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2023.8.2業界トレンド/展望

改めて“メタバースのこれから”を考える ―“パブリックメタバース”と“プライベートメタバース”の戦略的使い分けに見る金融ビジネスのポイント―

メタバースに対する過剰な期待が収束しつつある中、改めて“メタバースのこれから”が議論されている。経済活動の一部が徐々にメタバースへと移行していく世界の中で、金融機関はどのような点に留意してビジネスを展開すべきか?カギは“パブリックメタバース”と“プライベートメタバース”の戦略的な使い分けにあると捉え、メタバース空間のビジネス活用について考察する。
目次

1.過剰な期待は収束、改めて“メタバースのこれから”を考える

メタバースはここ数年のうちに広く知られる言葉となりましたが、最近では生成AIなどの新たな話題が目立っており、一時期に比べて過剰な期待感が収束しつつあると感じている方も多いのではないでしょうか。
一方で、2023年5月のG7広島サミット首脳宣言ではメタバースの潜在性にかかる言及がなされ(※1)、さらに2023年6月にはAppleがゴーグル型デバイスを発表(※2)するなど、メタバースに対する世界的な関心の高さは未だ継続していることがうかがえます。
業界を問わず、また国内外問わず、現状のビジネスユースとしてのメタバース活用事例は、その多くが顧客とのコミュニケーションチャネルとしての有用性を試行する段階です。しかし今後メタバースが普及すれば、「ハイタッチコミュニケーションはオフラインで」という現在の一般的な認識が覆るかもしれません。そうなればメタバースは、CX(顧客体験)のみならずEX(従業員体験)の向上にもつながり、さらには労働力確保・生産性向上といった社会課題の解決にも貢献すると期待されます。

本稿では、メタバースへの過度の期待感が一巡したいまだからこそ、改めて“メタバースのこれから”を考察し、金融の切り口からみたビジネス機会や留意点を検討していきます。

(※1)G7 Hiroshima Leaders’ Communiqué

Leaders_Communique_01_en.pdf (g7hiroshima.go.jp)

(※2)Apple Worldwide Developers Conference 基調講演

Keynote - WWDC23 - Videos - Apple Developer

2.2030年のメタバースと金融機関の方向性

メタバース市場の拡大予測はさまざまな機関から発出されていますが、たとえば経済産業省の情報通信白書(令和4年版)によると、メタバースの世界市場は2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円まで拡大すると予想されています(※3)
メタバース市場普及・拡大のキーファクターの一つになるのが「デジタルツインとの融合」です。デジタルツインがメタバースの活用方法の一つとして包含されていくことによって、産業ユースのニーズを取り込むこととなり、活用が益々加速していくと考えられます。
こうした動向を踏まえ、NTTデータでは次のようなメタバース定着のシナリオを仮説として打ち出しています。

  • 1.まずは法人によるビジネス利用や個人による職場(バーチャルオフィス等)利用などから普及が進み、消費者の生活にメタバースが浸透する時期は2030年以降となる
  • 2.革新的なデバイスやソフトウェアの登場、大阪万博(2025年)などが普及促進の起爆剤となり、浸透時期が2030年以前に早まる可能性あり

ここからは、デバイスやその他技術の進歩により、メタバースが日常の一部として活用されるようになった2030年の世界を想像してみましょう。この将来像を構成する重要な要素は次の4点です。

(1)つながり

人、デジタルヒューマンが混在した世界でさまざまな趣味、嗜好や情報収集を目的とした数多くのコミュニティが形成されている

(2)価値交換

価値の定義がコミュニティ、個人ごとに多様化・自由化し、さまざまな形、場所、尺度で交換されている

(3)信頼性

AIや個人、個人事業主、法人とさまざまなプレイヤーが入り乱れ、さまざまなデジタルデータが交換される中で、人やデータに対してシーンや用途に応じた強度の異なる認証や、セキュリティー環境が整備されている

(4)現実世界との連動性

特定の目的・領域において、現実世界と互換性をもつ空間が再現されている

これらを踏まえ、金融業界が担うべき役割、目指すべき方向性を次の3点にまとめています(図1)。

  • メタバースの特徴に合わせた新しい顧客との接点構築
  • 新しい価値交換への信頼や安心の提供
  • 新しいコミュニケーションへの信頼や安心の提供

図1:2030年のメタバース将来像を踏まえた金融業界の目指すべき方向性

図1:2030年のメタバース将来像を踏まえた金融業界の目指すべき方向性

(※3)経済産業省 情報通信白書(令和4年版)

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236a00.html

3.カギを握るのは“パブリック”と“プライベート”

それでは、前述した将来像と方向性を見据えたとき、足元ではどのような戦略をもってメタバースビジネスを検討すべきでしょうか。
カギとなるのは、メタバース空間の特性を考慮し、特性ごとに“パブリックメタバース”と“プライベートメタバース”に分け、それぞれに応じた事業内容を戦略的に検討することです。
現行のメタバースでは、匿名であることや公然であることが前提となっている場合が多く、事業者、特に金融機関はユーザーの個人情報を把握した上でのセキュアなサービス提供が容易ではありません。このような空間を“パブリックメタバース”、すなわち公共空間上のオープンなメタバースと定義し、これに対して特定事業者が運営、管理するクローズドなメタバースを“プライベートメタバース”と定義します。プライベートメタバースは、いわゆる私有地あるいは関係者限定スペースといったイメージです。
NTTデータでは、今後メタバースがパブリックメタバースとプライベートメタバースに分かれて進化していくと捉えています(図2)。

図2:メタバースビジネスにおけるForesight

図2:メタバースビジネスにおけるForesight

パブリックメタバースは、すでに多様なプラットフォーマーによって複数の空間が運営されており、将来的には複数のパブリックメタバース空間をユーザーが行き来する「マルチバース」化が進むとも考えられています。そうした未来においても、プライベートメタバースは事業者が一つ用意しておけば、マルチバースからアクセス可能な事業者固有の空間として運用が可能です。
また、パブリックメタバースのビジネスユースにおける課題のひとつは、プラットフォーマーから事業者へのデータ還元がなされないことです。しかし事業者がプライベートメタバースを活用することにより、メタバース空間に来訪したエンドユーザーのデータを、事業者自身で取得することが可能になる将来が期待されます。

4.メタバース空間の戦略的使い分けに見る金融ビジネスのポイント

前章の話を金融ビジネスに当てはめてみると、浮かび上がる“Foresight”は3点あります。

  • 1.メタバースは、オープン空間のパブリックメタバースとクローズド空間のプライベートメタバースに分かれて進化し、それぞれの特長にマッチした金融サービスの提供が肝要となる
  • 2.プライベートメタバースは、(1)プライベートかつセキュアな環境、(2)本人確認が必要、(3)事業者はデータ収集が可能 など、金融との親和性が高い条件が揃う。そのため、金融機関の業容拡大を実現するための重要なフィールドのひとつとなりうる
  • 3.メタバースは、コミュニケーションだけでなく、シミュレーションの役割を担うこともできるため、デジタルツインの活用を含むさまざまな分析・試算・研究等に活用できる

これらのForesightから導かれる金融のビジネス機会として、パブリックメタバース/プライベートメタバースそれぞれで図3のように考えられます。

図3:Foresightから導かれる金融ビジネス機会

図3:Foresightから導かれる金融ビジネス機会

将来的には、個人間での取引がパブリックメタバースにおいて盛んになっていくことでしょう。その時、アバター状態で匿名性を維持したまま、フリクションレスで支払を可能とするような仕組みが求められます。それは、プライベートメタバースでの支払シーンでも活用可能となるはずです。そのような想定において、ファイナリティ(決済完了性)ある決済を実現するため、金融機関は機能の担い手として特に重要な役割を果たすことが期待されます。
一方、プライベートメタバースはクローズドでセキュアな特性を生かして、コミュニケーションやシミュレーション、従業員向けなどさまざまな用途が考えられます。例えば、新たな顧客接点として、営業・接客・マーケティング等の場となったり、デジタルツインの技術と掛け合わせて、店舗設計など各種の予測・分析をしたり、あるいは働き方改革や育成等にも広く活用されることでしょう。

では、金融機関においてパブリックメタバースとプライベートメタバースは、どのように使い分けるべきでしょうか?
たとえば、パブリックメタバースは、マス向けの広告チャネルとして高いポテンシャルが見込まれます。プラットフォームやコミュニティごとの特色もあり、おのずとセグメント化する傾向が見られるため、それぞれに合ったアプローチを行うスモールマス戦略に適した環境です。そのためパブリックメタバースで特定のターゲット層に向けた広告活動を行い、見込顧客を引き付けたうえで、個別にプライベートメタバース空間に誘導し、そこで具体的なサービス提供を行うような手法は、ひとつの有効なメタバースの活用手段と考えられます。

5.おわりに

本稿では、メタバース空間の金融ビジネス活用におけるカギとして、“パブリックメタバース”と“プライベートメタバース”の戦略的な使い分けについてご紹介しました。将来の普及期を見据えつつ、メタバース空間をどのようにビジネスに活用していくのか、可能な限り早い段階から検討着手することが肝要です。
当社はNTTグループのケイパビリティも生かしながら、プライベートメタバース空間の特性を生かしたさまざまなサービスを提供しています。お気軽にお問い合わせください。

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