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2023.5.9事例

エンベデッド・ファイナンスの新潮流。NTTドコモの取り組みに見る金融体験の近未来

昨今、あらゆるサービスに金融が溶け込んでいき、意識することなく金融サービスを受けることが出来るエンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)による新サービスが拡大している。果たして近未来、ユーザーはどのような金融サービスとの接点を持つことになっていくのか。NTTドコモが展開する金融サービスの事例をもとに、NTTドコモ、NTTデータ双方の視点から深堀していく。
目次

NTTドコモから見た金融市場

NTTドコモは、iモードの収納代行から始まり、DCMXカード(現dカード)、おサイフケータイ、d払いといった金融サービスを次々と打ち出してきた。
NTTドコモ スマートライフカンパニー ウォレットサービス部 部長の田原務氏は現在の金融市場について、自社の見解をこう説明する。

株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ウォレットサービス部 部長 田原 務 氏

株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ウォレットサービス部 部長
田原 務 氏

「個人向けローンの分野は今後成長していくと見ています。特に無担保ローン市場については、1.4兆円ほどの規模であると捉え、2022年よりdスマホローンというサービスもスタートしました。また保険も生保、損保合わせて38兆円程度の巨大な市場です。保険代理業という形で、NTTドコモの会員様向けに最適な保険を提案、提供しており、現在は自動車保険の取り扱いが主軸となっていますね」(田原氏)

投資の分野にも力を入れていく方針だ。

「昨今、政府が後押ししている貯蓄から資産形成へという流れや、NISAを始めとした制度面の整備もあり、投資も今後、伸びていく分野だと考えています。いまはTHEO(テオ)と組んだ投資サービスなどを展開しています」(田原氏)

図1:ドコモの金融サービス

図1:ドコモの金融サービス

金融市場の各分野でサービスを提供しているNTTドコモだが、一番のターゲット分野は決済サービスだ。国内におけるキャッシュレス決済比率の高まりも、この事業にとって大きな追い風となっているという。

「2021年には、国内でのキャッシュレス決済が全体のおよそ32%程度となっています。金額ベースでは100兆円ほどです。政府は将来的に80%程度までキャッシュレス決済の割合を高めたいという目標を掲げており、この流れに乗ってNTTドコモも事業を拡張していきます」(田原氏)

図2:キャッシュレス決済比率の変遷

図2:キャッシュレス決済比率の変遷

NTTドコモの決済サービスの進化

現在NTTドコモが提供する決済サービスは、dカードとd払いが2本柱だ。

「dカードもd払いも取扱高は伸びています。特にd払いは2018年から毎年2倍程度の伸び率で、非常に早い普及スピードです」(田原氏)

さらに、2022年12月には「dポイントが貯まるお得な銀行」、dスマートバンクの提供を開始した。これは三菱UFJ銀行(MUFG)の口座を持っていればより簡単にdカードの引き落とし設定ができたり、dポイントが貯まっていったりするサービスだ。MUFGが提供するBaaS(Banking as a Service)基盤や口座開設機能、インターネットバンキング機能を活用して実現した。現状ではシンプルな機能にとどまっているが、今後は振込みや振替え、さらにはd払いとの融合なども検討していくという。

図3:dスマートバンクの概要

図3:dスマートバンクの概要

さまざまな金融サービスを提供しているNTTドコモだが、どんな未来像を描いているのだろうか。

「見据えているのは、一つのIDで個人や世帯の家計管理や金融資産の運用、管理をできるようになる未来です。ひとつのアプリで簡単に操作できて、ほしい情報が届き、お得なポイントも貯まるという体験を提供していきたいと考えています」(田原氏)

図4:NTTドコモがめざす今後の提供価値

図4:NTTドコモがめざす今後の提供価値

この未来像を実現するためのポイントは2つある。1つ目は高度なデータ活用だ。ライフイベント・ニーズをとらえて最適なタイミングで情報を提供するため、NTTドコモでも事業を通じたさまざまなデータを分析し活用する取り組みをはじめている。2つ目はユーザーインターフェースだ。各種金融サービスをシームレス・フリクションレスに利用できるよう、金融サービスを再設計していく方針だ。

拡張を続ける、エンベデッド・ファイナンス

NTTドコモの金融サービスへの取り組みは、まさにエンベデッド・ファイナンスの事例だ。エンベデッド・ファイナンスとは、金融の機能を既存のサービスの中に埋め込んで提供する、新しい金融の形である。
大手金融機関、地域金融機関で複数のDX変革推進をリードし、その中でエンベデッド・ファイナンスに関しても取り組んでいるNTTデータ金融戦略本部の青柳雄一は、最近のエンベデッド・ファイナンスの潮流について次のように説明する。

金融戦略本部 金融事業推進部 青柳 雄一

金融戦略本部 金融事業推進部
青柳 雄一

「コロナ禍によって多様な分野でデジタル化が加速し、ユーザーの行動も変容しました。たとえば、あるアンケート調査では、アプリによって銀行口座の残高を見る人の割合がコロナ後に顕著に増えたことが分かっています。こうしたユーザーの行動変容に伴って金融サービスも、これまでの直販モデルから、エンベデッド・ファイナンスやBaaSといった金融機能が他業種の機能に溶け込んでいるビジネスモデルへの変革が進んでいます」(青柳)

日本でも、先述のdスマートバンクのほか、UNIQLO PayやヤマダNEOBANKなどエンベデッド・ファイナンスやBaaSの事例が増えてきているという。

NTTデータが提供するサービス「地域金融機関向け組込型金融基盤・地域DXアプリ」についての詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/regional-baas/

エンベデッド・ファイナンスの先のデータドリブンな社会像

ここで青柳は、金融機能のアンバンドル、リバンドルについて注目する。「従来金融機能をオール・イン・ワンで金融機関が提供していた状態から、フィンテックやAPI機能を提供するようになることで金融機能のアンバンドル化が進みました。そしてこうした機能が新たに異業種と結びつくことでリバンドル化が加速し、BaaSが進展している状況です」(青柳)

BaaSは、コンシューマーとの接点を持つ「ブランド」、金融機能を持つ「ライセンスホルダー」、両者をつなぐ「イネイブラー」によって成り立つ。NTTデータはイネイブラーとして社会をつなぐ役割を果たしている。

そして、日本の金融の持つ安心・安全や永続性を保ちつつ、API時代におけるBaaS等の新しいビジネスを推進するためにNTTデータが考案した標準アーキテクチャーが「Open Service Architecture」だ。NTTデータが提供する基盤だけではなく、パブリッククラウドも活用した「Open Platform」と国内最大級のAPIエコシステムである「Open API」により、金融機関・行政・企業の「Open Innovation」を実現するという。

こうしてエンベデッド・ファイナンスが進んだ先には、日常生活の利便性が向上するだけでなく、さまざまな産業がデータドリブンによって進化していく、と青柳は語る。そのような未来に向け、種々の施策は既に動き出している。

「NTTデータは、『BEYOND(既存事業モデルを超える)』『CONNECT(デジタルで連携)』『EXPAND(業際・グローバル)』をキーワードに、クロスインダストリーな金融の未来像を描いています。これまでは公共、金融、製造、流通といった各業界がバーティカル(縦割り)に完結した世界でしたが、これからはまさにペンキが混ざり合うようなイメージでホリゾンタル(水平)につながっていく。NTTデータは、それぞれが混ざり合う境界線において金融機能を組み込んでいくことで、新しい金融サービスを模索していきたいと考えています」(青柳)

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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