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2022.4.14業界トレンド/展望

テクノロジーが支えるサステナブル社会の実現とは

サステナブルな社会と環境、経済を実現するための取り組みが世界中で加速している。重要なのは、多様なステークホルダーとの連携だ。その連携を実現するために必要なのが、テクノロジーである。テクノロジーを正しく使い、より良い社会を実現するためにはなにが必要なのか。ジャーナリストの福島 敦子氏がNTTデータ 代表取締役副社長 執行役員の藤原遠に話を聞いた。
目次

「Business and Sustainability」から「Business with Sustainability」へのシフト

福島今回のテーマである「テクノロジーが支えるサステナブル社会の実現」ですが、サステナビリティという言葉には広い意味があります。藤原さんは、どのように捉えていますか。

藤原これまでも、SDGs、ESG、CSRなど、さまざまなキーワードが出てきました。SDGsは、国連が提唱しており、国際レベルで地球環境の課題に対応していくもの。ESGは、投資家からの目線も意識しながら、企業として果たすべき役割に取り組むものです。

企業に求められている社会的な役割は広がっています。例えば、ESG経営では企業価値に直接的な影響を与える取り組みにフォーカスされることが多かったですが、最近では、企業価値に対する間接的かつ中長期的な影響を意識した「サステナビリティ経営」が求められています。

「サステナビリティ」という言葉も、位置づけが少し変化しているのではないでしょうか。これまでは、ビジネスはしっかりやりながら、サステナビリティもしっかりやる。そういう意味で「Business and Sustainability」でした。今は、事業部門自身が事業そのものでサステナビリティを実現するという意味の「Business with Sustainability」へとシフトしてきています。

そこでNTTデータは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を社会、お客さまと進めていき、Economy、Society、Environmentの3つの観点から、事業活動を通じたサステナブルな社会の実現に貢献したいと考えています。

この取り組みを推進していくにあたって、NTTデータに限らず、各企業でも共通するポイントが、企業が単独で取り組むのではなくて、さまざまな組織とつながりを持ちながら一緒に実現する道を探っていくこと。お互いにつながる、共生といった思想が、サステナブルな社会の実現には不可欠だと考えています。

NTTデータとサプライチェーンのCO2を削減する『Green Innovation “of IT”』

福島事業活動がサステナビリティの実現に直結していくなか、重要な課題となっているのが気候変動問題だと思います。NTTデータでは、気候変動問題にどう取り組んでいますか。

藤原NTTデータでは、気候変動問題への取り組みを「Green Innovation」と表現しています。方向性は二つ。ひとつは、『Green Innovation “of IT”』。NTTデータとそのサプライチェーンが排出するCO2を削減する取り組みです。もうひとつは、『Green Innovation “by IT”』。NTTデータが提供するITサービスを通して、お客さまあるいは社会のCO2排出量を削減する取り組みです。

福島『Green Innovation of IT』はNTTデータ自らの脱炭素の取り組みですが、具体的にはどういった取り組みなのでしょうか。

藤原NTTデータが直接的に排出するCO2の7割は、データセンターの電力使用によるものです。コンピュータなどの機器が動作する際に発生する熱を冷やすために空調を使うのですが、その電力がCO2を排出します。そこで、『三鷹データセンターEAST』は、自然の冷えた空気を外から取り込んで機器の冷却に使えるように建物の構造を工夫し、一般的なデータセンターと比較して約2割の電力削減につなげています。

次の取り組みは、ソフトウェアによって発生するCO2の削減です。NTTデータは、MicrosoftやGitHubなど海外の有力企業とともに『Green Software Foundation』を運営しています。ここでは、ソフトウェアが稼働した際、どの程度のCO2を排出しているかを把握して評価する指標、『SCI(Software Carbon Intensity)』の制定に取り組んでいます。極力CO2の排出を抑える効率的なプログラムや環境に優しいソフトウェアづくりに貢献するべく、2021年末に最初のモデルを構築し、検証しているところです。

このような取り組みは、NTTデータだけで実行するのではなく、関係する国内外の組織とつながりを持ちながら実現をしていく必要があります。そういった意味で、グローバルでの共生、共に生きる取り組みの一つと言えるかと思います。

NTTデータのITサービスでCO2を削減する『Green Innovation “by IT”』

福島『Green Innovation by IT』では、企業や社会全体の脱炭素化に対して、どのようにITやデジタル技術を生かしているのでしょうか。

藤原『Green Innovation by IT』では、見える化、つまり各企業の事業における直接的・間接的なCO2排出量の把握が重要です。このとき、すべてのCO2排出量を完璧に洗い出すのは困難であるため、支配的要素をしっかりと把握して削減や最適化プランを実行、評価するといったサイクルを回します。NTTデータでは、戦略立案からデジタル技術を活用した実行まで、一気通貫で支援するコンサルティングサービスを通じて、お客さまの脱炭素を実現します。実際に三菱重工様と取り組んでいる事例を紹介します。

三菱重工様の国内の自家発電設備におけるシェアは約7割で、工場の自家発電設備とともに、ENERGY CLOUD?(エナジークラウド)というAI、機械学習を活用した、設備の運転データの実測値から運転状況のデジタルツインモデルを作成するソリューションも提供されています。

今年1月から開始した三菱重工様との連携では、ENERGY CLOUD?が提供する温室効果ガスの排出量の算出、自家発電設備の余剰電力の予測・制御の機能を活用し、具体的な取り組みの一つとして、余剰電力を安定的な電力確保を望む新電力事業者に供給し、収益化する取り組みを進めています。自家発電設備を利用している三菱重工様のお客様にとっては、余剰電力の売電によって新たな収益が期待できますし、加えて、エネルギー利用を効率化することでCO2排出量の削減にもつながります。

従来、三菱重工様が提供してきた価値は自家発電という機能ですが、NTTデータと組むことで、余剰電力の収益化やCO2削減といった新しい価値が生まれました。NTTデータと一緒になってサービス機能を強化することで、「既存事業の価値を再定義してサービス機能を加えたことで、事業を通じたサステナビリティの貢献を実現した」という捉え方ができる事例だと思います。

福島素晴らしい連携だと感じたのですが、どういった流れでアイデアがまとまっていくのですか。

藤原三菱重工様は、日本中に多くの工場をお持ちです。そこに対して、NTTデータがIT目線でグリーンコンサルティングをやることで、課題の抽出から一緒に取り組んでいくといった流れができてきました。このグリーンコンサルティングサービスは、お客さまの業界特性を捉えた戦略立案からデジタル技術を活用した実行支援までワンストップで実施。様々な企業に提供し始めています。

一連の流れですが、まずCO2排出量の見える化から始めます。調達部門に関連するデータや工場の稼働、オフィスでの事業活動など、様々なインプットから支配的項目を洗い出し、CO2排出量を見える化するプラットフォームを構築。実態に即した排出量を把握し、具体的な削減の策定と実行につなげ、最後は成果まで可視化するサポートを行っています。官民を問わず、業界の特性や事業の形態に合った形で色々な支援ができると考えています。

AIの活用では、社会規範の変化と技術の進化の両面を意識する

福島ここからは、AIをはじめとしたテクノロジーをサステナブルな社会の実現に活かすために必要な視点についてお話を伺います。現在のAI技術の進化、そして課題をどう見ていますか。

藤原以下にAIの活用領域を図解しました。

横軸が、AIが扱うテーマの深刻度。右に行けば行くほど、人命に影響があります。縦軸は、AIの寄与度。上に行くほど、人間の力を借りずにAIが自動で対応します。左下から右上にかけて適用領域が広がってきており、自動運転を始め、さまざまな形で人間の生活にAIが溶け込み、支えていることがわかります。

ここで、AIが広い意味でサステナビリティにつながる事例を紹介します。

NTTデータのインドチームは、医療機関にアクセスすることが難しい地域に、レントゲン検診車を派遣し、画像認識のAIを活用することで、10万人に対して結核の簡易診断を行い早期発見につなげるプロジェクトに取り組んでいます。人間の力だけで10万人もの画像を診断することは難しく、まさに、AIが「すべての人に健康と福祉を」というSDGsの目標を実現したひとつの例だと思います。一方、AIは倫理的な問題にも直面しています。例えば、学習する顔認識のデータが偏っていたために、結果として差別的な問題を起こしたこともあります。

AIのような新技術に求められるものは、常に変わっています。以前は、「囲碁で人間はAIにもう勝てない」と言われていたように、単純に賢いAIを求める時代でした。今は、AIに社会的、倫理的な視点が求められる時代になりつつあります。

福島確かに、AIは活用が進んでいる反面、紹介いただいたようなトラブルや倫理の問題も出てきています。AI技術を前向きでポジティブに活用し、サステナブルな社会の実現のために、NTTデータではどう向き合っていますか。

藤原AIアドバイザリーボードを立ち上げて、最先端のAI技術者だけでなく、法律的な視点を持つ弁護士や生活者、社会学、消費者の視点を持っている大学の先生などにも入って頂いて議論を進めています。現在はAIを想定していない法律もあり、思わぬルール違反が起こりえます。NTTデータが新しいAIに関連するサービスを始めたり、既存サービスにAI的な要素を加えようとしたりするときには、現行の法規制に抵触しないか、様々な視点から検証する必要があります。

また、最近、話題になっている「コンダクト・リスク」、いわゆる法には背いていないが、社会的には受け入れられないような企業活動や社員の行動のリスクにも考慮する必要があることから、AIを活用する際には多様なステークホルダーを意識することが必要です。社会の規範は、時間とともに変化します。技術も凄いスピードで進化をしていくので、両面を意識しながらステークホルダーと共に生きていくサステナブルな社会の実現を、ITを通して進めていきたいと思います。

「Business with Sustainability」を実現する3つのポイント

福島今回のお話しからは、企業のサステナビリティへの取り組みが、事業戦略や経営戦略そのものにもなっていることが分かりました。とはいえ、多くの企業がサステナビリティと収益性、経済的価値をどのように両立させればいいのか苦労していると思います。そのためには、どのような観点が必要だと思われますか。

藤原前段で、「Business with Sustainability」の話をしました。この実現には、3つのポイントが必要だと考えています。

ひとつ目が、多くのステークホルダーとつながることです。サステナビリティ実現のために直面する課題の解決や新たな価値創造を考えることは、短期的な収益につながりにくい場合も多く、一企業だけでは難しい側面が多いと思います。こうした折に、生活者としての視点を持って、企業から業界へ、そして業界を超えた多様なステークホルダーへとつながりが広げれば、中長期的な収益のシナリオが描けます。結果として社会に大きなインパクトを与えられるはずです。

「そんなことが、実際にできるのか」という人も多いでしょう。少しスケールの大きな話になりますが、ヨーロッパでは「EUタクソノミー(持続可能な経済活動分類)」を定めており、カーボンニュートラルを大義名分に事業を興し、ビジネスにつなげて経済を回しています。こういったアプローチは、関連する企業や官公庁、団体などがつながることで新しい価値を作り、サステナビリティを実現していく発想に近いのではないでしょうか。

二つ目が、事業の提供価値を再定義するというアプローチです。次々にサステナブルにつながる新規事業を起こしていくことは、簡単ではありません。しかし、既存事業の提供価値をサステナビリティ目線で再定義し、サービスを強化していけば、新しい価値を提供できるのではないでしょうか。たとえば先ほど取り上げた三菱重工様の取り組みは、当社と一緒に既存の機能を強化することで、顧客企業に対してサステナビリティにつながる新たな価値を提供している良い例といえます。

三つ目が、社内変革。サステナブルな取り組みを社内に定着させるしくみづくりです。
これも一筋縄ではいきません。目の前にはお客さまと既存のビジネスがあるので、いくら上がサステナビリティの旗を振っても、現場は上手く回らないのが実態だと思います。実現の第一歩は、まず経営者が本気になること。
加えて、若い世代の感覚が重要です。彼らは、自分が携わる事業が将来にわたり社会へと貢献するのかを、我々が想像している以上に真剣に考えています。そういった感性をポテンシャルとして引き出す仕掛け作りを行わなくてはいけません。NTTデータも社内横断組織を立ち上げて、社内副業的に、サステナビリティの取り組みへと参加できるようにしています。若手の感性と事業責任を負っているミドル層を組み合わせて取り組むことが、大きなポイントになるでしょう。

福島サステナビリティへの感度が高い若い人たちの力を組織のなかでどう生かすかは、とても重要な視点だと思います。また、とにかく一社だけではできないというお話も多々ありました。多くのステークホルダーと連携をして、お互いにメリットを享受できる関係を構築していく「構想力」も非常に問われていると感じました。

藤原企業は等しくサステナビリティの対応を求められており、同じベースに立っています。これまで以上に、共通の目標意識を持った取り組みが必要な環境です。私たちNTTデータも、みなさまとつながりながら、是非、一緒に進んでいきたいと考えています。

福島本日はありがとうございました。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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