、走行レーンが特定できなくなってしまう。そこで、位置情報の精度を10センチ単位にまで高めようと取り組んでいる。

そして3つ目の課題であるリアルタイム性。たとえば落石などの障害物があると、最初に検知して停止した車から情報がクラウド上に通知される。クラウド側ではその情報から障害物を認識して登録し、同じレーンを走っている後続の車へと通知する。この一連の流れにかかる時間を「7秒」に目標設定した。7秒というのは、時速60kmで走る車が障害物を検知できる限界値から逆算したものだ。これに基づいてリアルタイム性を評価しながら、トヨタとNTTデータはさまざまな取り組みを進めているという。

(※2)PB

ペタバイト(PB)=10*15乗バイト。1PB=1,000TB、1EB=1,000PB=1,000,000(百万)TBとなる。

トヨタとNTTデータ、互いをどうとらえるか

一般社団法人アイディアピクニック 代表理事/日本大学文理学部 情報科学科 大澤研究室 研究員 中沢剛氏は、両者の協業について「そうした協業を進めていく中でトヨタとNTTデータは、お互いをどのようなパートナーとして捉えているのか?」と問いかけた。

前田スキルと経験が全く異なる者同士が融合することで、これまで難しかった問題も解決できるパートナーシップであり、かつ同じ志を持って同じ課題を見据えながら実際に解決していくことのできるパートナーシップでもあると思っている。

千葉NTTデータにはデータを分析する技術はあるが、データそのものは持っていない。トヨタ様は世界で最も多くの自動車を販売している企業であり(※3)、それはつまり世界一データを有している企業だといえる。トヨタ様の持つコネクティッドカーの大量データの強みと、NTTデータのビッグデータ解析の強み、それぞれを掛け合わせることで、非常に強力なパートナーシップを発揮できていると自負している。

こうした強固なパートナーシップを築いてきた両社は、新しいサービスや技術が出現するサイクルがどんどんと早まっている中で、どのようなことに注意しながら新商品/サービスに新しい技術を取り入れているのだろうか。

千葉は、「目の前にある技術をどう扱うかよりも、5年後や10年後の技術を想定しながら研究開発を行うことをこの取り組みではとても重視している。そのため、NTTグループやトヨタグループだけではなく、たとえば国外のベンチャーが有する新しい技術の採用も積極的に検討するなど、幅広く将来を見据えた技術開発に力を入れている。」と語り、長期的な視野に立った研究開発の重要さを強調する。

中沢氏からの「コネクティッドカーと自動運転にはどのような関連性があるのか。」という疑問には、前田氏が「コネクティッドカーというのは、自動運転の実現のために必要な基盤の、1つの要素だと考えている。」と答え、千葉も次のように続けた。

一般社団法人アイディアピクニック 代表理事/日本大学文理学部 情報科学科 大澤研究室 研究員 中沢 剛

一般社団法人アイディアピクニック 代表理事/日本大学文理学部
情報科学科 大澤研究室 研究員
中沢 剛

千葉まず自動運転とは、交通事故を減らし人の命を守ることをめざした取り組みからスタートしたと認識している。一方でコネクティッドカーは、各車両の持っている大量のデータを集めて、ドライバーだけでなく、多くの人々が他のかたちで利益を享受できる仕組みだと捉えている。そうしたスタート時点における考え方の違いが、一番大きいのではないか。

中沢氏による「協業プロジェクトを通じて特に苦労したのはどのようなことか。」という問いには、前田氏が以下のように回答した。

前田トヨタにはトヨタなりの文化や言語があるので、まずはいかに会話を成り立たせるかで最初の1年は過ぎた。やがて会話が成り立つようになり、技術目標を決めていったが、そうなるとまたさらに細かいところで言葉の違いが生じてきた。たとえば『アプリケーション』や『プラットフォーム』など、お互いが捉える言葉の意味が異なることもあった。そうした違いを理解するための試行錯誤を繰り返しながら、ようやく同じ土俵の上で取り組めるようになったと認識している。これは完全な異文化の融合であり、とても楽しくもある。

そして最後、NTTデータとトヨタからのメッセージによって、この対談は締めくくられた。

千葉本日説明した技術的課題というのは、既に解決しているものも、これから解決していくものもある。いずれにせよ閉じた取り組みではなくオープンなものなので、興味のある方にはぜひ我々との連携を呼びかけたい。

前田「同じ思いだ。“来る者拒まず、去る者は追わず”なので、いろいろな方々に参画してほしい。何かしらの課題をお持ちであれば、ぜひコンタクトを取っていただけると嬉しい。」

(※3)トヨタ様は世界で最も多くの自動車を販売している企業であり

2020年実績。

本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。

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