はじめに
ビジネスにおけるデザインの重要性の理解が進み、現場においても「デザイン思考」や「デザイン経営」といった言葉が使われるようになってきました。デザインの対象は、従来のプロダクトやグラフィックからサービスへと広がり、いまや国の政策や社会システムにまでその役割が拡張されています。システムインテグレータ(SIer)の役割も変化しており、従来のシステム開発だけでなく、お客様と一緒に事業を共創するパートナーとしてのニーズが益々高まっています。
NTTデータでは、サービスデザインを重要戦略のひとつに位置付けており、高度デザイン人財の育成強化に向け、社員のリスキルやデザイナの中途採用を積極的に行っています。高度デザイン人財は、顧客ニーズや社会のトレンドをもとに、エンドユーザー視点で課題を発見し、ユーザの反応を確認しながら解決策を提案、具体化することで価値提供を行います。
サービスデザイナを育てる「デザイナ研修」
NTTデータでは、社員が高度な専門性と変化対応力を有するプロフェッショナルな人財へ成長することを目的に「プロフェッショナルCDP(Career Development Program)」という制度を導入しています。2021年秋に「サービスデザイナ」をプロフェッショナルCDPの人財タイプに加え、サービスデザイナを目指す社員を対象とする「デザイナ研修」の開発を進めています。
デザイナ研修では、サービスデザインを実践するのに必要なプロセスやツール、ファシリテーション、マインドセットについて学びます。2022年2~3月にかけて、イタリアのミラノ工科大学デザインスクール「POLI.Design」の協力のもとトライアルを実施しました。トライアルでは、ミラノ工科大学のデザインプログラムの「Basic of Service Design(BODS)」をもとに、NTTデータの定めるサービスデザイナの人財水準に合せて一部構成を見直し、10日間のオンライン研修を実現しました。このトライアルでは20名の若手~中堅社員が参加し、サービスデザイン、UXデザイン、UIデザインについて、概論と演習を通して学びました。グループ演習では5人1組に分かれて、「Green Innovation」というテーマに対し、グループで問題を定義し、ユーザ検証を行いながら解決策となるサービスを立案。最終的には、そのサービスをデジタル上の体験に落とし込み、プロトタイプ制作までを行ってもらいました。全編オンラインのため、MiroやFigmaといったオンラインツールを活用し、受講生が自ら手を動かして理解を深めていきました。
トライアルは、全編英語+オンライン(イタリアと日本の時差の関係で夜の開催)にも関わらず、応募時点では定員を上回る人数の申し込みがあり、社内ニーズの高さに手応えも感じています。一方で、日本語やオフラインでの開催要望もあり、今年度はプログラムの日本語化、開催方法、構成や内容を改善する予定です。
図1:デザイン研修で作成したMiroボード
図2:デザイン研修で作成したUIプロトタイプ
研修を体験した社員の声
- デザイン思考の考え方をもとに、サービス化の工程を計画段階からプロトタイプを作成するまでを順を追って理解することができた。
- 今まで、独学やone-dayの研修中心だったので、アカデミックに体系立てて、且つ、グループワークもかなりの時間実施でき、学びに繋がった。
- サービスデザインの手法は、一人が理解していても成り立たないと感じた。チームメンバーが理解して初めて実用化できると思うので、今後もたくさんの社員に受けてほしい。
概要
時期:2022年2~3月のうち10日間(各日4時間)
形式:オンライン(講義+グループワーク)
主催:NTTデータ+ミラノ工科大学
対象:20名(公共・金融・法人・R&D分野の若手・中堅社員)
成果物:ペルソナ、カスタマージャーニー、サービスブループリント、Figmaを使ったUIプロトタイプ等
デザイン文化の理解を深める「デザインシンカー研修」
NTTデータでは、文化、マインドセットというような組織レベルでのサービスデザインの浸透にも注力しています。デザインに関わるプロジェクトを行っているのは社内でも一部に留まりますが、今後はデザインの価値を認識、理解している組織、人を増やしていかねばならないという危機感を感じており、「デザインシンカー研修」を開発しました。
デザインシンカーとは、デザインプロセスを理解した上で、顧客とデザイナと共創してプロジェクトの推進を行う役割で、営業やプロジェクトマネージャ、アプリケーションスペシャリストなどのノンデザイナが主な対象です。デザインシンカー研修では、サービスデザインのプロセスを自ら体験する演習や、実プロジェクトを遂行する上での落とし穴などTangityの過去事例も紹介しながら、講義とグループワーク形式で進める2日間の研修です。ペルソナやカスタマージャーニーのなどのデザイン手法やフレームワークをただ教えるだけでなく、演習を通じてデザインプロセスを自ら回すことでデザイナの仕事を“追体験”してもらうことが大きな特徴です。また、実プロジェクトで発生するハマりどころの紹介では、「UIUXダメ出し演習」というグループワークも設けています。実在するWebサイトをテーマに「どこに違和感があるか」「使いづらさを引き起こしている原因は何か」を徹底的に言語化してもらうのですが、各回参加者が非常に盛り上がっていました。
デザインシンカー研修を通じて、デザイン思考における進め方・マインドセットといった文化の違いを知り、デザインへの理解を正しく深めてもらいます。
研修を体験した社員の声
- デザイン思考はフレームワークやプロセスを全て使って、サービス化することがゴールだと思っていたが、今回の研修を通して、人中心の考え方を持つことや、関係者との合意形成に使うという活用方法もあるという学びを得た。
- 実際にインタビューを行うと、仮説では出てこない視点があり、繰り返して見直すことの重要性を感じた。
- UX/UI開発における注意点では、開発会社とデザイン会社と思考のギャップがわかってよかった。
概要
時期:2022年1~3月のうち2日間(各日5時間)
形式:オンライン or オフライン(講義+グループワーク)
主催:NTTデータ
対象:70名(公共・金融・法人分野の事業部社員)
成果物:ペルソナ、カスタマージャーニー、ビジネスモデル
図3:オフラインで実施したデザインシンカー研修の様子
さいごに
デザイナ研修、デザインシンカー研修のトライアルの結果を受け、社内需要や参加者の反応に確かな手応えを感じています。今年度は、これらの研修をより良く見直し、全社的な本格展開に向けた普及に努める予定です。
また、Tangityでは「デザインの民主化(※3)」も目指しています。デザインは限られた人々が行うのではなく、今後は多くの人々に開かれるものになっていくであろうという観点から、社内だけでなく社外向けの研修開催も検討しています。気になる方はぜひお問合せください。
Tangityでは今回ご紹介した研修に留まらず、アート思考やエスノグラフィーなどのデザイン研修プログラム群も企画中です。これらの人財育成を通じて、NTTデータを「デザインの価値を届けることができる組織」としても育んでいきたいと思います。
Tangity Tokyo責任者村岸の過去記事「目指すはデザインの民主化!価値を生み届けるサービスデザイン」はこちら。