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IT大国インドで学んだ女性が就職先にNTTデータを選んだ理由
プネのNTTデータ拠点
インド中西部、マハーラシュトラ州の都市プネ。近年はIT産業も盛んで、多くのIT産業やソフトウエア開発会社の本部がある。NTTデータグループもこの地に拠点を構えており、全面ガラス張りのオフィスビルは地元でも目立つ存在だ。
Pune Institute of Computer Technology(PICT)の学生だった、Rakesh Bhargavi(ラケシュ・バールガヴィ)は、通学中にそのビルを見上げながら、「こんな会社で働いてみたい」と思いをはせていたという。そのチャンスが訪れたのは、2018年のことだ。
「PICTに日本のNTTデータでのインターン募集があり、インターン生4人のなかの1人に選ばれました。グローバルなIT企業であるNTTデータで働きたかったのはもちろん、規律がしっかりとした日本文化も経験してみたかったので、決まったときにはうれしかったですね」(バールガヴィ)
2018年に初来日したバールガヴィは、6週間のインターンシップに参加していったん、帰国。その後、2019年にNTTデータに入社した。IT大国インドでは、優秀なエンジニアは引く手あまた。バールガヴィも、帰国後、複数の企業から面接のオファーを受けた。それでも、NTTデータを選んだ理由は、「6週間じゃ足りなかったから」と笑顔で答える。
コーポレート統括本部 ITマネジメント室
Rakesh Bhargavi(ラケシュ・バールガヴィ)
「NTTデータは53カ国で事業を展開する巨大企業。さまざまなITプロジェクトが動いており、インターン期間中は、とてもエキサイティングな経験ができましたし、なにより、チームメンバーがとてもよくしてくれたことが印象的でした。たとえば、インターンシップの課題に加え、私に新しい考えをもたらすよう促してくれたり、職場以外でも助けてくれたり、私もチームの一員であると感じさせてくれました。私が外国人だからといって疎外感を感じるようなことはなく、文化や考えの違いを受け入れてくれたのです。絶対にNTTデータに帰ってきたいという思いを強く持ちました」(バールガヴィ)
最初の1年は契約社員として、その後、正社員となったバールガヴィ。現在は、コーポレートでITシステムを所管するITマネジメント室に所属し、海外グループ会社のCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)との橋渡し役となり、グローバル共用システムの企画・開発・運用について、交渉や衝突回避、合意形成などを担っている。「それぞれの海外グループ会社から意見をもらい、本社としてどう対応すべきかを考えたり、フィードバックの優先順位を決めたりする、大変だけどやりがいのある仕事です」と語る。
「応対している海外グループ会社はアメリカ、EMEAL(欧州・中東・アフリカ・中南米地域)、中国、APAC(アジア・パシフィック地域)のNTTデータが事業展開している全地域に渡り、さまざまな国のCIOとやりとりをしています。それぞれ働き方も違えば、いろいろな文化、考え方もある。そんななか、女性でインド出身、そして、日本のチームメンバーと働いているという私の多様性は、交渉や会議のファシリテートなど、あらゆる場面で新しい方法を持ち込む助けになっています」(バールガヴィ)
コーポレート統括本部 ITマネジメント室 課長
大平 昌弘
バールガヴィは現在、25歳。年齢でくくるのは乱暴かもしれないが、まだ若手の部類だろう。彼女の上司であるITマネジメント室課長の大平昌弘は、「国籍や年齢・性別関係なしに、バールガヴィさんが主体性、他者への働きかけ、計画実行力を発揮し、求められる成果を上回るアウトプットを創出してくれることを確信してアサインしました。同世代の日本人社員ではためらってしまうような局面でも、バールガヴィさんはCIO相手にも堂々と仕事をしています。この前向きな姿勢は私を含めた上司も認めるところです」とその実力を認めている。バールガヴィはその褒め言葉に少し照れつつ、「インド人の国民性と私の性格の両面があると思います。まず、インド人は日本人ほどシャイじゃない」と笑顔を見せ、こう続けた。
「私が心に留めているのは、CIOとはいえ、同じ人間であるということ。話をしっかりと聞き、敬意を持って対応をする。チームのためになることであれば、言うべきことは何でも臆せず言います。そうでなければ、チームの助けにならないから」(バールガヴィ)
この意見に大きくうなずくのは、人事本部 ダイバーシティ推進室課長の豊島やよいだ。「バールガヴィさんの前向きな姿勢や、物おじしない姿勢は、チームにもよい刺激を与えるでしょう」と多様性の重要さに触れる。
インドも日本も女性活躍では後進国。女性管理職が少ないという共通点
NTTデータで日本人メンバーとともに仕事し、活躍するバールガヴィ。同僚は親しみを込め「バルちゃん」と呼び、常にサポートしてくれるという。「おかげで、外国人女性だからといって困ったことはありません」と話す。ただ、働き始めて驚いたことはあった。たとえば、メールの送り方だ。
「複数の人にCCでメールを送るとき、職位が上の人のアドレスを最初に入れるという文化には驚きました。ヒエラルキーがあることは悪いことではありませんが、ビジネスシーンにおいて、インドや西洋では日本ほど上下関係を重視しないため、ヒエラルキーのレベルが上の人であっても(たとえばCIOとの対応においても、私より年上でキャリアもある方々なので当然敬意は払いますが)気軽にコミュニケーションが取れます」(バールガヴィ)
実務以外でも、日本で働き、思うところもあったという。その一つが、女性活躍についてだ。世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダーギャップ指数では、インド135位、日本116位と、その要因は異なるものの女性活躍に関してはどちらも後進国である。バールガヴィは「インドも若い世代では、大学や職場での女性比率が高まって平等になってきたと感じますが、リーダーの割合でいえばまだまだです」と語る。そして、「それは、日本も同じ。大勢の女性が働いているのに、管理職は少ない」と続けた。
この指摘は、NTTデータにも当てはまる。2022年4月時点、NTTデータの新卒女性採用比率は33.5%だが、2022年度時点での女性管理職比率は7.2%に過ぎない。ダイバーシティ推進室課長の豊島は、「当社では、採用・育成・評価などにおいて男女差は設けていません。しかし管理職層、経営層にいくにつれ女性の割合が低くなっています。その要因はいくつかあります」と課題を認める。NTTデータのジェンダーギャップの改善に向けて、2025年度末までに女性管理職比率15%を掲げ、女性活躍推進を加速させているという。
バールガヴィも「せっかくIT企業なのだから、データを活用してどのポリシー(方針・施策)が機能しておらず、どう改善したらよいかを可視化して、対策を打つべきです。女性に対するアンコンシャス・バイアスに気づいてもらう施策も必要だと思います」と同調する。また、各国のCIOとの橋渡し役としての視点から「女性活躍が進んでいる海外のグループ会社の事例を日本でも取り込めるように、国をまたいだメンターシステムがあればいいのではないでしょうか。日本で働く女性社員にアメリカで働く女性管理職がメンターにつく、といったイメージです」とも指摘した。
コーポレート統括本部 人事本部 ダイバーシティ推進室 課長
豊島 やよい
実際、NTTデータルーマニアでは、女性社員比率40%に対して女性管理職比率も40%を達成しており、CEOも女性が務める。豊島は、「NTTデータグループ全体でみれば、日本人よりも外国籍の社員のほうが多い。日本だけに閉じず、海外グループ会社と連携して、情報交換だけに留まらない女性活躍の取り組みを一緒にやっていきたいと思います」と応えた。
グループ全体では、外国籍の社員が日本人を上回るNTTデータグループ。日本のNTTデータとしても、性別だけでなく国籍の多様性も無視するわけにはいかない。外国籍社員として働くバールガヴィは、「外国籍社員の採用枠を広げたり、海外の大学からのインターンをより活発にしたりすることで、職場の多様性を高めるべきではないでしょうか。それと平行して、働きやすい環境を整えなくてはいけません。わかりやすいところでは、システムやマニュアル、教材などの多言語化も必要でしょう」と当事者の声を伝える。
「NTTデータに限らず、日本では新しいチャレンジをためらって、従来のやり方を踏襲しがちなことが多々あると感じます。話し合いでも徹底的に議論せずに、なんとなく決まることも多い。外国籍社員が増えることで、日本的な常識に多様性の視点が持ち込まれ、新しい気づきを与えられると思います」(バールガヴィ)
多様性は武器になる。会社としてだけでなく、個人も多様性をもつ人財になってほしい
NTTデータグループでは2023年7月に、グローバルヘッドクォーターとしての持ち株会社が発足し、傘下に国内事業会社と海外事業会社がひも付く3社体制となる。豊島は「それに伴い、ダイバーシティ推進室も国内だけでなく、海外も含めたグローバルでさらにDEIを推進していきます」と意気込む。
「女性活躍に関してはこれまでもやってきていますが、今後は女性社員一人ひとりがキャリアを自ら考え、切り開いていく後押しをしていきたいと思っています。その結果として管理職をめざしたいと考える女性も増えるでしょう。そのためには、周りの男性に理解してもらうことも必要。女性への固定概念に対して視点を切り替えてもらったり、アンコンシャス・バイアスに気づいたりしてもらう必要があります。外国籍社員が増えることも、新しい視点を取り入れる一助になるでしょう」(豊島)
豊島が「これまでもやってきた」と語るように、NTTデータの女性活躍への取り組みは早かった。ダイバーシティ推進室が設置されたのは2008年。女性が働きやすい環境をめざし、産休・育休を取得しやすい制度や、テレワーク環境の整備をしてきた。今では、女性が育休から復帰する割合はほぼ100%だ。豊島は「男性と女性で同じ働き方ができるし、キャリアに関しても同等のチャンスを得られる」と説明する。バールガヴィも「女性が働きやすい環境、制度は、NTTデータで感じたメリットのひとつ」と語る。
バールガヴィも、自らのキャリアについてチャレンジしたいことがある。ひとつは、海外グループ会社への出向だ。「インドや日本だけでなく、アメリカやヨーロッパの海外グループ会社でビジネスや文化を学び、スキルアップをしたい」と力強く語る。もうひとつは、未経験の職種で自分を試すこと。「今はコーポレートスタッフとして働いていますが、営業やコンサルティングといった、お客さまと直に向き合う仕事に挑戦してみたい。そこでも自分の持つ多様性は強みになると思っています」と続けた。
一方で不安もあるという。
「キャリアパスについて考えていると、乗り切らなくてはならない課題があると思います。高齢の家族の世話や個人の人生の選択等、今後5~10年のライフイベントも私のキャリアの決定に影響があるかもしれません。女性は男性よりもライフイベントに左右されやすいので、ライフイベントのためにキャリアアップの機会を失うのではないかと少し心配になります。今後数年間で個人的にも仕事上でも、どちらも妥協することなくバランスをとって成長する方法を学んでいければと思っています」(バールガヴィ)
これを受けて豊島は、「制度や働きやすさのための基盤は整備されています。しかし、バールガヴィさんの言う通り、女性はライフイベントでキャリアを左右されがちであることも事実です。平等なチャンスや評価のもと、社員一人ひとりが無理をせず自分の意向どおりにキャリア形成できる選択肢を増やしていきたいです」と語る。
「DEIのポリシー(方針・施策)を定めるのはダイバーシティ推進室の役割です。しかし、それを広げていくのは、社員一人ひとりの仕事。私も協力して、組織全体に貢献してきたいと思います」(バールガヴィ)
豊島はバールガヴィの率直な声を聞いて、「DEIの浸透や推進はグローバルに考えなくてはいけません。しかし、取り組みは個人の状況や考え方を踏まえて、一人ひとりに寄り添うことが大切だと、あらためて感じました」と語る。そして、もうひとつ、「多様性は武器になる」と自信を深めたという。
「バールガヴィさんは、女性であるとともに、複数の言語を操り、日本とインドの両方の文化も知っている。自分のなかに多様性を持っている人財です。それを自らの強みだと自覚し、仕事でしっかりと貢献しようという意思も持っています。バールガヴィさんのように、社員一人ひとりが個人としても多様性を持ち、そんな社員が集まることで、企業の多様性が高まれば、NTTデータはさらにイノベーションを創出する会社になっていくでしょう」(豊島)