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製造現場に強い三菱重工と、アプリケーションに強いNTTデータ
「三菱重工とNTTデータは、“縦の関係”で繋がっています」
そう語るのは、三菱重工 成長推進室 事業開発部の榎本智之氏だ。榎本氏は三菱重工とNTTデータの関係性をOSI参照モデル(※)にあてはめて、次のように説明する。
図1:OSI参照モデル
「三菱重工は現場から集まってくる直接的なデータを活用して、設備を自動で制御や運転することが得意です。一方で、NTTデータは集めてきたデータを加工して付加価値を高めることに長けています。現場データを上層部のアプリケーションへと上手くつなぎ、新しいソリューションを提案する。これがNTTデータと三菱重工の“縦の関係”です」(榎本氏)
この2社の連携はどのようなシナジー効果をもたらすのだろうか。その答えは、それぞれが取り組んできたグリーンイノベーション事業を紐解くと見えてくる。
コンピュータネットワークの通信機能を役割毎に7階層に分類したモデル
電力小売の市場自由化で生まれた新たなソリューション
三菱重工 事業開発部
榎本 智之 氏
三菱重工が取り組んでいるのは、機械学習手法を用いたAI予測技術『ENERGY CLOUD』を活用し、CO2の削減と生産性の向上の両方を実現する仕組みづくりだ。
その三菱重工の主力事業は、プラントによる大規模発電と電力供給である。国内におけるCO2排出量は発電と産業部門で65%を占めており、「これをクリーンエネルギー化することは三菱重工の使命」だと榎本氏は語る。
産業部門では自家発電設備を持ち、作りだしたエネルギーを自分たちで消費するという企業も増えている。榎本氏によれば、これらの企業には大きく分けて2つのニーズがあるという。ひとつは、できるだけ既存の設備を使いながら、さらにCO2を削減すること。もうひとつは、余剰分の電力を上手く活用することだ。
図2:AI予測技術を活用したソリューション
榎本氏は余剰電力の活用について、三菱重工の強みを生かすことができると自信を覗かせた。「2016年に電力小売の全面自由化が始まり、余剰電力を売電するという選択肢が生まれました。そこで、売電で得た収益を新しい投資に回すというサイクルができるのではないかと考えました」(榎本氏)
その事例のひとつが、ある化学企業との取り組みだ。
図3:GHGプロトコル(スコープ1は自分たちが出すエネルギーのCO2排出量、スコープ2は外部から購入したエネルギーのCO2排出量)
サプライチェーン全体における温室効果ガス排出量の算定には、国際基準である「GHG(Greenhouse Gas)プロトコル」が用いられるが、この化学企業ではプロトコルのスコープ1・2が総排出量の6割を占めていた。
そこで三菱重工は、両方の排出量を減らすための独自のソリューションを提案した。「既設のCO2排出分をできるだけ下げる、もしくは、設備を新しいものに置き換えてCO2を下げていく。そして余剰電力の活用のために、売電取引も積極的に行っていくことを提案しました」(榎本氏)
AI予測技術がCO2削減と生産性向上の両立を実現可能に
この案を具体的な計画に落とし込むために活用したのが、デジタルツイン(データを元にコンピューター上に再現した空間)だ。投資規模を検討するため、既存と新規のプラント構成をデジタルツインに落とし込み、シミュレーションを実施。その結果、設備規模によるCO2削減量とコスト削減量のバランス評価を基に、最適な設備能力を把握することができたという。また、事業環境の検討においては、電力の市場価格に左右される環境影響評価を実施。コスト削減効果とCO2削減効果のバランスを見極めることもできた。
図4:デジタルツインを用いた事前評価
「新しい事業投資でもデジタル技術を活用すればCO2の削減と、生産活動の維持と向上の両方を実現できるバランス点を見つけることが可能です」(榎本氏)
さらにこの計画を実行する際には、リアルタイムのデータを取り込み、時々の状況に合わせて最適な運用を行う「スマート運用」方式を採用している。
三菱重工は今、この仕組みをGHG対策と結びつけようとしている。通常、CO2排出量の算出にはCFP(カーボンフットプリント)が用いられる。CFPは商品やサービスのライフサイクルの各過程で排出された温室効果ガスの量を追跡し、得られた全体の量をCO2量に換算して表示する仕組みだ。しかし榎本氏は、「どの製品がCO2を多く排出しているのかが見えにくく、効果的な削減につながらない」と指摘する。
そこで力を発揮するのが「ENERGY CLOUD」と「スマート運用」だ。スコープ1・2に関しては、製品の生産プロセス毎にCO2排出量をすることができる。
図5:スマート運用によるCO2排出量の可視化
この取り組みは既に、三菱重工の取引先で実行されている。その経験から榎本氏は、「すべての生産活動を直接算出しようとすると、非常に手間がかかります。細かく把握すべきパートと按分法を両立させて、現実的なCFPを目指すのが、私たちの落とし所だと考えています。これにはDXやデジタル技術が非常に有効だと思っています」と語る。
NTTデータの“包括的”コンサルティングサービス
一方のNTTデータは、2022年1月から『グリーンコンサルティングサービス』の提供を始めた。各業界の特性を捉え、環境分析から戦略立案、実行支援までを包括的に実施し伴走型で支援するサービスだ。
製造ITイノベーション事業本部 第三製造事業部の南田晋作は今回、実行支援のひとつである「自組織のGHG排出量の可視化」について取り上げた。
「カーボンニュートラルの達成に向けては、GHG排出量の可視化とその結果に対する削減計画の立案、その計画に沿った実行とモニタリングが必要で、このループを常に回していくことが最も重要です。入口の可視化が、どこまで後行程での削減に繋がるような形で見える化できるかがテーマだと考えています」(南田)
図6:NTTデータが定義する5段階のGHG排出量可視化レベル
NTTデータはGHG排出量可視化レベルを0~4に分類し、事業に即した支援を行う。南田は「レベル2で自組織の削減努力が反映されるような排出量の可視化を実現したい。そして、レベル3の企業間データ連携によるサプライチェーン全体での排出量可視化、レベル4の業界横断での連携による社会全体の排出量可視化を実現し、カーボンドリブン経営につなげたい」と意気込む。
南田によると、従来の一般的な可視化手法は手間もかかり、CO2の削減につながりにくいという。「必要なデータが社内のさまざまなシステムに散在しているため、活動量を算定するためのデータ収集に手間がかかります。データ化されていない場合はアンケートを送って回答してもらうのですが、ミスも多い。結果的に属人化が進んでしまい、あの人でなければCO2の排出量はわからない、といった状況になっていると感じます」(南田)
製造ITイノベーション事業本部 第三製造事業部
南田 晋作
こうした状況を改善するのが、NTTデータが提供する『グリーンコンサルティングサービス』だ。
「データ収集の莫大な手間は、NTTデータが持つ各情報システムの知見を活かして、社内の各システムと容易かつ安全に連携することで解消できます。属人化に関しては、活動量から排出量の自動計算を行うプラットフォームを提供。複雑なExcel計算から脱却して、属人性を排除します」(南田)
個別のCO2排出量の可視化がカーボンニュートラルの鍵に
ほかにも企業が抱える問題が、CFPの算出方法だ。「例えば、手間がかかっても、あるグリーン戦略商品だけは製品別にCFPを算出してアピールしたいが、他の商品は手間をかけずに全体算出すれば良い。そういったケースは珍しくないと思います。全体のCO2排出量を算出しながら、特定の製品だけのCFPを取得するにはどうすれば良いのかを考える必要がありました」(南田)
これに対するNTTデータのグリーンコンサルティングの解はまだ日本では一般的な方法でないサプライヤー別に算出する方式だ。これにより可視化レベル1からレベル2への移行がスムーズになるという。
「社会全体がどれだけのCO2を排出しているかは、各社の排出量の合計になっている。これを利用して、取引額や量などによってサプライヤー企業の排出量を配分する方式です。初期のプロセス構築に若干手間がかかるものの、削減努力を迅速に自社の排出量に反映できるようになると考えています」(南田)
サプライヤー別の算出方式を導入すれば、特定製品のみのCFPを算出しながら、全体の排出量計算と整合性を保つハイブリッド方式が実現可能になる。「サプライヤー別算出方式の導入支援を通じて可視化レベルの向上と、社会全体のカーボンニュートラルの達成に貢献したい」(南田)
三菱重工とNTTデータの共創で製造業向けのグリーンコンサルティングが進化
(左からNTTデータ 南田氏、三菱重工業 榎本氏)
三菱重工とNTTデータが推し進めるグリーンイノベーション事業。この共創によって、グリーンコンサルティングサービスはより高度化している。鍵となるのが、三菱重工のAIソリューション『ENERGY CLOUD』との連携だ。特に製造業向けのグリーンコンサルティングに力を発揮するという。
「三菱重工のENERGY CLOUDを使えば、エネルギープラントを適切にモデル化できます。そこにリアルタイムの実測データを入れていけば、プラントの運転に対して3つのことが可能になります」(南田)
一つ目は「シミュレーションによる予測」。設備構成や運転パラメーターなど、モデル構成を変えた運転シミュレーションが可能になる。南田は「中長期の事業計画に沿って、設備投資のタイミングや使える予算、得られるベネフィットなどを予測でき、最適な設備投資の計画が立てられる」と期待する。
二つ目は発電量や生産熱効率、CO2最小化など目的変数に併せた「最適運転計画の作成」だ。
「自家用発電を併設しているプラントにおける余剰エネルギーを活用して、売電へとつなげます。自家発電設備を持つ製造業者と国内最大規模の電力需要家であるNTTグループ、そして昨今増えている新電力事業者を結びつけることで、製造業者が持つ既存設備の燃転資金を生みだすことができ、社会全体の電源安定にもつながります」(南田)
三つ目が「リアルタイムモニタリング」だ。設備稼働モニタリングエッジから実測データを取り込み、デジタルツインでリアルタイムモニタリングが可能となる。製品別や期間別といった詳細なCFPを計測することができ、製品のグリーン価値向上につながるという。
「今回、三菱重工の『ENERGY CLOUD』と連携したように、多くのプレーヤーの力を借りながら、社会全体のカーボンニュートラルを実現していきたいと考えています」(南田)
こうした共創プロジェクトは、互いの得意技の組み合わせで大きなシナジー効果を生み出せるため、今後さまざまな分野で活性化していくことが予想される。三菱重工やNTTデータは、個々の顧客や業界に合わせて最適化した仕組みを提供し、グリーンイノベーションムーブメントを牽引していくことが期待される。
本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。