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2023.8.25事例

サプライチェーンレジリエンスの重要性と強化方法

米中対立の激化に続き、ウクライナ侵攻による物資の供給制限や、社会意識の変化のよる売上や株価への影響など、各企業を取り巻く環境は劇的に変化している。これらの変化に対して“将来リスクを見通しながら迅速に対応する力”=“ビジネスレジリエンス”の重要性は認知が高まっている。
そして、ビジネスレジリエンスの実現には、ビジネスを支えるサプライチェーンの“レジリエンス”(強靭さ、回復力)も求められる。企業はサプライチェーンレジリエンスを向上することで、リスクを低減しオペレーションを継続、また売上やシェア拡大ができるのである。

サプライチェーンに求められる“レジリエンス”

サプライチェーンレジリエンスとは、具体的には何を指すのでしょうか?調達や供給を例にみていきましょう。サプライヤーからの供給が滞った場合、通常は製品の納期遅延につながります。しかし、タイムリーに影響品目を特定して代替サプライヤーから供給を受け、遅延発生を防げる企業もあります。事前にサプライヤーマネジメントやシミュレーション、情報把握を行い、問題発生前に検討を進めることで、サプライチェーンレジリエンスを向上させることができるのです。物流においても同様に、輸送経路が災害などで使用できなくなった場合、代替経路や輸送の最適な手段を速やかに決定することが、サプライチェーンレジリエンス向上につながります。

サプライチェーンレジリエンスの必要性は、地政学的緊張やパンデミックにより影響を受けた企業の割合からもわかります。図1のように、資本金10億円以上の75%以上の企業が「地政学的な緊張により、調達コストの上昇や調達難といったサプライチェーンへの影響を受けている」と回答しています。また約60%の企業が「COVID-19の影響で国内需要の減少や仕入れの遅延が発生している」とも回答しています。

図1:地政学的緊張やパンデミックによるサプライチェーンへの影響

図1:地政学的緊張やパンデミックによるサプライチェーンへの影響

今後求められるレジリエントなサプライチェーン

ではこれからの不確実な社会で求められるレジリエントなサプライチェーンとはどのようなものでしょうか?重要な要素は2つあると考えています。まずはサプライチェーンがデジタルにつながった情報として“可視化”されていること、もう1点が可視化の範囲を広げた“サプライチェーン上の情報の企業間連携”です。

1点目の“可視化”は、サプライヤーチェーンレジリエンス向上の基礎です。サプライチェーン内の散らばった情報をタイムリーに、デジタルに可視化することで、問題箇所を特定したり、事前に察知したりできます。これによりサプライチェーンを正常に保ち、さらには高度化することが可能になるのです。たとえば自社の国内A工場で災害が発生し、A工場で製造する製品群が一時的に供給出来なくなったとします。その時、可視化がされていない企業のSCM/需給調整担当者は在庫情報を工場に問い合わせ、営業担当へ販売予定の確認などをしたうえで、新たな供給計画を手動で組みなおします。一方デジタルに可視化が出来ている企業では、販売、在庫、生産等の情報が統合された“司令塔”となるシステムを用いて、影響箇所のシミュレーションを行い、インパクトを最小限に抑えることが可能です。この自社のサプライチェーン情報の可視化について課題を抱えている企業は未だ多く存在し、メールやExcelの“バケツリレー”による計画作業、在庫管理等が残り続けている現状があります。これにはさまざまな要因があります。代表的なものとしてはサイロ化された組織、デジタル技術力、ナレッジマネジメント、人員不足等があげられるでしょう。これらの要因を解消し社内全てのサプライチェーン情報を一度に可視化することは現実的ではないため、状況に応じた段階的なシナリオを検討することが重要です。

2点目のサプライチェーン上の企業間連携は、言い換えると、前述の可視化の領域を自社内だけではなく、企業間に広げることです。通常、製品のサプライチェーンはメーカーや複数のサプライヤーから構成されます。そのため自社内の情報の可視化ができていたとしても、サプライヤーや物流、販売側に対しての調整や、有事の際のマニュアルでの影響確認作業は残ってしまいます。今まで企業内のサプライチェーン情報の見える化は一部企業では進んできましたが、サプライヤーも含めた企業間で情報を共有することは情報セキュリティや利害関係の影響で、なかなか進みませんでした。自社外のサプライヤーや物流、販売拠点の生産や販売に関する情報は、サプライチェーンを維持し、滞りなく商品を供給するために重要な情報です。これらの情報を一元的に可視化することがさらに強いサプライチェーンを生むことにつながります(図2)。さらに、社会的な環境意識や人権尊重に関する意識の高まり等によって、新たに企業間で連携して社会へ開示が必要となる情報も増えてきています。これらの背景からも、企業間で情報を有機的に共有することが、すべてのステークホルダーが共存・共栄していくことにつながるのです。

図2:企業間連携の対象となるサプライチェーン情報

図2:企業間連携の対象となるサプライチェーン情報

サプライチェーンレジリエンス強化の取り組み事例

ここでサプライチェーンレジリエンス強化の事例を2つご紹介します。まずは製薬業界の事例です。製薬業界では人命にかかわる薬品を提供しており、調達ができずに製品を提供できないことが大きな問題につながりかねません。この製薬企業でも安定的に調達を行うために、調達のレジリエンスを強化することが経営アジェンダとなっていました。しかし調達に関連する情報は自社、グループ会社、サプライヤーでそれぞれ管理されており、有事の際にどこに影響があるのかを特定することに時間を要していました。NTT DATAはマスタ情報の一元的な管理、ならびにそれらの情報の可視化をどのように行うべきかの検討を、上流のコンサルティングフェーズから支援。結果として、自社、グループ会社、サプライヤーのバラバラに管理されていたマスタ情報を一元的に管理し、それらの情報について製品やサプライヤー単位で関係性を把握できる、可視化基盤の構想を確立しました。この仕組みでは天候や災害等のリスク情報を外部から取り込むことによって、どの製品のどの原材料にリスクがあるかを自動的に検知することも可能。迅速な初動を実現できたのです。従来、どの製品に影響があるかを、さまざまな情報やステークホルダーへの問い合わせにより確認していたことと比較すると、サプライチェーンレジリエンスは大幅に強化されたといえるでしょう。

もう一つは化学素材メーカーでのサステナブルなサプライチェーン実現に関する取り組み事例です。化学業界では環境に対する意識の高まりから、原料や製品毎の温室効果ガスをタイムリーに可視化することが、顧客企業から選ばれる理由の一つとなってきています。そのため、サプライチェーン内で環境関連情報を持つことが求められていました。しかし当時この企業では、そもそも原料や製品別の温室効果ガスの排出量を計算する仕組みは無く、手作業での計算が必要でした。そこでNTT DATAは製品別温室効果ガスの排出量算出の仕組みの構想検討から、グローバルに点在するステークホルダーとの調整、さらにはシステム設計から構築までを一気通貫で実施。結果、製品別温室効果ガスのタイムリーな見える化を実現しました。

NTT DATAでは他にも多数の先進企業との企業間連携に関する取り組み実績があり、推進の難所や要所を蓄積しています。これからの社会で必要とされるサプライチェーン構築、デジタルテクノロジーでのサプライチェーン高度化を実現します。

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