レズビアン:女性同性愛者、ゲイ:男性同性愛者、バイセクシュアル:両性愛者、トランスジェンダー:自認する性と出生時の性別が異なる人、クエスチョニング:自らの性の在り方がわからない、特定の枠に属さないといった人の頭文字を取った言葉で、一般的に性的マイノリティーを表す言葉として使われる。
LGBTQ当事者が苦しむ、無意識の偏見
豊島ダイバーシティ推進室課長(以下、豊島)NTTデータが新しく策定した中期経営計画では、戦略のひとつとして「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の推進」を掲げています。藤原副社長が考えるDEIの重要性、LGBTQへの期待などをお聞かせ下さい。
副社長
藤原 遠
藤原副社長(以下、藤原)NTTデータでは、「働く一人ひとりの多様性を尊重することにより創造力を高めていくこと」をビジョンのひとつに掲げています。取り組みを強化するために、新中期経営計画では、これまでの「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」にE(エクイティ:公平性)を付け加え、DEIとしました。これは、性別、年齢、国籍、人権、宗教、身体的特徴など、さまざまな属性を持つ個人を認め合い、共存し、その方の個性や特徴に応じて公平な機会や活躍の場を提供することを意味しています。
世の中の変化は非常に大きく、お客さまから求められるレベルも上がってきています。デジタルという新しい技術を活用して、お客さまに高い価値を提供し、ともに成長していくためには、価値創造の源泉である社員の力を高めていくことが必要です。そのため、多様なスキル、経験、価値観を有する人財が力を発揮できる場や仕組みを整え、活躍できる施策に取り組んでいます。
本日のテーマであるLGBTQも、多様性を語る上では欠かせない要素です。特に、企業には、性的指向や性自認に関しての多様性を認めて、受け入れる取り組みを具体化することが求められています。
豊島LGBTQには、性別などの多様性と比べ、外から見えづらいといった特徴があります。そこに感じている課題などはありますか。
藤原LGBTQの方の比率は13人に1人くらいの割合とも言われています。これは左利きの割合と同程度だと知って驚きました。正直、自分が想定するよりも高い割合です。見えづらいですが、特別なことではないと認識しなくてはいけませんよね。
「アンコンシャス・バイアス」という言葉をご存じでしょうか。これは、自分自身が気付いていない思い込みや偏見のことで、例えば「彼は30代で独身だから、いくらでも仕事に時間をかけられるだろう」、「彼女には小さいお子さんがいるのだから、出張はお願いしない方がいいだろう」、「この顧客はとても厳しい相手だから、若手に任せるのはかわいそうだ」などという思い込みです。NTTデータでは2021年度から全管理職を対象にアンコンシャス・バイアスに関する研修を実施していますが、私も正直、思い当たる節がありました。
アンコンシャス・バイアスがあると、決して悪気はなくても、無意識のうちに不用意な発言、行動をしてしまい、LGBTQの方々の居心地が悪くなる雰囲気を作り出してしまうことがあります。私たちは、自分がアンコンシャス・バイアスを持っていることを認識し、理解したうえで行動しなくてはいけません。その先に、本当の意味でダイバーシティを実現する企業文化が生まれると考えています。
豊島今回LGBTQのLの当事者として佐藤さん(仮名)に参加いただいています。佐藤さんは実際に、アンコンシャス・バイアスを感じることはありますか。
佐藤LGBTQの方のなかには、職場で結婚を押し付けるような話をされるのはキツイという方もいます。最近はセクハラ防止に向けた教育が定着し、未婚女性に結婚を押し付けるような話をすること自体が不適切という理解が深まっています。しかし、男性に言うのはセクハラにならないと思っているのか、悪気なく質問するケースは珍しくありません。ゲイの男性のなかには、「結婚はいいぞ」と言われることで自分の居場所がないと感じたり、追い込まれたりする人もいるでしょう。これもひとつの、アンコンシャス・バイアスです。
ノウハウを生かして社外でも活動
豊島佐藤さんは、NTTデータではどのような業務に携わっているのでしょうか。
佐藤システム開発に従事しており、普段はシステムコンサルタントとして客先常駐で仕事をしています。国外とのやりとりも多い業務です。
ダイバーシティ推進室課長
豊島 やよい
豊島直接、お客さまと相対することが多いお仕事ですね。社外活動にも活発に取り組んでいるそうですが、内容を教えてください。
佐藤PRIDE指標を策定している任意団体「work with Pride」の企画を手伝っています。過去には、LGBTQの人が集まれる海の家の企画や運営も経験しました。
仕事で培ったノウハウを活用した事例としては、日本で初めてレズビアン向けのアプリをリリース。その開発チームのリーダーをボランティアで務めました。LGBTQの人たちは、真の自己肯定感を得るのが難しいことが多くあります。このアプリの目的は、当事者が孤立しないために、年代を超えてコミュニティーをつなぐことです。出会い系アプリではなく、LGBTQとしての生き方やライフスタイル、カルチャーをサポートする役目を大事にしています。
豊島孤立しないために、という言葉がありましたが、具体的に工夫した点はありますか?
佐藤例えばあるレズビアンの方がそもそも人口の少ない地方都市在住だった場合、身近にはレズビアンの仲間はいないと感じて孤独に感じることがあります。そのため、セキュリティに配慮しながら参加者の大まかな所在地がわかる機能をつけました。
豊島なるほど。当事者じゃないと、そういった気持ちをくみとった仕様にするのは難しいですね。
佐藤そうですね、当事者であることを強みとして生かすことができました。
カミングアウトのハードルは、想像以上に高い
豊島佐藤さんは、職場ではカミングアウトしているのでしょうか。
佐藤私はしていません。理由は二つあります。一つは、仕事の形態が関係しています。私はシステムコンサルタントなので、早ければ半年、長くても2年程度で新しいプロジェクトに移ります。その都度、チームメンバーにLGBTQであることを説明するときりがありません。また、客先常駐が多いのですが、お客さまによってLGBTQに関する理解の状況はまちまちです。そのため、不利益を受けないようカミングアウトはしていません。
二つ目は、LGBはTと違って、私生活さえ黙っていれば、仕事に支障はなく、カミングアウトする必要性がないためです。私はストレート(異性愛者)としてふるまうことには慣れているので、今では特別、窮屈と感じることなく過ごしています。特に、コロナ禍でリモートワークが中心となってからは、飲み会などで私生活を聞かれることもなくなったので、ある意味で快適です。以前はストレートのふりをしたことで、しどろもどろになることもありました。
LGBTQの部分を話すことは、私たちにとっては「服を脱げ」と言われるようなものです。カミングアウトは、みなさんが想像されるよりもハードルが高いものだと思っています。実際、NPOで活動しているとLGBTQのNTTデータの社員に会うことも多いのですが、ほとんどの方はカミングアウトせず、ストレートのふりをして彼氏や彼女がいると言っているようですね。
またLGBTのNTTデータ社員を見ていると、レズビアンはNTTデータで働き続けますが、ゲイは30歳前後で辞める方が多く、残っている方が少ない印象です。これは、たとえば女性に「結婚はまだか」と聞く方はほとんどいませんが、男性にはそういう遠慮をしないことも一つの要因だと思っています。
また、今まで辞めた方々は制度の問題を理由に挙げていましたが、2017年以降は制度が整備されたことから、制度を理由に辞める方は少なくなっていると思います。
レズビアンの人はダブルマイノリティーとも言われていて、女性であるマイノリティーとレズビアンであるマイノリティーの属性を両方持っています。NTTデータでは女性であることに対してのマイノリティーを感じる場面がないとは言えません。しかし、レズビアンである事は隠しておけば特に辛く感じるほどではないと、他のレズビアンの社員も言っていました。しかしゲイの方は、自分がマジョリティーの男性であるが故にセクシャルマイノリティーであることが気になることが多いようです。
実際にLGBTの方が働きやすいと言っている会社の事例をあげますと、既婚者が「結婚はいい」や「子どもを持った方がいい」という価値観を口にしないように研修が行われている会社もあります。ただ、ストレートの方の中には、「なぜこちらばかりそこまで気を遣わないといけないんだ」と思っている方もいるかもしれませんね。
藤原カミングアウトに関しては、佐藤さんがおっしゃる通り、個人の選択だと思います。その上で、LGBとTの方では、職場での活動の難しさに差があるということや、カミングアウトしていないLとGの方の働きやすさに違いがあるということには、なるほどと思いながら話を伺っていました。佐藤さんが、「ストレートの方の中には『なんでこちらばかり気を遣わないといけないんだ』と思う方がいるかも」とおっしゃっていましたが、不快な思いをする人をつくらないことはとても大切です。カミングアウトしてもしなくてもみんなが自分らしく生きられるような環境を目指し、そういった雰囲気を一緒に作っていくことが大事ですね。
十数人から始まり、今では500人になったNTTデータの「アライ」
豊島NTTデータも2016年度頃からLGBTQに関する活動を進めています。風土醸成をめざし、基礎的な知識をつけてもらうために情報発信をしたり、LGBTQセミナーを毎年開催したりしています。当事者の目には、私たちの取り組みはどう映っていますか。
佐藤前向きに取り組んでいる、と感じています。私が入社した十数年前には、ゲイやレズビアンに対する差別を感じたこともありました。
しかし、今はそんなことはなく、大きく変わっています。PRIDE指標の最高レベル評価であるゴールドを5年連続で受賞している(※2)だけでなく、NTTデータの社員からは差別的な発言を聞いたことがないので、研修や教育で意識が高まっているのでしょう。私は客先常駐が多いのですが、PRIDE指標が高くてもLGBTQに対して「あれっ」と思う発言をする人がいる企業もあるなかで、とてもありがたいですね。
強いて言うなら、ベンチャーや外資系企業の一部には、カミングアウトしやすい雰囲気があります。そういった企業は、人事などにカミングアウトした人がいて、率先して広告塔になることで雰囲気を作り出しています。モデルケースになる人がいると、若い人にとってはカミングアウトしやすいと思います。
藤原LGBTQの方がNTTデータで働き続けたいと思ってもらえるように、LGBTQに対して引き続きオープンな姿勢を打ち出していくだけでなく、カミングアウトがしやすい雰囲気作りにも取り組んでいきたいと思います。
以前、NTTデータグループ内で開催したLGBTQセミナーで、フェンシング元女子日本代表でトランスジェンダーである杉山文野さん(※3)にお話を伺ったことがありました。杉山さんは本当にはつらつとされていて、オープンな雰囲気だったことが強く印象に残っています。佐藤さんから広告塔というキーワードが出ましたが、NTTデータでも中長期的に、そういったことに挑戦したいLGBTQの社員がいたら考えてみたいですね。
アライであることを表明するストラップ
豊島今、「オープンな姿勢」というキーワードが出ましたが、そういった土壌を醸成するために、LGBTQの方々を支援するAlly(アライ)(※4)の取り組みを進めており、アライであることを表明するストラップやバーチャル背景を作るなどしています。これらも含めNTTデータの施策について、藤原副社長のお考えを聞かせて下さい。
藤原アライの活動は5~6年前に十数人から始まり、今では500名になっています。これは、社内に理解が広がってきている証だと思います。またコロナ禍前には、「東京レインボープライド2019」でNTTデータを含むNTTグループの社員200名以上がパレードに参加して、LGBTQをはじめとするセクシュアル・マイノリティの存在を社会に広め、多様性があることの重要性を再確認しました。このパレードは、2020・2021年はオンライン開催、2022年は抽選制で当選者の参加のみだったので、コロナが落ち着いたときにはみんなで参加したいですね。また、多くの方がフェアでフラットにLGBTQの理解を推進する取り組みに触れられるといいと思います。
制度面では、NTTデータでは2016年度から慶弔金・休暇制度などの一部制度を、2018年4月からパートナーおよびその家族にかかわる各種手当などの制度全般を、同性パートナーにも適用しています。制度の見直しに関しては、気がついたところから少しずつ手を打っていますが、まだ、足りないところはあるでしょう。佐藤さんをはじめとして、社員からの意見を基に、より働きやすい職場にしていきたいと思います。
佐藤私は、こうした制度があることはとてもうれしく思います。要望としては、現状、制度利用にはカミングアウトが必要です。そのため例えば、上司や組織の人事担当などに伝わることなく、本当に事務処理を実施する担当者へ直接申請ができるようになるとよいと感じています。
豊島佐藤さんはLGBTQの当事者として、今後はどういった価値を発揮していきたいと考えていますか。
佐藤先ほど話したボランティアでのアプリ開発が非常に面白かったので、仕事でもその方向性でなにかできるとうれしいですね。今はお客さまの要望ありきの仕事が多いのですが、最初から自分で企画立案し、カルチャーを醸成したりコミュニティーを作ったりするアプリの制作などはやりがいがありそうです。
豊島今回は、LGBTQの当事者とLGBTQ施策推進のトップである藤原副社長に、直接、お話をしてもらいました。両者にとって、非常に貴重な機会だったと思います。
藤原自分が気付いていない部分を深掘りできて、とても勉強になりました。NTTデータはこれからも、ジェンダーギャップやLGBTQなど、DEIに対してしっかりとした考えを持って、責任ある施策を推進していきます。本日はありがとうございました。
英語で「同盟、支援」を意味する「ally」が語源で、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)の当事者ではない人が、LGBTに代表される性的マイノリティーを理解し支援するという考え方、あるいはそうした立場を明確にしている人々を指す言葉。