NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
「カスタマーサクセス」の定義とは?
「カスタマーサクセス」の「サクセス=成功」の定義は商品やサービス、ターゲットとする顧客によってさまざまですが、一言でいえば「その顧客が抱えている悩みや課題を解決すること」です。一般的に「カスタマーサクセス」とは、その顧客の悩みや課題を解決するための一連の施策・取り組みを指す言葉として用いられます。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサクセスと似た言葉に「カスタマーサポート」があります。では、ふたつの違いは何でしょうか?
大きな違いは「受動的か能動的か」という点です。カスタマーサポートの代表例であるコールセンターの場合、商品やサービスを購入・契約した顧客からの問合せや相談、クレームに対応すること。このスタンスは基本的には受動的なものです。
一方、カスタマーサクセスは、顧客の要望や悩みを事前に察知・予測し、先回りして対応します。顧客に対して能動的にアプローチし、かつ継続的に顧客の悩みや課題に寄り添う点で、従来のカスタマーサポートとは異なります。こうしたアクションは、顧客の体験価値を高めるポジティブな施策として位置づけられます。
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違い
カスタマーサポート | カスタマーサクセス | |
姿勢 | 受動的(顧客から要望があった際に動く) | 能動的(顧客の要望を事前に察知・予測して動く) |
When(いつ対応するか) | 顧客から問合せやクレームがあった時 | 顧客に何らかのニーズが生まれているであろう時 |
What(何を実行・提供するか) | 顧客から要望されたことを実行する | そのニーズを満たすサポートを提供する |
How(具体的な実施例) | 顧客からの問合せに対して、商品の操作方法に関する説明を実施 | 集めた顧客の声を基にしたサービス改善やキャンペーンの実施 |
効果 | 一時的 | 継続的 |
KPI | 対応満足度・対応数 | チャーンレート(解約率)、LTV(顧客生涯価値) |
カスタマーサクセスが重視されるようになった背景
新規顧客の獲得よりも既存顧客との「中長期のエンゲージメント」が重要になった
カスタマーサクセスの概念は、もともとSaaSのサブスクリプションモデル(定額料金を継続的に支払うモデル)から発生したといわれています。サブスクリプションモデルでは、契約後のチャーンレート(解約率)の抑制と、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化がカギとなります。そこで、顧客の要望や不満を先回りして能動的な施策を講じることで、顧客満足度を継続的に高めるカスタマーサクセスが重視されるようになった経緯があります。
一方、サブスクリプションモデルではない企業においても、消費トレンドが「所有」から「利用」へとシフトしたことや、少子高齢化の影響などもあって、新規顧客の獲得よりも既存顧客との中長期のエンゲージメントが重要になってきました。こうした背景から、さまざまな業界でカスタマーサクセスの考え方が広く取り入れられるようになりきました。
顧客が本当に解決したい・達成したいことを考えることが「差別化」につながる
カスタマーサクセスが重視されるもうひとつの背景として「商品・サービスのコモディティ化」が挙げられます。機能や価格では競合との差別化が図りにくくなっている中、より本質的な顧客の悩みややりたいことに対して企業側が取り組むことが重要になってきました。
「顧客の声を聞き、改善し続けること」が大事になった
この「消費トレンドの変化」と「市場のコモディティ化」というふたつの大きな潮流から、購入・契約後の顧客に対して能動的に声を聞き、継続的な改善を図るカスタマーサクセスが重視されるようになっています。
例えば、化粧品業界は多くのプレーヤーが参入する市場のひとつです。その中で、ある化粧品のサブスクリプションサービスでは、定期購買している商品を顧客が正しい頻度・分量・用途で使いきれているか、それによって顧客の課題(乾燥肌やエイジング)が解決されているかを、企業側が定期的にヒアリングするなどの施策を講じています。このカスタマーサクセス施策によって、顧客をアップセル・クロスセルに誘導して顧客単価を高めることはもちろん、顧客との長期的な関係を構築しながらLTVを上げようとしているのです。
カスタマーサクセス施策を考える上でのポイントは?
では、企業が顧客と長期的な関係を築くためのカスタマーサクセス施策を講じる上でのポイントは何でしょうか。ここでは、具体的な施策内容の前に、本質的に押さえておくべきポイントをご紹介します。
<ポイント➀>企業の「パーパス(存在意義)」を明確にする
前述のとおり、商品・サービスの機能や価格のみで差別化を図ることは今日では至難の業になっています。加えて、Z世代のような新しい考えを持った世代がこれからの顧客の中心層になっていきます。
そのような中、企業自身は、何のために存在し、顧客のどのような「成功」を支援したいかといった、根源的な思想・文化に立ち返ることが求められています。つまり、企業として顧客や地域にどう向き合い、どう貢献していくのかという「パーパス(存在意義)」が重要となり、それがひとつのストーリーとしてカスタマーサクセス施策とリンクしていることが大事なポイントとなります。
<ポイント➁>顧客の課題や期待を定量・定性の両面から理解する
ふたつめのポイントは、顧客にとっての「成功」、すなわち解決してほしい課題や期待について「定量」と「定性」の両面から深く理解することです。
定量面において重要なのは、言うまでもなくデジタルデータの活用です。モバイルアプリに代表される顧客接点のデジタル化が進んだことにより、リアル店舗やオンラインサイトをまたぐ、さまざまな顧客データが日々生成・蓄積されています。このデータを分析することで顧客の潜在的なニーズをとらえることが、カスタマーサクセス施策を考える上で不可欠です。
しかし、デジタルデータの活用だけでは十分ではありません。例えば、リアル店舗を運営する小売業であれば、店舗スタッフが対面接客において何を感じ、結果どのような行動につながったのか、その店舗スタッフの実体験から得られる定性的な情報も重要です。
その実体験で得られた定性的な気づきと定量的なデジタルデータを突き合わることで、「顧客にとっての成功とは何か?」を仮説立て、施策を実施し、改善がみられるまでPDCAサイクルを回し続ける――カスタマーサクセス施策のポイントはそこに尽きます。真に顧客の琴線に触れるような体験はどうすれば実現できるのか、定量・定性の両面からインサイトを探りましょう。
この➀➁のポイントが、カスタマーサクセス施策の本質的なポイントです。その上で、具体的な施策立案におけるポイントも簡単にご紹介します。
<ポイント➂>LTVが高い顧客の特徴から施策を立案する
どの企業にも、特定の商品やブランドを長く使っていただいている顧客(=LTVの高い顧客)が存在します。そうした顧客がどのように商品・サービスを利用しているのか、どんな点に満足を感じているのかをポイント②のように定量・定性さまざまな側面から理解することが大切です。そこから抽出された傾向をもとに、他の顧客でも再現できるような施策を立案していきます。
<ポイント➃>顧客が解約しやすい場面や理由から立案する
ポイント➂とは反対に、過去に解約した顧客という「失敗事例」から施策を立案するアプローチもあります。解約した顧客に接触が可能であれば直接ヒアリングしたり、購買履歴やアクセス・来店履歴をデータから読み取ったりしながら、どの場面で、どんな理由から解約につながったのかを掘り下げていきます。それによって、解約を事前に予兆し、その状況が再発しないための施策を立案していきます。
カスタマーサクセス施策の成功事例とは?
では、カスタマーサクセス施策の具体的な成功事例もみていきましょう。
<事例➀ メルカリ>
月間2千万人を超えるユーザーが利用するフリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリは、カスタマーサクセスに力を入れている企業のひとつとして知られています。
メルカリが創業以来大事にしているのが、「VOC(Voice Of Customer)」。ユーザーから寄せられる問い合わせ1件1件に目を通し分析を行うほか、経営陣やプロダクトマネージャーがVOCレポートを見ながら問い合わせのトレンドを共有し、改善提案について議論する「VOCミーティング」を毎月実施しているとのことです。
また、メルカリのユーザーに実際に集まってもらい、さまざまな意見を直接聞く「メルカリサロン」も定期的に開催。プロダクトマネージャーやカスタマーサービスのメンバーも同席し、ユーザーの声に耳を傾けています。
このようにユーザーの声に真摯に耳を傾けたことによって、「らくらくメルカリ便」や「ゆうゆうメルカリ便」、そして「匿名配送」などのサービスが実現しました。できるだけユーザーの手間を解消し、安心・安全に発送できる環境づくりに取り組むことで、ユーザーの継続的な利用、ひいてはカスタマーサクセスを実現している企業といえます。
<事例➁ パルコ>
株式会社パルコでは、休眠顧客対策として顧客・ポイント管理SaaSの「CAFIS Explorer®」のデータを活用し、精度80%以上の休眠顧客の予測モデルを構築しました。
具体的には、CAFIS Explorerが持つ顧客の来店日数や購入単価、件数などのデータを使って、休眠(一定期間以上、再来店・再購入しなくなる状態)しやすい顧客の特徴を把握できるようになりました。結果、顧客をランダムに抽出して休眠予測した場合と比較して、最大で2.5倍の精度がみられました。
同社ではこの休眠予測モデルにもとづき、休眠を回避するためのシナリオ構築に取り組んでいます。離反傾向のある顧客へのアプローチを工夫することで、顧客自身にとってもより有益なサービスが受けられるカスタマーサクセスを実現し、休眠防止につなげています。
カスタマーサクセスは、顧客と企業が“共生”するための土台
顧客一人ひとりがインターネットから多くの情報を手に入れることができ、さらに自分が体験したこと・感じたことを自ら発信できるようになった現代において、企業の「誠実さ」は非常に重要になりました。このような環境変化の中で、顧客の成功を追求し続けて商品・サービスを改良し続けていく企業と、従来商品・サービスの短期的な収益に固執する企業のどちらが長期的な顧客との関係性を獲得できるかは、火を見るよりも明らかではないでしょうか。
顧客の想いや声に深い洞察を持つと同時に、企業自らが社会や顧客にとってどのような存在でありたいかを深く考える。このような誠実な姿勢によって、顧客と企業が“共生”していくためには、顧客の真なる成功を追求し続けるカスタマーサクセスという考え方が土台として不可欠なのです。
監修者:内藤 一章