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これまで運べていた荷物が運べない、という近未来
各方面で進む、働き方改革の取り組み。その流れの中で、産業界に大きなインパクトをもたらすと予想されているのが建設業や自動車運転者の時間外労働時間を960時間とする上限規制の開始、いわゆる2024年問題です。2024年4月に施行されるこの規制は労働環境の改善を目的としていますが、産業界に大きな課題も突きつけています。そこで、この問題が物流業界へ及ぼす影響について、まずは、経済産業省などが推進する「持続可能な物流の実現に向けた検討会」にも参加する立教大学の首藤若菜教授に話を聞いていきます。
「端的に言えば、これまで運べていた荷物が、これまでと同じ方法では運べなくなるということ。たとえば東京のスーパーでは九州の野菜が普通に並んでいます。保冷車を運転するドライバーが採れたての野菜を、九州から東京まで夜通しの運転によって運んできてくれたおかげです。でも時間外労働の規制が始まると、一人のドライバーがこうして野菜を運ぶことはできなくなります。労働時間を規制内に収めるには道中のどこかで一泊するとか、途中でドライバーをチェンジする中継輸送などの打開策が必要となるでしょう。そうなれば前者の一泊するケースでは輸送時間が大幅に長くなってしまいますし、後者の中継輸送では人件費がアップしてしまいます。このように時間やコストなどこれまでの条件では荷物を運べなくなってしまうのです」
図1:経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会(第11回開催資料)」より
一方で、物流業界はコスト上昇に関し、許容度が低いと首藤教授は指摘。中小企業庁が実施した調査では、物流業界特有の体質が浮き彫りとなっています。
「昨今の燃料費高騰において国内27業種がどれだけ価格転嫁をはかれているかという調査では、実に、トラック運送が最下位でした。大きな理由は90年代の規制緩和を端緒に配送事業者が増えすぎてしまい、激しい価格競争があることで価格転嫁を行いにくいためです。ゆえに労働者の賃金も上がらず慢性的な人手不足が深刻で、2024年問題以前にも、持続可能な物流の危機は叫ばれていたのです」
ICT化は、迫り来る物流危機を乗り越える重要なカギに
図2:日本ロジスティクスシステム協会「ロジスティクスコンセプト2030」より
このような業界の事情がさらなる労働環境の悪化につながり、物流業界では労災認定件数が非常に多いという現実も。首藤教授によれば長時間労働による労災の約3分の1程度がトラックドライバーであり、昨年だけでも20件程度の死亡事例が報告されているといいます。つまり、時間外労働時間960時間という制限はドライバーを守る上で必要である反面、物流を滞らせる重大要因ともなりうる難しい局面に、すべての産業界が立たされているのです。こうした状況下、果たして解決策は見出せるのか、首藤教授の意見を聞きました。
「物流事業者には中小、零細企業が非常に多く、先行投資が難しいゆえ、ICT化が遅々として進んでいないという現状も見受けられます。いまだに無数の事業者がFAXなどで紙を介して生産者や工場と荷物情報をやりとりし、物流センター内でのトラックの荷待ち渋滞が問題となっています。また国内を走るトラックの積載率は40%(残り60%は空気を運んでいる状態)とも言われるなど、非効率的な側面を指摘すればキリがありません。そこでICT化を加速させ、多くの事業者がリアルタイムで荷物やトラックの状況を把握できれば労働時間やそのほかのムダも削減できるでしょう。さらに事業者同士の連携も進めていくことで、効率的な物流業界全体のサイクルを実現できるかもしれないと私は考えています」
2024年問題という大きなハードルを超えていくための重要な打ち手として、業界全体のICT化促進と、事業者同士の連携強化を挙げた首藤教授。すべての業界が事業を健全に継続させていくには、物流関連業界のスピーディな変革が求められているのです。
NTTデータが提供するソリューションの中身とは
運びたい荷物が運べないという物流の危機が現実味を帯びるなか、NTTデータでは個別の関連企業のみならず、物流業界全体に対し、非効率解消を実現しながら荷主(発荷主、着荷主)、運送事業者がwin-winの関係を構築してプロフィットシェアができるよう、多角的なアプローチを展開しています。
その第一歩に、荷主企業に対する個社改善アプローチとして、アセスメント・コンサルティングサービスを実施しています。運送事業者ではなく荷主企業に働きかけをするのは、大抵の場合非効率の原因は荷主側にあり、荷主の立場の強さによって運送事業者も従わざるを得ないからです。だからこそ、荷主が運送事業者へ強いている状況が自身にとっても損につながることを理解してもらい、荷主企業が主体となって活動に取り組む必要があります。
クライアントが抱える状況によってNTTデータのアプローチは変化しますが、個社改善アプローチには大きく4つのプロセスがあり、これらのプロセスを経た後に、明らかとなった非効率要因に対して打開策を提示、推進していくケースが一般的です。たとえば1つ目のプロセスはアセスメントシートを活用した改善余地の認識。Excelを用いた選択形式で契約関連、物量・荷役作業関連など3つの評価類型、14項目の回答を得て、荷主に対して物流現場の改善余地を探索します。次に2つ目のアプローチではアセスメントシートの結果を受け、具体的な非効率事象を顕在化し、課題解消によってどの程度のコストインパクトが得られるかを可視化。さらにはインパクトの大きい非効率発生要因を特定し、その要因解消可能なプレイヤーが発荷主なのか、着荷主なのか、運送事業者なのかを導き出し、対策検討に入ります。3つ目のプロセスでは非効率要因解消に向けた打ち手を改善主体へ提示し、推進します。そして4つ目のプロセスでは見込まれるコスト効果をNTTデータが算出。削減できたコストを荷主側、運送事業者側それぞれが適正にプロフィットシェアできる理論とシステムを提供していくのです。
サステナビリティサービス&ストラテジー推進室長
南田 晋作
つまり個社改善の取り組みから始まるNTTデータのアプローチが、発荷主、着荷主、運送事業者のメリットにつながっていくという、いわば業界全体への働きかけです。この取り組みを推進する法人コンサルティング&マーケティング事業本部・サステナビリティサービス&ストラテジー推進室長の南田晋作は、物流業界に迫る危機をこう、語ります。
「多様なお客さまと接する中で、もう既に2024年問題は始まっていると感じます。たとえばある工場からある工場へ荷物を運びたい時、これまではどんな場合でも対応できていたのに、急な依頼では対応しきれないというケースなどがしばしば聞かれます。日本には製造業関連事業者がとても多く、これらの事業者をつなぐ物流は言わば日本を支える血流です。その血管が人材不足や過当競争にさらされ、壊死し始めているのです。現状ではモノづくりや卸業のレベルでこうした問題が起き始めているわけですが、徐々に大手製造業、小売事業者、一般消費者などへの影響がどんどん目に見えてくるはずです。ある調査では、2024年に不足する輸送能力の割合が14.2%(2019年度データとの比較)、不足する営業用トラック輸送トン数は4.0億トン(2019年度データとの比較)といった報告まで出され、2030年度には不足する輸送能力が2024年度の倍以上に跳ね上がるという予想もあります。ですからいますぐ業界全体として非効率化解消に向けた取り組みを始めなくてはならないと切実に感じています」
物流問題を変革しうる、「ハイブリッド型トン時間コスト算出法」の採用
確実に迫る物流の危機に対し、関連事業者の対応が遅れがちになる理由はなぜでしょう。この問いに、南田は「物流問題をコストとして捉える」土壌が影響していると答えます。
「商品原価のおよそ5%程度を物流部分が占めるとするなら、物流部分のコスト改善を20%成功したとしても原価全体では1%程度の削減にしかなりません。これではインパクトが少なく、物流をコストと捉えているうちはなかなか非効率改善には結びつかないでしょう。つまりコストとしての物流部分は、経営課題としてテーブルに上がりにくいのです。でも、2024年問題によって物が運べない、作りたい物が作れない状況を考えれば、コストだけの問題ではなく事業の持続可能性に直結する重要課題と捉えるべきです。ですから私たちには、いち早く経営課題としてこの物流問題を認識すべきだと声を大にしてお伝えしている最中です」
物流の非効率解消に尽力する、法人コンサルティング&マーケティング事業本部・サステナビリティサービス&ストラテジー推進室の南田晋作と小針愛里
NTTデータが個社改善のアプローチとして行うアセスメントシートでは、物流関連事業者の非効率部分が目に見える形で浮き彫りとなります。たとえば、あるトラックドライバーが労働時間全体の約2割もの時間を運転以外に費やしているという事例。荷主や物流施設の都合によってドライバーが待機する荷待ちの時間や、荷物の積み込みや荷下ろし、車の入出庫など荷役の時間が、約2割の中身です。こうした時間が増えてもドライバーはそれを受け止めざるを得ず、価格に転嫁することもできません。
「この状況が蔓延している最大の理由は、物流コストの計算方法にあると考えています。その計算はトンキロ法と呼ばれ、端的に言えばどれだけの重さ(トン)のものをどれだけ遠く(キロ)へ運んだかで料金が決まるのです。ところがこのトンキロ法では、1回の輸送でできるだけ多くの仕事をそのトラックに負わせた方が荷主は得をします。過当競争もあって、立場の弱い運送業者はどんどん仕事が多くなるわけです。そこでNTTデータでは、『重さ』『距離』に加えて『時間』の概念をコスト計算に採り入れることを関連事業者へ提案しているのです。この計算法『ハイブリッド型トン時間コスト算出法』を採用すれば、見積もり段階で走行距離と総運送時間を算出することになり、輸送改善活動で生まれたプロフィットを発荷主、着荷主、運送事業者それぞれがシェアする方向へ構造転換していく入り口となるでしょう。荷待ちや荷役の時間もコストに含まれるため、運送事業者だけでなく荷主側も非効率解消に向けて積極的になり、その結果、原価が下がればそこで生まれた効果を皆でシェアできるというわけです。このような理論で『ハイブリッド型トン時間コスト算出法』を荷主側へも啓蒙し、物流業界を守っていかなければなりません」
生まれたプロフィットを皆でシェアするという、新たな視点
変革の結果、発荷主、運送事業者双方で目に見えた効果が出てくれば着荷主側にも賛同が得られるようになるでしょう。運送事業者だけを難しい状況に追いやるのではなく、物流全体の非効率を解消していけば、発荷主、着荷主側にもメリットが生まれることを論理的に、粘り強く啓蒙していくことが、2024年問題を克服する第一段階だと南田は訴えます。
ここまでの考察で分かるように、入り口は個社の非効率解消であっても、最終的には業界全体が大きな変革に挑まねば物流の危機を免れることはできません。そこでNTTデータではサプライチェーンを丸ごと巻き込むような理論構築、施策提案、システム提供に注力しています。
「物流が滞ることや、運びたい荷物を運べないことで喜ぶ事業者はいません。ドライバーの高齢化も進み、過酷な労働環境から人手不足は慢性化するなか、時間外労働時間の規制によってドライバーの命を守ることはとても大切です。こうした種々の問題を抱えた物流業界を変えていくには、自社だけが得をすればいいという感覚を捨て、効率化を実現した先にあるプロフィットを皆で享受しようというマインドの醸成が不可欠。私たちは可能な限り広く、深く、スピード感を持ってこの取り組みを進めていく使命感を感じています」
サステナビリティサービス&ストラテジー推進室・コンサルティング担当
小針 愛里
最後に、サステナビリティサービス&ストラテジー推進室コンサルティング担当の小針愛里は、2024年問題への対策を真剣に考え始めている関連事業者も増え続けていると、言葉を続けました。
「私がお会いした着荷主の立場である卸売業者さんは今後、遠い地方からの荷物が運べなくなるのではという懸念を十分にお持ちで、2024年問題を克服し、今後も仕入れ先を確保するための取り組みを既に始めていました。このように危機を感じて対策を講じ始めている事業者は想像以上に多く、大きな希望を感じます。私たちの活動によって、NTTデータが対企業向けのシステム提供だけでなく、物流業界全体にインパクトをもたらす施策提案やコンサルティングを広く行なっていることが知られるようにもなってきました。やりがいを感じるとともに、日本の物流を守る覚悟で工夫と努力を重ねていきたいと思います」
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/scm-logistics/
SCM・ロジスティクスの詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/scm-logistics/
物流の2024年問題解決に向けたIoT活用による荷役作業の可視化を実現:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/041300/
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